0226・妙な女達の正体
透明トカゲに止めを刺したのを確認し、息を吐くミクとアレッサ。その事に疑問を持ったベルとティアは2人に話しかける。
「いったい何があるのでしょう? なんだか妙に緊張してらっしゃるようですが……御二人が緊張する何かがあるのですか?」
「実はね、こいつ殺されると仲間に危険を伝えるのよ。喉と胃の間に妙な臓器に繋がってる管があってさ、そこの液体が漏れると仲間が動き出すの。今は漏れてないからいいけど、上手く麻痺してなかったら漏れてたかもしれない」
「そうなるとボスが一斉に動き出して、場合によっては収拾がつかなくなる可能性もあるわけ。だから息を吐いたのよ。とりあえずミクが麻痺させたら、その間にさっさと始末していきましょう」
「「分かりました」」
ミクが次の透明トカゲに近寄り、「ドォン」という音がすると再び落ちてきた。今度はそれをティアが倒し、次の獲物へ。緊張しつつも順番に倒していき、最後に残ったのは2匹並んだ透明トカゲのみ。
「相変わらずだけど、必ず2匹並んだのが居るみたいなのよね。前回もこいつらを最後に残したんだけど、今回は面倒だから暴れさせずに終わらせるから」
そう言ってミクは両手の先を触手にし、凄まじい速さで透明トカゲ2匹に突き刺す。そこから麻痺毒を注入して即座に麻痺させ、後は2人に止めを刺させる。
2人は麻痺したボスを殺しただけだが、今のところこれが1番良い倒し方なので仕方がない。透明のまま動き回られると、とてもじゃないが数の暴力に押される。特に見えないのがネックになって危険なのだ。
ミクが居れば大丈夫だが、ミクだっていちいち面倒な事はしたくない。なので暴れさせない方法が1番良いのは、ミクも含めた全員に共通している事である。
ボス部屋の壁が開く音がしたので移動し、脱出の魔法陣の前で【浄滅】を使って綺麗にしておく。お互いに確認して汚れが無い事をチェックしたら外へ。ようやく終わったという思いから、<妖精の洞>へと戻る4人。
明日からハチミツ採取だと話していると、<妖精の洞>の前に倒れた女達がいた。頭の上に「?」が幾つも浮かぶが、放っておき中へ。食堂へと行くと怒ったイリュが居たが、どうも相当に機嫌が悪いらしい。
大銅貨12枚を払って遅い昼食を注文すると、席に座ってミクが聞く。イリュの機嫌が悪かろうが気にしないのはミクぐらいで、アレッサですら若干引いている。
「イリュの機嫌が悪いのと外に倒れてた女達には関わりがあるんだろうけど、いったいなに? ここは食堂だから、機嫌が悪いまま居るのは駄目だよ」
「…………はぁ、ゴメンなさいね。あの表に放り出したクソどもが、ウチに突撃してきたのよ。どうも昨日カルに絡んだ連中らしいんだけど、カルを解放しろとか意味不明な事を言ってたわ。どうも中途半端に私達に対する知識を得てきたみたいね」
「知識というか、噂を集めてきただけ?」
「そうそう、そんな感じ。そもそもあのクソどもが口を出す事じゃないし、カルが何処に居ようとカルの勝手でしょうが。そのうえ私が<鮮血の女王>だと理解して突撃してきたみたいなのよ。どうせ自分達に手は出せないだろうと」
「あー……それで怒ってる訳か。完全に舐められてるよね。犯罪を犯していない自分達には手を出せないだろうと、高をくくってるわけだし。そこまでされたらイラッとくるのは当然だよ」
「まあね。それで強力な【身体強化】を使って気絶させ、外に放り出したのよ。ミク達が帰ってくる少し前かしら? そもそも入り口で暴れるわ、子供達を怯えさせるわで、私がキレかけてたからね。よくあそこで止まったわよ」
「自分で自分を褒めるくらいキレてたかー……。でも、そこまで迷惑かけてくるなら、私が喰っても大丈夫そうだね。夜中に喰ってくるかな?」
「ゴメンだけど、お願いね。私もうあのクソどもの相手したくないし、流石にもう「キャー!」来ない………」
既に食事を終えていたミクは入り口へと急ぎ、カウンターに居た女の子の前に出る。どうやら気を取り戻した後で、また突撃してきたらしい。しかもカウンターの女の子に掴みかかろうとしていた。
