0100・喰われるべくして喰われる者
夕食を終えた2人は宿の自室へと入った。
ミクはいつも通り服を脱ぎ下着姿になると、さっさとベッドに寝転んで目を閉じる。そして本体空間での、いつもの暇潰しに興じるのだった。
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……ある程度の時間が経った後、ミクは静かに起き上がると、蜘蛛の姿になって部屋を出る。現在時刻は深夜であり、ミクが目指すのは王都守備兵の宿舎だ。ターゲットはウェルズ・アトン・カムルード。
実は<強欲の腕>のボスの所に居た女。あの女は貴族と関わりがあったが、それは男爵だけではなかったのだ。
もう一人、ウェルズ・アトン・カムルードも含まれていた。ミクはウェルズを見た時に思い出したのだ、コイツだったのだという事を。
ミクは一度記憶すると、自ら消去しない限り記憶が残り続ける。だが、それと思い出せるかは別の問題なのだ。使わない記憶であればある程に思い出し辛くなるのは、人間種と何ら変わらない。
だからこそ、ウェルズというのが誰なのかまでは分からなかったのだが、本人に会って思い出した訳だ。ちなみにカムルード伯爵家に行かなかったのは、未だ王都守備兵が忙しいと思っていたからである。
まさか王都守備兵の中に闇ギルドと関わりのある者が居るとは思っていなかったので、こっちは早めに潰しておく必要があるとミクは判断した。その理由は、使い勝手の良いリリエに手を出される恐れがあるからだ。
女性に対して手を出す奴等だ、幾ら侯爵家とはいえ三女では手を出してくる可能性が否定できない。しかもあの爆乳である。今まで手を出されていない事の方が驚きであろう。
ミクはそこまでは分かっていないが、リリエが襲われる可能性が高い事は理解している。なので、今の内に動いて対処しようと思ったのだ。
小さな蜘蛛の姿で王都守備兵の宿舎に入り、夕方頃に記憶しておいた生命反応の場所に近付く。すると、ウェルズは起きており、他の男性兵士と酒を飲んでいるようだった。
「それにしても、<強欲の腕>の連中は何でバレたんだ? あいつらには長く使われてた奴が居たろ。オレ達はそれが分かっててスルーしてきてやってたのに、何処のバカだよ、侯爵の娘にタレ込んだヤツ」
「むしろ、あの侯爵の娘が勝手に言い張ってんじゃねえのか? あいつを捕まえた方が良いだろ。伯爵家の威光で何とか出来ないのか?」
「無茶を言うな。我がカムルード家は随分後の家だが、オルハウル家は建国時代から続く家柄だ。こちらとは天と地ほど違う。潰されるて終わるだけだ。何よりオルハウル家は甘くない」
「チッ、そっちからも難しいってなると、オレ達が遊べる女も減るぞ。この調子で闇ギルドが潰されていくと、安値で使える女が減るじゃねえか。裏組織の連中の所は無駄に高い女ばっかりだからな」
「お前がケチで金払いが渋いだけだろ、オレ達は娼館で何の問題もねえっての。お前が何かするなら勝手にすりゃいいが、オレは一切庇わねえからそのつもりでな。お前みたいなのに足を引っ張られたくねえしよ」
「んだと!?」
「静かにしろ。酒を飲んでた事で咎められるならいいが、話の内容が漏れたらどうする? それよりも侯爵家の三女をどうにかする方法を考えるべきだ」
「おい、マジか。さっきヤベー家だって言ってたじゃねえか。にも関わらず、オレ達を巻き込むってのかよ。勘弁してくれ」
「無理矢理にやるのは危険だと言っただけで、正規の方法でなら排除する事は難しくない。あの女が上手くいっているのは、持ち込まれた物が正しかったからだ。なら間違っている物が送り込まれたら?」
「オレ達で適当なのをでっち上げて、あいつに上申させれば良いって事か? そしてデタラメだから大失敗すると。上手くいけば、あの女の求心力は衰えるな。最近、急にデカイ面し始めやがったしよぉ」
「上手くいったら罠に嵌めて、あの爆乳をゲット出来ねえかな? いちいち目の前で揺らしやがるから、ムラムラして仕方ねえんだよ」
