0136・原因判明
再びタワーシールドに麻痺毒を塗り、近くの透明トカゲに近づいていく。「ドンッ!」という音と共に尻餅をついたがそれだけで、透明トカゲが痺れて落ちてきた。やはりこの戦い方が一番安定するようである。
周りのメンバーも落ち着いており、このまま推移するかと思われた。そんな中、厄介なのを見つけてしまう。
「あそこ2匹が固まってる。あれは暴れるかもしれない。まずは1匹ずつで居るヤツから倒していこう」
「それが良いね。1匹ずつのヤツは他のヤツらを暴れさせる事なく減らせるんだし、出来るだけ敵の頭数を安全に減らしておきたい。最悪、暴れ始めても数が少なければ危険は減るし」
「さっきからジッと考え込んでるけど、どうしたの、ミク?」
「いや、透明トカゲが反応できない速さで首を切り落としたのに、何故か他の透明トカゲが暴れたんだよねー。だから声じゃない可能性が高いなって思ってさ。臭いなんじゃないかと思うの」
「でも血の臭いはしてるけど、他の連中は暴れてないよ? だったら臭いじゃないんじゃない?」
「いや、生き物の中には、フェロモンっていう特殊な臭いを出す者もいるらしいの。当然中には危険を知らせるフェロモンっていうのもあったなーと思い出してね。そして、麻痺してるからそのフェロモンが出せないんじゃないかと思ったのよ」
「でも魔物が反応出来ない速度で殺したんでしょ? だったらそのフェロモンとやらを出せない筈よ? だって反応出来ないんだし」
「死んだら自動で出る臭いだったら? それを麻痺が止めてるとしたら? 私はその可能性があると思ってる。血の中には含まれていない何かが、危険を仲間に知らせる臭いなんだと思う。それが何なのかは分からないけど……」
「もう一度、反応できない速さで殺せば分かるわね。並んだ2匹ともう1匹を残して全滅させてからにしましょうか。どのみち動き回る奴等と戦わなきゃならないし」
そう決まり、1匹1匹丁寧に麻痺させながら始末していく。素早く血抜きさせているものの、特にボスが暴れ出すという事もない。レティーとドンナは血が沢山飲めてご機嫌だし、<竜の牙>と<鮮烈の色>のブラッドスライムも元気に動いている。
残り3匹となったところで、ミクが槍を取り出して構える。そして遠くから真っ直ぐ投げ、敵の頭部だけでなく、木まで貫通して飛んでいった。
そのまま透明トカゲは落ちて死ぬも、少しした後で一斉に動き出した残りの2匹。
「やっぱり麻痺していない死体に何かがあるらしいわね。敵が動き始めたわ! 気をつけて!!」
「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」
残った2匹が動き出したが、ミクは槍を回収した後で透明トカゲの死体に近付くと、今まで嗅いだ事の無い僅かな香りを感知した。
酸っぱいような、それでいて柔らかい臭い。それが僅かながらしてくる事を理解したミクは、ようやく透明トカゲが何で危険を伝えているのかを理解した。そしてそれが、透明トカゲの体の中から漂っている事も。
皆が戦っている間、ミクは大型ナイフを使いつつ解体する。売れもしなかったので、体の中がどうなっているかは調べていない。死体は血を乾涸びるまでレティーが吸い取った後、第2エリアで適当に燃やしたからだ。
ミクが透明トカゲの体を切り裂きつつ体の中を詳しく調べていくと、食道に繋がる管があった。胃と喉の間くらいにあり、その管は小さな臓器に繋がっている。そしてその中から酸っぱい臭いがしたのだ。
これがあの臭いの元かと思うも、原液は鼻を刺すような臭いであり柔らかさは欠片もなかった。もしかしたら胃液か何かと混ざったのだろうか? 魔物だから妙な能力を持っていても不思議ではないので判断に困るミク。
しかし、少なくとも食道に繋がっている部分には弁のような物があるのが確認できている。おそらく何かあった時か、それとも死亡した時にこの弁が開くのだろう。
