0225・ベルとティアの第5エリア攻略・ボス戦まで
山の地形に今から凹んでいる2人を無視して朝食を食べる2人。今から凹んでいても疲れるだけだし、1度は攻略しなければ先へは進めないのだ。ならば諦めて挑むしかない。そもそも1度で済むだけマシである。
「まあ、確かにそうですわね。攻略の為に何度も何度も挑む事を考えれば、1度で済むだけ遥かにマシです。何度も行うなどという苦行はしたくありません」
「誰だってそうよ。そんな苦行を喜んで行う者なんて居ないでしょう。居るとしたら狂っているとしか思えないもの」
「世の中には苦しむ事を好んでやる、意味不明な変態とか居るからねえ。その辺りは何とも言えないわ。苦しむ事でより自分が良くなるとか考えてるらしいし。自分を鍛えるのが好きな連中も、割とそれに当てはまるのよね」
「あー……やたら薄着で筋肉を自慢するタイプですね。騎士の中にも居ますよ、やたらに体を虐めて喜んでいる者が」
「姉上、そんなのが居るんですの? ……騎士団には近付いた事がありませんが、近付かなくて良かったと思いましたわ」
騎士の中にも様々な者が居るようである。それはともかく朝食を終えた一行は、ダンジョンへと歩いて行き、第5エリアへのショートカット魔法陣に乗る。
転移が終わったらすぐに歩きだし、まずは5階まで進んで行く。そこまでは高低差もなく真っ直ぐ歩くだけで済む。それでも戦闘はあるが、こればっかりはしょうがない。諦めてベルとティアの戦闘訓練とした。
最初はベルだが、相手はアイアンアントだ。大した相手ではないが、お金稼ぎであれば上手く倒す必要がある。ティアもそういった事を聞きつつ、綺麗に倒していく。剣を首元に突き入れて切り裂き、後は蹴り飛ばすだけだ。
盾と剣のベルだとこうしなければいけないが、次のティアは薙刀で豪快に切り裂いた。アイアンアントの下に薙刀を差し込んで跳ね上げ、引っ繰り返した後で首を切り落とす。
アイアンアントは何も出来ずに殺されており、それを見たベルは何かを言いかけて止めた。アレも立派な敵の倒し方であり、文句を言う必要も無いからだ。今はナイフを使って背中の甲殻を剥がしている。
それが終わると出発。5階まで何度か襲われたが、その度に2人の練習として倒させる。ミクとアレッサだと簡単に終わらせてしまう為、意味もなく練習にもならない。なので2人に任せる訳だ。
「体よく使われている気もしますが、経験が足りないのは事実なので何とも言えませんね」
「はぁ、はぁ。なかなか疲れる場所だ。傾斜が急なので、真っ直ぐ歩いているとしても体力を奪われる。これが5階以降だと下りたり登ったりか……そろそろ5階だが、既に大変だよ」
「頑張りましょう、姉上。1度で終わらせませんと、もう1度となったら気力が湧かないかもしれません。ここはそういう場所です」
「そうだね。気合いを入れて頑張ろう、この1度なら耐えられる筈」
既に弱気なのはどうなんだ? とミクもアレッサも思っているが、当然口には出さない。やる気を削いでも意味はないし、むしろ面倒な事になるかもしれない。それに比べたら、黙ってる方がマシである。
5階に到着してもペースは変わらず、階段の方向へと歩いていく。しかし明らかにペースは落ち、その分だけ荒い息も増えた。これは駄目だと思ったミクは、<竜の牙>や<鮮烈の色>の時と同じ提案をする。
「<竜の牙>や<鮮烈の色>も、ここを攻略する時は【身体強化】で走り抜けたんだけど、ベルもそうする? ボス部屋前で休めば済むからさ」
「………そうします。【身体強化】が大変ですけど、それでもこれが長く続くよりはマシでしょう。1階層20キロは厳しいです」
【身体強化】を使う覚悟をしたベルと共に、一気に走って進む。魔物が居たらミクかアレッサが倒し、2人には魔物を無視させて走らせる。
