1048・公爵から聞き出す
Side:ファーダ
「ま、この話はここまでだ。現公爵が何を考えているかは分からぬからな、とりあえずは善人化とやらが成ってからだ。善人になっているなら素直にペラペラ喋ろう。後は本人に直接聞けばいいだけでしかない」
その王の一言で話し合いは終了し、俺達は<再生薬>を一本小金貨5枚で三本売った。それと小金貨が来るまでに51階の話もしておく。王も宰相も火山でドラゴン塗れだったと聞くと唖然とし、その後に王が「攻略は無理だ」と呟いていた。
俺達は「ドラゴン素材は要るか?」と聞くと、散々に悩んだ後で「一度持って来てくれ」と言われたので了承する。俺達は当たり前の様に50階以降も進むからな。とはいえ<若返りの薬>はどうするんだろうか。欲しければもう一本くらいは用意できると思うが……、
ま、余計な手間も掛けたくないし、気にしなくてもいいか。そう思った俺達はさっさと王城を離れ、食堂まで歩いて移動。中に入って注文して座る。運ばれてきたら食事をし、終わったら宿へと戻る。後は皆が帰ってくるまでゆっくり過ごすか。
…
……
………
夜。皆が寝静まった頃、宿の周囲に人の気配が複数近付く。俺はノノを残して外へと出ると、人型になった後で宿の前に立ち塞がる。
「お前達は何者だ? ここは宿屋だが、誰かを襲いに来たんじゃあるまいな?」
「………やれ」
リーダー格っぽい男が一言呟くと、周りの連中はすぐに武器を抜く。しかしそれが既に遅いのだ。俺は本質を少し出して男達を気絶させると、リーダー格の男に魅了の香りを注入して話を聞く。ついでに他の奴等には眠りの香りを注入しておいた。
「お前は何をしに宿へとやってきた?」
「宿に泊まっている竜人族ではない奴等を暗殺しろと依頼を請けた。その依頼をしてきたのはドラグール公爵家だ。下っ端のヤツだったが、オレ達のようなスラムの住民に気づかれない筈はねえだろうにな」
「何故だ?」
「オレ達は難癖なんかをつけられない為に、貴族やその下っ端の顔は覚えているんだよ。何処の家の使用人かなども把握している。貴族を暗殺する仕事は滅多にないが、無い訳じゃないんでな。それも知っている理由にはある」
「成る程な。分かった、寝てていいぞ」
俺はリーダー格に眠りの香りを注入し、その後に全員を善人化してスラムに連れて行く。適当な路地に放り込み、後は放置だ。とりあえずドラグール公爵家に行くかね。
公爵家の邸宅だから、一番王城に近い場所だ。ちなみに屋敷の場所は宰相から教えてもらったので間違う事は無い。位の高い貴族から順に王城に近い場所に屋敷を所持しているので分かりやすい。ちなみに爵位が落ちると引越しになるそうだ。なかなか面白いシステムだと思う。
落ちればハッキリと分かるなら、それだけ必死にもなるだろう。特に見栄の存在だからな、貴族は。
屋敷の屋根に鳥の姿で降り立ち、そこからムカデに変化して侵入する。窓からスルリと入った俺は中の者達を調べて行き、悪人判定のヤツを全て善人に変えていく。久しぶりなので少々厳しめにしているが、それ自体は構うまい。どのみち怪しいのだし。
使用人だろうが従僕だろうが、執事だろうがメイドだろうが関係なく善人に変え、更には喧嘩を売ってきた阿呆どもも善人に変える。気絶させてやったドラグール公爵の息子も善人にし、その後はドラグール公爵の部屋へと移動。残るはコイツだけだ。
ちなみに娘の方は普通というか、やや善人だったので当たり前だが何もしていない。それと右腕の肘から先が無い先代も悪人ではなかった。知ってはいたが改めて悪人になっていなかった事に驚く。
