1040・愚か者の末路と地図
Side:ミク
夕食を食べに食堂に行き、皆が注文をしているのを見つつ、私はフィルに離乳食を食べさせる。大人しくフィルは食べているが、たまにキョロキョロと顔を動かして周囲を見渡す。何か興味を引かれるものでもあったかな?。
そんなフィルの様子をベルも見ているが、料理が来るのを楽しみに待っているようだ。少し体が左右に揺れている。ベルを落ち着かせる為にイリュが頭を撫でたりしながら話し掛けているが、ベルは食事が楽しみならしく碌に聞いていない。
私はフィルに離乳食を食べさせているが、十分にお腹いっぱいになったのか口元に運んでも食べなくなった。いつもよりも食べた量は多かったので、ゆっくりと成長してきているらしい。良い事だ。
私は手早く離乳食を片付け、フィルをベビーキャリアに乗せて抱き上げる。そのまま待っていると注文した料理が来たので、皆と一緒に食べ始めた。昨日とあまり変わらないものの、ガイアとは違うのだからメニューの種類が豊富な筈が無い。
食品ロスや廃棄が当たり前ではないのだから、なるべく店は廃棄などを出さないのが前提であり、その為に料理の種類は少ない。しかしそれは当たり前の事だし、常時大量のメニューを用意して廃棄を出している方が異常なのだ。
昨日とあまり変わらない食事を済ませ、サラダにはドレッシングを掛けさせる。これでベルも食べるし、このサラダに使われている謎の草はやたらに栄養価が高い。ベルには食べさせたい物なので、多少強引な手を使ってでも健康の為に食べてもらう。
食事が終わったら宿の部屋に戻り、子供達をベッドの上に敷いたエアーマットに寝かせて、私は安楽椅子に座る。ベルもフィルも食事終わりからうとうとし始めたので、お腹が満たされたら眠たくなってきたようだ。消化にも体力を使うからだろう。
私はそっと窓を開け、そこからファーダとノノを外に出す。二人はムカデ形態で外に出ると、近くの他人に見えないところで人型形態になり愚か者を待つ。私は窓を閉め、安楽椅子に腰掛けると朝を待つのだった。
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Side:ファーダ
さて、ギルドで会った愚か者が徒党を組んで襲ってくる筈だが、それがいつかは分からんから大人しく待つか。ノノと二人で気配、魔力、精神、生命、魂魄、存在を隠して俺達は待つ。体は透明トカゲの能力で隠せても服は隠せないので、俺達は宿の近くに隠れている。
ムカデのような何も着ていない状態であれば、見た目も透明になれるのだが、今のように服を着ていると服だけ残るのだ。まるで隠れていない透明人間のようになってしまうので、透明になる意味が無く簡単にバレてしまう。
なので大人しく隠れているのだが、俺はノノと顔を見合わせる。どうやら阿呆どもが徒党を組んでやってきたらしい。しかし来た方向はスラムからだぞ? この星ではスラムを善人化していないが、奴等はスラムの連中と関わりがあったのか?。
宿の近くに奴等が来た為、俺達は宿の前に移動して奴等を待ち構える。夜ではあるものの真っ暗闇ではなく、そして竜人族は少々の暗さでも見えているらしい。ただしハッキリとは見えないようだが……。
「お前達、止まれ。それ以上進むなら敵と見做す」
「なに? テメェは!?」
先頭を歩いているのは探索者ギルドで散々喧嘩を売ってきた阿呆だ。そいつは後ろにゾロゾロと連れているからか気が大きくなっているらしく、こんな夜中なのに大きな声を出している。こいつは自分がやっている事を理解しているのか?。
「テメェにはたっぷりとした礼がしてやりたくてよぉ。ここで会ったのは都合が良かったぜ!!」
「静かにしろ。貴様は兵士を呼び寄せたいのか? その時に困るのは襲撃犯の貴様らの筈だが?」
「チッ! 口だけは達者な人間が! お前達、さっさとこいつらをブッ殺すぞ!!」
