0149・踊り食いとハチミツ
ミクとアレッサは探索者ギルドを出て宿への道を歩いている。その2人を尾行する連中がいるのだが、あからさまに悪意を向けてきているのだ。今までとは違い、明らかに2人を害する気配が濃厚である。
そんな連中を引き連れたまま、2人は意図的にいつもの道とはズレて早歩きで路地に入る。慌てた連中は走って追いかけるも、2人は更に曲がり角を曲がっていた。慌てた男達は隠す事もなく走り、待ち構えていたアレッサの前で立ち止まる。
アレッサが路地の先におり、ミクは曲がり角の建物の上に捕まり待機していたのだ。そして男達が通過したら降りて挟み撃ちにした。【念送】を使って作戦をアレッサに伝えていた為、言葉を交わす事なく成功させる事が出来たという訳だ。
「さて、あんた達はどこの誰かしら? 事と次第によっては命は助けてあげても良いんだけど、どうする?」
「ケッ! てめぇら如きに助けてもらうほど、オレ様達は落ちぶれてねえよ。それよりオレ様達を相手にして随分余裕だなぁ?」
「そっちこそ随分調子に乗ってるんじゃないの? わたし達がどこに泊まってるか知ってるうえで襲ってるんでしょうね?」
「ハッ! 時代遅れの<鮮血の女王>か? んなもんにビビるほどガキじゃねえんだよ! ゴールダームの連中は馬鹿ばっかりだぜ。オレ様の地元じゃ通用しねえっての!」
「あんたの地元が田舎なだけでしょうが。あの<鮮血の女王>を舐めるって、よっぽど死にたいとしか思えないわねえ。それと、こいつら話す気ないみたいよ? もう殺っちゃう?」
「それでも良いけど、久しぶりだから私がやるよ。人間種の踊り食いは一番の好物だし、本体も喜ぶからさ」
「あ、うん。そだねー……」
肉塊は素早く両腕を肉の塊に変えてゴロツキを飲み込む。右腕で3人、左腕で3人呑み込み、これだけでリーダー格の男一人だけになった。
慌てたリーダー格の男は動き出そうとしたが、それより早くミクの腕に呑み込まれる。
惨劇はあっと言う間に終わり、ミクとアレッサは路地から通りへと出て宿への道を歩く。路地での惨劇は誰にも見られる事はなく、ゴロツキは2度と戻れない空間へと連れて行かれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ギャァァァァ!!!」
「イダイイダイイダイイダイイダイ!!!!」
「ダズゲデーーー!!!!」
「ウギャァァァァ!!!」
「ギィィィィィィィ!!!」
「アァァァァァァ!!!」
「な、なんだよ………これ」
『これが私だ。お前達が喧嘩を売ったモノを正しく理解したか? 見た目に騙された哀れなる者よ。喰われて私の血肉になれるのだから、感謝してほしいくらいだぞ?』
「な、なにを言っ! ガァァァァァァァ!?!!?!」
『ヒヒヒヒヒ……さあ、悲鳴を上げろ! 絶望を歌え! それは私にとって最高のスパイスだ!! クククククハハハハハハ……Hyahaaaaa!!!!』
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本体が踊り食いを楽しんでいるからか、分体の方にもハッキリと影響が出ていた。未だ宿への帰り道を歩いているのだが、横で歩くアレッサが顔を真っ赤にするほど陶然とした表情のミクが居るのだ。
陶然というより陶酔と言っていい程であり、周囲の者が声も掛けられない程に艶やかであり艶やかであった。
かつてウェルドーザはミクの美しさに関して、艶が無いからこそ見惚れないと思っていたが、今のミクはその限りではない。女性でさえ顔を真っ赤にし、男がいつ群がるか分からない程の艶を放っている。
そんな危険な空間は、シャルの登場で破られた。
「ちょっと、ミク!! いったいどうしたんだい、その顔は!? アレッサ! 何があったのさ!?」
「ああ、いやー……それが、ねー……」
