0011・迷宮の賊徒
森ダンジョン。そこは厄介な魔物も然る事ながら、厄介な賊も現れる場所である。ミクは2階のとある場所において罠を発見した。ブービートラップの、いわゆる振り子のようにして丸太が襲い掛かってくるトラップだ。
どんな微細な物ですら感知できるミクからすれば、張られた糸など目印として分かりやす過ぎる物でしかない。ただし、ここでミクは2択を迫られる。要するに罠に掛かるか、それとも掛からないかだ。
近くに4人程の気配があるのは既に分かっているので、敢えてミクは罠に掛かる事にした。思考を始めてからコンマ1秒も掛からず結論を出すミク。流石は肉塊というべきか、思考速度も異常だ。
足で糸を蹴っ飛ばし、振り子丸太の罠を作動させたミクは、トゲが沢山埋めこまれた<釘バット>のような丸太が直撃。……したように見せかけて手で防ぐと、後方へ跳んで地面に倒れ伏す。
当然ながら直撃などしておらず、「ドンッ!」という派手な音がしただけだ。しかしそんな事は考えてもいない男達は、美女が罠に掛かったと歓喜の表情で接近する。
「ハハハハハ! こりゃイイ女が引っ掛かったもんだぜ! ヤって良し、売って良しの女なんて早々いねえからなぁ!!」
「おいおい、まずは散々楽しんでからだろうが。売る事を考えんじゃねえよ、気がはえーだろ!!」
「そうだぜ! まずはこの女をヒイヒイ言わせて、たっぷり楽しんでからだ! それじゃあ、さっそギャァーーー!!!」
男がズボンを脱ぎ、汚い物を外に出した瞬間、ミクはソレをナイフで切り裂いた。激しく出血している男を無視し、素早く立ち上がりつつ右の男の喉をナイフで突き刺して捻る。
刺したナイフから手を放し、右と左の男の頭に掌から骨杭を射出して絶命させたミクは、最後に股間を切り落とした男を蹴り上げて尋問を開始。話を聞いていく。
「お前達はいったい何? 何故こんな所で罠を仕掛けていた? 事と次第によっては苦しまずに殺してやる。だから素直に吐け」
「ぐっ! てめぇなんぞに、ギィィィッ!!!」
ミクは切り落とした男の股間を踏みつけて、足を左右にグリグリ動かす。それだけで激痛が走るのだろう、男は痛みに悶絶している。ミクは男に【生活魔法】の【血止め】を使い、これ以上の出血を止めた。
「【血止め】を使ったから、これ以上の出血は無い。さて、話を聞かせてもらう。お前は何処の者?」
「何を言ってやがるのか、オレにはさっぱ、グギィィィ!!!」
「下らない事は口にするな。お前達のようなクズに、こんなトラップの知識がある訳が無い。誰に教えられた? お前達の裏にどんな組織がある?」
「ぐぅぅぅぅ!!! ……けっ、なに言ってるか分からねえなあ!!」
「了解した。お前には地獄が生温いと思う目に遭ってもらう。話せば苦しまずに済んだのに、憐れなヤツ」
「ハッ! てめぇなんぞ……に……」
ミクは目の前の男を肉塊で包み、生きたまま本体空間に送り込む。その後、全ての死体を肉塊で転送し、何事も無かったかのようにダンジョン攻略を再開するのだった。
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ここは本体空間。肉に包まれ転送された男は発狂寸前でギリギリ耐えていた。何が何だか分からず、意味不明で理解不能。頭が混乱している。それでも必死に心を繋ぎ止めていたが、そこに声が掛かる。
『さて、これからキサマには無限に等しい期間、拷問を受け続けてもらう。なに、心配するな。私は優しいからな、お前の心を壊したりはしない。もちろん拷問は永遠に続くがね?』
「あ、え? うっ、ま………さか」
『そうだ、お前の前に浮いている肉の塊。これこそが私だよ。あの美女の姿は私の末端でしかない。お前は何に喧嘩を売ったか理解したか? ならば始めよう、お前の地獄を』
「や、やめ、ギャァァァァァァァァ!!!!!」
