1041・初めてのドラゴン肉
Side:ミク
朝。フィルが起きたので私は近付き、おむつを調べる。案の定していたのでズボンを脱がし、おむつも脱がせながら【清潔】で綺麗にしていく。その後は新しいおむつを履かせてズボンを履かせると終了。フィルはキャッキャと手足を動かし始めた。
ベルに当たると起こしてしまう為、私はフィルを抱き上げて安楽椅子に座る。いつものように声を出しながら手足をジタバタ動かすフィル。私は音が広がらないようにしつつ、フィルに好きなだけ暴れさせる。これも運動だからね。
フィルは御機嫌にジタバタしつつも揺れて楽しいのか、途中からジタバタを止めて揺れを楽しむようになった。疲れて休憩なのかもしれないけど、今は大人しいね? 暴れてても良いんだけど。
そんなフィルと二人で居ると、皆が続々と起きてきた。ベルはまだ寝ているみたいだけど、眠りたいだけ寝かせておけばいい。どうせ何処かのタイミングでパチッと目が覚めるのは確実だからね。子供ってそんなものだし。
そう思っていたらベルの目がパチッと開き、むくりと起きだしてきた。目を擦りながら周りをキョロキョロとすると、イリュが目を擦るのを止めさせて【清潔】の魔法を使う。綺麗にしてもらったからか喜び、イリュに抱き上げられるベル。
「あーう! う! う! えうっ!」
「ふぃる、おはよう!」
「うー!」
挨拶をした二人は上機嫌に会話をし始めたが、フィルは喋る事がまだ無理なので会話になっていない。とはいえ本人達は会話をしているつもりなのだろう。楽しそうにしている。そんな二人を見つつイリュが話しかけてきた。
「昨日ファーダが言っていた、こちらに襲撃を掛けてきそうな連中はどうなったの?」
「昨夜ファーダとノノに出てもらって壊滅させたよ。スラムの連中を金で雇ってたけど、ノノが本質を出して気絶させた後、善人化してから記憶を喰った。襲撃してきた連中は昨日丸一日の記憶を失ったからね、兵士に捕縛されて追及されても記憶に無いよ」
「つまり自分達が何をしていたかも分からない、と」
「それどころかファーダ達に喧嘩を売ってきたバカは、その喧嘩を売った記憶すら失くしたよ。つまりファーダ達に対する怒りとか恨みも無いんだ、その大元から失ったからね。仮に周りのヤツに聞かされても意味が分からないだろうさ」
「うわぁ……。記憶が無くなるとかシャレにならないわねえ。流石はミクだと思うけども、本当に容赦が無いと思うわ。怒りや恨みの元から断ってしまうなんて」
「挙句に善人になってしまっているから、こちらに何かをしてくる事も無いわ。相変わらずと言うべきか、何と言うべきかは困るわね。元から断たれたら何も残らないもの。場合によっては赤ん坊にまで戻す事ができるんでしょ?」
「まあ、記憶を全て喰らえば、生まれたての白痴と同じ状態にはできるね。その状態で助けてくれる者が居れば生きられるだろうけど、居ないか捨てられたら終わりだよ。でもねえ、それはあんまりしたくない。絶望も後悔も出来ないからさ」
「そういえばそうね。白痴状態になったら何も分からないんだから、それではやった意味が無いわ。やはり後悔と共に絶望してもらわないと、せっかくこちらがお膳立てした価値が無いもの。そこまでのヤツは徹底的に潰さなければ駄目よ」
会話の最中にもう一つの部屋からシャル達が来たので、私達は準備をして食堂へと移動する。昨日と同じように注文後、フィルに離乳食を食べさせる。中身は今までと少し違っており、フィルの歯が伸びてきているのでドラゴンの干し肉を小さくして入れてある。
柔らかくなるまで煮ているので飲み込んでしまっても平気な筈だ。そんな離乳食を食べさせているのだが、フィルの様子がおかしい。一口目で既に違うんだけど、口に入れた途端に口を半開きにして放心してしまった。食べようとすらしない。
