0147・甘いモノ
昼食も終わり、午後から再びダンジョンへと出発する。ミクとアレッサはダンジョンへと向かい、第6エリアへのショートカット魔法陣に進む。周りから「おおーっ」と言われたが、それはミク達が消えた後だった。
午前と違い、午後からは内陸の調査に乗り出したミク達。まずは基準である東西南北を決める為に、魔法陣から真っ直ぐ進むと海に出る方向を北とした。これは近いので方向が分かりやすい為だ。
海が近い方が北。この分かりやすい基準から、午前に向かっていた方が西となったので、今度は東に向かって進む。魔法陣はちょうど東西の中心線上の北にあり、西や東よりも南が圧倒的に広い。
なのでまずは東を調べるのだが、こちらには何も無いだろうと2人も思っている。北に近い場所だし、攻略を厄介なものにするなら、南西か南東が一番面倒だろう。ここは第6エリアである為、そういう配置にしてある可能性は高い。
「そう思ってたんだけどねー……何でこうもあっさり見つかるかな? 東に行けば階段があるとか、もしかして調べてない場所に何かある?」
「ダンジョンの中には魔道具とか魔剣とか落ちてるらしいし、もしかしたらそういうのが見つかるかも? 行ってみる?」
「別に行ってもいいけど、見つからなかったら時間の無駄なのと、見つかったとしてもワイバーン製なんだよねー。見つかった魔剣はワイバーン製より優秀なのかな?」
「………一応、探してみよう? もしかしたらアイテムバッグがあるかもしれないし」
「まあ、それもそっか。急いでる訳でもないし、行ってみるのも悪くないね」
2人は東の砂浜へと出た後、少し戻って森の中を南に進んで行く。こういう時は斜めなどに移動しない方が良いのだ。そんな行動は迷う元である。
ミクが居るので迷う事はないのだが、それでもする必要の無い事をいちいちしたりはしない。そんな中、南の砂浜についた2人は西へと進んで行く。外周を回っている形だが、特に異常も感じない。
森の中では魔物が出てくるものの、あの大きな蛇と爪の鋭いモグラ以外は出てこないようだ。なので蛇を殺して毒袋を喰らい、それ以外のゴミは捨てている。ついでに要らない物も捨てているが、気にしなくてもいいだろう。
西へと着いたら北へ。北に到着したら、目印まで戻って東へ。徐々に内側を回っていき調べていくのだが、ある場所に辿り着いた時、魔力の塊を発見した。おそらくだが、何かしらの魔道具だろう。
そう思って進むと、階層の中心に開けた場所があり、その中心にある大きな木の根元にバッグが2つと剣が落ちていた。
「あれ……木じゃないよね? 枝が無いし葉っぱも無いし、そのうえ「ブンブン」音が鳴ってるし……!」
アレッサの言う通り、それは大きな木に見間違えるほど巨大な蜂の巣であった。蜂の大きさはオオスズメバチぐらいだが、いったい何万匹いるのかと思うくらいに巨大な巣である。そしてその周りには大量の花が咲き誇っていた。
花だけならば美しい光景なのだが、「ブンブン」五月蝿い羽音が全てを台無しにしてしまう。そんな光景にアレッサは口を引き攣らせているが、ミクの表情は全く変わらない。
「ちょっと行ってくるから、アイテムバッグとレティーをお願いね」
そう言ってアイテムバッグとレティーを置くと、ミクは肉塊に変貌して進む。蜂が一斉に「ガチガチ」と顎を鳴らすが、それが数万匹なのだがら、その音たるや爆音と言って差し支えなかった。
アレッサは耳を塞ぎ必死で耐えるが、ミクは何の痛痒も感じていないかの如く進んでいく。警戒を超えた蜂は一斉にミクに襲いかかるが、針を刺しても肉に埋まり喰い荒らされていくだけであった。
どれだけの蜂が己の身を賭して攻撃しようとも、肉塊は何の痛みも感じぬまま蜂を大量に貪っていく。その歩みはゆっくりと、しかし止まる事なく進み、最後には巨大な巣を丸ごと呑み込んでしまった。