本体空間に囚われた以上、逃げる術など無い。そして人間種が勝てるような相手ではないのだ。
この特別な本体空間は<根源の神>以外、出入りなど不可能。たとえ<星の神>であっても脱出できない牢獄である。
それこそが<根源の神>が作り出した、この空間が存在する理由なのだから。
そしてこの空間の真の目的は、”ミクを外に出さない”為なのだ。
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本体の拷問が続く間も、暢気に攻略を続ける分体。あれから幾つか罠と共に賊を殺している。最初の賊は気合が入っていたが、後は罠そのものもショボく、スネアトラップや撒き菱などの簡単な物しかなかった。
そしてそんな物に引っ掛かる訳もなく、撒き菱のような物が効く筈もなく、徹底的に拷問を受けた連中は簡単に情報を吐いた。
「ただの不良探索者や迷賊ばっかり。その割には最初の連中は気合いが入っていた。となると……あ、本体の拷問が終わった。………ああ、成る程。そういう事」
本体空間に連れて行かれた賊は全てを吐いた。ゴールダームの一部の貴族と結託している裏組織があり、そいつらがやっていたらしい。通りで情報を出さない筈だ。出せば殺されるなら、出す事はないだろう。
とはいえ、本体の前では何の意味も無い行為でしかない。本体は己に取り込みつつ生かし続ける事も可能なのだ。つまり永劫の地獄というのは唯の事実でしかない。
しかも心が壊れる事も無く、永遠の責め苦を受け続ける。それに耐えられる人間種などいない。どころか、<星の神>ですら耐えられるか分からない程である。人間種が口を噤むなど根本的に不可能なのだ。
ゴールダームの裏組織なのは分かったが、先ほどの奴等は末端なので殆ど分からなかった。なので今は何も出来ないなと思いつつ、それでも賊を潰し続けていれば、いずれ尻尾を出すだろう。
ミクはそのように楽観的に考えている。そもそも人間種がどれほど犠牲になろうと興味は無く、組織の構成員を潰し続けるという事は、ミクにとって肉をおかわりし続けることを意味しているのだ。
そんな素敵な事をミクがしない筈もなく。なので無理に調べたりはしないのだ。美味い食事は長く楽しまねば。ミクの考えなどそんなものである。
現在4階。未だに休む事なく歩き続けるミクであるが、気配を広く調べ、賊の居そうな場所へ移動している。このエリアでは無駄な移動が多い為、あまり進めていない。
別に食事も睡眠も必要ないので問題は無いのだが、既に昼は確実に過ぎている。
お腹も減っていないうえ、賊を食べているので気分の良いミクは、色々な寄り道を繰り返していた。そんな移動の最中に、女性の悲鳴が聞こえてくる。
何かと思って確認に行くと、そこでは女性がゴブリンに切り刻まれ、既に殺されたであろう男は腸を喰われていた。どうやら野生のものと同じく、腐りやすい腸から食べるらしい。
人間種からすれば吐き気のする光景ではあるが、ミクはそんな事を暢気に考えていた。そうしていると周りから探索者が集まったのか、気配がどんどん増えていく。
女性を救助しようと現れたのだろうが、ミクとしては関わりたくなかった。どうしたものかと考え、適当でいいかと結論付けたミクは、この場の流れに任せる事にする。
そうしているとミクの後ろから探索者が現れ、いきなり話し掛けてきた、もちろんミクは気付いていたが、それは悟らせない。
「ここで何をしているの?」
「襲われている声が聞こえたので来た。とはいえ数が多い。どうしたものかと迷ってたら、女性の悲鳴が途絶えた」
「成る程。確かにゴブリンは20体以上、1人ではどうにもならないわね」
そう言ってミクから離れた人物は、納得したように頷く。目元以外を布で覆っている、ミクよりも怪しげな人物ではあるが、声は女性の声であった。




