0221・第三エリアのゴブリンと迷賊
第3エリアでの戦闘を開始する訳だが、ミクは森に入って戦うように言う。実地で経験しなければ分からない。それは多くの場合に当てはまる事であり、正しい教え方とも言える方法だ。
100回聞くより、100回見るより、1度経験する方が理解度は高く、記憶にも残る。これはどうしようもない現実なのだ。だからこそミクはティアに経験させ、身につけさせようとしている。
「という事で、聞いたところで身につかないし、見たところで身につかない。実際にやってみるのが一番手っ取り早く、かつ理解も記憶も出来る。そして駄目な場合の考える元にも」
「失敗の経験も大事だから、経験する事に損は無いのよね。この場合に気をつけなければいけないのは怪我や死亡だけど、そもそもわたしやミクが居る時点でそれは無い。だから安心して経験しなさい!」
何故か仁王立ちで、偉そうにふんぞり返りながら喋るアレッサ。ミクはとりあえずスルーする事にしたようだ。
「腕を組んで足を開いて立ち、堂々と宣言する事でもないと思うが……。ティア、気を付けるように」
「分かっております、姉上。噂でも聞いておりますし、出来得る限り慎重に立ち回ります。ゴブリンだけではなく、迷宮の賊徒にも」
そう言ってティアは森に踏み込んでいく。薙刀を前に出し、雑草などを掻き分けながら進み、妙な音が聞こえたら立ち止まる。周囲を警戒しながらも、慎重に進むか戻るかを決めていく。経験が無いからあまり意味は無いが、決断する事は大事な事だ。
そうやって進んでいると、ティアの目の前にゴブリンが現れた。向こうも予想外の遭遇だったのだろう、驚いて固まっている。その瞬間、ティアは薙刀を跳ね上げて、右下から左上への軌道で振り抜く。
その一撃で腹を裂き、腸をブチ撒けたゴブリンは倒れた。ティアは後ろに飛び退き、薙刀を下段に構えたまま相手を見据えている。そのまま少し時間が経ったが、近付いて死亡を確認。ナイフを使って魔石を取り出す。
それが終わると魔石やナイフに【清潔】を使ってから収納し、再び先へと進んで行く。ここでは何処でどういう風に奇襲を受けるか分からない。先ほどは偶然にも遭遇しただけだったが、ここでのゴブリンは甘くないのだ。
ミクやアレッサであれば気配や悪意で分かるのだが、それらのスキルや能力を持たないティアは地道に警戒する必要がある。そうやって警戒しながらウロウロしていると、遂に発見した。
「あちらに迷賊が居ると思うのですが、当たっていますか? あそこです、あそこに見えているのが足だと思うのですが……少々自信が無く」
「大丈夫だよ、当たってる。それより、あの迷賊どもをどうするか早急に決める必要があるけど? ……わざわざ聞く必要も無かったようだね。じゃあ始めようか」
ティアが殺る気なので任せ、ミク達は逃がさないようにバックアップを行う。迷賊どもは罠に掛かった探索者を素早く殺そうとでも思っているのか、罠の近くに居る事がとても多い。
だからこそ、迷賊を見つければ近くに罠がある事が分かる。ミクはティアに罠の種類とその範囲を伝え、そして素早く迷賊の逃げ道になりそうな場所を塞ぎに行く。全ての準備が整ったらスタートだ。
ティアは出来るだけ足音をさせないように忍び寄り、寝転がっている迷賊の背中を革鎧ごと突き刺す。
「ぐぁぁぁ!」
「な、なんだ!? どうした!!」
「どうしたもこうしたも、ありませんわ! 貴方達のような犯罪者は、ここで死んでもらいます!」
「チィ! おい、この女は殺すぞ! 捕まえるなんて考えるな!」
「「「「「おう!」」」」」
迷賊は全部で7人。それなりの数が一塊で息を潜めていた。少々ティアが予想していたより多いが、だからといって今さら止まる訳にもいかない。素早く自分の有利な場所に退避し、迷賊を引きつける。
