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0012・探索者カルティク




 「私の名はカルティク、探索者ランクは9。貴女は?」


 「私はミク、探索者ランクは1」


 「ランク1? その割には随分と堂に入って冷静ね。まあ、いいわ。それより離れるわよ。既に救出不能となっている以上、ここに居続けても襲われるだけだから」


 「了解」



 ミクはカルティクという人物の後をついていき、探索者が喰われていた場所から離脱した。他の者達の気配も離れているので、居続けても意味が無いのは事実なのだろう。


 ミクは誰かが仇討ちと称してゴブリンどもを殲滅するのだと思っていたが、どうやらそんな事は無いらしい。ドライというか、駄目なら諦める。そう割り切らないと生きていけないのだろう、ダンジョンでは。



 「ランク1だったなら初めて見たんでしょうけど、ああいう所には近寄らないほうが良いわ。ここまで来れている以上はそれなりに実力はあるんでしょうけど、妙な功名心を出すと死ぬわよ。助からない奴は切り捨てなさい」


 「分かった」



 ミクの返事を聞いたカルティクは離れていったので、ミクは攻略を再開する。ゴブリンは探索者を凌辱する事はなかったので、オークとは違うのだろう。コボルトという魔物も出現するそうだが、このエリアではない。


 人間種を食うのは共通しているそうだが、凌辱するのはオークだけらしい。そのような事が貼り出してあった紙に書かれていたなと思い出しつつ、ミクは階段の方へと歩いて行く。後ろのカルティクを無視しながら。


 ゆっくりと歩きつつ、後ろを振り返る事もしない。魔物が現れたら棒で叩き、素早くナイフを投げる。汚れたら【清潔】を使って綺麗にし、また歩いて進んで行く。途中で水筒の中の水を飲みながら。


 カルティクは執拗に追いかけてきたが、ミクは気にせずに進み、6階から7階に下りる階段の途中で座る。基本的にダンジョンで夜を明かす者は、全員が階段で休む。


 何故ならここには魔物が入ってこず、安全に休めるからだ。もちろん不良探索者や迷賊という危険はあるが、少なくとも魔物の危険からは遠ざかれる。


 当然、階段部分で襲ってくる者は問答無用で殺されても仕方がない。完全な正当防衛である。だからこそ、不良探索者も迷賊もここでは襲ってこない。


 そんな階段の6階に近い部分の端で休んでいると、カルティクが現れた。ミクが7階近くで休んでいれば近付いて来なかったのかもしれないが、ミクは分かっていて6階近くで休んでいる。



 「また会ったわね。とはいえ、貴女もダンジョンの中で夜を明かす気? ランク1では慣れていないんじゃないのと思うけど、余計なお世話だったわ」



 そう言ってカルティクはミクの座る場所の反対側に腰を下ろす。同じ段の端に座り目の前に相手が見える状態になっている。よほどミクを監視したいのか、それとも何かがあるのか……。


 腐った者かどうかが分からない為、ミクも手出しが出来ない。とはいえ監視されていても気にしないのが肉塊である。


 背負い鞄から干し肉と、大麦の一口パンというかビスケットみたいな物を取り出し、水と一緒に食べていくミク。


 カルティクは何やら布で巻いていた物を取り出したが、それも干し肉だった。どうやらあのように干し肉は保存するものらしい。


 目線も向けずに監視できる肉塊は、チラチラと視線を向けてくるカルティクとは雲泥の差だ。まあ、人間種ではないのだから当たり前だが、目を瞑っていても監視出来るのは反則とも言えるであろう。



 (それにしても、こっちを監視するのは構わないけど、監視されている間は肉が喰えないのが腹立たしいね。賊が居ても殺すしか出来ず、喰う事ができないじゃない。でも、何で私が監視されている?)



