1077・ハルキの冒険 その3
Side:ハルキ・ゴトウ
オレ達は小型の馬車に揺られて進んで行く。中に居るのは耳がちょっと尖ったエルフっぽい人と、身長が低いけど筋肉が凄そうなドワーフの人。そして犬っぽい獣人の人に、下半身が蛇の人。それと顔色が良くない耳の尖った人とオレ。ちなみにオレ以外は全員女性だ。助けてくれたローブの人も。
まさか助けてくれた人まで女性だとは思わなかった。潰れた声というか、そういう感じの声なんで非常に分かり難い。声だけでと思われるかもしれないが、体はローブで隠されているので分かる訳がないしさ。
そんな事を考えていると、犬獣人っぽい人が口を開く。
「そういえば私達って、あの小さな猫耳の子を除いた女性全員よね? なんで男を一人連れてきたの? 人間の雄って年中発情してるじゃん。危険じゃないの?」
「そういう言い方は良くないわよ。それにこの程度のヒョロいのがどうにか出来る訳が無いでしょ。私か彼女が血を吸い取って殺すだけよ。私はラミアーだし、彼女はヴァンパイアだもの」
「ラミアーも私達と同じく血を飲む種族。私達とは違ってそこまで血に依存してないけど、代わりに発揮出来る力はそこまで強くない。下半身が強いくらい?」
「そうね。上半身はそこまでじゃないのよ。代わりに絞め殺す事とかは出来るけどね。ヴァンパイアみたいに全身が反則的なほど力強い訳じゃないわ。ま、という事で、下らない事をしても殺されるだけよ」
「そもそも彼は多分だけど根性無し。そういう事は出来ないタイプ。血の匂いで何となく分かる」
「本当?」
「いや、あの、本当も何も犯罪をする訳が無いでしょう。あり得ませんよ、そんな事」
「分かっているから連れて来ている。私達のところには伝承があるのだ。召喚者の中でも黒髪黒目の男は基本的に根性が無く、女性に手を出さないと伝えられている。欲しければこっちから動くしかないとも書かれているな」
「それはそれで逆に駄目な男でしょ。女を前にして動かないってどういう事?」
「えっと、多分それの所為だと思います。動くなと言ったり動けと言ったり。で、面倒臭くなって動かない方がマシかとなるんです。どっちでも文句を言われるなら動かない方がマシですからね」
「「「「「「………」」」」」」
「まあ、この兄ちゃんの立場になったら、動かない方が確かにマシか。どっちでも文句を言われて毛嫌いされるなら、確かに関わらない方がマシだと思う。それは間違いないだろうさ」
「そういう意味じゃないんだけど、そう受け取られるって事ね。まあ、理解はしたわ、理解は」
「その話は横に置いておきましょう、話したところで意味は無いし。それよりこの馬車は何処に向かってるの?」
「我らの国である、フォレスター湖川国へと向かっている。ここはウェルトゥーザ王国といい、その東にヤップ王国という小さな国がある。その北に我らの国であるフォレスター湖川国があるのだが、フォレスターが治める大森林はウェルトゥーザの北部にも連なっている。今はそこに向かっている途中だ」
「つまり大森林とやらに入ってしまえば追って来れないって事ね。だったら早く逃げるに限るわ。ここがどの辺りか知らないけども」
「ウェルトゥーザの王都はやや南にあるので、それなりに時間は掛かる。とはいえ追いかけられても蹴散らせば済む。私はこう見えて<グランドクラス>だからな」
「そう言えばさっきも言ってたけど、そのクラスって何? 何か意味があるからクラスなんて言い方をしているのよね?」
「クラスは位階だ。生まれた時には<ノーマルクラス>であり。そこから<ハイクラス><グレータークラス><メジャークラス><グランドクラス><アーククラス>と上がっていく。上がれば何となく分かるようになる。特に相手と比べればよく分かるだろう」
「私達は何クラスなんだろうね?」
「それは分からん。竜人国にあるという<鑑定の水晶>とやらがあれば分かるのだが、我が国には無い以上どうにもならないな。アレはダンジョン内で<殺戮者>を倒さねばならん」
「ダンジョン!? ダンジョンがあるんですか!?」
「うむ。何故か黒髪黒目の者はダンジョンを知っていると言われているが、本当にそうなのだな。ダンジョンの中には稀に<殺戮者>という者が現れるのだが、それを倒す事が出来れば<鑑定の水晶>が手に入ると言われている。本当にそうかは知らぬがな」
「じゃあ、竜人国っていう国が嘘を吐いてるって事?」
「いや、それはない。各国が使者を送って調べた事がある。だから事実なのだが、この世界で<殺戮者>が倒されたのは一度だけだ。だから他の物が手に入る可能性も否定できない。本当に<鑑定の水晶>だけなのか? という事だ」
「ああ。確かにその可能性はあるね。それでも<鑑定の水晶>とやらが無いとクラスが分からないんじゃ仕方ない。アタシ達も<ノーマルクラス>なんだろう?」
「それは分からない。この世界で生まれた者は皆<ノーマルクラス>だが、他の世界で生まれた場合にどうかは不明だし、君達が故郷でクラスを上げていたら把握のしようがないだろう?」
「確かに。とはいえクラスなんてどうでもいい。大事なのは敵に勝てるか否か、ただそれだけ」
確かにそうだろうとは思うけど、殺伐としてるなぁ。ちょっと怖い。あと、こっちを見て「ニヤァ」とするのも止めてほしい。ヴァンパイアの人にそんな顔をされると凄い怖いから。超美人だけど首筋が寒い気がしてきた。
色々とこの国の事や他の国の事、貨幣の価値のような生活に必要な情報も聞く事が出来た。それ以外にも、全ての国が戦争をしたい訳ではない事も聞けた。特にこれから行くフォレスターは戦争に消極的な国らしいので胸を撫で下ろす。
オレは正直に言って戦争なんてしたくないし、関わりたくも無い。ハッキリ言えば元の世界に帰してくれとしか思わない。何とか逃がしてもらえたけど、最初から<奴隷の首輪>で始まるとかガチで終わってるからさ。
現実はゲームや漫画とかとは違うんだよ。<奴隷の首輪>をされても助かるなんてあり得ないんだ。オレはたまたま助けてもらえただけ、つまり運が良かったとしか言えない。漫画の主人公は助かる事が決まってるけど、マジでリアルは違うんだよ、本当。
ラノベ好きの奴等が「もしも~」とか言ってたけど、そんな都合の良い事はあり得ないんだと切り捨てたいくらいだ。何故助けてもらえたのか知らないけど、本当に運が良かっただけでしかない。
「そういえば、何故オレは助けてもらえたんでしょう? 女性を助けるつもりだったんですよね?」
「ああ、お前を助けたのは簡単だ。第7軍だけは王都の外に宿舎があるからな、つまり侵入しやすい。私のスキルを駆使すれば見つかる事など無いし、それで見に行ったら黒髪黒目だったから助けただけだ。成長したらどうなるかは分からないからな」
「成長したらって、どういう事?」
「阿呆どもは勘違いしているが、クラスが上がるとスキルは増える。稀にクラスも上がらずにスキルを増やす者もいるがな。つまり神に持たされたスキルと、クラスが上がって手に入るスキルは一致しない。場合によっては優秀なスキルを手にする事もある」
「成る程。助けてやったんだから、クラスを上げて少しでも国の役に立てって訳ね。分かりやすくて助かるわ」
助けられた理由が分かったから納得してるみたいだけど、明らかに険のある言い方だなぁ。気持ちは分かるけど。




