1042・ダンジョン20階の迷宮型エリア
Side:ファーダ
目の前を塞いでいるのは、昨日ここで声を掛けたヤツだ。魔法陣の前で毒で苦しんでいるヤツを助けようとしていた、おそらくは公爵家の者なんだろう。俺達にとってはどうでもよく、且つ関わりたくもない連中だ。
「お待ちを! 私はドラグール公爵家に仕えている者ですが、貴方は昨日お助けいただいた方ですね?」
「さあ? 勘違いしているのではないか? 俺達はダンジョンに行きたいのだが、他を当たってくれ」
「そうはいきません! そもそもダンジョンに挑んでいる人間など貴方がたをおいて他には居ないでしょう! 我が主、ドラグール公爵様が御嫡男様と御息女様を助けて下さった方に是非お礼をと言っておられるのです」
「そうか。礼が貰えるなら今すぐ欲しい。俺達に関わらないという礼がな。昨日も言ったように邪魔だから助けただけだ。それ以上は何も無い。じゃあな」
「お待ちを! そのような事が通る訳が無いでしょう! 貴方はドラグール公爵家を何だと思っているのですか!?」
「面倒な連中としか思ってないが? そうやって俺にいちいち関わろうとしてくる鬱陶しい連中、俺に命じようとしてくる勘違いした連中。そんなところか?」
「だな。そもそもこちらは礼など要らんと言っているし、迷惑だから関わってくるなと言っておるのだ。分かるか、貴様らの面子だなんだという事が、我らにとって既に迷惑なのだ。理解しろ」
「何だ貴様は!? 私がこちらの者と喋っているのに邪魔をするな!! これだから人間というゴミは嫌いなのだ!」
「なら、大人しく眠っていろ。鬱陶しい」
ノノがピンポイントでバカにだけ殺気を向けると、愚か者は一瞬で気絶した。そうなる程度だというのは分かっていたので、俺達は気絶した阿呆を無視してダンジョンへと進入する。周りがどよめいていたが、俺達にはどうでもいい事だ。
昨日ダンジョンの地図は20階まで作っているので、俺達は一気に走っていき20階まで進んで行く。10階のボス狼は出てきた瞬間セリオが撥ね飛ばして殺してしまい、俺が頭を串刺しにし、ノノは首を切り落とした。
出てきた瞬間に殺された憐れな狼は無視し、ドロップをアイテムバッグに入れたらさっさと進む。そのまま20階まで走って行き、今度は蛇の周回だ。昨日それなりの金額で売れたので、今日は<5号毒消し>を20本ほど手に入れてから先へと進もう。
出てきた瞬間ノノに首を切られたり、セリオに噛み千切られたりする憐れなボス蛇。活躍どころか抵抗する事も出来ずに死ぬ事20回。<5号毒消し>が十分に溜まったので、21階へと進んだ。
ここからは迷宮型である為、簡単には進めないようになっている。俺達は早速進んでいき、おかしな場所を発見した。同じ床の癖に魔力が若干集積している場所がある。俺は皆を離れさせ、敢えてそれを踏んだ。すると地面が割れて下に落下し始める。どうやら落とし穴だったようだ。
とはいえ落とし穴のようなチャチな罠に殺される筈も無く、俺は腕を伸ばして落とし穴の縁に手を掛け、一気に体を持ち上げた。そのパワーのまま体を床より高い場所まで持ち上げて腕を戻す。傍目からは俺の腕がゴムのように伸びて見えただろう。
「落とし穴とは古典的な罠だが、なかなかに悪辣だな。下にある石の槍には毒が塗ってありそうだ。何やら紫色の何かで濡れているみたいだからな」
「急にトラップが出てくるようになったが、これに手間を取られて進めんのだろうな。俺達からすれば微細な魔力の違いぐらい容易く分かるが、竜人族では難しいのかもしれん。ここの王からして大雑把な感じだったからな」
「他にも様々なトラップがありそうですし、注意して行きましょう。中には気付けない罠もあるかもしれません。ダンジョンの中は外と比べて色々と違いますから」