何も考えずに突っ込んできた迷賊は、薙刀を振り回せるだけのスペースに入り込んでしまう。当然のように突き出された薙刀は、迷賊の首元に吸い込まれて突き刺さり、そのまま左にスライドする。
あっさりと首の半分を切り裂かれた迷賊。血を噴出した事で気を失い動かなくなったが、そんな事はお構いなしに他の者は動く。ティアを左右から挟み撃ちにしようとするも、後ろに回避され、突然前に出ると足を切り裂かれる。
薙刀は長柄なので、迷賊どもが持っている短剣や片手剣よりは明らかに長い。そして足下を崩すのは基本である。2本足であろうが4歩足であろうが、足に傷を負うと動きが鈍るので、多数を相手にする時は足を狙うのが定石の1つだ。
当然ティアも基本に則って動いており、もう1人の足も傷つけようと攻撃をしかけていく。もう片方は鉄のグリーブをしていたが、ワイバーンの薙刀で切れない筈も無く、あっさりと切り裂かれては動けなくなっていた。
挟み撃ちを行った2人が足をやられたからだろう、残りの3人は逃げようとしたが、逃げられる訳が無い。そもそもミクとアレッサとベルが逃げ道を塞いでいるのだから、最初から逃げる事など不可能である。
逃走した者達を無視したティアは、足を傷つけられて呻いている2人の首を切り裂き止めを刺すと、離れて様子を見る。
迷賊3人はバラバラに逃げたものの、最初から逃げる方向は分かっていた為、その進路を塞いだ3人との戦闘となっていた。
ベルは敵の片手剣を素早くラウンドシールドで流すと、持っていたメイスを相手の左脇腹に直撃させる。メイスなのだから頭に直撃させれば勝てるが、普通はいきなり頭など狙ったりはしない。
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ミクやアレッサなら狙うだろうが、アレらはそもそも別である。普通の人間種であれば、まずは当たりやすい胴体などに攻撃し、十分にダメージを与えてから頭などを狙うのだ。そもそも頭を攻撃せずに勝つ事も多い。
頭というのは弱点であるものの、そう簡単に狙って当たるような場所でもない。強力な【身体強化】が出来ても、それなら胴体を狙って倒した方が早いのだ。頭を狙うよりも可能性は高い。
何より頭を狙って外れたら、攻撃側は隙を晒す事になってしまう。なので、当たりやすい所に確実に当てるのは基本中の基本だ。それらを完全に無視出来る存在がおかしいのであり、戦いとはそもそもこういうものである。
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「ふっ!」
「ゴハッ!?」
再び迷賊の攻撃を流したベルは、迷賊の左の脇腹にメイスを直撃させた。先ほどから執拗に同じ場所しか狙っておらず、肝臓を狙うような攻撃に、迷賊は苦悶の表情を浮かべている。
特にベルは少し掬い上げるような軌道で殴っている為、幾ら革鎧を着ているといっても確実にダメージは負う。これが打撃系武器の厄介なところであり、衝撃を受けてしまうのだ。
剣や槍であれば、刃や穂先を受けてもそこまでのダメージは受けない。もちろん切れない、突き刺さらない事が前提の話だが。
しかし打撃系武器だけは別で、直撃した際の衝撃はかなりのものであり、骨折する事すらある。
革鎧で守られているので骨折まではいっていないが、明らかにダメージを受けており、このままでは殺される可能性が高い事を迷賊は理解した。
目の前のベルから逃れようと周囲を見渡したが、既に自分以外が全員殺されている事を目の当たりにしてしまう。絶句した迷賊は明確な隙を晒してしまい、そこにベルのメイスが直撃した。
正しく真っ直ぐ振り下ろされたメイスは迷賊の頭に直撃し、噴水のように吹き上げながらゆっくりと倒れていく。
何処かの青い星で、<ホーリーウォータースプリンクラー>と呼ばれた武器の正しい姿であろう。派手に”聖水”を撒き散らしている。




