1083・ハルキの冒険 その9
Side:ハルキ・ゴトウ
オレ達は王城を出る際に当座のお金を貰い、それが済んだら出て行く。ボロボロで凹んでいた鉄の鎧も、<レッドカウント>の左足に突き刺した鉄の剣も置いていき、背負い袋と剣帯だけで王城を出た。
お金はそれなりに貰えたので武具屋に行き、まずは自分の武器や防具を買う。オレは色々と見て行ったけど、コレと思う物が無かったので短めの槍にした。ただし柄まで鉄で出来ているヤツだけど。
それなりに重い槍ではあるが、何と言っても柄が鉄なだけに頑丈だ。穂先は普通の物っていうかよく見る形の物で、クソ国の備品倉庫にもあったヤツだ。槍って言えばコレって形をしてる。おそらく名前はあるんだろうけど、オレは詳しくないので知らない。
ラミアーの人をミューと呼ぶ事になったけど、そのミューは鉄の盾と鉄のメイスを買っている。知らなかったんだけど、鉄の盾っていうのは、木の盾の表面に鉄板を取り付けた物の事らしい。全部が鉄で出来てるんじゃなかったんだな。
「全部が鉄で出来てたら重過ぎるでしょうが。だから表面に薄い鉄板を取り付けるのよ。この厚みとかで色々と鍛冶屋の腕が出るのよねえ。これはアタシ好みの厚さだから買うんだけどさ」
「ミューはメイスって決めてるからいいけど、私はどうしようかな? ハルキは槍だし、なら二人と被らない方が良いよねー……。よし、私は斧にしようっと。あんまり脆い武器じゃ、私のパワーに耐えられないから困るし」
「ああ、そりゃそうだろ。ヴァンパイアであるアムの力じゃ、武器の方が耐えられないって事は十分に考えられるからねえ。耐えられるとなれば棍棒系か斧系、もしくは長柄の武器だろうさ」
「長柄の武器って使うの難しそうだな。オレは槍だからそこまで難しくないけど、薙刀とかは大変そう」
「なぎなたって何?」
「え? うーん……何て言うか……曲がった剣が柄の先に付いた武器? 曲剣とか曲刀とか呼ばれる緩やかに曲がった片刃の刃物が柄の先に付いたヤツ。それが薙刀なんだけど、説明が難しいな」
「何となくは分かるよ。そもそも柄の先に鉈を付けたり、短剣を付けたりする武器はあるからねえ。即席の槍なんかにして戦うんだけど、中には短剣だけを持ち歩くヤツも居るくらいだ。柄が必要になったら適当な物を切って用意したりね」
「成る程、そうやって戦う事もあるんだなー……って、アムはその半月の斧を使うんだ。斧って木の柄に幅が広くなっていくような刃が付いているんだとばかり思ってた。そういう斧もあるんだね」
「そっちはブロードアックスって言って削る為の斧だよ。〝はつる〟とも言うけど、木の表面なんかを削る為の斧さ。斧って一口で言っても木を伐り倒す為の斧もあれば、削る為の斧や戦闘用の斧も色々とある」
「そうそう。コレは戦闘用の斧だから柄も鉄で出来てるんだよ。半月型の刃なのは、当たる面積を増やすのと重量バランス事を考えてこうなってるの。それでも刃を当てないと駄目だけどね」
「それは当たり前のような……」
「それがそうでもない。斧は基本的に重いからね、本人は正しく振り下ろしているつもりでも、刃が変な方向を向くなんて事はあるんだよ。斧のような武器を使う場合、とにかく重さに負けないパワーが必要なのさ」
「斧って基本的に重量バランスが悪いんだよ。先の方の刃の部分に重さが集中してるからね。だから使い慣れていなかったり力の無い者が振ると、刃があっちを向いたりこっちを向いたりして上手く振り下ろせないの」
「へー……」
武器一つとっても色々とあるんだなぁ。オレなんてゲームでぐらいしか知らないから、どうやって使うかとか長所とか短所とか全く知らないよ。そう考えたら<レッドカウント>との戦いでよく刺さってくれたよなー、剣。
