0160・領都ラーグ
妙な雰囲気になったものの、早めの昼食を終えた一行は、準備を済ませると出発する。ここヤーイド村を越えた先を進むと、領都ラーグがある。オルティマの実家、つまりレドマーグ辺境伯家の中心だ。
ゴールダームへの旅路でも寄っているので、そこまで感慨深さは無いらしいのと、逆に実家だからこそ落ち着かないそうである。オルティマにも色々とあるのだろう。
「そんな話を準備の時にしてたねえ。実家って言っても貴族家だと色々あるんだろうし、大変だと思うよ。帰ったら普通に迎えてくれるだけで十分なのにね、貴族としての云々なんてのを言われる。想像だけでも大変なのは分かるし、実家に近付きたくない気持ちも分かるよ、本当」
「実家だからこそ色々と言ってくるのが居るって事か。だから、あんまり喜んでなかったんだね。よく分からないけど、面倒な事を言ってくる奴がいて鬱陶しいっていうのは分かる」
「それだけ分かれば十分だと思う。そもそもミクには関係のない事だし、わたしも関係なくなったからね。既に両親も兄弟も生きてないから。ちなみに兄が2人で弟が1人ね。あの後で更に産まれてたら知らないけど」
「そこのところは仕方ないんじゃない? 誰もどうにも出来なかった事なんだし、そうじゃなきゃ今は無い訳だしさ」
「確かにそうなんだよねー。あのロリコンが居なきゃ今は無いのよ。それでも腹が立つ相手でしかないんだけど」
2人は早歩きをしながらも暇なので話している。それを見ながら、とんでもない体力に驚きと呆れを持つ騎士達。馬車と馬の移動に対し、暢気に雑談しながらついていくのだから、驚くのも当然だろう。
朝は途中で泣き言を言うと思っていた騎士達も、ここまで普通に歩いてきているのを見ているのだ。その結果、「自分達は騎士として大丈夫なのだろうか?」と自信が揺らいでいたりする。
この2人が異常なだけなのだが、見た目12歳のアレッサが居るので余計に強く思ってしまうのだろう。どちらも中身はおかしいので、欠片も参考にはならない生き物である。
◆◆◆
2度の休憩を挟んで領都ラーグへと辿り着いた一行。今日はこの町に泊まるので、ミクとアレッサは宿へと移動する。騎士達が泊まる宿は既に手配されているが、ミク達は依頼を請けた探索者なので宿の予約は無い。
適当に町中を歩き情報を集めると、スラムの近くに安い宿がある事を聞く。この瞬間、「喰いに行くんだな」と理解したアレッサは納得し、2人はスラム近くの宿へ。
大銅貨3枚で2人部屋をとり、ミクとアレッサは食事に出かける。適当な酒場に入って小銀貨1枚分の食事や酒を頼んだ。
「ミクがお酒飲むなんて珍しいわね? 飲んだって効かないのに」
「でも酔ったフリくらいは出来るよ、顔を赤くしたりとかね。さて、周りから見ている連中は何を思うでしょう?」
「ああ、餌って事ね。何と言うか、本当に容赦が無いとしか思わないわ。知ってるわたしからすれば、喰う気満々すぎて怖いわよ」
「えー、スッキリと掃除されるんだから、そこは歓迎すべきところでしょ。怖がってどうするの」
「どうするって言われても……ねえ?」
何だか訳の分からない会話をしているが、別に2人とも酔ってはいない。酒を飲んでいるものの、この星の平均的な酒はアルコールの量が少なく、泥酔するほど深く酔える物は少ないのだ。
そしてそういう度数の強い酒は、大抵において貴族しか飲めないほど高い物である。なので場末の酒場にある酒は、基本的にアルコール量が少ない物しかない。それでも酔う者は沢山いるのだが……。
顔を赤くして酔ったフリをしているミクと、アルコールで血流が良くなり赤くなっているアレッサ。どちらも酔っていないが、酔ったフリをしつつ宿へと戻る。後ろからついてくる者達にほくそ笑みながら。
宿の部屋へと戻ってくると、顔を元に戻したミクがアレッサに話す。