少しスプーンを揺らすと気を取り戻したのか、その後は物凄い勢いで食べ始める。おそらくドラゴンの干し肉が気に入ったんだろうけど、初めて食べる者はたとえ赤ん坊でも変わらないらしい。ドラゴンの肉には怪しい成分でも含まれているんだろうか?。
私が解析してもそんな成分は見つかってないんだけどね? 誰が食べても初回はこんな感じだ。昨日までと違い、フィルは食事中に微動だにせず、ひたすらに口を動かし続けている。瞳は一点を見たまま動かない。というか見ているようで見ていない。
おそらく口を動かす事と味わう事に集中しているんだろう。そして昨日とは違い、あっさりと満腹になった。食べたくても食べられない感じでギブアップのようだ。その段になってやっと正気に戻ったらしい。
「あ、う! あーう! う! あぶぅ!!」
「ドラゴンの干し肉にテンションが上がったのか、凄い反応だね。さっきまで一心不乱に食べてたのに」
「ドラゴンの干し肉をフィルにあげるって大丈夫なの? そろそろお肉を少し食べてもいいとは思うけど……」
「小さくして十分に柔らかくなるまで煮込んだから大丈夫だと思うよ? そこまで大量に入れている訳でもないし。それでも初めての味なのと美味しかったんだろうね。瞳は動かずに一点を見てるし、口はひたすらに動き続けてたからさ」
「ああ、初めてドラゴン肉を食べたヤツと同じ反応かい。赤ん坊でも同じ反応っていうのが、流石ドラゴンと言うしかないんだろうねえ。とはいえ体を沢山動かしてるし、そろそろ肉類を食べさせても悪くはないか」
「あくまでも少しずつだけどね。消化は他の物と比べても良くないからさ。それでも体を作るには必要な栄養素も含むからね、肉は」
料理が来たので会話を止め、私達は注文した料理を食べていく。ドレッシングを適当に出してサラダを食べさせ、全てを完食したら店を出る。私達は今まで通りに町や村の確認と各種地形の確認に出発だ。
王都の入り口から外へと出ると、バイクに乗って進んで行く。昨日は王都から東の方へと行ったが、まだまだ道半ばで引き返しただけだ。今日からは私達も王都へと戻らず転々と竜人国内を移動していく。
昨日のファーダからそれなりの金銭を貰っているので、十分に旅先で宿に泊まったり食事をしたりは出来る。なので早めに終わらせておきたい地形データの収集は、今の内に一気に終わらせておきたい。
次に王都に帰るのがいつになるかは分からないが、私達はバイクに乗って風を浴びながら進んで行った。
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Side:ファーダ
ミク達が出発する前に俺達も人型になり、今は王都の入り口に居る。ミク達はこれから竜人国内を回っていく為、俺達は本体空間を経由した移動が出来なくなる。全く出来ない訳ではないが、マーカー役はミクなのでミクの付近にしか出現できない。
一応第一の分体たるミクをマーカー役で固定しないと色々と面倒な事になるらしく、マーカー役を代わる事は出来ない。なので体の変化は出来ても、本体空間に戻るのは余程の事でも起きないとするべきではない。
それはともかくとして、今日もダンジョンへと行き金を貯める事にしよう。ついでに攻略であって、俺達にとってダンジョンは金を稼ぐ為の場所だ。
王都の外に出た俺達はダンジョンを囲ってある壁に近付き、門番のようにして塞いでいる連中に登録証を見せる。当たり前だが何の問題も無く入った俺達は、ダンジョンへと進入する魔法陣に近付く。
その時、大きな声がしたもののスルー。俺達はさっさとダンジョンに向かう。が、俺達の前に出て進路を塞ぐヤツが現れた。面倒な事だな、まったく。