「貴女達が何処の誰か知らないけど、これ以上の無礼を働くなら兵士を呼ぶよ? そもそもやっている事は営業妨害を越えて、既に裏組織や闇ギルドと変わらないって理解してる?」
「は? 私達のやっている事が犯罪者と一緒だなどと、何て言い草でしょうか! 私達は不当に働かされている、カルティク様とシャルティア様を解放しろと言っているだけです!!」
「そもそも不当じゃなく、本人は好き勝手にしているよ。カルティクの事はカルティクが、シャルの事はシャルが決めるのであって、お前達が口を挟む事ではない」
「いったい何を言っているの? 私達は不当に働かせるのを止めて、御二方を解放しなさいと言っているの! お前の意見など聞いていません!!」
「あ?」
ミクは【陽炎の身体強化】を使い女どもを一気に気絶させ、そして無理矢理に起こす。そもそも気絶させて放り出すような、そんな甘い事を肉塊はしない。やるならばトラウマを与える程の事をする。特に容赦する必要の無い相手には。
「お前達こそ何を言っている? 一方的な決め付けで不当に扱うというのは、お前のやっている事だろうが。ああ、そうか。お前達はここに嫌がらせでもしろと命じられたか? だからこんな事をしているのだな」
「な、何を……」
反論しようとした女の目に怯え以外のものを見たミクは、すぐにアイテムバッグから紙を取り出しアレッサを呼ぶ。近くに居たアレッサはすぐに理解し、女ども1人ずつに【真偽判定】を使って調べていく。
ミクに対して「ギャーギャー」言っていたリーダー格は最後だ。
「貴女は貴族家の者ですね? 貴女は貴族の家族だ。貴女は誰かから依頼を受けている。貴女は父親である貴族から依頼された。知り合いの貴族からの依頼だ。知り合いの貴族の家族から依頼された。きた……けど、これは」
「知り合いの貴族の家族ねえ……。それはトトルス伯爵家だ」
「青……何という事をするのでしょうか。これは陛下にお報せして、徹底的に叩き潰さねばなりませんね。こんな下らない、嫌がらせじみた事を貴族がやるとは……」
「な、なぜ貴女、のような、者にそ、んなこと」
「あれ? こいつらベルの事も知らないの? ゴールダームの貴族ではない。……赤だけど、何でベルの顔を知らないんだろ」
「大抵の貴族家の子女は、余程の事が無いと屋敷から出ません。出たとしても、精々がお茶会に行くぐらいです。それ程までに屋敷を出ない箱入りが多いのです、嘆かわしい事ですが」
「成る程ねー。だからベルカーラ第二王女の事も、テイメリア第三王女の事も知らない訳だ。見られてる以上、言い訳は不可能なのにね」
「「「「「えっ!?」」」」」
「アレッサが言った事は正しいけれど、君達から弁明を聞く気は無い。全て陛下に申し上げ、しかるべき処置をとっていただく。そもそもトトルス伯爵はテイメリアを呪いのナイフで刺したのだ。君達はそんな家の犯罪に加担したからね、覚悟してもらおうか?」
そうベルが言った途端、半狂乱になって許しを乞う女達。あまりに五月蝿いので再び【陽炎の身体強化】で黙らせるミク。しかしリーダー格が取り乱していない事を確認していたミクは、アレッサに【真偽判定】を行わせる。
その結果、リーダー格の女はトトルス伯爵の縁戚だという事が分かった。どうやらこの女だけは裏側を知っていたらしい。それがバレるや、他の女達から大量の怨みや憎しみを向けられている。
それでも涼しい顔をしていたが、ミクの一言で地獄に突き落とされた。
「知ってたって事は、騙されたという言い訳が出来ないって事なんだけど……こいつ理解してないみたいだね?」
そう、他の女達はまだ言い訳が出来るのだが、こいつは不可能なのだ。それに気付いた瞬間、突然喚き出して暴れ逃走しようとしたものの、ミクに顎を殴られ気絶させられた。
パニックになったのかもしれないが、今ごろ気付く時点で頭が悪過ぎる。ミク達は呆れながらも、兵士達を呼ぶ為に王都守備兵の所に行くのだった。