「この町の情報は集めてないからスラムの組織の事は分からないけど、それでも襲ってきた奴等の頭の中にあれば行ってくる。おそらくアレッサは襲われないと思うけど、万が一があったらブッ殺せ」
「ういうい。まあ、ヴァンパイア・ロードだったわたしに喧嘩を売る以上は、死ぬ覚悟があるんでしょうしね。……無くても殺すけど」
「寝所に入ってくるんだから殺されても文句は言えないね。殺されても仕方がない事をする奴が悪い。当たり前の事だよ」
「まあね。とりあえず、わたしはもう寝るから。後お願いねー、起こされたら殺すで良いんでしょ?」
「そう。起こした奴がいたなら殺しなさい」
「了解。おやすみー」
アレッサはベッドに寝転がると、さっさと寝始めた。なのでミクもベッドに横になり、バカどもが部屋に突入してくるまでジッと待つ。そこはまるで蜘蛛の巣のような、バカを待ち受ける致死性の罠が張られていた。
◆◆◆
……夜、ゆっくりとミク達が泊まる部屋の扉が開く。入ってきたのは宿の従業員2人を含む11人。また大所帯で来たものである。
そいつらは部屋にゆっくりと入り、11人全員が入ってドアを閉めると、一斉に襲い掛かろうとした。……が、出来なかった。何故ならドアを閉めた段階で、男達には麻痺毒が噴霧されたからだ。
あの凶悪な蜂の毒。あれが噴霧された男達は、一瞬で体が麻痺し動かなくなった。この毒は上手く使わないと心臓まで麻痺させてしまい、相手を殺してしまう。
とはいえ薄めれば済むので、そこまでミクは危険視していない。実際薄める用の水なり粘液なりは有るからだ。それはともかく、麻痺した連中を本体空間に送ったミクは、レティーの情報収集が終わるまで待つ。
脳を食い荒らしたレティーいわく、男達の殆どは不良探索者だった。しかし宿の従業員2人は、この町の闇ギルドに所属している者達である事が判明。すぐに窓から蜘蛛の姿で出ると、スラムへと急ぐミク。
食料を食えるのだから1分1秒も無駄にしたくない、そう言わんばかりに急ぎ、スラムの奥地へと入って行った。闇ギルドのアジトの位置は既に特定しており、ミクは一番奥の者から順に喰らっていく。
カムラ帝国を根城にしている闇ギルドらしいが、ミクにとっては興味もない事である。一番奥にいるのがボスであろうと喰らい、レティーが読み取った記憶もボスで間違いないというものであった。
そこから逆走するように喰らっていくものの、透明に見える能力も使っている為、当然ながら見つかる筈もない。そのまま貪り続け、アジト内に一人も居なくなると次へと向かう。
実はボスの記憶の中には、領主邸の下働きに一人潜り込ませている者が居たのだ。喰える肉は全部自分の物だと言わんばかりにミクは突撃していく。
レティーに聞いていた風貌というか、顔の特徴が一致する者を発見。そいつは領主の館の隣にある、下働きの者達の建物内に居た。1つずつ部屋に侵入しては調べてようやく見つけたのだ。
苦労した分だけ食事も美味しいというものであろう、機嫌よく貪り喰ったミク。しかし、そいつの記憶から他の闇ギルドや裏組織から入り込んだ者の情報も出てきた。
手前の部屋に戻って喰ってから他の部屋にも行って喰い、更にはスラムに戻って裏組織や闇ギルドの連中を食い荒らして金品を強奪。ついでに最初の奴等のアジトにも戻って強奪。
次に商店を隠れ蓑にしている連中も強襲して貪り喰った。結局、全てが終わったのは朝方に近い時間帯であり、慌てて宿の部屋に戻るミク。
窓から部屋に入り中を確認するも、荒らされた形跡は無し。安堵したミクはベッドに寝転がり、本体が数えた金銭を転送する。
小銅貨66枚、中銅貨48枚、大銅貨311枚、小銀貨128枚、中銀貨23枚、大銀貨87枚、小金貨31枚、大金貨8枚。これで全部だが、随分と持っていたものである。




