0159・ジャンダルコ商王国へ出発
トレントの周回を終えて迎えた朝。アレッサが起き上がると同時にミクも起きる。朝の挨拶をし、昨夜の苦労を話すと朝から同情された。それぐらいに大変だった事は伝わったらしい。
アレッサとしても無限のスタミナがあるミクが疲れるというのは驚きだが、ひたすら同じ事を延々と繰り返すのを想像したら理解できたらしく、それ故に同情したようだ。神々が勝手にハチミツを持っていくという部分はスルーしたみたいだが。
2人は準備が出来ると食堂に移動し、大銅貨6枚を支払って朝食を食べる。イリュ達は起きてこなかったので2人でさっさと済ませると、宿を出て中央区画に行く。
貴族街の門が見える所でダラダラと待っていると、前に見たジャンダルコの紋章が書かれた馬車がやってきた。近くに馬に乗ったイヴィエルテが居るので間違い無い。ミクとアレッサは近付いて話しかける。
「おはよう。こっちは既に準備できているけど、このまま進んで大丈夫?」
「おはよう。こちらは見ての通り既に準備できている。が、本当に徒歩で行くのか? 流石に姫も遅れるのではと思われていてな。こちらで馬を用意してもいいと仰っているが?」
「要らないねー。早歩き程度でついていけるなら余裕だよ。そもそも馬だけならともかく馬車は重いからね、どうしたって速度は出ない。なら私達がついていくのは難しくないよ」
「そうそう。最悪は【身体強化】を使うから大丈夫。お腹空いたら適当に食べるし」
「まあ、町でも馬は買えるから、とりあえずは行こうか」
ミクとアレッサは最後尾につき、そのまま馬車と馬の集団についていく。2人はそのままゴールダームを出て後ろを早歩きでついていくが、【身体強化】をせずとも遅れる事なく進んで行く。
「本当に遅れずついてくるのだな、少々驚く。私も長く訓練をしてきたから分かるが、このペースで歩き続けるというのは簡単ではない。それが出来ているだけで十分に口だけでは無いと分かる」
イヴィエルテがそう口に出す事で、多少なりともミクとアレッサに対する目線や気配は外れた。どうも「本当についてこれるのか? 自分達の後ろに乗せる事にならないだろうな?」と気を揉んでいたらしい。
そんな事はあり得ないのだが、怪物と知らない者達の考えとしては当然なので、ミクもアレッサも気にしていない。それよりも、迷惑を掛けていたイヴィエルテの言葉が受け入れられている事に驚く2人。
何らかの話し合いがあったのか、それとも元々の知り合いだからなのか、現在のところ悪い雰囲気は感じない。それとも呪いは王女にしか向かなかったのだろうか?。
例えば忠義がある相手ほど怨みを持ったり、あるいは自分より上の位の者を憎んだり。そういう呪いであれば、王女やオルティマにしか向かなかったのは分かる。オルティマは辺境伯家の娘だから向いてもおかしくはない。
そんな事を早歩きで移動しながら考えていると、最初の休憩に入る事にしたようだ。近くに森というか林があるので、あそこで用を足すのだろう。ミクは適当に地面に座り、アレッサも横に座る。
アイテムバッグの中に用意していたハチミツの樽と水の樽を出し、コップに少量のハチミツと水を入れて掻き混ぜる。マドラーのような物も用意していたので、混ざったらアレッサに渡す。
「…んく…んく…んく……ぷはーっ! 水が多いと香りが良いし、甘すぎないから美味しいね。これ意外に良いかもしれない。はーっ、くんくん。口の中の香りも花の香りになってるし、貴族のお嬢さんが買いそう」
「別に高値で売りたい物でもないから、いちいち売らないけどね。それよ、欲しいの? …………はい、どうぞ」
「ありがとうございます。…………本当に、美味しいです。昨日のあの甘すぎるアレは何だったのかと、不思議に思うくらいには美味しい。これなら高値でも買う者は沢山居ると思います。はーっ……本当に花の香りがしますね」
「姫、あまり行儀の良い事ではありませんよ。……ありがとうございます。……確かに驚きの美味しさですね。昨日のあの地獄に比べれば天国だと思えます」
「ありがとう、いただきます。………確かに美味しい。昨日のアレは顎を壊されたのではないかと思うほど、おかしな感覚になってしまいましたから。これが、あの危険物と同じとは思えません」
どうやらイヴィエルテは騎士としての時と、そうでない時に口調を変えるタイプらしい。それは横に置いておくとして、ミクは飲み終わったコップに【清潔】と【聖潔】を使い、次の者へ渡していく。
ミク自身には、大量にあるハチミツを少しずつでも減らそうという意識しか無かったが、ハチミツ水を貰った騎士達からは随分と感謝された。喉が渇いていたのもあるだろうが、ジャンダルコではハチミツは貴重なのだ。
それを知らないミクがあっさりと渡したからだろう、感謝をされたのは。もちろん悪い事ではないので、知っているアレッサは黙ってトイレに行った。
アレッサが戻ってくると休憩も終わり、再び出発していく。少なくともゴールダームから10キロ圏内はゴールダームの土地であり、そこには村など存在していない。だからこそ道上で休憩しなければいけないようになっている。
これはゴールダームが他国から攻められない為の措置なので、各国ともに文句を言う訳にもいかない事なのだ。国防の為と言われれば強弁できないのは何処の国も変わらない。自国もその理屈を使うのだから。
ダラダラと進んでいき、2度目の休憩はジャンダルコ辺境の村で行う事になった。つまりここからはジャンダルコ商王国の土地である。
未だに他国に来たという感覚は無いものの、村の雰囲気は可も無く不可も無いもので、良くも悪くもない長閑な村のようだ。この村の食堂で昼食をとる為王女達についていくミクとアレッサ。
食堂に入り、代表してオルディマがお金を払うと、王女から順番に注文していく。ミクとアレッサは最後だが、特に気にしていない。
「私は大麦粥で」
「私も大麦粥ね、それとお肉」
「……あの、パンでなくても良いのですか?」
「パンよりも大麦の方が栄養価が高いからね。……ああ、分からないならいいよ。とにかく私達は望んで大麦粥を注文してるから気にしないで」
「そうそう」
「はあ……まあ、それで良いのであれば、分かりました」
そう言って店員らしきオバサンは厨房に注文を伝えに行った。騎士達も王女達も見てくるので、仕方なく説明する事に。
「食べ物の中には栄養という体を作る元となる物が含まれてるの。で、パンは小麦から出来ている訳だけど、体への栄養よりは太る元の方が多いの。大麦は小麦に比べて美味しくないけど、代わりに体を元気にする栄養が多いってわけ」
「はあ……だから小麦のパンではなく、大麦の粥を食べるという事ですね」
「そうそう。私もミクから聞いたけど、栄養っていうのは色々あって、様々な物を食べないと病気になりやすくなったりするんだって。絶対になる訳じゃないけど、なる可能性は上がっちゃう」
「そして美味しい物ほど太る元とかが多いの。結果、貴族や王族ほど贅沢で美味しい食事をとるから早死にしやすくなる。まあ、ここに居る皆は若いから大丈夫だろうけどね」
「それでも病気になる可能性を上げるのも嫌だしね、だから私達は大麦粥を頼んだってわけ。粗食の平民の方が長生きするって、よくある事よ?」
「「「「「「「………」」」」」」」
色々と心当たりがあるのだろう。ジャンダルコの面々は押し黙ってしまい、ミクとアレッサは気にせず運ばれてきた料理を食べる。
それを見て呆れているオバサン。妙な構図である。




