1095・三人の20階ボス戦
Side:ミク
あれから10日ほど過ぎた。ヴィーもある程度の実力を身につけ、それなりに戦えるようにはなってきている。とはいえ、まだまだと言うしかないけど、それでも三人は苦労する事なく20階までやってきた。
この10日間、三人はひたすら基礎と【身体強化】の練習に明け暮れている。理由としては、それが一番重要で生存率を上げるからだ。残念ながら一定以上の強さを得るには、徹底して基礎を磨くしかない。
基礎を疎かにする者は然したる強さを身につける事は出来ないんだ。力で何とかなるっていう部分は底辺でしかない。上に上がれば上がる程に、重要になってくるのは基礎となる。
この基礎の練度で決まる以上は、そこを重点的に鍛えるしかない。しかし10日では付け焼き刃にすらならないのが基礎というもの。それでも三人は基礎の始まりぐらいには立てたんじゃないかな? それぐらいには熱心に学んでいた。
「ここのボスは巨大な蛇だ。胴の直径が1メートル50センチ、胴の長さが10メートルほど。こいつを倒さなきゃいけないんだけど、首を切り落とすと確定で<5号毒消し>というのをドロップする。欲しければ頑張って首を切り落とそうか」
「頑張ってって言われても、直径1メートル50センチを切り落とせって……。そんなメチャクチャな事が出来る訳ないでしょ。むしろ貴女達くらいしか無理じゃない?」
「いちめーとる……?」
「うーん……。ニニの背よりも大きいという事です。そんな大きさの蛇の、しかも首を落とせとは……。確かに無茶だとしか言えませんね。そもそも首なんて一番動く所ではありませんか。それを落とすというのは流石に無理かと」
「まあ、<5号毒消し>が欲しければという話だから、必ずしも首を落とさなきゃいけない訳じゃないよ。普通に倒しても確率で手に入るからね。しかしその確率は高くないらしいけど」
「<5号毒消し>は貴重な物ですから、その事から考えると確かに確率は低いのでしょうね。それでも世に出回っている以上は、ある程度の確率で出るのだと思います」
「私達が居る以上は必要無いけど、それでも毒を消せる薬はあった方が良いと思うわよ。まあ、無理にやれとは言わないけれどもね。私なら出てきた瞬間に首を落とせるけど、貴女達にそれは無理だし」
「それが出来るのはイリュとカルティクだけでしょう。後、当然のミク、ファーダ、ノノですかね? それ以外は出てきたボスの首をいきなり刈るなんて無理ですよ」
「いや、シャルは出来るんじゃない? 【神爪神脚】があるんだし、アレを使えば可能だと思うわよ? ま、即座に首を落とさなくても良いんだから、やりようは幾らでもあるでしょ」
「さて、そろそろ話してないで行こうか? 十分に休めただろうしね」
私の言葉を合図に、20階のボス部屋前で椅子に座って休んでいた皆は立ち上がり、椅子をアイテムバッグに仕舞った後で準備運動を始める。体が十分に動く事をチェックし、軽く体を解したらボス部屋の扉を開いて中へ。
全員が入って少し経つと、ゆっくりと背後で扉が閉まる。いつも通りに前方の地面から魔法陣が出現し、輝きながら回転すると、その上から巨大な蛇が現れた。ヴィーはすぐに蛇の前に進み、盾を構えて大きな声を上げる。
「さぁ、来なさい! 私が相手になりますよ!!」
盾を構えてにじり寄るヴィーにボス蛇は注目する。その瞬間、ニニは【身体強化】を足に使って素早く移動。蛇の後ろに回る。ルルも足に【身体強化】を使って蛇の体の真ん中、その側面に移動を完了した。
ヴィーの後ろに私、イリュ、ティアは居て、ボス蛇はその私達も見ている。それはつまり側面のルルと背後のニニを見ていないという事だ。当然、そんな者は攻撃を受けても文句など言えない。
