0138・明日に向けて
<妖精の洞>に戻った面々は、食堂に行き料理を注文する。面倒なのでミクが代表して小銀貨2枚を渡し、後は好きに注文する形にした。元々そこまで高い食べ物も無いので、皆が好きに選んでも小銀貨2枚で収まる。
「それにしても、あの透明トカゲは厄介だったわね。ミクがあの方法を思いついてくれなかったら、あれらが一斉に襲ってきてたかもしれないんでしょ? あの巨人族のバッズが尻餅をつくぐらいだもの、相当の威力だった筈よ」
「受けてないから何とも言えないけど、受けたくはないねえ。それぐらいの威力だよ。そもそも巨人族の男性が盾を構えてるのに耐え切れないっていうのは、相当ヤバい威力って事だからさ」
「武器の代金の小金貨2枚よ。透明なトカゲだというのは聞いてたけど、そんなボスだったの? 大変だったわね。それで、第6エリアはどんな場所だった?」
「誰も行ってないよ。流石に初見の場所に行くのは危険すぎるから、ミクが行ってからにしたのさ。初めてっていうのは名誉かもしれないけど、流石に第6エリアとなるとねえ……」
「場合によっては危険度が跳ね上がってる可能性すらあるの。それを考えると……流石に二の足を踏むわ。ここはどんな事があっても生存できるミクに様子を見てもらうのが一番。その後、私達が行くかどうかね」
「へー……私もダンジョンに行こうかしら? 本来の姿なら同じだと思われないでしょうし、娼館で預かってる子をこっちに回してもらえば済むでしょ。最近それもする予定だったから」
「娼館で預かってる子?」
「売られたり、捨てられてる子よ。うちの娼館で下働きさせてるの。タダで食べ物をあげるのは良い事じゃないからね。どんな小さな事でもいい、働かせる事に意味があるのよ」
「ああ、そういう事かい。だけどここはゴールダームだろ? 孤児院の子供も普通に食べていける国だろうに、それでも捨てられるのか……」
「子供を捨てるヤツなんて何処にでも居るわよ。私達も孤児院に連れて行ったりしてるけど、それでも限度があるしね。ダンジョンで働いている子もいれば、店で働いてる子もいるの。でも全員に働きどころがある訳じゃない」
「それで娼館で世話してるっていうか、下働きさせてる子もいる訳だ」
「そう。それなりに優秀な探索者の中には、娼館で働いてた子も居るわよ。戻ってくる子も居るのが何とも言えないけどね。それでもそこまで多くはないかな? ダンジョンに呑まれる子が一番多いから」
「ダンジョン国家の宿命だろうね。それが一番ある仕事だし、一番危険でもある。商人だって盗賊に襲われる危険はあるけど、ダンジョンはその比じゃないからね。それでも仕事としてはあり続ける」
「そう。スラムの者でも出来る、絶対に無くならない仕事。それが探索者」
「実力が無ければ消えていくでしょうけど、それに関しては仕方ないとしか言えないしね。わたし達が関与するべき事じゃないし、それもまたゴールダームでしょ?」
「そうね。古くから変わらない事よ。ダンジョンに呑み込まれるなんて、当たり前すぎる日常。それはともかく、そういう子に宿の方の仕事も任せようと思ってたから、私もそろそろカウンターから離れる事にしたのよ」
「本音は? イリュディナが急に動くっておかしいわ。絶対に何か理由がある筈」
「戦えなかったのがストレスになってるのか、無性に戦いたくて仕方ないのよ。気合いを入れて襲いに行ったらアレだったでしょう? 私の中で色々納得できないのが渦巻いてる感じ? それが治まってくれないのよね」
「武器はどうするの? 欲しいなら一式作ってもいいよ。ワイバーン素材は余ってるから持て余してるし、お金は特に要らないかな。代わりに喰える奴の情報でお願い」
