0018・平原ダンジョンの魔物狩り
探索者ギルドの前に出たミクは、自分が借りていた荷車を持っていこうとしている探索者を蹴り飛ばすと、荷車を牽いてダンジョンに行こうとする。
蹴られた探索者の仲間が慌ててミクに詰め寄るが、ミクはそいつらも蹴り飛ばしてさっさと移動する。本当に馬鹿な連中である。喧嘩を売っている相手が怪物だと知れば、絶対にこんな事はしないのであろうが。
ミクはダンジョンへと移動し、再び第4エリアへのショートカット魔法陣へ進むと、さっさと乗って転移した。
今度は東へと進み、次への階段を目指して荷車を牽く。階段ではあるものの【身体強化】をすれば持ち上がるし、オドーという探索者が言っていた通り、ここまで来た者は【身体強化】程度は殆ど全員が使える。
使えない者は仲間に連れて来られた情けない奴という扱いを受けるほどなので、荷車を持ち上げての上り下りなど可能である。………人数を掛ければ。
ミクは1人ではあるが、あの莫大な【魔素】を使う【身体強化】を見せればギリギリセーフであろう。あれはミク以外の者では殆ど不可能なほどの強力さだ。
わざわざあそこまでの【身体強化】を使う意味は無い。大半のベテランはそう言うだろうが、しかし使えない事と使わない事は別である。一瞬でも莫大なパワーが使えるなら、それは超一流と言っても差し支えはない。
無駄使いという意味でギルドマスターのラーディオンは怒っていたが、無駄でないのならば超一流の技と言えるのだ。
つまり探索者同士の喧嘩では完全に無駄だが、ドラゴンへの一撃と考えれば極めて有用なのである。どんな技かも重要だが、どう使い熟すかの方が遥かに重要なのだ。どんな事であっても。
(それにしても、今日は鬱陶しい奴等に絡まれる日だね。他人の視線があるから喰えないし、その割にはいちいち絡んでくる。一度叩き潰して、それを見せ付けた方が良いかな?)
この肉塊、アレだけの事をやっておきながら、アレ以上をやる気である。受付嬢などは泣きながら「止めてくれ」と懇願するのではなかろうか? そもそも受付嬢は争い事に慣れてなどいないのだし。
様々なバカどもをシミュレートしながら歩き、階段に来たので荷車を持ち上げて下の階に下りる。どこのダンジョンでも、階層移動の階段は20段しかない。幅は5メートルほどあるものの、距離は短いのだ。
なので移動にそこまで苦労する事は無い。もちろん【身体強化】を使えば、だが。
第4エリア2階の階段は西なのだが、今度は北に行ってみる。1階は荷車を運ばなくても済むが、2階は1度とはいえ運ばなくてはならない。ならば2階に来る人は1階に比べれば減るだろう。
そう思って荷車を牽きつつ探しているのだが、魔物がなかなか見つからない。
「おかしい。何故ここまで魔物が居ない? 幾らなんでも変だし、第4エリアが平原とはいえ、魔物の数が少ないなんて事は無い筈。何かの嫌がらせを受けてる? ……わけないか」
そんな愚痴も口から出る程に魔物が居ないのだ。それでも魔物を探していると、ようやく発見した。今度はグリーントータスだ。
しかし、この魔物の素材で一番売れるのは甲羅と肉なのだが、果たしてどうやって手に入れるのか?。
甲羅を傷つけると買い取り金額が下がる、肉が潰れれば買い取ってもらえない。いったいどうやって倒すのが正しいのか? それを考えたミクは、唐突に右手にスティレットを持つ。
そして無造作に近付いていき、グリーントータスが噛み付いてきた瞬間、その口から脳を串刺しにした。頭部は硬いかもしれないが、口の中ならそうでもないと考えての一撃だ。
それは正しく、グリーントータスの口の中から脳を貫通し、スティレットの先端が頭頂部から「こんにちは」している。