「あー……何か怖ろしいわよねぇ。数は力なんだけど、それを超える圧倒的な暴力を見たわ。私達もあの羽虫と何ら変わらないのよねー」
『主に比べれば、どんな生き物もそうだと思いますよ? 誰だって等しく喰われるしかありませんし……』
「だよねー。……そろそろ行こうか、ミクも人間の姿に戻ったし」
レティーがアイテムバッグの上に乗り、そのアイテムバッグをアレッサが担ぐ。ミクは服を着つつ、要らない物を捨てていき、必要な物だけを残している。現在本体は必死になって選別中だ。
そしてそれとは別に、バッグ2つがアイテムバッグである事は分かった。しかし横にある剣は魔力を持たない普通の剣だ。よって魔剣ではないのだが、ミクはこの金属を見た事が無い。
「ミク、蜂の嵐は終わったみたいだけど、何かあった? 剣をジッと見てるけど。もしかして魔剣なの?」
「いや、これは魔剣じゃない。何故なら魔力が全く無いから。……でも、私はこの金属を知らない。つまり今までに私が触った事の無い金属…………そして、エクスダート鋼より間違いなく強い」
『エクスダート鋼より強いという事は、現状の一番強い金属より上という事ですよね? それは凄く画期的な事だと思うのですが……』
「画期的でも、これをどうやって作るの? 凄い金属なのは分かるけど、作り方が分からないとどうにもならないし、作れないなら魔剣以下だよ。しかもショートソードだから微妙だし……何か、コレを作ってみろ的に感じる」
「可能性としては十分にあると思う。そういう事を考える神を知ってるし、<星の神>にそういうのが居ても不思議じゃない。後、アイテムバッグは両方中型だから、一個はアレッサのね。もう一つはイリュに渡すから」
「りょ~かい!」
アレッサは自分のアイテムバッグが持てたのがちょっと嬉しいのか、ニヤニヤしながら重さを確かめている。アイテムバッグに入れた物の重さは感じないので、単なるバッグの重さでしかない。とはいえ嬉しい”重さ”なのだろう。
「………うん? それって、蜂の巣の残骸?」
「そう。別にこんなの要らないから、ロイヤルゼリーとハチミツだけ手に入れて、後は捨ててる。というかハチミツの量がビックリするレベルで多いから、本体が急遽トレントの木材で樽を量産中。それとワイバーンの骨製の甕も」
「どっちも贅沢だけど、ワイバーンの骨製の甕って贅沢すぎない? いや、ある物を使ってるんだろうけどさ、それにしたって……」
「仕方ない、今はそれしかないし。それより、はいコレ。味見したら思ってる以上に美味しかったよ」
ミクがアレッサに渡したのは、ビスケットのような大麦パンだ。その後で右腕を肉塊に変え、大きな甕を転送してきた。木製の蓋が付いているが、開けると琥珀色をした美しい液体が見える。
「おおーっ!! ハチミツ! だけど、匂いがしない?」
「それね、異様に濃いから気をつけた方がいいかも。ちょっとだけ付けて食べるか、口に入れて唾液で薄めてからパンを口に入れるといいよ」
「う、うん……分かった」
ミクが渡してきたスプーンで掬い、口に入れるアレッサ。特に味を感じないなと思っていると、凄まじい甘味と風味が口の中に広がり咽そうになる。
慌ててパンを口に入れて咀嚼するも、甘すぎる味に唾液が止まらず、それは甘味の洪水を引き起こす。唾液で薄まった甘味と風味はそれでも濃く、限界を超えたアレッサは吐き出してしまった。
「ゲホッ! ゴホッ! ゴッホ!! あ、あまーい!! 超甘いんだけど、このハチミツ!!」
「そうかな? ……なら水で少し薄めてから使った方が良いね。それなら甘さも風味もちょうど良いんじゃないかな」
「そうする。一度は食べてみないと分からないけど、ハチミツだけだと異常に甘かった。ここの花の蜜がそうなのかな? ……あー、自分の息が凄い花の香りになってる!」
味と香りが分からないレティーが会話に入れないが、味が分からなくて良かったと言えるだろう。甘さで悶絶する程なのだから。