「ブレないわねえ。まあ、子供達に仕事を教えたりとかしなきゃいけないから、今のところはストレス発散程度に暴れるくらいだけど……情報は渡すから、装備一式お願いね」
「了解。それはいいけど、明日はどうするの? 運搬の仕事がどうとか言ってたけど……」
「私達も一緒に行く事になったから、南東のとある商店に裏から入る事になるわ。で、向こうの従業員と一緒に行くの。私達は馬車の中よ、目立つから」
「で、馬車の中の物を運び入れるフリをして侯爵邸に入り、後は使用人なんかが集められてる場所に行って、一人ずつよ」
「今回の仕事はアレッサありきだから、しっかりしてもらわないといけないわ。【罪業看破】から【真偽判定】まで大変だけど頑張ってちょうだい」
「私も【真偽判定】できるけど? あれは神の権能が関わってないから私も出来るよ。ただし<白の壁面>に出ないから証明出来ないけど」
「………スキル無しに【真偽判定】って出来るの?」
「出来るよ。ようするに【真偽判定】というスキルがやってる事を、全部自分でやればいいだけだからね。そこまで難しいものじゃないよ」
「うん。難しい訳じゃないんでしょうねー、ミクにとっては。他の誰にも出来ないけど……」
「流石に証明出来ないのは駄目ね。私達は出来るって知ってるけど、向こうが信じるかどうかは別だから無理。【真偽判定】の結果が信用できるかどうかだからね」
「分かった。とにかく明日は大変だろうけど頑張れ」
「もしかして大変なのってわたしだけ? ……勘弁してよー」
「仕方ないでしょう。真偽官なんて使うとバレちゃうんだから、裏に居る連中に見つかるでしょうに。だからこそ、明日はコソコソと侯爵邸に入らなきゃいけないのよ」
「ちぇー」
「ま、諦めよう。裏にいる奴は私が食べて良いのかは知らないけど、駄目なら適当に<隷属の紋章>を刻んでくるからさ」
「嘘を吐けないように? ……本当に容赦ないわねえ。何処に紋章を刻むのか知らないけど、目立つ所にするとバレるかもしれないから気をつけてよ?」
「そもそも小さな蜘蛛になって、更に小さく刻むから大丈夫だよ。縛るものが1つや2つなら、大きな紋章を刻む必要はないしね」
「<隷属の紋章>って縛り付けるものが増えると、紋章も大きく刻まなきゃいけないの?」
「そうだよ。そもそも自分の血肉で刻まなきゃいけないうえに、それをしながら呪いも篭めなきゃいけないから、人間種が簡単に使えるものじゃないの。だから廃れたんだろうね」
「本物の呪いだからって事もあるでしょう。自分の血肉を使って呪いを操作して篭めて、そのうえ紋章を刻み込む。それだけの事をしなければいけないし、失敗したら自分に呪いが返ってくる。普通は怖くて出来ないわよ、そんな事」
「………」
「どうもお腹いっぱいになって眠たくなったみたいだね。体の年齢に色々引き摺られてるのかな? 不老だからこのまま固定だけど、結構大変かも」
「普通の12歳って感じね。大人しい子は大人しいけど、暴れる子は暴れる年齢だから、こんなものかしら?」
「そうなのかな? ま、部屋に運ぶよ」
ミクはアレッサを抱き上げて部屋へと戻る。昨日と同じように綺麗にした後でベッドに寝かせ、その後は自分も寝転がった。
明日はオルハウル侯爵家に行って調査する仕事だが、殆どの事はアレッサ任せになるだろう。ミクが出来るのは騒ぐ輩を黙らせる事か、逃げ出そうとする者を見つけ出すくらいだ。
それが終われば第6エリアの攻略に乗り出す事になる。明日の依頼がいつ終わるかによって変わってくるが、それでも長い時間は掛からないだろう。
隣から寝息が聞こえてきたので考えるのを止め、後は本体空間で物作りをしながら暇を潰すミクであった。