ニニとルルはタイミンゲを合わせて一斉に攻撃を始めた。ニニは尻尾に近い所を切り裂き、ルルは胴体を槍で突き刺す。当然ながら攻撃の瞬間に【身体強化】を使っているので、いつもよりも高い威力になっている。
「SYAAAAAA!!?!?」
蛇は突然の痛みに暴れ始めるけど、ニニとルルの二人はすぐに離脱し距離をとる。二人の攻撃はそこまで大きなダメージを与えられていないとはいえ、それは蛇が大きいからであって攻撃そのものは十分に成功と言っていい。ただボス蛇が大きい所為で大したダメージになっていないだけだ。
ボス蛇は痛みに喚いた後、自分を傷つけた二人に攻撃しようと鎌首を後ろに向ける。しかし前に居るヴィーを無視すれば攻撃されるのは当然で、ヴィーは素早く【火弾】を撃ち込む。
幾つか連続で撃ち込むと、胴を多少焼かれた蛇が怒ってヴィーの方に首を戻した。その瞬間、再びニニとルルが接近して蛇に攻撃を加える。ニニは傷口を更に広げるように、先程の傷の下側を延長するように斬り裂く。
ルルも突き刺した傷口を広げるように、槍の穂先で縦に切り裂く。最近は槍を上手く使えるようになってきたからか、穂先で切り裂く事も覚えたんだよね。こうなってくると、穂先を十字槍から笹穂槍か大身槍に変更したくなる。
バランスは悪くなるだろうけど、その分だけ切り裂きやすくなる。当然だけど槍だから突きも十分可能だ。それが駄目ならイリュと同じ矛かな? 今のルルなら両方が出来た方が良いかもしれない。もしくはティアと同じように薙刀にするか。
「GISYAAAAAA!!?!!?!」
今度は傷口を広げられたからね、あれは痛いと思うよ。ただ、その痛みを与えた相手に向くと、ヴィーから攻撃を受けるんだけどね。蛇にとっての敗因は、三人の武器が相当に良い事だろう。
店売りの鉄や鋼で出来ている武器なら鱗で防げたかもしれないけど、残念ながら骨製の武器は防げないみたいだ。更には本体が極限まで切れ味などを高めた物だからねえ。可哀想だけど、蛇の鱗じゃ防げない。
蛇に近付いたヴィーはメイスを胴体に叩きつける。攻撃する時だけ【身体強化】を使い、その威力を上げてあるからか、「ドゴン!」という音がして蛇の体に衝撃が走る。胴体が大きいからそこまで効いていないが、十分に敵を引き付ける事は出来た。
再びヴィーの方に向いた蛇は、怒りからかヴィーを押し潰そうと体で圧し掛かりにきた。が、ヴィーは足に【身体強化】を使い、すぐさま体の範囲から離脱。蛇から圧し掛かられるのを避けた。
そしてその隙を見逃すニニとルルではなく、更に傷口を広げようと攻撃を繰り返す。斬られて広がる傷口と、そこから広がる痛みに我慢出来なくなったのだろう、蛇が暴れてのたうち回る。
ボス蛇が暴れ回る所為で離脱せざるを得なくなった二人は離れると、ボス蛇は怒り狂いながら首を持ち上げようとして、ヴィーに顔面をブン殴られた。おそらく狙ってたんだろうけど見事だったね。
あれだけ暴れ回ってたにも関わらず、それがピタッと止まったんだ。チャンスだと思って攻めるよねえ。当たり前だけど、隙を見逃してくれるほど甘くは無いよ。
ボス蛇は顔面を【身体強化】のパワーでブン殴られたからか、明らかに動きが鈍くなった。それを見たニニとルルは再び攻撃を繰り返し傷付ける。蛇の体は再び斬られて刺されていき傷口が容赦なく増えていく。
そして遂に奥へと到達したのか、明らかに「ドバッ」と血が溢れ出してきた。ルルが作りだした傷だが、胴の直径が大きい所為で中まで届いていなかったんだろう。今までの傷よりも明らかに出る血の量が増えている。
ここは攻め時だろうね。




