0155・久しぶりの王女様
1階に戻り脱出した一行は、真っ直ぐ<妖精の洞>に戻ってきたのだが、そこで珍しい人物に出会う。食堂で大銅貨9枚を支払って注文しつつ、とにかく聞いてみる事にしたミク。
「ここにどうして王女一行が居るの? イリュと知り合い……じゃないみたいね。なら、何で居るのか分からないんだけど……」
「王女? ………本当に王女なんだとしたら、ここに居るのはおかしいわね。そもそもここは王族が来るような所じゃないし、スラムの近くよ? 絶対に近付く所じゃないのに、そんな所に来るって怪しくない?」
「何を言うか! 姫を怪しいなどと……!」
「お止めなさい。いったい何度言えば分かるのですか? 無用に他者との騒ぎを起こさないように言ったでしょう。本国に居る時とは違い、どうしてここまで酷くなっているのか……。いい加減にしないと、貴女だけ帰らせますよ?」
「くっ………」
「何か王女様にまで噛みつきそうな感じだねえ。見た感じ護衛騎士みたいだけどさ、これじゃ狂犬と変わらないようにしか見えないよ。何でこんなのを護衛にするのやら?」
「キサマ!! 平民の癖に、私を愚弄するか!!!」
「お止めなさい!!!」
「ジャンダルコの王女が居るのは横に置いておくとして、こいつらは何で来たの? ここに来る理由が無いよね?」
「それがね。エクスダート鋼を求めて来たらしいんだけど、ミク達の御蔭で材料が揃ったらしくてね、今日にも準備が出来るんだって。で、帰りの道中を護衛してほしいらしいわ。信用できるのを入れておきたいみたい」
「信用できるという意味でミクを頼ったのは分かるけど、それよりもコレを排除する方が先なんじゃない? 何でコレを排除しないのよ」
「ミク殿であれば御存知でしょうが、元々イヴィエルテ殿はここまで酷くはなかったのです。しかし日を追う毎にどんどんと悪化していき、今では碌に姫の言う事も聞きません。何故こうなったのか……」
「それは当然でしょ。そんな呪われた剣を持ってたら、段々と狂わされていくのは当たり前だと思うよ? っていうかイリュは気付いてるよね?」
「当然、気付いてるわよ。だからこそミクが帰ってくるまで、ここで待たせてたんだもの。お昼に帰ってきてくれて本当に良かった。もしお昼に帰って来てくれなかったら、今ごろボコボコにして気絶させていたわね」
「………あの、呪いとは? いえ、確かにイヴィエルテ殿は本国では持っていなかった剣を持っていますが……。これが呪いの剣だと?」
「何を愚かな事を言うか! 私への侮辱、もはや許せん!! 今すぐその首を刎ね飛、ぐぁぁぁぁぁぁぁぁlっ!!!」
面倒になったミクは【浄滅】を使い、呪いなどを一瞬で塵にして消し飛ばした。イヴィエルテは【浄滅】を受けて前のめりに倒れ、完全に気を失ったようだ。
慌てたオルティマが静かに床に寝かせ、今は安静とする事で様子見となった。ちょうど料理も来たので食べながら話す。
「そのまま放っておいて大丈夫よ。それより王女の護衛騎士に呪われた剣を渡せる者、そいつに心当たりはある? 身近な者でも誰でも、今は疑いなさい」
「イヴィエルテはそれなりに警戒心の強い者です。だからこそ信頼していたのですが、まさか呪いの剣を……。いえ、それはともかく、剣を渡せる者は多く居ます。イヴィエルテは伯爵家の者ですが……」
「そもそも伯爵家の娘でしかありません。同じ伯爵家かそれより上の者に言われると逆らえないでしょう。イヴィエルテ殿が起きて聞けば分かるでしょうが……」
「そいつから命を狙われている……という可能性は低そうね。ミクが指摘しなかったのも、おそらくは弱い呪いだからでしょうし」
「それもあるけど、一番は私が言っても聞かないと思ったからだよ。いちいち揉め事になるのも面倒だったから言わなかっただけ。私にとっては赤の他人でしかないし、どうなろうが知った事じゃないしね」
