1081・ハルキの冒険 その7
Side:ハルキ・ゴトウ
馬車が「ガラゴロ」と進んで行く。色々な話をしつつも、生きている事のありがたみを体の痛みで感じていると、周りの景色も少しずつ変化してきていた事に気付く。前方に森みたいなのが見えるのが分かる。もしかしてアレかな?。
「前方の森みたいなのがフォレスターですか?」
「いや、アレはこの辺りの森なだけだ。フォレスターは巨大な森の中の国でな、湖川国の名の通り、巨大な湖と川が流れている国なんだよ。王都は大きな湖の傍にある。田畑もあるので、森の恵みだけで暮らしている訳ではないぞ? あと基本的に住んでいるのはエルフ種だけだ」
「エルフの国かー、あいつらって森の中だと結構強いから鬱陶しいのよねえ。ラミアー討伐隊とかいうのに、たまに紛れていたりするのよ。いちいちこっちに突っ掛かってこなきゃ殺さないのにねえ」
「ヴァンパイアハンターの中にエルフが居た事もあったわよ。こっちもそうだけど、いちいち喧嘩を売ってくるから殺されるのに、何故それが分からないんだか。ま、ヴァンパイアが気に入らないヤツがお金を出して雇ってるんでしょうけど」
「そんな人が居るんですか?」
「私達ヴァンパイアは寿命が無いからね。それを妬んで討伐しろとか喚く貴族の女が居るのよ。頭がおかしいとしか思えないけど、歳を取って醜くなっていく自分に耐えられないんでしょ。知らないし、知る気もないけど」
「私達ラミアーも寿命は長いからねえ、割と狙われやすいんだよ。まったくもって嫌になってくるけど、短命種族の嫉妬は醜いもんさ。気持ち悪い」
「この世界ではクラスが上がると寿命が伸びるぞ。それとハルキと言ったか? お前は他の奴等を見て何を思う?」
「は? ………皆さんを見て何を思うか?」
オレは女性達を見渡してみる。何かを思うとか言われても……っていうか、また狼の人がオレを睨んでくるし。……あれ? 狼の人の睨みが怖くないな。今まではビビってたけど、今は特に恐くない。もしかして実戦を経験したからだろうか?。
「実戦を経験したからか、狼の人の睨みが恐くないです。……いや、そんなに睨まなくてもいいでしょう」
「それはどうなのだろうな。私が聞きたい言葉ではないのだが、間違っていないのか? まあいい。簡単に言えばハルキは<ハイクラス>になった可能性がある。<レッドカウント>との戦いで貢献しているのでな」
「クラスが上がった?」
「そうだ。クラスを正確に計るには<鑑定の水晶>が必要だが、我が国にも<鑑定の石板>はある。そこでスキルを見て増えていればクラスが上がった可能性が高い。ヴァンパイアであるアムルダイアが血が美味くなったと言っていたのも理由の一つだ」
「位階が上がると血が美味しくなるなら、確かに位階が上がった方が良いわね?」
「そうね。積極的に位階を上げてもらった方が良いね」
「「「「………」」」」
何だか呆れた顔を二人に向けているけど、オレも向けたい。とはいえ何を言われるか分からないので我慢してるけどね。クラスが上がった可能性はあるけど、怖いものは怖いし。血が取られるって、何か別種の恐さがある。
そんな事を考えている間にも馬車は進んで行く。とりあえずフォレスターという国に着くまでは警戒を続けた方が良いと思うので、オレはきちんと周囲を警戒しよう。たぶん然して役には立ってないんだろうけど。
…
……
………
あれから三日。ようやくフォレスターという国の王都までやってきた。言われていた通り湖の近くに王都があって、とても綺麗な町並みとなってはいる。ただし湿度が高そうで、何だか日本の夏みたいだ。口には出さないけど。
