0227・貴族というもの
ミクが王都守備兵の所に行こうとしたものの、逃がす恐れがある為却下され、代わりにイリュが行く事になった。
まあ、そちらの方が色々な意味で早いので一応の納得をするミク。アレッサは既に見張っているので、気にしていない。
ミクが行ったら揉め事を起こすとまでは思っていないが、何か余計な事が起きてからでは遅いのでイリュが動いたのだ。
そこまでハッキリとは分かっていないものの、何となくそんな気配は感じているミク。気付いているがそれをスルーするアレッサ。
そんな2人とベルとティアが見張っていると、徐々に現在の状況から落ち着いてきた女性達が、おずおずと話し掛けてきた。
「で、殿下……。私達の実家は如何なるのでしょうか? まさか、お取り潰しという事は……」
「おそらくだが、真面目に誠実に取調べを受けるならば、降爵はあっても廃爵は無いだろう。全てを知っていた、そこの者の家以外は。先ほども言ったが、トトルス伯爵が呪いの短剣でテイメリアを刺し、テイメリアはあわや死に掛けたのだ。その事に陛下は激怒しておられる。いや、憤怒を持っておられるのだ」
それを聞いた瞬間、女達は震え上がった。王の逆鱗に触れかねない事をしたのだ、貴族の家など吹き飛んでも不思議ではない。そもそも何処の国であっても、貴族の爵位とは王から与えられたものに過ぎないのである。
いつでも取り上げられるとは言い過ぎであろうが、だからと言って王が取り上げられないものでもない。もちろん貴族は抵抗するであろうが、そもそもその爵位自体を裏打ちしているのが王なのだ。
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何処かの青い星でも王に対する叛逆が過去に成功した国もあるが、そもそも王を追い落とした時点で国は崩壊、爵位の後ろ盾は失われている。その後に別の者を用意しても、それは似ているようで異なる何かでしかない。
そうやって騙し騙し自分達の都合の良いようにするから、最後には崩壊するのだ。貴族的な権力とは所詮その程度としか言えない。王という主を殺めた段階で、自分の身分も崩壊しているのである。
これが貴族同士であれば別なのだが、王とは国の頂点なのだ。己の身分を保証する最高位の者を手にかけた時点で崩壊するのは当然の事であり、同時にそれをした瞬間、貴族という身分はその程度の価値でしかなくなる。
愚かな者ほど理解しないが、所詮は貴族も欲深き人間種という事であろう。いや、貴族の方が平民より欲深いものである。
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「私達は磔になろうとも、家だけはお願い致します。廃爵などという事になれば、永遠の笑い者となってしまいます。それだけは、それだけはどうか御容赦を!」
「「「「お願い致します!」」」」
「先ほども言ったが、貴女達が取り調べに協力的であれば、おそらく陛下もそこまではされまい。トトルス伯爵家は地獄よりも尚厳しい沙汰が下されるだろうが、他は其処まででもないのではないか?」
「そもそもトトルス伯爵がやったのは、王族の殺害だものね。ミクが治したから命は助かったけど、王族を殺す事が許されるなんてあり得ないのよ。そんな事は当たり前でしょう? そんな家に協力したっていう醜聞は残るでしょうけどね」
「それは受け入れるしかないでしょ、少なくとも協力した事実はあるんだし。それでも騙されてと知っててじゃ、全然違うと思うけどね。知っててやったなら同罪なんじゃない?」
「だろうね。そもそもテイメリアが死んでないだけで、呪いの短剣で刺したのは間違いない事実。謁見の間で、しかも陛下の御前で犯行に及んだのだ。言い訳など不可能だよ」
「「「「「………」」」」」
「流石にそこまでのバカだとは思わなかったってところかしら。とはいえ世の中には信じられないバカが居るからねえ。あり得ないって思えるような、あるいは作り話のようなバカが本当に居るのよ」
「信じられないと思うかもしれませんが、本当ですのよ? 未だにあの時の痛みと苦しみは忘れてませんわ。まあ、ほんの数日前ですから、忘れようもありませんが」
「それはそうでしょ。……それにしてもイリュは遅いけど、私に言っておきながら自分が何かの揉め事に巻き込まれてるんじゃないよね? 何だかそんな気がしてきたんだけど」
「失礼ね。そもそもミクなら私の気配が分かるんだから、近付いて来てたのは分かってたでしょ。リリエを呼ぶのと、兵士達を連れてくるのに時間が掛かっただけよ」
「失礼いたします、ベルカーラ第二王女殿下、テイメリア第三王女殿下。こちらの者どもがここで問題を起こした者達でしょうか?」
「そうだ。私達の目の前でアレッサの【真偽判定】を受け、トトルス伯爵家の縁戚に騙されていた者達となる。そこで気絶させられている者がトトルス伯爵家の縁戚の者だよ」
「分かりました。この者達を縄で縛り、連れて行きなさい」
「「「「「「「「「「ハッ!」」」」」」」」」」
王女の前だからか、いつもよりもキビキビと動く兵士達。それは構わないのだが、リリエは何か用だろうか?。
「あの、【真偽判定】用の紙ですが、ありがとうございました。御蔭で怪しい真偽官も捕縛する事が出来ました。罪を犯した全ての真偽官を捕まえる事は出来ていませんが、少なくとも今までのように好き勝手は出来なくなっています」
「そう、それなら良かった。ゴブリンの魔石は握らせないか、ゴブリンの魔石を使った【真偽判定】用の紙を使わなければ防げるとは思う。ただ、次の手を考えるかもしれないから、濁りの無い魔石で作った紙を使う事をお薦めするよ」
「ええ、分かっています。こちらが用意した紙を使わせていますし、持ち込む事も許していません。内部の者を買収されると分かりませんが、光の加減で分かりますし、紫に光らないという点も考慮すれば見極められるかと」
「その辺りで問題ないと思うよ。防止策があまりに複雑になると、現場の者が手を抜いたりするからね。それを防ぐ為にも単純な方が良い。紫色は面倒かもしれないけど、光が一定なら怪しんだ方がいいね」
「それでも騙されていた頃からすれば、遥かに色々と分かるようになりました。真偽官に頼むのはそれなりにお金が掛かりますので、費用の面で大変ではありますが……」
「まあ、仕方ないんじゃない? 安値で受けるなんて私ぐらいでしょ。代わりに自分に関わらない依頼だと受けないけどね」
「貴女の場合、探索者であって真偽官じゃないからでしょ。そもそも真偽官協会に登録してないじゃないの。………もしかして、【真偽判定】スキルを持ってても登録してない人って他にも居る?」
「どうなのでしょう? スキルを持っているからといって、絶対に活用しなければいけない訳ではありませんし……。裏組織や闇ギルドには居るかもしれません」
「そういう連中の所にいる奴の方が、真面目に【真偽判定】してそうよね。どうせ裏組織や闇ギルドの情報収集に使われてるんでしょうし、そうなるとちゃんとした判定が必要でしょう?」
「確かにそうだろうが、皮肉だな。犯罪組織の方が真面目にやっているとは……」
「仕方ありません。世の中とは得てしてそういうものですわ。<罪が重い犯罪者ほど、真面目に犯罪を行う>。という言葉もあるくらいですし……」
「犯罪の中には、綿密に計画を立てたりして行うものもあるからね。真面目と言えば真面目でしょうよ」
真面目かどうかと、犯罪の軽重は関わりの無い事である。だからこそ真面目な犯罪者などという言葉が成立するのだ。




