0224・夕食の雑談と変な女達の話
そろそろ夕日が出てきそうだなと思いながら宿へと戻る3人。食堂へ行くと、顔色がマシになっていたベルがイリュと雑談をしていた。小銀貨を2枚出したミクは好きに注文させ、椅子へと座ると雑談に参加する。
「で、ベルはどうなの? 今日1日休んで回復した? 一応こっちは第4エリアまで攻略したけど」
「もう第4エリアが終わったのですか、早いですね。……ティアはツインヘドフレイムと戦えました?」
「普通に戦ってたし、普通に倒したわよ。向こうが不用意に噛みつきに来たからね、それをかわして薙刀で一閃。後ろ足を両方切り落として勝利が確定。あとは胴の側面を切り裂いて終わりね」
「勝てたのなら良かったです。私もお膳立てしてもらって1頭だけでしたから」
「何か変わった? っていうか、落ち着いただけか」
「そうね。今日1日休んでゆっくりしたからじゃない? 妹の前だから頑張ろうとしたんでしょうけど、ミクの血肉が入った時点で別人に等しい能力だから意味無いのよね。ティアが見なければいけないのはミク達であって、普通の人間種であるベルではないのよ」
「まあ、姉だからっていうのは分からなくもないけど、それはもう無理よね。色々な意味で違いすぎるから、そもそも比べる事すら難しいのよ。それこそ技術の差ぐらいしかないんじゃない?」
「やはりそうですか……。鍛えてなどいなかったティアがアレですし、私でも疲れる距離を歩いても息すら乱れませんし……。色々な意味で変わってしまったのですね」
「別に悪い事じゃないけどね、それだけ死ににくくなったって事でもあるし。そもそも不老は老化しないというだけで、普通に病気や怪我で死ぬからさ。何か勘違いしてない?」
「………そう、ですね。不老なのですよね。何と申しますか、不死のように考えていました。あくまでも老化しない……いえ、それも凄いのですが。老化しないだけで、死は普通にあると」
「ここに居る者は全員そうだけど、死は普通にあるからね。あくまでも老化しないというだけでさ。普通の人間種には分かりにくいんだろうけど、そもそもアンデッドですら死はある。だから不死の者なんていないよ」
「え? アンデッドは不死なのでは? 私、アンデッドは不死者だとばかり思っていましたわ」
「その勘違いは結構あるわよね。不死者とかアンデッドって呼ぶから、ついつい死なないと勘違いするのよ。アンデッドだって浄化されれば死ぬ訳で、正確には不死という訳じゃないの」
「まあ死ぬというより、死者に戻されると言った方が正しいんだけど。それはいいとして、明日からは第5エリアだから寝不足とかは止めてね」
「はい。何とか頑張って眠ります。おそらくは大丈夫だと思うのですが、それなりには寝ていたので……」
「ずっと寝てた訳じゃないんだ? まあ、ずっとは眠れないか。昨日は寝たり起きたりを繰り返してたみたいだけど、それでも多少は眠れてる訳だし」
「そうですね。宿のお手伝いなどをして、時間を潰していました。子供達に混じっていましたので気分も上向きましたし、良い経験だったと思います」
「まあ、それなら大丈夫そうだね。最悪はミードを飲ませて眠らせればいいかな? チビチビ飲ませてれば、そのうち寝るでしょ」
ミクがそんな事を言い出したからか、イリュが酒樽を取り出して飲ませ始める。甘いお酒ではあるが度数がキツい為、最初は咽たものの、その後は美味しそうに飲んでいく。思ったよりも慎重で、本当にチビチビ飲んでいる。
ミクも甕を取り出し、そこからアレッサが掬って適当にコップに入れる。柄杓みたいな物で掬っては、ティアのコップにも入れて飲ませていくが、相変わらずペース配分が分かっていない2人は早めに撃沈した。