普通はあそこまでやられれば、こちらに報復を考えるものだがな? 何故か現公爵がやってきて、先代は悪人にはなっていないと。随分とおかしな形だ。それはともかくとして、さっさと魅了の香りを注入して話を聞こう。
「お前はスラムの者に暗殺を依頼させた、または依頼してくるように指示をしたな?」
「したぞ。愚かな人間種如きに調子に乗られては、我が国の沽券に関わるからな。王も何を考えているのか知らぬが、<アーククラス>の力があるならさっさと殺せばいいものを」
「お前は教団と関わりを持っているらしいが、それは何をする為だ? まさか成り代わる事などを考えてはいないだろうな?」
「ハッ。あの軟弱な考えの者では我が国はいつまでもやられてばかりだ。<アーククラス>なのだから、さっさと戦場に出て劣等種など殺し尽くせばいいものを。それをせぬ所為で我が国がいつまでも舐められている」
「この国の<アーククラス>が戦争に出れば、他の国の<アーククラス>も出てくるぞ。それでどうやって勝つ気だ?」
「全て殺せば良かろうが。我ら竜人族は世界最高の種族ぞ。その世界最高の種族の<アーククラス>なのだ、この世で一番強いに決まっておろう。にも関わらず、あの王は力を使おうとはせぬ。何度私が力を持っていたらと思った事か。そうすれば人間種や魔族などゴミのように滅ぼしてやるものを」
(成る程。こいつは全く戦いというものを知らんのだな。だからこそ頭の中の妄想が現実だと思っているのだろう。随分と無様なヤツだ。これは書き換えるしかないな。こういう思考を大人になっても持っている以上は、死ぬまで変わる事は無い)
「息子も娘も話にならん。アレだけ金を掛けて良い物を揃えてやったというのに、まるで位階が上がる気配も無いではないか。どいつもこいつも役に立たん奴等だ」
「ならばお前がダンジョンに行ったらどうだ? 自分が強い力を持っていたらと先ほど言っていたじゃないか」
「何を言っている、私は公爵家の当主だぞ。そのような野蛮な事などする筈があるまい」
「<アーククラス>の王も<グランドクラス>の王母もダンジョンに入っていたが? 王も王母も野蛮という事か?」
「当たり前ではないか。ダンジョンに入るなど汚らわしくて野蛮な事ぞ。王者は命じるだけでいいのだ。それこそが王者なのだからな」
(力があればと言っておきながら、自分は努力する気が無いと。確かに戦う者は野蛮かもしれんが、コイツみたいに無様で妄想に浸っているより遥かにマシだがな。まったくもって現実を理解していないな)
俺はコイツとの問答が面倒になったので、教団との関わりを聞いたら、さっさと善人化を終わらせて屋敷を去る。それにしても、あそこまでマヌケなヤツが存在するんだな。教団にお似合いというべきか、それとも教団が暗示か洗脳でもしたのか?。
まあ、その辺りはよく分からんが、教団が喧嘩を売ってきた訳ではないので放置だな。ついでに放置していた方が都合が良いだろう。最悪は神託の巫女だけ救助すれば済むだろうし、他のヤツなど要るまい。
それではさっさと戻るかね。あんまり遅くなっても仕方がないし、ノノには留守番を任せてしまっている。早く戻って交代せねば。ノノはこれから飛んで地図作りの続きだから、そろそろ交代しておかないと地図作成が進まん。
宿に鳥の姿で戻った俺は、屋根からムカデで下りていって窓をノノに開けてもらう。その後、交代したノノが空いた扉から空へと飛び立った。俺は窓を閉めたら適当に床に座り、座禅を組んだら瞑想を始める。
これが一番時間を過ごすのに良いのだ。頭を真っ白にして何もしない。呼吸も無ければ脈動も無い。置物と何も変わらぬ状態になる。そうすれば気配も無くなるからな。そういう練習は無駄にはならない。
本体空間でもやっているし、もう慣れたものだ。