オレ達はムーンエルフの人こと、ディオレッタさんと共に王城へと進んでいる。どうやらディオレッタさんは王城に馬車で入っても良い身分らしい。ちなみに正式にはディオレッタ・カルナエという名前なんだそうだ。
そのまま王城に入って止まり、そこから騎士に案内されたオレ達は、まず最初に汚れを落とすように言われた。まあ、当然だろうと思いつつ井戸の近くで水を浴びながら落としていく。女性陣は屋内の水浴び場らしい。
オレは美しい容姿のエルフ男性の前で真っ裸になって体を洗う。監視なのか知らないけど見張りがずっとついているんだよ。文句も言えないし、今だけ我慢するしかない訳でさ。已むを得ないんだけど、正直に言ってジロジロ見ないでほしい。
石鹸はあったので泡立てて布につけてゴシゴシ洗う。体全体が終わったら頭を洗い、流したらもう一度洗う。一度じゃ落ちないから仕方ないんだよ、イケメンエルフにも駄目出しされたしさ。
イケメンっていうか耽美系っていうか、とにかく容姿が整い過ぎてるエルフさん達は顔面の破壊力を自覚して欲しい。こっちは一般的なモブ日本人だっての。洗った後の全身をジロジロ確認するって、どんな拷問だよ。こっちの世界に来てから、おかしな経験ばっかりしてるぞ?。
二回目もしっかり洗ってやっと合格が貰えたので、今度は靴と靴下を洗う。石鹸を借りて丹念に中敷も含めて洗っていく。マジでこのスニーカーだけは失くしたくないので、必死になって綺麗に洗い使えるようにしなきゃいけない。
こっちの靴って革とか木とかなんだよ。ゴムも無ければ布の靴も無い訳で、マジでスニーカーはオレの生命線だったりする。硬い靴とか履きたくないし、それで重大な失敗とかは嫌過ぎる。しっかりグリップが効く靴がいい。
茶色い水とかになったけど、それでも必死に綺麗にした事によって随分と綺麗になったと思う。とにかく後はスニーカーを干しておくだけだ。今は晴れてるし、何処かに干しておけば乾くだろう。
そう思ったら、イケメンエルフが魔法で乾かしてくれた。何でも水を操る魔法で水分は取れるらしい。ついでに俺の体からも水分を取ってくれたけど、オレの服は何処かへ持って行かれたんだよな。代わりにゲームで見る村人の服みたいなのを渡されたけど。
これってチュニックとか言うんだっけ? それとパンツとズボン。パンツはトランクスだったけど、紐で縛るタイプだった。ゴムが無いから仕方ないんだろう。何だか村人ルックで良いなぁ、目立ちたくないしコレが一番だ。下はスニーカーだけど。
その後はイケメンエルフに案内されるままに王城の中を進み、王様の前に出された。謁見の間っぽい場所で、女性陣も既に待っていたらしい。オレは慌てて一番後ろに並ぶと、「ジャーン」とシンバルみたいな物が鳴らされる。
すると皆が両足を曲げて片膝を床につくような姿勢になったので、慌ててオレも真似をする。意味が分からないけど、とりあえず周りの真似をすれば何とかなる筈。日本人だからこういうのは得意だ。
「うむ。そなた達が樹神様の神託にあった者達だと思う。若干一名は違うが、そこは構うまい。途中でウェルトゥーザの<レッドカウント>と争いになったが、これを退けたとも聞く。余も胸を撫で下ろしたところだ。これから先は我が国で過ごしてくれて構わぬ。ゆるりとするが良い。後の事は任せたぞ」
「「「「「ハッ!」」」」」
その言葉で王は退場した。なんだか胡散臭い感じはしたけど、オレは王城のある王都からは出て行くのでどうでもいい。ただ何となくだけど、オレ達の命をどうこうとは思ってないと思う。おそらく召喚者を引き抜いて戦争をしにくくしたかったんだろうな。
この国は戦争に賛成してないらしいし、それなら神様の神託を利用して力を削ぐとか考えそうじゃない? そんな気がするんだよ。