「まあ、そうでしょうね。そもそも呪いにミクは関係ないわ。更に言えば、今なら納得するでしょうけど、会った頃に納得できたかと言うと、おそらく無理だったんじゃない?」
「それは……そうですね。いきなり言われても、むしろ私達を騙そうとしていると思ったでしょう。先ほどのようなおかしな態度に悩まされていなければ、信じる事は難しいです」
「姫の仰る通り、一月半ほど前に言われても信じられなかったでしょう。です「うっ……」から」
「イヴィエルテ、大丈夫ですか?」
「えっ……あっ、ハッ! 姫、如何されましたか? ………あの、ここはいったい……?」
「ここはゴールダームにある、<妖精の洞>という宿です。イヴィエルテ、覚えていないのですか?」
「いえ、あの………もう着いていたのですか? 私は第二王子殿下から剣を下賜され、これで姫を守れと言われ……言わ、れ……?」
「兄上……ですか。兄上ならばイヴィエルテに剣を渡せるでしょうね。そしてイヴィエルテの性格ならば、王族である兄上を疑う事はありません。しかし……!」
「第二王子の側近でしょうか? あそこの裏に居る伯爵家は……」
「成る程。私を失敗させると共に、モストレイル伯爵家の名を落とそうという事ですか。随分と卑劣な事をしてくれますね!」
「イヴィエルテ殿。今はジャンダルコを離れて既に一月半ほど過ぎています。その間の記憶はありますか?」
「……? ………!! 無い、記憶が全く無い! 一月半!? そんなバカな!! 何故ゴールダームに着いているかも分からないのに、一月半も経っている!?」
「呪いを受けている間の事は前後不覚で、おそらく記憶に残っていないのでしょうね。酩酊状態のようなものよ。きちんと記憶に残る呪物もあれば、残らない呪物もある。もしかしたら帰国した隙に、シレっと治す気だったのかも」
「というより、遠ざければ影響が無くなる程度だったのかもしれない。それなら強引に奪えば済むだろう? 最悪は帰りの何処かで奪えばいいと、向こうはそう考えてんじゃないかね?」
「ゴールダームで大問題になれば、それでよし。そうならなくても、帰ってくる際の何処かで奪えば証拠は隠滅できる。もしくは、すり替えるという手もあるわね」
「確かに見た目は普通っぽい剣だし意匠だから、すり替えられても分からないと思う。もしかしたら、ジャンダルコの軍の意匠なのかな?」
「そうですね。我が国の軍の正式な剣の意匠です。特別な物でない限りは、全員がその意匠の剣を佩きます」
「なら余計に分からないんじゃない? 剣身だけ見て判断するとか、自分の剣で更に見慣れてないと無理でしょ。特に最近下賜された物なんて覚えてないだろうし」
「とりあえず呪いは無くなったんだから、それで良いじゃない。それよりエクスダート鋼をジャンダルコに運ぶから、その護衛をしろって事よね?」
「え……あ、はい。こちらからの依頼はそうなります」
「ジャンダルコってダンジョンはある? 有名なヤツとか」
「有名なのは王都の近くにあるダンジョンですね。王都はオアシスにあるのですが、そのダンジョンは通称<水ダンジョン>と呼ばれています。周囲は砂漠なのにダンジョン内には大量の水があり、その水が行く手を阻むと聞きました」
「へえ、面白そうだね。そのダンジョンの為にも依頼を請けるよ。シャルはどっちでもいいけど、アレッサは連れて行くからね」
「えーーー!! 何で!?」
「アレッサは【罪業看破】と【真偽判定】を持ってるんだから連れてくに決まってるでしょう。諦めなさい」
「しょーがないなー」
「「「【罪業看破】……」」」
「そうそう。だから犯罪者はすぐに分かるよ」
アレッサを連れて行くのはゴミを喰う為だが、アレッサ本人も口で言う程には嫌がっていない。砂漠の料理を楽しみに考えているのと、たまにはゆっくり旅でもしたいと思っていたからだ。
そんな楽しい旅行になるとは思えないが、それは肉塊が行く旅路だからであろうか?。




