0215・ティアの初心者エリア攻略
ゴールダームのダンジョンに初めて入るティア。王族と言っても必ず入るわけではないらしく、ベルは後援に内定してから挑戦していたらしい。それでも攻略できたのは、元々騎士に混じって体を鍛えていたからでもある。
本格的に鍛え始めたのは内定してからだが、それでも鍛えていなかったティアとは違っていて当たり前の話だ。
もちろん、かつてのティアと比べた場合の話である。
「やぁっ」
ドン! と音がしてネズミ系の魔物であるビッグラットが吹っ飛ぶ。肉体性能が向上しているので当然なのだが、一撃でネズミは死亡した。別に回収するつもりはないので放っておくが、なかなかの威力に驚くアレッサとベル。
「掛け声と威力が合ってなさすぎる! 何であんな軽い声で、おかしな威力が出てんのよ。素人だから全力でやってみたって言っても、限度ってものがあるでしょうが。ミクの血肉の所為とはいえ、威力がおかしいっての!」
「そう言われましても……」
アレッサの横でベルが「うんうん」と頷いているが、それぐらい鍛えていない素人の出す音ではないのだ。そもそも体を鍛えてもおらず、武器の扱いも素人の筈が、弱い魔物とはいえ一撃で倒す事そのものがあり得ない。
なのでアレッサの驚きも文句も間違ってはいないのだが……。そもそもミクの血肉でこうなっている以上、ティアに文句を言っても意味は無い。
「って事で、どんどん進んで行こうか? そもそもなんだけどさ、私の血肉と融合しておいて、鍛えてもいないダルダルの体のままな訳がないじゃん」
「いえ、私も最低限の運動はしておりました。体を美しく保つのも王族の努めですし、節制もきちんとしています。むしろ出来ずに太るなど恥でしかありません」
「これからは多く食べてもらうけどね。私の血肉を持っている以上、要らない栄養は排出されるから、無駄に太るなんて事は無い。だからよく食べて体を鍛えてくれないと困る」
「………太らないんですの?」
「太らないというより、無駄な栄養を溜め込んだりはしないし、不必要なら排出される。もちろん全く溜め込まないなんて事は無いよ、でもブクブク太るほど溜め込んだりはしない。あり得ないと言っていいね」
「「「………」」」
「何でアレッサまで驚いてるのか知らないけど、そもそも太らないし、アルコールだって分解して排出してるでしょうに。アルコール自体は毒だと言ってもいいけど、私の血肉には効かないしね」
「「アルコール?」」
「お酒に含まれてる、いわゆる酒精の事だよ。毒と言っても普通の毒とは違うけど、長く飲み続けたりすると体に悪い影響を与える。それでも飲み続けるからドワーフは寿命よりも早く死ぬんだけどね」
「「ああ!」」
「ドワーフの事を出すと簡単に納得できるわよね。あの酒に人生を懸けてるような連中を見れば、お酒が体に良くないって分かるもの。私やティアには全く効かないし、酔うだけだから問題ないけど」
「それもそれで凄いと思いますけど、私、お酒を飲んだ事はありませんから……。なので飲みたいとも思いません」
「そういう事を言ってる人に限って嵌まったりするんだけども……。これに関しては飲ませてみないと分からないか。せっかくだから、今日の夜にミードを飲もう。ちょっとキツいけど、チビチビ飲めばいいよ」
「は、はあ……。分かりました」
そんな会話をしつつ歩いて行く4人。段々と息が荒くなってきたベルに対し、未だ特に変わっていないティア。流石に反則が過ぎるのではないかと思っているが、口には出さないベル。
鍛えていても所詮は人間種の肉体と、体の半分ほどに最強の怪物の血肉が入れられた肉体。幾ら鍛えているとはいえ、人間種の肉体如きが勝てる相手ではないのだ。
理不尽の権化は、理不尽の権化である。