 カルティクが監視してくる理由がわからず、内心首を傾げるミクであった。


 夕食後。ミクは6階へと戻る。森の中へと入り、魔物の居ない場所を見つけたら、そこでズボンとパンツを下ろしてしゃがみこむ。何をするかと言えば用を足すのだ。


 もちろん肉塊にそんな必要は無いのだが、用を足さないと怪しまれる。なのでミクは用を足しているフリをしているのだ。流石のカルティクも、ミクが用を足していると気付いたら素直に離れていった。


 なので尻を触手に変えて地面に穴を掘り、今まで食った連中の腸の中のクソを捨てる。何処かで捨てる必要があったのでちょうど良かった。膀胱の中の尿も捨てたら土を被せて埋めてしまう。


 色々な意味でスッキリしたミクは、階段へと戻り端に座る。そして棒を握ったまま壁に背を預けて目を瞑る。当然だが寝る事など無く起きているものの、周りからすれば眠っているように見えるだろう。



 (私が眠っているフリをしていれば、流石に何らかの行動は起こすでしょ。そこで見極められるといいんだけど……動くかな?)



 目を瞑って俯き、寝ているフリをしているが、頭部から逆監視をしているミク。どこでも目や耳や鼻に変えられるミク、そしてそれはそもそも目という形でさえない。


 それでも人間種よりも遠くまで見えるし、真っ暗でも問題ない。そんな超高性能の視覚を持つミクが監視しているとも知らず、カルティクは紙を取り出して書いていく。


 ミクは鉛筆の動きから、カルティクが何を書いているのか読み解いていくのだった。



 (た、ん、り、ょ、く、は……胆力? せ、ん、と、う、は……戦闘か。そ、し、つ、は、た、か、い。今度は素質ね。た、ん、さ、く、し、ゃ。ここは探索者)



 鉛筆の動きだけでよく分かると思うが、怪物にとっては簡単な事であり、特に難しいことでも何でもない。流石は人外としか言えない能力である。



 (ひ、じ、ょ、う、に、ゆ、う、し、ゅ、う。非常に優秀ねえ、何処に報告するんだか……。ら、で、ぃ、お、ん……らでぃおん? ……ラーディオン! 探索者ギルドのギルドマスター!!)



 ここでようやくカルティクの所属が判明する。カルティクは探索者ギルドの者で間違いない。ただし、ギルドマスターに報告するような人物だ。おそらくは内部監査の者だろう。


 誰が不良探索者であるかを見極める為に、カルティクのような人物がダンジョン内での行動を監視して報告している。おそらくランクを上げる為の査定にも影響するのだろう、そんな気がするミクだった。


 別にランクを上げなくても良いのだが、有名にならないと肉が寄って来ない。そう考えているミクとしては、上げられるなら上げておきたいのだ。


 品行方正とは言わずとも、ある程度は真っ当な善人っぽく振る舞うべきか? そんな事を思いつつ、カルティクを逆監視する夜は更けていった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 翌日。夜の間に本体が調べていたが、迷宮で倒した賊はそれなりにお金を持っていた。小銅貨が8枚、中銅貨が22枚、大銅貨が41枚、小銀貨が29枚、中銀貨が6枚、大銀貨が18枚。


 思っているよりも持っていたと同時に、思っていたよりも嵩張る。今はまだこの程度で済んでいるが、いずれ大量の貨幣を持ち運ぶ事になってしまう。早めにアイテムバッグが欲しいミクであった。


 朝早くに目覚めたという感じで起き上がったミクは、体を解した後で6階に行く。前回とは別の場所に行き、トイレっぽく行動したら、すぐにカルティクは離れた。


 どうも浅くしか眠っておらず、いつでも起きられるようにしていたらしい。ミクは用を足したフリをしてから戻り、再び干し肉と一口大麦パン、それに水で食事を済ませる。


 そして欠伸をするフリもしつつ、もう一度体を解して7階へ。途中からはカルティクも起きていたので、ミクは適度に挨拶をしていた。


 疑いか何かは分からないが、未だに監視は止めないらしい。7階へと下りたミクの後ろから、カルティクは尾行をしている。悪意は一度も感じていないので、襲ってくる事は無いだろう。



 (ま、襲われても問題ないんだけどね)


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