1104・今後について
Side:ミク
とりあえずウェルトゥーザのバカどもは帰したから、これ以上すぐには手を出して来ないだろう。まだ王都に少数が残っているかもしれないけど、少なくとも主要な連中は居なくなってる。下っ端じゃ何も出来ないだろうから放っておいていい。
どうせ大した事なんて出来やしないし、下っ端の連中なんて殺したところで影響なんて殆ど出ない。それに下っ端の事では戦争に繋げるには弱い。戦争といってもウェルトゥーザ一国じゃないからなんだけど。
「そうですね。人間種側もウェルトゥーザ一国では攻めては来ません。最低でも二国、ないしは三国以上の軍で攻めてきます。それでも我が国は簡単には負けませんし、今までも追い返してきています」
「でも村人が奴隷にされたりしてるのよね? という事は押し込まれているって事じゃないの?」
「押し込まれてはいません。ただ、奴隷として連れ去るのは常に別働隊なのです。攻めて来た相手とは戦いますが、その間に別働隊が我が国に侵入し、その者どもが我が国の民に奴隷の首輪を着けて攫って行くのですよ」
「成る程。それで常に民を奪われているわけか……。となると戦争に勝つだけじゃ根本的な解決にはならないね? 別働隊を指揮している奴等と、それをやらせている奴等を叩くしかないか。それには攻めてきてくれないと困るねえ」
「実際に別働隊の連中を捕まえない事には、何処に繋がってるか分からないものね。おそらくはウェルトゥーザという国の何処かなんでしょうけど、それが何処なのかは私達には分からないし」
「魔族の方も同じならば、そちらも調べなければいけませんね。もしかしたら両方が繋がっている可能性もありますし、そうなると両者を繋いでいる組織なりがあるかもしれません。何にしても、私達が迎え撃つのが先でしょう」
「そうだね。まずは迎え撃って相手の反応を確かめるしかない。毎回やられっぱなしっていうのも納得できないだろうし、そろそろこっちから反撃しても良いんじゃないかと思うよ?」
外なのであまり大きな声では喋れないけど、それでも話しながら食堂へと歩いて進む。特に誰かが聞いている訳でもないし、仮に聞こえてたとしても意味は無いだろう。私達は何らかの機密を話している訳じゃないからね。
「しっかし、ウェルトゥーザの奴等が居なくなったのは良いとして、ディビルトとかいう国の奴等も来そうだし、そいつらが来たらどうするんだい?」
「どうするって聞かれても、相手次第じゃないかな? どう出てくるかによって、こっちのやる事も変わってくるからさ。ああ、シャルは大将軍に昨日ファーダがした事を伝えておいてくれる? 一応情報は共有しておく必要があるから」
「それはいいけど、拍手喝采をするか呆れて溜息を吐くかだね。おそらく怒りはしないと思うよ。そもそもミクがやったっていう証拠が無いし、一晩でウェルトゥーザに戻る方法が向こうには不明だろう。それこそ転移する魔法でもなきゃ無理さ」
「この星にはあるらしいけど、それを竜人国は持ってないのよね。仮にもしミクが持っていると仮定したとしても、どうやって王城に入ったのかが分からないでしょ。そのうえ<輝剣>という奴に気付かれずに拉致した方法も不明よ?」
私達は食堂に入って注文し、お金を支払ったら席に着く。今は朝なので客が多いが、その客が何かを話している事も多いので店の中は五月蝿い。私達の声など聞き取り難いし、誰かが聞いていたとしても問題は無い。
仮に聞かれていても証拠の無い戯言を話しているだけだし、竜人国に何かを行う訳でもない。そういう内容だし、実際に私達がこの国に何かをする事は無いからね。今のところは。
「特に<輝剣>という者が分かっていないという事が大きいでしょうね。あの者は<アーククラス>ですし、それが気付く事もなく好き勝手にされたというのは衝撃でしょう。たとえ移動させられただけでも」
「実際には移動だけじゃなくて、死体塗れなうえに腐敗してますけどね。ボクとしては殴られたりするより酷いと思います。もちろんワザとやったんでしょうけど……」
「だろうね。起きたというか気付いたら悪夢だろうと思うよ。そもそも臭い臭いが取れないだろうし、こびり付いているだろうからさ。今後一生、臭いヤツとして過ごすしかないかも」
「そうなったらミクに物凄い恨みと憎しみを持ちそうね? ミクの場合は来たら喰うだけでしょうけど。………いや、その前に綺麗にしてからかな?」
「そうだね。本当に来たら喰う前に綺麗にするかな? その前に殺してからだけど」
料理が運ばれてきたので食べつつ、今後の事を話し合う。魔族の国の連中が来た場合にどうするかって事と、そいつらも同じ目に遭わせるかって事だ。
「魔族の連中も同じ目に遭わせて問題ないと思うんだけどね? 仮にこっちに喧嘩を売って来なくても、シレっとやってしまえばいいわけでさ。どのみち魔族が散々やってきた事で、私達が動く理由にはなるじゃない?」
「そうだね。ついでに大将軍に許可でも取っときゃ問題ないだろうさ。王の許可なんて取りに行くのは面倒だから、大将軍の許可だけでいいだろう。どのみちこっちが何かやったなんていう証拠は出てこないんだ。のらりくらりとかわせばいい」
「外交で詰め寄られても、証拠が無きゃ言い掛かりにしかならないしね。わたし達っていうか、ミクがやった証拠は永遠に出てこないわよ。むしろ出てくる事の方があり得ないんだし、仮に出してきたら捏造確定でしょ?」
「まあね。そもそもガイアですら私が動いた証拠は出せないんだから無理に決まってる。指紋も無ければ、体の何かが落ちる事も無い。そもそも私はそういう存在だから、人間種なんかと違って垢が落ちるなんて事も、皮がめくれるなんて事も無い」
「汗すら掻かないものねえ。どれだけ調べても見つかる筈が無いし、それなら調べたところで何も出ないのは当たり前だもの、お疲れ様って感じ」
「科学捜査が何の役にも立たないの? 呆れる程の怪物っぷりね。まさかそこまでだとは思ってなかった」
「監視カメラはちょっと面倒だけどね。透明化は可能だから映らないけど、何かが動いてるような怪しさは残るんだよ。それを解析されるとバレる可能性は否定できない。ただし毎回姿を変えれば済むけどね。次は蜘蛛とか」
「そういえば毎回ムカデの姿だったんだわね。壁を登ったりするのに都合が良いからだった筈だけど、それだと見つかる可能性がある訳ね」
「そうそう。とはいえ、そう簡単には見つからないとは思うけど、技術が高度になればなる程にバレる可能性は上がるね。今のところは問題無いけどさ」
「そうね。今のところは問題ないんだし、そこは考えなくていいでしょ。それより魔族の国の連中が来るかどうかは分からないけど、来たら問題行動を起こしそうよ。確認だけど、どうする?」
「放っておく。問題行動を起こす、またはこっちに喧嘩を売ってきたら、ウェルトゥーザと同じ目に遭わせる。シャルは大将軍に報告と確認。ってトコかな」
「了解」
「その方針で完全に決定ね。まあ、私達としても戦争が起こってもらわないと困るし、先回りして戦争を潰せとは言われてないのよ。神様も被害を減らせと言ってるだけらしいし」
「地上の揉め事は地上の者で何とかしろという事なのですが、それにしても竜人国に厳しい気はしないでもないですね」
「種として強いから……って事は無いか」
何か理由があるのか、何も理由は無いのか。それとも厳しく見えるだけか。ま、どうでもいいや。