ミクはそこまで考えた後、他の死体の下に走った。そして再び大型ナイフで切り裂くと、食道から繋がっている管を発見。そしてそれが閉じているままだという事も分かった。これが答えだろうと確信を持つ。
ミクは既に解剖した死体を持ち全員の下に戻ると、既に戦闘は終わっており休憩していた。
「急に居なくなったと思ったら、いったい何処に行ってたの? 2匹程度はミクが居なくても勝てるけどさー」
「ごめん、ごめん。ちょっと気になった事があって調べてたんだよ。どうやって危険を伝えてるんだろうってね。そしてようやく発見した」
「この中途半端に解体されてるのが関係してるのかい? 何か変なのを抜き出してあるけど」
「そう。その食道に繋がってる管、その先にある臓器の中の液体が答え。その臭いに気付いた私は解体して調べたのよ。そしたら死体から漏れてる臭いの元はそれだと分かってね、それで麻痺させて殺したヤツも調べに行ってたの」
「麻痺させたヤツって、今持っている死体か?」
「そう。で………ここ! 食道に繋がる部分には弁があるのが分かるでしょ。これ、おそらくだけど普段は閉じてるんだと思う。で、危険を察知した時か死んだ時に外れて仲間に危険を知らせてる」
「はー……成る程ねえ。それにしても、凄い酸っぱい臭いでキツいんだけど」
「そう。空気中に出ると薄まった所為なのか、柔らかい臭いになって感じ難くなる。気にも留めてなかったから気付かなかった程だよ。さっきフェロモンの話をして、ようやく気付いたくらい」
「いや、気付くだけで十分凄いと思うよ。普通こんなの気付かないっしょ?」
「それもあるけど、ミクだと調べなくても余裕で皆殺しに出来るから、そもそも考える必要も無いのよね。コレだって後続の為にやってるだけだし、私やミクだけなら必要ない事よ?」
「何でも出来る最強の怪物には障害なんて何も無いだろうからね。調べる意味も無ければ、真っ正面からブチ殺せば良いだけさ。でも凡人はそうはいかないんだよ」
「あんたは凡人じゃないでしょうが」
「「「「「「「「「(うんうん)」」」」」」」」」
その凡人ではないと言っているカルティクでさえ凡人ではないのだが……。それはさておき、ボスの死体を一匹アイテムバッグに収納したミクは、皆に声を掛けて外に出る。
昼は過ぎているものの、まだ夕方には程遠い時間。ダンジョンから脱出した一行はゆっくりと歩きながら探索者ギルドへと進む。
中に入った一行は受付嬢にギルドマスターに話がある事を伝え、全員で連れ立って進む。中に入ってラーディオンと少し話し、解体所へと全員が移動する。そう、ギルド内の野次馬もだ。
解体所についた一行は、ミクがアイテムバッグから取り出した透明トカゲを解体し、食道に繋がる臓器の説明をする。
「つまりここから漏れたくっせえのが、辺りに漂って他のヤツが動き出すって寸法か。それにしても盾に麻痺毒塗って戦うっつうのも凄いな。2度目だからだろうが、スゲー発想してるぜ、本当によう」
「そうだな、流石に驚くしかない。解体師として長いが、こんな臓器を持つ奴は何度か見た事がある。あれは仲間に危険を知らせる物だったのか。いつも不思議に思っとったが、動いとるところを知らんので分からんかったのだ」
「ワシなんて動くところを知ってても、体の中の物の事など知らんがな。まあ、第5エリアのボスは盾に麻痺毒塗って戦えばいいってこった。それが分かっただけでも良かったと言うしかないな」
「しかしな、やっておる事が毒殺に近いのはどうなのだ?」
「そんな事を言い出したらキリがねえし、今でも毒を持ち歩いてる奴は居る。いちいち捕まえてたら際限がねえ」
それはそうだが……と思うウィルドンだが、それ以上は何も言わなかった。ラーディオンが何もしていない訳ではない事を知っているからだ。




