1089・ハルキの冒険 その15
Side:ハルキ・ゴトウ
立ち上がる事が難しいから後は楽だろうと思ったが、そんな事は無くてまだまだ厄介なままだった。オーガの片足は潰したものの、奴等は膝立ちで棍棒を振り回すようになっただけだ。それでも自由に歩き回る事は無くなったので、その分だけ楽にはなっている。
オレは元々割り当てられていた左のオーガに近付こうとするものの、憤怒の表情のオーガが棍棒をメチャクチャに振り回す。その所為で迂闊に近付く事も出来ず危険な為、オレは相手に近寄れない。
また、後ろに回ろうとすると膝立ち状態で動き、意地でもオレを後ろに回らせまいとし続けている。厄介な事になったなと思いつつも、棍棒を投げられるとそれだけで死ぬ恐れある為、迂闊に離れる訳にもいかない。
もう一人仲間が居れば何とかなるんだが……。そう思いつつも、オーガの棍棒以上には近づく事が出来ずに時間だけが無駄に過ぎていく。実際にミューもアムもこの状況を打破できていない。それぐらいオーガのパワーは危険だ。
このままでは膠着状態から抜け出せないで、永遠に戦い続ける羽目になる。そう思ったオレは棍棒をスカして内側に入ろうとするも、膝立ちのオーガが物凄い速さで左右に棍棒を振る。縦に振ってくれるとチャンスがあるんだが、絶対に縦に振らないんだよなぁ。
縦に振った事で隙を見せたからか、横振りしかしなくなっているのが厄介だ。膝立ち状態では横に振る方が振りやすいのかもしれないが、その御蔭で全く近寄れないのだから厳しい。この状況を打破するキッカケが欲しいけど……。
そう思っていると、足に何かがぶつかった。それはオレ達が入るよりも前に中に入ったエルフ達の遺品だ。死体は既に吸収されて無くなっているみたいだが、未だに遺品は残ったままだった。生き物と武器、つまり有機物と無機物では吸収の速度が違うのだろうか?。
そう思ったものの、使える物は何でも使うべきだ。オレは落ちていた短剣や剣などをミューが戦っているオーガに投げつける。オレの前のオーガは棍棒を振るぐらいで他に何もしてこないので、少し目を離しても大丈夫だろう。
短剣などを投げつけられたオーガは鬱陶しそうにするものの、オレの方を向いたりはしない。オレの投げ方が下手クソな所為で刃の部分が当たらないんだ。困った事にいきなりの土壇場で上手くいくなんて事は無い。オレの人生そうそう上手くいったりはしないらしいな。
それでも投げていき、最後のメイスに関しては顔に放り投げてやった。意地でもこっちを向こうとしないオーガだったが、流石に顔に飛んでくる物には反応せざるを得なかったらしく、棍棒を上げて顔を守ろうとする。
その行動こそが失敗なのだが、それを逃すミューではなく、一気に跳躍するように接近して一撃を放つ。「ドゴン!」という大きな音がしたので、おそらく【魔力撃】スキルを使ったのだと思われる。その一撃で無事な左足にもダメージを負ったらしく、真ん中のオーガが倒れる。
そしてそうなったら最早ミューの独壇場だった。倒れたオーガの頭にメイスを振り下ろし、その一撃で頭をカチ割る。【魔力撃】を使ったのか夥しい血を噴水のように噴出するオーガ。少し気分が悪いが、勝たなきゃ死ぬだけなので我慢だ我慢。
一体でもオーガが倒せれば勝ったも同然であり、ミューはアムが戦ってるオーガの後ろに回るように接近していく。しかし右のオーガも真ん中のオーガが殺されるところを見ていた為、ミューを後ろに回らせはしない。
しかしそうやってアムから目を離すと、一気に接近されて右足の太腿に斧が直撃した。かなりの所まで食い込んだ斧の刃に悲鳴を上げるオーガ。ミューは無理をせず少し離れたが、アムは斧の刃を抜くと更に前へと進み、オーガの頭へと斧を振り下ろす。
後頭部に直撃した斧は頭の内側にまでメリ込み、血を噴水のように飛び散らせる。素早く離れたアムには掛かってないが、掛かったとしたら飲みに行くだけかもしれない。それらの戦いを横目でみていたオレとオーガは、既に戦いの趨勢は決した事を理解する。
それでも諦めていないオーガは最後の抵抗なのか、オレに対して棍棒を投げつけてきた。全力で投げてきたのか、凄い速さで飛んでくる棍棒にオレは動けない。その瞬間、スローモーションかのように景色が動く。
にも関わらず、そのスローな世界でも猛烈な速さで棍棒が接近し、そしてオレ……?。
ズガァンッ!!!!
