1079・ハルキの冒険 その5
Side:ハルキ・ゴトウ
オレ達はウェルトゥーザ王国の追撃部隊に攻撃され、そいつらと戦う羽目になった。相手には<レッドカウント>とかいう二つ名が付いているヤツが居て、メッチャ強そうだけど何とかするしかない。出来なきゃ死ぬだけだ。
オレは鉄の剣を抜いて持っているけど、戦った事なんて一度も無いからどうしていいか分からない。とりあえずそれっぽく構えてるけど、思ってるよりも剣って重いんだなって痛感している。プルプル震えないようにするので必死だ。
馬で一気に駆けてきたので、オレは慌てて横っ飛びに逃げる。っていうか馬なんてどうやって倒すんだよ!? あんなものにぶつかったら死ぬっての!。
オレを通り過ぎた馬は反転すると、またオレを目掛けて突進してきた。とりあえず騎士が右手で武器を持っているので、逆方向に横っ飛びすれば回避できる筈。とはいえ敵の騎士が多いから多勢に無勢で死んでしまうんじゃ……。
「ふん!!」
「ハッ!!」
「それっ!」
「オラァ!!」
「死になさい!!」
皆、鉄の剣とか鉄の槍とかで馬を横から倒してる。役に立ってないのオレだけじゃん。何とか少しでも役に立たないと、勝った後で何を言われるか分からない。何とか攻撃したいけど、どうしていいかがサッパリだ。
オレは無様でも何でもいいので回避しつつ、何とか怪我をしないように立ち回る。するとオレを攻撃しようとしていた騎士は無視して狼獣人の人を狙う。オレはそれを隙ありとして、馬の腹に剣を刺してやった。
体当たりするように刺したけど、気持ちが悪い感触がしたので慌てて抜き、すぐにオレは騎士から離れる。馬が暴れて騎士が振り落とされたが、後頭部を地面で強打したらしく呻いている。
そいつに対して狼獣人の人が素早く近寄り、首を突き刺して止めを刺した。人の死ぬところを初めて見たけど、思わず目を覆いたくなる。しかしそんな事などしていられないので、他の敵を探して周りを見る。
他の人達も騎士を殺しており、いつの間にか半分くらいになっていた。しかも馬は既に倒せている。これで突進されないと思ったのも束の間、騎士が槍で攻撃してきたので慌てて避ける。むしろ馬に乗ってた方がマシだったんじゃないか!?。
敵の槍が凄い速さで繰り出されるので、オレはひたすら後ろに下がるくらいしか出来ない。もし近付いたらオレなんてあっさりと突き殺される。それが分かっているので、オレは必死になって避けざるを得ない。
不恰好だろうがなんだろうが、あんなの喰らったら死んじまう。そう思っていると、他の人が隙を突いて殺してくれた。女性陣が凄く強いけど、その反面オレが情けないくらいに弱いな。それでも生き残ってるだけマシだ。
最後の騎士をドワーフの女性が叩き殺し、ようやく真紅のマントだけになったけど、あのムーンエルフの人が苦戦してるっぽい。ちなみに見た目だけならダークエルフなんだけど、そう呼ぶのは無礼になるらしいので、オレは絶対に呼ばない。
「チッ! 偉そうに言っていたから連れて来てやったというのに、高があの程度の連中に殺されるとは。仕方ない、本気で殺すか」
真紅のマントがそう言った瞬間、凄まじいプレッシャーが放たれて呼吸をする事すら出来なくなった。こんな人間が居るって、この世界は絶対におかしい。
「なら私も本気でいこうか! お前の好き勝手にはさせんよ。すまんが手を貸してくれ!!」
ムーンエルフの人がプレッシャーを押し返してくれたのか、その御蔭で息が出来る様になった。オレは慌てて剣を構えて走り、ムーンエルフの人の右から出て攻撃する。いきなり攻撃すれば勝てるだろうと思ったのだが、それはあまりにも甘かった。
「バカか、コイツは。マヌケめ!!」
「グボォ!!」
オレはおそらく蹴られたんだと思う。腹から全身が無くなるかのような衝撃を受け、オレは吹き飛んだ。地面に叩きつけられて後頭部を打ったのは分かるが、それより腹が凄まじく痛い。体が壊れそうだ。