『そうだね。魔力がボヤーッとある所為で、さっきの落とし穴も分かり難かったしさ。僕でも分かる差ではあったけど、これ以上に分かり難くされると大変かな?』
「とりあえず俺達が気付かない事はないから、その都度声を掛けていく。それなら気付けるだろう。これも訓練と思って頑張ってくれ」
『はーい』
【魔導技巧】を持つレティーはともかく、セリオは脳筋系のスキルだからな。感知系はレティーの方が上だ。だからこそ二匹を組ませているのだが、それで上手くいっているから、今はまだどうこうと言う必要はあるまい。
俺達は進んでいきつつ、床や壁などを調べて進む。中には横の壁から大量の槍が突き出てきたりするトラップもあったので驚く。槍自体は落とし穴と同じく石で出来ている物だった。おそらく壊されてもダンジョンが修復するのだろう。
それでも石の槍が素早く突き出されるのだ、十分な殺傷能力を持っている。それ以外にも天井から下がっているクロスボウから石のボルトが射出されたりしてくるが、そういった物は掴んだり弾いたりすれば傷を受ける事も無い。
しかしどのトラップにも先端に毒が塗られており、明らかにこちらに対する殺意が見える。どうやらダンジョンは20階からが本番のようだ。ここまでは戦闘能力や索敵能力が必要とされたが、ここからは搦め手に対する判断力と罠の察知能力が問われるらしい。
とはいえ俺達にとっては然したるものではなく、走りながら突破していく。正直に言えば落とし穴以外は気にする必要の無いトラップであり、強引に壊せば済んでしまう。セリオは【剛竜外鱗】を使って弾き返しているので傷一つ負っていないしな。
罠が多いからか、出てくる魔物は蝙蝠系とムカデ系だけだ。天井からぶら下がって魔法を放ってきたり、落ちてきて噛みつこうとしてくる。蝙蝠は小さくて群れており、ムカデは体長1メートルほどで胴の直径15センチほどだ。
大きな牙顎を持っており、そこから紫色の毒液を噴射してきたりする。どうやらこのエリアのトラップに付いている毒はコイツの毒らしい。解析したところ、それなりに強力な毒だという事が分かった。急に難易度が上がっている気がするが、この星のダンジョンはこんなものなのだろうか?。
このダンジョンが初めてなので分からないが、意外とこんなものなのかもしれないな。そんな事を思いつつ、俺達は30階に到達した。誰も居ないので遅い昼食をボス扉の前で食べるのを見つつ、少しの休息を行う。
セリオ達が食べているのは、謎の草の肉巻きだ。昨日の夜に飛んでいた際、猪系の魔物を殺して血抜きをし、アイテムバッグに仕舞っていた。それと10階からの草原に生えていた謎の草を採取しておいたので、それを巻いて焼いた物を食べさせている。
あの謎の草は栄養が豊富で栄養価が高いという謎仕様だったので、食べないという選択肢は無い。だが苦味がキツくて普通に食べるのは難しい。だから肉で巻いてタレを付けて食べさせているのだ。これなら問題なく食べられるからな。
「お肉のタレの御蔭で、この謎の草も食べられます。これ単体だと、私でも味覚を停止しないと食べられません。栄養が豊富で多いのは分かりますが……」
『本当にね。苦味があり過ぎて食べる気がしないよ、まったく。肉やタレだったり、ドレッシングがあるから食べる気になるけどさ』
どうやら10階以降に行っている連中が採ってきて売っているみたいだが、これが食堂で出てくるという事は、竜人族も体に良いという事は分かっているのだろう。口に入れて咀嚼したら水やスープで流し込み、その後は他の食べ物で口直しをするようだ。
そんな光景をノノは食堂で見ていたらしい。
「そこまでして食うのだから、体感的に栄養価の事に気付いているのであろうよ。でなければ食わんと思うしな」
だろうな。それは俺もそう思う。何しろドレッシングも何も無しなんだ。耐えられないだろう。




