0139・侯爵家の依頼
翌日。朝日と共に起き上がったミクは準備を始めるものの、その音でアレッサが起きたようだ。ミクはアレッサに挨拶し、すぐに【浄滅】を使って綺麗にする。これ以上に綺麗にする魔法は無いので使ったのだが……。
「綺麗にするなら【清潔】や【聖潔】で良いと思うんだけどね。面倒臭がって【浄滅】を使うのって、間違いなくミクだけだよ? 膨大な魔力があるから何の問題も無いんだろうけどさー」
「無いねー。最高ランクの魔法は儀式魔法で、普通の魔法使い20人分くらい魔力が必要なのは知ってるけど、そもそも私の本体の魔力は魔法使い100万人分くらいだから……ま、余裕だね」
「………ひ、ひゃくまん………。<ノーライフキング>が下っ端すぎる。あいつもおかしな魔力量してたけど、やっぱり最強の怪物は桁が違いすぎて意味不明」
「あの骨に対しては魔法が不発になる程度しか魔力を喰ってないよ? だから何度も使おうとしたわけ。それでも多い方なんだろうけど、私にとってはどうでもいい程度の量かな」
「そりゃそうでしょうよ。水溜りと大河くらい違うじゃないの。人間種なんてコップぐらいなんだろうし、語るだけ無駄って感じね」
「そうかな? 中には魔力量を結構増やしてる人間種も居ると思うけどね。種族によって違うけど、伸ばせば思っている以上に伸びる種族もいるし、なかなか侮れないんだけどなぁ」
「そうなんだ。まあ、魔法使いになるヤツって少ないし、それなら自分が伸びるって知らないのも仕方ないんじゃない? 戦闘が上手くなる方が大事だし、軍だって基礎訓練ばっかりでしょ」
用意の終わった2人は食堂に行き大銅貨6枚を支払って注文。適当な椅子に座り話を再開する。
「軍の話はともかく、探索者も近接戦闘をする奴の方が多いね? 両方鍛えれば良いのに、何で片方に寄るのかな。どっちも出来て損は無いと思うけど」
「魔法を使うのって下手な間は神経使うし、大雑把な奴には合わないわよ? 特に制御するって事は我慢するって事でもあるしね。武器を叩きつけたがる連中は特に我慢なんて出来ないでしょ」
「我慢が足りないっていうより、正しくは楽な事しかしたくないって感じね。魔法の訓練って疲れるし、同じ疲れるなら戦闘訓練の方が良いんでしょ。魔法の訓練って地味だし精神的に疲れるから、余計にしたくないんだと思う」
「そうね。魔法の訓練って思ってるより面倒よ。私だって初めての頃は苦労したもの。小さな水が出ただけで大喜びしてた頃が懐かしいわ。そういう事で魔法にハマる人も多いって聞くし、最初が大事なのかしら」
「だろうね。最初の達成感が忘れられず、好きになって行くヤツっていうのは、それなりに居るよ。軍でも上手くなる奴は大抵それさ」
「おはよう、シャル。今日は朝早いね」
「昨日、連れて行くから明日早起きしろって言われてね。何故かあたしまで駆り出されるみたいだよ。そんなに厄介な依頼じゃないと思うんだけど?」
「貴女の紹介もするからに決まってるでしょうが。向こうが信じるかは知らないけど、一応の面通しよ。ミクも同席だから、余計な手を出して来たら喰われるだけ。私が許可を出すわ」
「それならいいかね? それより祖国の方はどうなったか分かるかい?」
「昨日手紙が届いていたけど、相当の混乱をしてるわね。特にスヴェストラ将軍が”暗殺された”という事に対して、相当厳しい目が王と宰相に向けられてるわ。それと宰相は屋敷に篭もったっきり出てこないそうよ」
「あの宰相がかい? ……また何か企んでるのかねえ」
「どうも息子が居なくなってから錯乱したように狂ってるらしいの。親族が無理矢理に閉じ込めてるんじゃないかって。まともな精神状態ではなくなっていて、とても政が出来るような状態じゃないみたいよ?」
「………そういえばミクが喰ってたんだったね、それだけ期待をしていた息子だった訳だ。正直に言えば、ざまぁみろって気持ちはするよ。御愁傷様だけど、自業自得でしかない。そうそう世の中は都合よく行かないもんさ」