あれ偶然上手くいったけど、案外変な方向を向いて失敗していた可能性すらあったって事だ。しかもオレは剣なんて使った事が無い素人だしさ。本当に何重もの意味で運が良かったんだな。っていうか紙一重の勝利って恐すぎる。
オレ達は最後に革鎧を購入して店を出た。それでも十分にお金はあるので宿に一泊する。既に夕方に近い時間だから、今から東の町へなんか行けない。この世界じゃ灯りなんて使わずに夜はさっさと寝るのが当たり前だ。
なので今の時間から宿をとるなんて遅いくらいなんだけど仕方ない。オレ達は宿を何軒か回り、安い所に泊まる。お金はあるけど、向こうへ行ってすぐに稼げるとは限っていない。なので出来るだけ節約しながら生活する事に決まった。
宿の三人部屋をとったら食堂に行き食事を注文、お金を支払う。メニューが無く決まった物しかなかったのでそれを頼み、オレ達は運ばれてくるまで待つ。そこまで時間は掛からずに来たけど、内容は大きく違ったりはしていないな。
パンと肉と豆のスープにサラダっぽいのが付いていた。オレは相変わらず慣れないものの硬いパンをスープに浸しながら柔らかくし、その間にサラダを食べる。もちろんサラダって言ってもドレッシングなんてある訳が無い。
口に入れて噛んでいくものの、青臭さと苦味が口に広がってきて嫌になる。一瞬で食う気が失せてくるが、「健康の為にも食わなきゃ」と思い直す。ここは日本じゃないんだ、サラダを食わずに体が悪くなったらどうする? 医者なんて居ないんだぞ。
そう思うと食わなきゃ駄目だというのが分かる。正直に言って、病気とか怪我とかするのは非常にマズい。ポーションはあるんだけど、アレもゲームとは違ってすぐに効くなんて物じゃない。ジワジワと効いてくる薬なんだ。薬って考えたら当たり前だけど。
ゲームみたいに使った瞬間回復する訳じゃないから、何かあってからじゃ遅い。何と言うかポーションって名前の偽物って感じ? いやパチモンって感じか。もしかしたら召喚者の誰かがそう言い出したのかも。その場合、おそらくオレと同じ日本人だろうなぁ。
肉と豆のスープは悪くないな。アメリカとかイギリスじゃ豆のスープを食ってるイメージがあるけど、日本じゃ豆のスープって無いよな? 少なくともオレは食った事が無い。スープってだいたい味噌汁だし、アレはスープってイメージじゃないよ、な?。
うん。あれは汁物であってスープじゃない。同じだろって言うヤツは居るだろうけど、オレ的には別の物だ。そんな下らない事を考えていたら食事が終わりそうになっていた。
ちなみにオレは普通か、ちょっと悪いぐらいのマナーだと思う。周りを確認しながら食ってるけど、誰も「ズズズ……」とは飲んでないので、オレもスプーンで静かに飲んでる。すっげえコレじゃない感があるけど、そこは恥を掻かないようにしたよ。
ミューはワイルドな感じで豪快に食べてるし、逆にアムは凄くマナーが良い。ここでミューと同じに堕ちるのは色々とマズいので、これからはアムのマナーを参考にしよう。周りから白い目で見られるのはゴメンだ。
食事が終わったら宿に戻り、オレはすぐにベッドに寝転がる。そろそろ暗くなってきてるし、灯りなんて無いから寝るしか出来ない。トイレには既に行ってきたし、寝る準備は万端だ。そう思ってたら二人が近付いてくる。
今日もなのは間違い無いんだけど、飽きないんだろうか? 特に毎日必要なアムと違って、そこまで頻繁には必要のないミューはノリで血を吸ってない?。
「気にしない、気にしない。元の世界の森じゃ魔物の血しかないんだよ、同族の血は不味いし飲めたもんじゃないからね。おそらく忌避するようになってるんだろうけどさ」
同族は流石に駄目だと思……うう、気が遠くなってきたけど、そういえば最近気絶してるのであって寝ていない気がする。「寝よう」と思って寝た例が無い。
あっ、そろそろ、だ……。