魔物を蹴散らしながら進み、ようやく10階に辿り着いた。ベルは息が上がっているが、1階層20キロ四方を9階分も降りて来たのだから息も上がろう。もちろん初心者エリアなので、階段の位置もそこまでは離れていないのだが。
「はぁ、はぁ、はぁ。ふぅー………。初めてダンジョンに挑んだ時もそうだったが、ボス部屋に行くまでが大変なのだ。階段で休憩したりとか色々あって、やっと辿り着いたのを思い出す」
「そうなのですね。明らかに疲れないので変だとは思っておりましたが、やはり普通とは違うようです。姉上を見ていて分かりました」
「まあ、疲れにくいのもあるけど、一番は【身体強化】。普通は疲労と栄養の消費が来て、お腹が猛烈に空くんだけど、ミクの血肉を得ると緩やかなのよ。あんまり疲れないし、お腹もそんなに空かないし」
「それでも疲労はするし、栄養も消費するんだけどね。それでも普通の人間種に比べれば遥かに緩やかだよ。私の細胞だから当然といえば当然なんだけどさ」
「【身体強化】までか……。あれも普通なら切り札みたいなものなのだがな。だからこそ使ってすぐに解除という練習を騎士達もしている。武器を振る際に使い、勢いが乗れば解除。これで威力は十分に出る」
「へー……そうやって使うのも、技術という事なんですね」
「わたし達なら使いっぱなしで戦闘できるけどね? というか、そうやってさっさと倒した方が早い。疲労と栄養の事を考えると、なるべく使う時間は短い方が良いけど、わたし達がそれを考える意味は無いし。駄目なら食べればいいよ」
「そもそもアレッサと私は【身体強化】を軽く使って、そのうえ早足で攻略してるしね。途中で食べたりしてるけど、それでも問題なく攻略できてるよ」
「普通の人間種なら太るかもしれないけど……って、よく考えれば【身体強化】を使って運動してると痩せるか。いや、栄養の消費が大きくてガリガリになるかも」
「全体的に消費する場合、お腹の脂肪だけ残り続けるとかもありそう。それかお尻の贅肉だけ残り続けるとか」
「「「………」」」
「まあ、ちゃんと運動を併用すれば痩せるとは思うけど、どうなんだろうね。私は興味が無いから調べたりもしないけど、【身体強化】ダイエットとか流行りそう?」
「どうだろうね。そのダイエット? とかいう痩せる方法の調査が出来るのはベルだけだよ? 私達はミクの血肉で太らないみたいだし」
「そうですわね。ここは姉上にお任せいたしましょう」
「ズルくないかな? もちろん私も簡単に痩せる方法があるなら助かるけれど。でも、悪い痩せ方をすると筋肉まで失われるんだよ?」
「そうなのですか? それは大変ですね。でも姉上しか分かりませんから、私ではお手伝いも出来ませんわ」
「わたしも無理だね。そもそも12歳の体型に無理言われても困るし、ミクはもっと無理だよ。本体じゃなくて分体だし、自由自在に体を変えられる相手にダイエットは必要無い」
ベルはミクを見た後で溜息を吐き、それ以上は何も言う事なく体力の回復に努めた。特に疲れてはいない3人は、ティアに杖の使い方を教えて時間を潰し、ベルの体力が回復したらボス戦へ。
相手はダッシュボーアとブラウンボーア10頭。ミク、アレッサ、ベルは適当に捌き、ティアに全て倒させる。ティアは1頭1頭着実に足を潰していき、最後はダッシュボーアに横から体当たりをし、転倒させた後に足を圧し折った。
流石にここまで出来れば勝利したと言えるだろう。後はティアが1頭1頭に大型ナイフで止めを刺していく。最後まで自分の手でやる事が重要であり、他人の手で止めを刺してもらってはいけない。
ティアは服を血塗れにしながらも、全ての魔物に止めを刺すとボス部屋の壁が開いた。脱出の魔法陣がある部屋まで行き、服を脱がせて【清潔】と【聖潔】を使う。その後は肉で血を取り服を着せていく。
その最中に何か考えていたようだが、何を考えていたのだろうか?。