前回と同じくボス部屋前に辿り着くと、ベルは倒れこみ荒い呼吸を繰り返すだけだった。
「ゴホッ! ゴホッ! はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」
「大変でしたけど、それでも何とか着きましたわね。ミク殿の血肉を与えられている私でも大変だったのですから、姉上は本当に凄いです。今はゆっくり休んでください。返事は無理にされなくても構いませんよ」
「わたし達も休むけど、慣れたのか前ほど大変じゃなかったね。主に精神的にだけど、前回と違って先が分かってるからかな?」
「そうじゃない? 距離は変わらない訳だし、ペース配分が出来てるからだと思うよ。何度もボス部屋に来る場所じゃないからアレだけど」
「まあね。いちいち何度もボス戦に来るようなエリアじゃないし、普通は1度で来なくなるわよ。クリア出来るかどうかに関わらず」
「ボス部屋で全滅しても1度だけだからねえ。私達は攻略方法を知ってるし、負ける事はあり得ないから勝つけどさ。クリア者が出てない頃は悩んだんだろうね、進むか戻るか」
「負けるって事は、全滅って事だもんね。流石に戻ってもいいと思うんだけど、ここまで来たら戻る選択肢は無いと思う。そして透明トカゲに殺された、と」
「「透明トカゲ?」」
「ここのボスは、自分の体を透明にして見えなくするトカゲの魔物なのよ。だから透明トカゲと呼んでるんだけど、そいつは舌の攻撃力が高いの。代わりにそれ以外は透明になるだけね」
「透明になるというだけで十分だと思うのですが? 透明になって見えなくなる時点で、どうやって勝てばいいのか分かりません」
「盾に麻痺毒を塗って進めばいいよ。相手は舌で攻撃してくるから、壊れない盾と麻痺毒さえ持ってたら勝てる。痺れたら姿が現れるし、その間に止めを刺せばいいだけでしかない」
「どっちもミクが持ってるし、気配も探れるから問題ないよ。ここのボスは対策さえしっかりしていれば、簡単に勝てるタイプのボスだから」
「そうですか……。そろそろ食べ終わりますから、お願いします」
「了解」
全員に大麦のパンや干し肉にチーズなどとハチミツ水を渡しており、雑談の最中に飲み食いしていたのだが、ベルはようやく終わったようである。ミクに頼んだのはトイレの付き添いであり、警戒を頼んだ訳だ。
魔物の出てくる場所で、一人トイレを済ませるのは危険である。慣れた者であれば1人でも問題ないのだろうが、王女が慣れている訳もなく、付き添いが守るのは仕方ない。そしてそれは大抵の場合において、排泄の必要が無い肉塊の担当になる。
そもそも最強の存在でもあるので、一番安全であり安心感があるのだろう。それに付き合わされる肉塊にとっては、いい迷惑だが……。
ミク以外の全員が済ませたらボス部屋へ。中に入るといつも通りの森であり、大きな魔法陣が輝いた後に10の気配が生まれた。ミクは早速カイトシールドを取り出して毒を塗る。十分に塗ったら手始めに、近くの透明トカゲに近付いて行った。
ゆっくりと近付いていくと「ドォン」という音が鳴ったものの、ミクはビクともしない。が、透明トカゲは痺れたのか木から落ち、その姿を現す。
「これが透明トカゲ……。確かに先ほどまで見えていなかったし、本当にトカゲのような姿をしている。しかし、見えない魔物が10匹も居るボス戦とは……。急激に難易度が上がっているが、こんなに急激に上がるものか?」
「姉上の仰る通りに随分と難易度が高いと思います。初めて来た普通の探索者では、突破は難しいでしょう。ミク殿ならば簡単に倒すでしょうが、これを初見の者に攻略せよとは……」
「話は後にして、とっとと倒してくれない?」
そうミクに言われ、慌てて止めを刺すベル。ボス戦は未だ始まったばかりだ。