未だベルは飲んでいるが、アレッサとティアが飲んだ量はベルの倍ぐらいはある為、それを短時間で飲めば撃沈するのは当たり前である。ベルの飲み方が遅すぎると言えなくもないが、それを差し引いても2人はペースが早かった。
そのまま食堂で眠らせていると、シャルとカルティクがギリギリで帰ってきた。暗くなる前なので何かあったのかと思ったら、人助けをしていてギリギリになったらしい。
注文してお金を払った2人は、早速のようにお酒を飲みつつ愚痴を溢し始めた。
「今日はダンジョンから戻ったタイミングが、たまたまカルティクと同時だったんだよ。それで雑談しながら戻ってたらさ、何やら男どもに絡まれてる子達が居たから助けた訳だよ。そしたら一緒に食事がどうとか、お酒がどうとか驚く程にしつこかったのさ」
「あれは本当に酷かったわね。私達が誰か気付いてない感じだったから、ゴールダームの者じゃないんでしょうけど、周りの連中が驚いてたわよ。お前たち誰を誘ってるのか分かってるのか? って感じで」
「そうそう。何であたしがカルティクと同じ扱いされなきゃいけないのか分からないけどさー、何故かあたしまで驚かれる始末だよ。面倒な事さ、本当に」
「随分な言われようね。貴女だって元は超有名人な癖に何を言ってるのかしら、意味が分からないわ」
「まあまあ。で、その子達にはちゃんとお別れしておいたんでしょうね? 追い駆けてくるとか面倒な事にしないでよ? ウチの宿にまで来る恐れがあるんだから」
「来たところで営業妨害にはならなさそうだけど、鬱陶しいのはゴメンだから、その辺りはキッチリしてきたよ。流石にアレ系は面倒臭いのを知ってるし、あたしも昔は追っかけられた事あるしね」
「それなら良いけど。厄介な事になったら誰かさんが挑発した挙句、次の日には消えてるでしょうから、延々と迷惑を掛けられる事は無いわ。そこは救いね」
「そりゃあ助かるね。あの手合いは本当に面倒臭いからさ。悪意からじゃないのが厄介の元でもあるんだけど、拗れるとこっちの悪評とかを流したりするんだよ。それも無い事ばっかりの悪評」
「自分の思い通りにならなかったからって逆恨みするのよね。今は誰かさんがいる御蔭で、それは明確な犯罪だし食べていい要件を満たすわ。後は誰かさんに喰われて終わり」
「そう考えると良い時代になったもんだ」
何がどう良い時代なのか分からないが、寝てしまったアレッサとティアとベルを触手で担ぎ、まずはベルを部屋に届ける。部屋に入って鍵をし、ベルをベッドに寝かせたらアレッサとティアを本体空間へ。
そしてレティーとアイテムバッグも転送したら、ムカデの姿になって窓から出ると、自分達の泊まっている部屋へと戻る。これでベルも安全だろう。
ミクはレティーを出して寝転がると、そのまま睡眠学習を行い分体は目を瞑る。お酒で寝ていても問題ない為、2人には様々な知識や感覚を学ばせていく。
やり過ぎのような気もするが、ここに止める者などいない。ミクの実験は朝になるまで続いた。
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翌朝。朝日が昇った段階でアレッサとティアをベッドに寝かせる。そしてアイテムバッグを転送してくると、すぐにアレッサが目覚めたらしい。挨拶をするとティアも起きたので、2人とも十分に眠れたようだ。
挨拶の後は準備をし、いつもの通りに食堂へ。大銅貨9枚を支払って注文すると、ベルも起きてきたので3枚追加で払う。全員が早起きしてくれた為、今日は余裕をもって攻略に集中できそうだ。
「今日は第5エリアだけど、山の地形だから覚悟するようにね」
「覚悟……ですか?」
「5階以降は登ったり下りたりの繰り返しなのよ。山の地形で」
「「………」」
どうやら覚悟の意味は正しく伝わったらしい。