「分かる、分かるぜ。オレも何度あの女をヤってやろうかと思ったか。侯爵家の女じゃなきゃ、とっくにヤってるっての!」
「それで、どんな感じの文書にするんだ? あの女だってバカじゃねえ、簡単に騙されてはくれねえだろう。ここは元々怪しい感じのところが良いんじゃねえかと思うんだが……」
「だったら、あそこはどうだ? <妖精の洞>とかいう怪しげな宿があるだろ。客も碌に入ってねえ感じのトコ。あそこなら使っても問題ねえ筈だ。何か問題あったら、オレ達がみ、つけ……に」
<妖精の洞>の名前が出た時点で、こいつらは抹殺決定となった。肉塊が聞いているというのに口走るとは、愚かな連中である。麻痺した連中をさっさと肉で包んで転送し、一人一人の脳をレティーに食わせる。
その結果、カムルード伯爵家の関与は無く、ウェルズ・アトン・カムルード個人の関与であった事が判明。どうやら<強欲の腕>以外にも関わりがあったらしく、他の闇ギルドの捜査も妨害していたらしい。
その見返りに金を受け取ったり、女性を宛がわれたりしていたようだ。しかし最近、闇ギルドの人員が行方不明になったり、闇ギルドそのものが潰れたりと言う事が相次ぎ、あまり甘い汁が吸えなくなっていた。
今日会った時に不機嫌だったのもそれが理由だったらしい。バカバカしいような気がするが、カムルード伯爵家の関与が無いならば、後は宿舎の中の者の抹殺で済む。
ミクは愚かな連中の脳から得られた情報を元に、次々と犯罪者を喰っていくのだった。
……全て喰い終わったミクは宿の部屋へと戻る。そこまで数も多くなかったので時間も掛からずに終わり、後は本体空間で朝まで暇潰しをするのであった。
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明けて翌日。朝日が出たので起き上がり、準備を整えて部屋を出る。食堂へと移動して大麦粥を頼み、大銅貨1枚を支払って椅子に座る。ゆっくりと待っていると、イリュが起きてきた。
「おはよー。昨夜、王都守備兵の宿舎に行って喰ってきたから」
「おふぁよー。うん、わか……うぇあ!? 王都守備兵!?」
「イリュ、今すごい声が出たけど? ……ああ、うん、王都守備兵だね。そんな顔を近づけなくても話すよ」
「だったら、キッチリ、しっかり説明しなさい!」
ミクはイリュに詰め寄られたので昨夜の事を話し、それを聞いたイリュは難しい顔をした。
「ミクが食べた事自体は特に問題ないし、ウェルズとかいう伯爵家の四男は悪い噂しかない奴だからどうでもいんだけどね。思ってる以上に王都守備兵に入り込まれてるのが、ちょっとマズい」
「マズいのは分かるけど、ちょっとなんだ?」
「うん、ちょっとマズい。ここに手を入れるのに成功してるって事は、相当程度ゴールダームの防衛体制、それの情報が抜かれてるって事。敵国が攻めてくるって可能性は低いけど、金を掴まされて抜け荷をする奴が出かねない」
「それ、フィグレイオであったよ。抜け荷とトンネルの両方で、王都フィラーに色々入れてた奴等が居てさ、その所為でシャルが怒ってた」
「そりゃ怒るでしょうよ。薬物とかを持ち込まれるのも厄介だけど、そういう物を持ち込めるって事は、危険な魔道具も持ち込めるって事なのよ。中には辺り一面を炎の海にするような魔道具もある。それが使われる可能性も考えなくちゃいけない」
「バカがお金の為だけに、そんな物を入れかねないって事ね。そもそも碌でもない奴等だけど、闇ギルドや他国の工作員からすれば狙い目の連中な訳か」
「そういう事。そして内部から崩されるなんて古今東西において珍しくない。対処しなきゃいけないけど、公権力はこっちが手を出せないのよね」
「私は出せるけど?」
「………そうね、ミクにやってもらえばいいか。ミクにとっても食事なんだし」
「まあね」
どうやら新たな”肉”の補充先が決まったようである。