「……つぅーーーっ!! 何とか間に合ったか! 本当に危なかったねえ!!」
「ミュー! ごめん、助かった!!」
「なあに、気にしなくてもいいさ、何だかハルキを助けようとしたら異様に早く動けてねえ! ハハッ!! もしかしたら新しいスキルでも手に入ったのかもしれないよ!!」
「だったら<ハイクラス>になったかもな! それよりアムのアレはいったい……」
「アムもキレたみたいだから、何かしらのスキルを得たんじゃない? 何だか赤いオーラが溢れてて、ちょっと危険な気がするけども」
そう。アムは赤いオーラを体から放出していて、そのオーラにオーガが気圧されている。っていうか、あの赤いオーラを纏ったアムはオレでさえプレッシャーを受けているほどだ。向けられているオーガはオレ以上のプレッシャーを感じているだろう。
そして凄まじい速さで接近したアムは、片手斧を縦横無尽に振り回していく。それはオーガを解体する勢いで削り、切り裂き、叩き潰す。オーガが悲鳴を上げながらも暴れるが、その悉くは空を切るだけで当たらない。
そして倒れたオーガは最後に頭頂を叩き割られ、夥しい血を噴出する。オーガの体がビクビク痙攣しつつ血の勢いが減ってくると、オーガの体は消えていき、ボス部屋の中央にドロップアイテムが出た。どうやらやっと終わったようだ。
やれやれと思って確認すると、そこには背負い鞄のような物が見えた。アレって、もしかして……。
オレは素早く走って接近し、その鞄を手にとって試しに槍を入れてみる。すると吸い込まれるように槍は鞄の中に入って行き、鞄の口の部分に手を突っ込むと中に入っている物が頭の中に浮かんできた。今はオレの槍しか入っていない。
「やったよ、二人とも! コレは間違いなくアイテムバッグだ!! これで獲物が持って帰りやすくなった!!」
「おお! それがアイテムバッグ? ついでにそこら辺のも入れていったら良いんじゃない?」
「いや、止めた方が良いわ。あのギルドマスターの婆がどう出てくるか分からないし、面倒な事に巻き込まれるかもしれない。正直に言って死んだヤツが悪いんだから、私達が妙な事に巻き込まれない事を優先するべきよ」
「あー……確かにあの婆なら、アタシ達がボス部屋に乱入して殺したとか言い出しかねないね。ここはアムの言う通りにした方が良いか、善行なんていうのは善人にしか通用しないからね。悪いヤツは善行すら利用するもんだ」
「それじゃあ、善い事をするヤツも居なくなりそうだな」
「無法地帯なんてそんなものだよ。正直者が馬鹿を見るなんて事は当たり前にある。ハッキリ言ってギルドマスターの婆はまったく信用ならない。アレは最大限に警戒するべきだよ」
「そうね、私もそう思うわ。なんにせよ、アイテムバッグが手に入ったのだから、これでお金儲けが随分と楽になったでしょう。これからはなるべく多く持って帰って稼ぐべきね。後、私は武器を変えるわ」
「片手斧じゃ大きな相手とは戦いにくそうだったから、当然だね」
確かにオーガ相手に戦いにくそうにしていたからなぁ。何にするんだろ?。