「バカなヤツも居たものだ。<ノーマルクラス>と<グランドクラス>には隔絶した差がある事も知らんのか」
「貴様の国が召喚者に何も教えていないのだろうが!」
「ああ、そういえばそうだったか。教えてやる価値も無いから、な!!」
更に猛攻を繰り出す真紅のマント。それに対し防戦一方になるムーンエルフ。かなりマズいし、このままあの人が負けるとオレ達も殺される。なら痛いなんて言ってられないだろ!!。
オレは震える足で何とか立ち上がり、少しずつ歩いて近付く。ムーンエルフの人に気を取られている今なら、何とか攻撃できる筈。そう思った途端、近づけなかったドワーフの人が攻撃しようとして止める。
そして止めて剣を横に構えた瞬間、剣ごと吹き飛ばされてしまった。しかし、それを好機と見た女性陣が一斉に攻撃を開始する。しかし真紅のマントは何処に攻撃が来るかが分かっているかのように回避し、反撃を女性陣に加えていく。
吹き飛ばされるのを見ながら、オレも決死の覚悟で剣を突きこむ。しかしオレの足はダメージを受けていたのか碌に進まず、真紅のマントはこちらに振り向く。オレは恐くなり慌てて引くと、それを予期できなかったのか真紅のマントの蹴りが空振る。
そしてオレに背を向けるような形になった。それを見た瞬間、オレは考えるよりも先に動いていた。
「【加速】ぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
オレの体は強制的に動き、金メダリストよりも速い速度で、狙っていた真紅のマントの左足に鉄の剣を突き刺す。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!!?!? このザコが、ふざけるなぁぁぁぁ!!!」
「グボォェ!!」
再び腹に蹴りを叩き込まれたが、先程の蹴りよりも威力が低かったのは剣が刺さっていたからだろう。
「調子に乗、ゴボッ!!?!?!」
「あいつに目を向けて私から目を離すとは、愚かなのはお前だったな。死ね」
「ガヒュッ?!?!?!!!」
喉に突き刺された短剣が横に引かれ、真紅のマントの首は半分切り裂かれた。ムーンエルフの人はそこで容赦せず、その後は首のもう半分を切り裂いて落とした。確実に殺す為だと思うが、本当に容赦が無くて吐きそうだ。
いや、吐く。
「おぇぇぇぇぇぇっ! ゴホッ! ゲホッ!」
「上手くやったというのに、最後の最後でお前という奴は……。まあ、<レッドカウント>に腹を蹴られたからという事にしておこう」
その時、蹴られた女性達も起き上がり、互いに助かった事を喜び合う。
そんな中。オレの方に駆け寄ってきて心配そうに背中を擦ってくれるヴァンパイアの人。こういうのは本当に助かる。
「大丈夫? ……駄目ね、気分が悪いのが治まらないみたい。こういう時は気を失っておくのが一番よ」
「おえぇぇ、えっ!?」
その瞬間、首筋に走る痛みと快楽。オレは吐き気と痛みと快楽で意味が分からなくなり、そのまま気が遠くなった。
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Side:???(ムーンエルフ)
目の前で勝利の立役者が気を失った。それもただ気を失ったのではない、ヴァンパイアに血を吸われて気絶したのだ。
何というか、本当に締まらない状況だな。可哀想なヤツではあるが、それがお似合いな気もする。
「あまり勝利の立役者に酷い事をしてやるなよ? 蹴られて大きなダメージを受けたから血を補給したいのだろうが……。おい、いつまで血を吸っている。流石にマズいぞ」
「こら、アタシの分が無くなるでしょうが!!」
「あっ、もう……。血が美味しくなってたから、もっと欲しかったのに」
「血が美味くなっている? ………もしかしたら位階が上がったのかもしれんな」
<レッドカウント>と戦って勝ったのだ。可能性としては無くはないな。それにしても運の良い……。