「煮え切らないヤツだねえ。まあ、いい。この状況のミクは誰に襲われても文句は言えないよ、まったく!!」
そうやって周囲を警戒しながらミクに肩を貸して歩かせるシャル。理由を知っているアレッサとしては何とも言えない気分なのだが、陶酔しているミクに呑まれていたのも事実だ。
流石に自分が対処するべきだったと思ったが、アレは女性の顔ではなく捕食者の歓喜の顔だという事に思い至る。すると、スーッと何かが引いていき冷静になれた。決して捕食者の顔という言葉にドン引きした訳ではない。
シャルに連れられたミクが<妖精の洞>に戻った頃には、既にミクも元に戻っており問題は無くなっていた。そして原因を聞いたシャルは呆れたが、何も言う事は無く流す事にしたようだ。
宿に入って表からは見えなくなった途端、ミクはレティーを本体空間に転送し脳を食わせる。その結果、ゴロツキを嗾けて来たのは商人だという事が分かった。
名前も判明したので夜についでに処理する事に決め、ミクは食堂で大銅貨6枚を支払い注文する。イリュも来たので更に大銅貨3枚を支払い、夕食前の話し合いを始めた。
「ふーん……ミクがねえ。でも痛みと恐怖と絶望で、もがき苦しむ奴等の踊り食いでしょ。私は精々「ざまぁ」と言うだけねえ。そのうえ商人が後ろに居たっていうなら、尚の事「ざまぁ」としか思えないわ」
「いずれ手を出してくるとは思ってたけど、随分と遅かったうえにゴロツキか。敢えて自分達には届かないようにゴロツキを使ったんだろうけど、浅はかに過ぎるよ」
「私達は知ってるけど、商人如きじゃ知らないんだから仕方ないんじゃない? おっと、カルティクが帰ってきたみたい」
「だね。それでも色々と噂にはなってるし、何より第6エリアに行く実力者だと調べれば分かるだろうに。それでも知らないと突っぱねれば、どうにかなると思ってんのかねえ。甘すぎるよ」
「やっと帰ってこれたわ。ダンジョンで対抗心を燃やしてた子に会ってさ、今までの事を平謝りされたのよ。そんな事どうでもよかったんだけど、向こうの謝罪が終わらなくて、おかげで無駄な時間を過ごしたわ」
「まあ、そういう事はあるし仕方ないさ。それよりミクが取り出した樽はいったい何だい?」
「これはハチミツ入りの樽で、これはイリュのアイテムバッグ。今日第6エリアでアイテムバッグ2個と剣を見つけたの。それが蜂の巣の根元に落ちてたのよ。それで蜂を全滅させるついでにハチミツを取ってきたってわけ」
「ミク、スプーン出してよ。皆に味見させてあげましょう!」
そのアレッサの言葉にミクはスプーンを出したが、何故かイリュ、カルティク、シャルの3人はアレッサをジト目で見る。「コイツ何か隠してるな?」と言わんばかりの顔で見ており、アレッサは全力で明後日の方向を向いて視線を逸らす。
諦めた3人はミクがハチミツを掬って渡してくれたスプーンを持ち、口に入れて舐める。味が殆どしない事を訝しんでいると、口の中で甘味が爆発。それに耐えられなかったカルティクとシャルは奇怪な声を出す。
「「びゅぶぅぁ!!?!?!」」
「凄い声が出たね、気持ちは痛いほどよく分かるけど。でもさ……何であんたは平気なの? 甘味が強すぎて香りが強すぎて、気分が悪くならない?」
「全然?」
普通の顔をしてスプーンを舐めているイリュ。妖精は味覚がおかしいのかと戦慄するアレッサだが、単にイリュが甘すぎても問題ないだけだと知ると安堵した。流石に妖精全ての味覚が狂っている訳ではなくて何よりである。
「それにしても、ここまで甘い物によく耐えられるねえ。甘味に強い奴って稀に居るけど、これに耐えられるかは別の話だと思うよ。水で割ってちょうど良いハチミツって、どう考えてもおかしいだろうに」
「でも、コレで作ったミードって美味しそうよね?」
そんな事をイリュが言い出した所為で、ミクが本体空間でミードを作る羽目になってしまう。本体も分体も飲まないのにだ。




