0230・水を操る能力?
解体所でこれ以上の受け取りを拒否された後、仕方なく売った分の木札を持って受付へ。それらを全てティアの功績にして精算する。いちいち面倒臭いのと、ティアのランクを上げる必要があるからだ。
あまりミクやアレッサと乖離し過ぎていると狙われたりするので、それならば高ランクとして周囲を警戒させられる方が良い。
ミクは高ランクになれば狙われると思っていたが、どうも高ランク過ぎて狙われない気がしていた。
それはともかく、ランク4になったティアは試験を受けられる事となったのだが、受付嬢がラーディオンの所に行ってしまい、なかなか帰ってこない。
何故か待たされているミク達は、やっと帰ってきた受付嬢に文句を言おうと思ったら、今度は裏へと行った。どうやら、まだ待たされるようである。流石にちょっとイラついてきたミク達。
裏に言っていた受付嬢が戻ってくると、開口一番謝罪されたので、仕方なく矛を収める。
「申し訳ございません。テイ……ティアさんが試験を受けるとなると色々問題がありまして、特例でランク5になりました。これは仕方のない事として受け入れて下さい」
「あー……はい、分かりましたわ。色々と迷惑をかける訳にも参りませんし、受け入れさせてもらいます」
流石に受付嬢とギルドの言い分に納得したミク達は、手続きを全て終えて<妖精の洞>へと戻る。功績は全てティアに渡したものの、売却金の半分はベルも受け取っていた。
ベルはギルドの後援が決まっているので、無理にランクを上げる必要が無い。更には既にランク8であり、そもそも低くはないのだ。ダンジョン内で迷賊を殺してもいるので、人殺しの経験も既にある。
良い悪いは別にして、探索者である以上は避けて通れない問題なのだ。いつ何処で迷賊や盗賊に命を狙われるか分からない。それが探索者というものである以上、殺し合いの場で動けなければ死ぬ。それは王女であっても変わらない。
<妖精の洞>へと戻ってきたミク達は、食堂へと行き昼食を注文する。大銅貨12枚を出したミクは、そのまま適当な雑談をしながら時間を潰す。イリュは居ないようなので、ダンジョンにでも行っているのだろう。
昼食を終えた一行はダンジョンへと移動し、再び第6エリアへと進む。ちなみにベルは宿の部屋へと残った。もう体力が無いらしく、夕方まで寝るらしい。流石にハチミツの回収が厳しかったのだろう。
第6エリアへと入った3人は、海の方へと行き蟹や亀と戦い勝利。亀の血抜きをレティーに任せ、ミクは海に近付いて水を操ってみる。マッドマンの能力だが果たして……。
「これ、やっぱり使えない能力だ。あの環境だから使えたのであって、他に活かそうとすると途端に面倒な事になる」
「そうなの?」
「そう。この能力の基本は、水分のある物を身に纏う事。そういう能力だよ。だから厳密には近くにある水を操る能力じゃないの。そう言えば分かる?」
「水分を身に纏う能力ねえ。だから泥の壁ぐらいしか使えなかったって訳か。わたしを引っ張ったのも、身に纏う能力でやったのであって、泥を操ってた訳じゃないと」
「水を身に纏うという事は……それを応用して泳ぐ事ととかは出来ませんの?」
「出来なくはないよ。身に纏って解除して、身に纏って解除してを繰り返せばね。ただし、それをする意味がどこにあるのかを考えるとねー……。微妙と言わざるを得ない」
「そもそも水の中を泳ぐというシチュエーションが無いしね。そんな状況になったとしても、ミクならどうにでも出来るし? そうなると水を纏う意味って何? ってなるのは当然でしょ」
「それは………そうでしょうね。という事は使えない能力という事で、って、何をやっているのですか?」
「魚を獲ってるんでしょうね。あの魚、美味しいから」
ミクは両腕を触手に変えて魚を突き刺し、それを放り投げて仲間にキャッチさせていく。アレッサもティアもアイテムバッグに入れていき、30匹ほど入ったら終了。ミクは海を離れる。
「魚がアイテムバッグの中に入るという事は、先ほどの魚は死んでいるという事ですわよね? あんな細い触手で一突きにされただけなのに、簡単に死ぬのは不思議です」
「弱点というか急所を一撃で貫いてるからね。人間種だって脳や心臓を貫かれれば死ぬ訳だし、そう考えると分かりやすいと思うけど?」
「そういう事ですか。それなら確かに死ぬでしょうね。っと、今度は魚を取り出してどうするんですの?」
ミクは木皿を出した後、触手で素早く鱗などを剥がして皮を剥き、3枚におろした後で刺身にしていく。あとは適当に食べていくだけだ。
「うんうん。やっぱりこの魚、生でも美味しいのよねえ、本当に。脂が多めなんだけど、しつこくないのよ。変わった魚だけど、堪らないわね」
「まあ! これは本当に美味しいですわ! まさかこんなに美味しい物が、我が国のダンジョンにあったなんて!! ハチミツよりこちらの方が大事ではありませんか!?」
「保存は出来ないから、新鮮な内に食べないと駄目だけどね。半日で駄目だと思う。この美味しさは新鮮でないと出ないから、どうにもならない。逆にハチミツは物凄く保つから、他国に売れる物だよ」
「国としてはハチミツに注力するのは当然よね。ま、取ってこれるのがミクか、それともシャルとカルティクか。このどちらかしか居ないんだけどさ」
「あの御二人は、あれ程の蜂に勝つ事が出来るのですか? 流石に無茶な気がしますよ?」
「2人は、この第6エリアで見つけた魔剣を持ってるのよ。炎が噴き出す魔剣と、冷気が噴き出す魔剣ね。両方の魔剣が蜂に対して効果がありそうだから、おそらく蜂に対する武器だろうと思ってる」
「炎と冷気の魔剣ですか……。なかなかに凄い魔剣だと思いますが、それでもあの蜂の大群に勝てるのか、そこにどうしても疑問を持ってしまいます」
「気持ちは分かるけどね。あれ程の大群を見たら、殆どの探索者は心折れるでしょうよ。まあ、近付かなきゃ大丈夫だから、喧嘩を売った奴が悪いで終わるんだけど」
「食事も終わったし、そろそろ出発しようか。こんな所でダラダラ喋ってても仕方ないし。下の階の蜂の巣も壊して先へと進もう」
「まだ壊すんですのね?」
「そうじゃなきゃ、王の命令が終わんないじゃん。面倒な事は早めに終わらせたいのよ。後、周辺の木も引っこ抜いて樽の材料にするから」
「伐ってすぐの木は、水分を多く含んでいて使えないのでは? そんな事を聞いた事がありますけれど……」
「ミクは水ダンジョンで乾燥させる魔剣を手に入れてるから大丈夫だよ。実際にその魔剣は向こうの第三王女に渡したから、ミクが持ってるのは複製した物だけどね」
歩いて移動しながらも、暢気に話している2人。ミクは本体空間で必死にハチミツを搾る作業と、樽に詰める作業を行っており、会話をするどころではない。
森の中を正しく歩きつつも、結構な能力のリソースを奪われている。単純な作業ではあるものの、ハチミツが大量にある所為で、簡単には終わらない作業量なのだ。大量の触手が乱舞している。
その大変さは分からないものの、ミクが一切喋らずに無表情な時点で、相当大変だという事が分かった2人。なので2人で会話をしているだけで、ミクに一切の負担を掛けようとはしていない。
魔物が出てきてもウォーアックスや薙刀で始末しており、ミクが手を貸す必要はなかった。