「ごちそうさま。そろそろ食べて準備した方が良いんじゃないの? ダラダラしてたら五月蝿く言ってこない? 食べ終わってるの、わたしとミクだけだよ?」
慌てて3人は食べ始め、終わらせてすぐに準備をして出発。ダラダラしていたのは何だったのかというくらいの早業であった。
5人は南東区画のとある店に行き挨拶。すぐに馬車に乗り込み、外から木箱を受け取って中に積む。その木箱を壁にして、ミク達は外から見えないように侯爵家の敷地へ。
裏口に着いた馬車からミク達は降り、木箱を運ぶフリをしながら裏口から中へ。すぐに家令がイリュの前に来て挨拶。そのままオルハウル侯爵の待つ大広間へと案内される。
「おお! イリュディナ殿、今日はよく来てくれた。感謝いたす。して……その子供が?」
「ええ。【悪意感知】に【罪業看破】、そして【真偽判定】のトリプルよ。アレッサ、まずはこの大広間に居る使用人の中に犯罪者がいるか調べて頂戴。【真偽判定】はその後よ」
「ういうい、了解。……とりあえず、コイツ。……次はコイツ。………あらら、このお姉さんもアウトだねー。………はいはい、睨まない睨まない。こいつもアウト」
「それなりに犯罪者が居るね。お金をちょろまかしてたのか、それとも後ろ暗い事をしてたのか知らないけど、定期的に貴族家は中を調べた方が良いんじゃないかな?」
「それはそうかも。<白の壁面>にも【罪業看破】と出てた以上、アレッサが犯罪者だと言った者は確定で犯罪者だし、【罪業看破】を騙す事は出来ないんでしょ?」
「無理だね。アレッサにも言ったけど、あれ神の権能を利用してるスキルなんだよ。神が絡んでる以上、絶対に間違わないスキルなの。あれを疑う事は、神を疑う事に等しい」
「うわぁ……そんなスキルだったの? 神様の権能が絡んでるって、怖ろしい事を聞いたわね。もしかしてレアスキルの中にはそういう物もあるのかしら?」
「少なくとも【罪業看破】がそうだった以上は他にもあるだろうね。今のところは一つだけど、流石に一つって事は無いよ。どれだけあるのかは知らないけどさ」
「これとこれ。………後はこいつとー………この兵士。これで終わりね。まさか全部で26人も居るとは思わなかった」
「私もそうよ。思っている以上に貴族家の中って犯罪者が多いのねー。問題は【罪業看破】じゃ罪の軽重が分からない事よ。罪の有無は分かっても、重大な犯罪なのか、お釣りをちょろまかした程度なのか。それによって変わるわ」
「まあ、そうだの。ワシも釣りをちょろまかした程度で目くじらは立てんよ。全額返させるが解雇まではいかんの。問題は重い犯罪を犯していた場合だが……」
「それに関しては侯爵家の指針として決めるしかないでしょうね。人によって罪の軽重を変えてはいけないわ。それは怨みと憎しみの元にしかならない」
「うむ、分かっとるよ。流石にそこを間違えたりはせんさ」
「ミクー、魔水に浸してある紙を頂戴」
「ああ、これね。誰から使うか知らないけど、あんまり予備が無いから気をつけて使ってね」
「分かってる、分かってる。じゃあ、順番にやっていこうか。近い人から順ね」
そう言って始まる【真偽判定】。何故か光の加減が一定ではなく、正解に近付くほどに強く光ったり、正しくもあり間違っていると紫に光るなど、訳の分からない現象が起きた。
「どうなってるの、この【真偽判定】用の紙。ミクが何かしてる?」
「作るのにワイバーンの魔石を使ったからかな? 普通のと違う反応が出てるのは。でも分かりやすいし、より細かく分かるようになったんだから良いじゃない」
「「「!?」」」
分かりやすくなった事よりも、ワイバーンの魔石に驚く侯爵と嫡男と家令。実は嫡男も挨拶していたのだが、ミクは興味なしとしてスルーしていた。
興味が無ければ名前を聞き流してしまう肉塊。とことんまでに自分本位である。




