1101・愚か者とアーククラス
Side:???(輝剣)
「子供を連れた探索者の女ですか………。その女がいったいどうしたのでしょう? そこまでして殺さなければいけない者なのですかな? もし少しでも、そうではないという部分があるのならば、止めておいた方がよいでしょう」
「私が言っているのだから、さっさと殺してこい!!!」
「止めておけ。アレに手を出して皆殺しにされても私は知らんぞ。言っておくが、アレらに手を出した場合、私はお前達を見捨てて国に帰らせてもらうからな? それだけは覚えておけよ」
「「「「「なっ!?」」」」」
「何を驚いている? 知らぬ外務卿が驚くのは分かるが、何故知っている王太子が驚くのだ? 私は言った筈だぞ、手を抜いてなどいないとな。スキルを使っていなかったとはいえ、少なくとも全力であった事は間違い無い」
「全力……ですかな?」
「そうだ。少なくとも私が全力で剣を抜き、その剣を指で摘んで止めた化け物がその女だ。ほぼ間違いなくアレは<アーククラス>だ。そうでなければ全力で抜き放った剣を、指で摘んで止めるなど不可能なのだよ。お前達に出来るとでも言うのか? もし言うのならば剣を抜いてやるからやってみせろ」
「「「「「………」」」」」
「最初は王太子に対して生意気な口をきく別の女だったのだがな。その女がやったのだろう、気配も空気の揺らぎも無いままに騎士四人は首を落とされた。<アーククラス>である私でさえ反応出来なかった程だ。つまり、あの女の隣に居た女も<アーククラス>で間違い無い」
「ちょっとお待ちを、それではこの国には現在<アーククラス>が三人居ると? 少なくとも<アーククラス>なのだとしたら、何処の国でも取り合いになりますぞ! その<アーククラス>に対して、まさか……!」
「そうだ、そこの王太子は喧嘩を売ったという事になる。そもそも先ほど言っていた【浄化】のスキルを持つ少女、その少女を連れていたのが<アーククラス>と思われる女達だ。つまり、こちらから手を出すと確実に敵に回す訳だな」
「それでは余計に手など出せませぬ。ここで間違いなく我らは殺されてしまいますぞ! ここは竜人国だから人間は見捨てられる? それは我らに対して向けられる言葉でしょう! 竜人どもは我らをこそ、殺したくて仕方がないのですからな!!」
「グ……だ、だからこそ今の内に殺しておかねばならんのだろうが!! だいたい竜人どもに手を貸すなど、人間としての裏切り者ではないか! そんな者はここで殺しておくべきであろう!!」
「私は動かんぞ。相手も<アーククラス>、そのうえ二人居るとなれば勝ち目が無い。しかもお前達のような足手纏いが居るままでは、尚の事勝てん。大人しくしておくか、それでも王太子が動くようなら逃げた方が良いぞ。第二王子が居るしな」
「何だと!? 貴様ーーーーーッ!!!」
激昂して殴り掛かってきたので、かわして殴りつけてやる。その一撃で少し飛んだが、殴られた後は呆然としているな。まさか自分が殴られるとは思っていなかったのだろう事が簡単に分かる。コイツは色々な意味で駄目だ。話にならんし、王も見捨てるだろう。
「き、貴様……私を殴ったな。陛下にさえ殴られた事など無いというのに!!!」
「お前が愚かだからだ。相手に殴り掛かる以上、自分が殴られるなど当たり前の事だろうが。一方的に相手を殴る事が出来るなどあり得ん。そんな事も知らんのか? それと、お前は勘違いし過ぎだ。私は歴代の王の守護者であって、代わりが幾らでも居る者の守護者ではない」
「なに!?」
「当たり前だろうが。ウェルトゥーザにおいて、王と私以外の代わりなど幾らでも居る。王太子の代わりとて居るだろうが。お前はいったい何を勘違いしているのだ? 王太子だから何でも叶うと本気で思っているのか? しょせん代わりなど幾らでも居るというのに……」
「お、おのれ……ここまで侮辱されたのは初めてだ!! 国に帰ったら覚えておけよ!!!」
「構わんぞ。鬱陶しくなったら別の国に行くだけだ。そうしたらウェルトゥーザは確実に竜人国に攻められるだろう。この国の<アーククラス>である王が許す筈など無いからな。好きにするがいい」
「「「「「………」」」」」
馬鹿なヤツだ。そもそも私はウェルトゥーザが高い金を出しているから雇われているに過ぎん。にも関わらず、いったい何を勘違いしているのやら。あくまでも私は雇われでしかない。それはつまり、いつでも離れられるという事だぞ。
更に言えば私は<アーククラス>だ。私を雇いたい国など幾らでもあるうえに、狩人や探索者となっても幾らでも稼げる。こいつらは私の力を自分達のものだとでも思っているのか? 下らん。
「勝手に私の力を自分のものとでも思っていたのかは知らんが、金払いが良いからウェルトゥーザに居るだけだ。あの王にもそう言っているし王は理解しているのだが、お前達は何も分かっていないようだな。愚かな……」
「グ、ググググググググ………!!」
「怒りを必死に堪えているところ悪いが、私が居なくなったら後は<レッドカウント>しか居ないな。とはいえ、あの男は少し前から帰って来ていないが」
「それはどういう事で?」
「<レッドカウント>は、どうやってかは知らんが逃げ出したらしい女召還者達を追いかける任務についていた。一人男が混じっているっぽいが、その女召喚者達を追いかける任務から戻ってきていない。おそらくだが、女召還者達を連れ去ったのはフォレスターの<黒い悪魔>だろう」
「<黒い悪魔>ですか……。潜入と暗殺の得意な者ですが、<レッドカウント>は純粋な戦闘タイプの<グランドクラス>。<黒い悪魔>に負けるとは思えませんがな? 仮に召喚者が優秀なスキルを持っていても、<ノーマルクラス>の使うスキルなど相手にならぬでしょう」
「そう思いたければ、そう思えばいい。ただし戦場では何があるか分からんものだ。仮に<レッドカウント>が殺されているならば。私が抜ければ大きく戦力が落ちるな? 私はどちらでもいいぞ。そっちで好きに決めろ」
「「「「「………」」」」」
さて、ここまで言っておけば、そうそう勝手な動きはせんと思うが……。外務卿はともかく、この愚か者は動きそうだな。仮に動いたとしたら真っ先に逃げるか、それとも私が動いて始末するか。そうすれば向こうが動く事もあるまい。
<アーククラス>を敵に回すという意味を全く理解していないとはな、愚かに過ぎる。この世の理不尽という言葉の意味をまるで理解していない。<アーククラス>同士が戦う事になれば、ちょっとしたミスでも死ぬのだぞ。そんな戦いをしたい者など居ない。
クラスが上がれば上がる程、同クラスの戦いは紙一重で結果が変わる。<レッドカウント>もそこは理解していなかったな。あの男は自分の強さを妄信していた。対人戦闘は弱い相手ばかり、そして魔物との戦闘ではチームで戦っている。
私のように頼るものも無く、一人でひたすら研鑽を積んできた者とは違うのだろう。それ故に下らない勘違いをするのだ。戦いにおいて、自分の勝利が揺るぎないなど絶対にあり得ないというのに。それすら理解せん。
実際に命を懸けん者など、しょせんこの程度なのだろうがな。頭が悪すぎて相手などしたくもない。本当ならウェルトゥーザの王城に居る筈だったのに、何故こんな所に来る事になったのやら。
ま、<アーククラス>が在野に埋もれていた事を知れたのは良い事か。知らずに殺し合いをしていたら、おそらく殺されていただろうしな。
「………」