「誰に命令してるんだ、お前は? 金を払ったら戦ってやると言ったが、お前みたいな三下に従うとでも思ってるのか? 調子に乗っているようなら殺すぞ?」
「わ、分かってる。ちゃんと金を払ったろうが……!」
「ハッ! 所詮は金を払ってオレ達を連れてこなきゃ喧嘩も出来ないトカゲが。テメェみたいなのが居るから竜人族が舐められるんだよ。おい、お前ら。やるぞ」
「「「「「「「「「「へい」」」」」」」」」」
「悪いが、お前達はここまでだ。御苦労様だと言っておいてやろう。ではな」
「あん?」
ノノが本質を出した瞬間、宿を攻めようとしていた全員が気絶した。俺達のような怪物の本質に高々この程度の連中が耐えられる筈も無し。俺達は気絶したバカどもをさっさと善人化し、それが終わったら全てのヤツを表通りに運んだ。
その時ついでに喧嘩を売ってきたバカの手を治しておく。生命の神の権能を用いれば治す事は容易いので、時間も掛からずに綺麗に治した。それには当然理由がある。
何故こんな事をするのかと言えば、バカどもの記憶を少し喰ったからだ。具体的には今日一日分の記憶を喰らっておいたので、表通りで気絶していたら本人は全く理解できないだろう。ついでに兵士に捕縛されても記憶が無いので不明だ。
昨日ギルドに居た奴等に聞き込みをすれば俺達が怪しいのは分かるだろうが、怪しい止まりであってそれ以上は調べられない。何故ならそれ以上は何も出てこないからだ。後は憶測にしかならない。
監視カメラがあれば俺達の行動は記録されているだろうが、そんな物はこの星には無いようなので問題なし。そもそも在れば魔力か電気で動いている筈なので、調べればすぐに稼動しているかどうかは分かる。それが感じられないのだから、監視カメラは無い。
俺達はバカどもを表通りの真ん中に放置し、適当な路地に入ると鳥に体を変えて飛び立つ。これから俺達がやる事は竜人国の調査だ。正確に言うと国全体の地図作りだな。これは鳥になって飛び、上から俯瞰した形で地図に描く事になる。
夜でも正確に確認できる目と、正確に記憶しておけるからこそ出来る事であり、それが無いなら地道に歩いて調べるしかない。ガイアの日本に昔居た、<伊能忠敬>とかいう人間と同じようにやるしかないだろう。むしろあんな地道な事をよくやったと賞賛してやれるぐらいだ。
俺達なら上空から俯瞰して正しい形を書き記せば良いだけだが、それが出来ない人間があそこまでの地図を作り上げたのだからな。あれは本当によくやったと言うしかない。
とはいえ俺達がそんな苦労をする理由などなく、鳥として飛びつつ本体が地図として描いていく。それを繰り返していくと、大凡の縮尺が合った地図が半分ほど完成した。夜の内では出来る事も限られるので、今日はここまでだな。
もうそろそろ朝日も昇ってくるし、帰らないと姿を見られる可能性がある。この星には存在しない鳥の可能性が高いので、姿を見られては困るのだ。鳥が飛んでいれば喰っても良かったのだが、生憎と一羽も飛んではいなかった。
仕方なく本体経由で戻り、ノノは宿の部屋に戻ったが俺は本体空間のままだ。そもそも出て行く必要がないので、今はまだ本体空間に残っている。ダンジョンには行くが、それは今ではないしな。
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Side:ノノ
夜中の地図作りもそれなりには上手くいったので、この国の形が何となく見えてきた。それぞれの町や村の情報も書き記していけば、かなり詳細な地図が出来上がる筈だ。完成した暁には複写してこの国の王に放り投げればよかろう。
感涙に咽び泣くか、それとも詳細過ぎると怒り狂うか、それとも呆れて声も出ないか。どれかは知らんが、きっと素晴らしいリアクションを返してくれるであろう。
ま、おそらく怒る事はないであろうがな。




