0019・スライムの話
「それにしても、確かにさっきのは凄いな! まさか周囲が歪むほどの【魔素】を集めて【身体強化】をするなんて初めて見たよ。尋常じゃないし、それだけのパワーがありゃトレントもソロで突破できるさ」
「私も長く生きてきたけど、あんなのは初めて見たわ。もし同じ事が出来る者が居たとして、広い世に後2~3人ぐらいじゃない? 物凄く負荷が掛かるでしょうけど、短時間ならそこまででもないかしら」
「だね。流石にそこまでの負荷は掛からないとは思う。まあ、あまり良い事じゃないから、ソロの場合は1階をウロウロした方が良い。どのみち1頭でも狩れば、その日の収入としては十分だろうし」
「ソロなら中銀貨は確実に超えるから贅沢も出来るね。女性用の娼館にも行けるよ。まあ、ミクちゃんが行くかどうかは知らないけどね」
「娼館……特に興味無い」
「まあ、そういうタイプだろう。アタシ達も興味無いしな。ただ、中にはとんでもないのとか、興味本位で行ってハマる奴とか居るから注意しなよ」
「男に多いって聞くわよ? <帝王>とかに相手をされてドップリと嵌まったのとか聞くし、後は<夜帝>とかも。男同士とか意味が分からないけど、本国にも居るのよねえ……困った事に」
「エルフ同士でもか? ……あれは何処にでも居る連中なんだなー」
「そろそろ話を止めよう。おかしな噂が立っても困る」
魔法陣で脱出する前にセティアンがそう言い、おかしな話になっていたのを軌道修正する。その後はありきたりな話をしつつ、探索者ギルド裏の解体所へと移動。再び獲物を売る。
その際にミクは血抜きの良い方法がないものかと、ドワーフの親方に聞くのだった。
「血抜きの良い方法だぁ? んなもんスライムを連れてきゃいいだろうが。スライム屋に行けばブラッドスライムぐらい売っとるし、第4エリアに行けるなら簡単に買えるだろう」
「ブラッドスライム……そんなのがあるの? というかスライム屋なんてのがあるなんて」
「まあ、田舎なんかじゃ捕まえてくるのが当たり前だが、都会だとスライムは売り物だ。普通のスライムとクリアスライムは掃除の為に売っとる。そしてゴールダームではブラッドスライムも売っとるんだ」
「へー……」
「本来ならギルドがスライム育成師に頼んだりするんだが、ゴールダームでは幾らでも売れるからな、スライム育成師が率先して育てておる。行って買ってくればよい。そいつに血抜きさせれば綺麗にしてくれるじゃろう」
「分かった。教えてくれてありがとう」
「構わん、構わん。その分、綺麗に血抜きされたもんが来るんだからな。ワシらにとっても都合が良いのだから気にせんでもよい。それより木札を渡しとくぞ。綺麗に殺して持ってくるお前さんには期待しとるからな!」
木札を貰ったので解体所を後にしたミクは、荷車屋に行って荷車を返す。その後でギルドに戻り、受付に木札を出した。
周りではミクをジロジロと見ている奴等と、目も合わせようとしない連中に分かれている。昼のミクを知っている連中と知らない連中に分かれた形だが、ミク自身は全く気にしていない。もちろん、どちらの反応もだ。
「えーっと、ミクさん。ギルドマスターからの命令で、ミクさんのギルドランクは自動的に3になります。明日ランクアップ試験を受けてください。お願いします」
売却金の中銀貨3枚を貰った後にいきなり言われたので、ミクも何の事か分からない。なので聞いてみる事に。
「いったいどういう事? 私はまだランク1だけど? それに獲物を売ってるだけで、依頼なんかは請けた事が無い」
「仰りたい事は分かるのですが、昼にボコボコにされたでしょう? 流石に実力とランクが乖離し過ぎているので、地力に合ったランクかはともかく、少なくともランク3に上げて試験を受けさせるとの事です」
「実力とランクが乖離し過ぎかい。まあ、分からなくはないねえ。ミクは第4エリアで普通に狩りをしてるみたいだし、獲物の載った荷車を1人で2階から上げてたからね」
「1人で、ですか?」
「ああ、それもグリーントータスだったよ。それを1人で持ち上げて運ぶんだから十分だろ。昼にボコボコにされたって奴は唯のバカさ。相手の実力も分からないうえ、無闇に喧嘩を売るなんてねえ」
「中級ポーションを使われて借金になってましたけど」
「………中級ポーションって事は相当のケガを負わされたみたい。まあ、それでも自業自得で終わる話でしかないけど」
「足を蹴って倒してから、お腹を何度も踏みつけていました。凄い音がする踏み付けで、ギルドマスターいわく内臓がやられてるとか仰ってました」
「あー、それなら中級ポーションも仕方ないわね。そこまでやっても除名にはならなかったの?」
「喧嘩を売ったのは少年の方で、そのうえミクさんを完全にバカにする形でした。ギルドマスターも喧嘩を売ったバカが悪い。ダンジョンで闇討ちされないだけマシだと思えって」
「その少年はどんな事をしたんだい。流石にあのギルドマスターがそう言うって事は、ミクを虚仮にでもしない限り無いだろ?」
「無理矢理に登録証を奪い去ろうとし、捕まったら放り投げて「拾え」とか言ってました」
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
周囲で聞き耳を立てていた者達まで黙ったが、この反応は正しい。彼らは皆こう思っている。「バカすぎるだろ」……と。
探索者というのは魔物を狩る仕事であり、ダンジョン攻略者であり、何でも屋だ。そして社会的な立場は高くない。代わりに自由なのだが、それ故に面目に五月蝿い者が多い。いわゆる<舐められたら負け>という事だ。
これは誰でも変わらないが、探索者は舐められたら負けな為、基本的に相手の面目を潰さない。ミクが登録時にされたのは<新人の洗礼>なので除外する。
それ以降はミクの面目を潰すような事はされていない。相手をバカにするような事はあっても、面目を潰すまでの事は普通はしないのである。しかしガッツォという少年はそれをやってしまった。
だからこそ内臓にダメージを負うほどボコボコにされても、ガッツォ少年が悪いとなる、最初から喧嘩を売らなきゃ、こうはならなかっただろ? という事だ。大変分かりやすい。
喧嘩を売った挙句ケガをさせられた。では誰が悪いのだ? となったら、喧嘩を売った奴に決まっている。でなければ諍いなど無くならないからだ。
人間種と言うのはバカで、ケガをさせられないとなれば調子に乗ってバカにし続ける。安全だと分かった途端に下らない事を始める生き物。
ならば危険だと分からせてやればいい。調子に乗っていると叩き潰されると理解させればいいのだ。逆に言えば、そこまでしないと理解しないという事でもある。
いかに人間種の頭が悪いのか、本当によく分かるというものだ。だからこそ愚か者どもを喰らってこいと神々に送り出されたのだ、ミクは。
それはともかくとして、静かになった周りを尻目に、さっさとギルドを後にしたミクは、南東の区画へと移動していく。目当てはスライム屋なので、町の人に聞けば分かるだろうと歩いている。
実際、聞くとすぐに教えてくれたので、その場所へと移動し、スライムが書いてある看板を発見。中へと入る。
そこはカウンターしかない小さな店であり、そのカウンターには怪しい女性が座っていた。室内なのにつばの広い帽子を被り、黒いピッタリとしたドレスを着て、キセルを吹かしている。
何処かの星では典型的な<魔女>スタイルの女性は、やる気のない声で「いらっしゃ~い」と口にした。