ミクが「ズボッ」と抜くと、既に気を失っているのかグッタリしており、息を吹き返す様子は無い。
(思っていたより弱い。噛み付く速度はそれなりだけど、構えていれば人間でも対応出来る。人間の反射速度ぐらいに落としているけど余裕だったし。そこまで強い魔物じゃないね。槍でも使えば簡単に倒せる)
ミクは首を引っ張ってナイフで切り落とし、逆さにして血抜きをしていく。
甲羅の直径が1メートルを軽く超えるような陸亀だが、人外パワーには軽すぎる程度の重さでしかない。十分に血抜きが出来たら首と一緒に荷車に載せ、再びゴロゴロと牽いて歩く。
ミクは高く売れない魔物とは戦いたくなかったのだが、向こうが迫ってくる以上は仕方がない。こちらに走っているのはコボルトで、ゴブリンがその後ろを走っている。
どうやら戦闘の大半をコボルトに押し付けようしているのだろう、明らかにニヤニヤした顔でコボルトを追い駆けている。
そのコボルトという魔物は、何やら犬のような頭部を持つものの、体はゴブリンと変わらない二足歩行だ。訳の分からない姿形であるものの、肉塊はもっとアレなので特に気にしないミクであった。
(ゴブリンと同じような体に同じ色。でも頭部は犬で、性格は単純っぽい? それともこのコボルトがゴブリンに使われているだけ? ……犬の頭部だから頭が悪いのかな)
コボルトが近づいてくる前にウォーハンマーと盾を持ち、それらを既に構えていたミクは、正面から突っ込んできたコボルトに対してシールドバッシュを行う。ドゴォッ! という音と共に派手に吹っ飛ぶコボルト。
それを見たゴブリンは走る速度を緩めるも、時は既に遅い。
前に向けて一気に走り出したミクは、一番近いゴブリンの頭部にウォーハンマーを振り下ろし、一撃で破壊、絶命させる。
次にその流れから、左に居るゴブリンに対して飛び込むようにシールドバッシュ、弾き飛ばす。慌てるゴブリンを横目にウォーハンマーを持ち上げたミクは、次のゴブリンの頭に振り下ろす。
ドゴォッ! という音と共に首から上が弾け飛び、死んでいくゴブリン達。明らかに過剰な威力であり、ゴブリンやコボルトを倒す程度ならば、ここまでの威力は必要ないだろう。
既に戦闘を行っている以上はどうにもならないが、初めからナイフとスティレットで十分に勝てたであろう事はミクも分かっている。最初は敵を舐めずに全力を出したのだし、それは間違ってはいない。
ただ、肉塊が発揮しても怪しまれない力ぐらいで、ゴブリンやコボルトは容易く死ぬのだ。ゴブリンはともかくコボルトは初めての魔物なので、誤ったとしても仕方がないとは言えるが。
コボルト1体とゴブリン4体を殺し、【清潔】で綺麗にしたミクは階段に戻る。少なくとも既に儲かってはいるのだ、後は解体所で聞くのを忘れていた事を聞き、宿へと戻ろう。
そう思い階段まで行き、荷車を持って上に上がっていると、<鮮烈の色>が荷車を持ち上げていた。ミクは気付いていたので【身体強化】を使っていたが、向こうも使って持ち上げているらしい。
「下の奴すまねえ! すぐに上げるからちょっと待ってくれ。ランサーブル2頭はそれなりに重くてな!!」
「下に居るのミクちゃんみたいだよ? 特徴的なウォーハンマーとカイトシールドが積んであるし、本人の顔が見えてる」
「更に言えば1人で荷車を持ち上げてるわね。強すぎる【身体強化】で周囲の景色が歪んでるけど」
「あれは凄い。多分とんでもないパワーが出てる。あそこまでの事が出来るなら、第4エリアにソロで来るのも納得」
「それはいいけど下の奴を待たせる訳にはいかないだろ!! ルッテもウェルドーザも手伝えよ!!」
「しょうがないね」
「はいはい、分かりました」
その後は4人で一気に持ち上げていった為、ミクも同じように1階へと移動できたのだった。




