1036・模擬戦
Side:シャルティア
「流石にそれは困るよ、異界の知識や技術は喉から手が出る程に欲しい。それで人間種も魔族も強くなってきた歴史があるんだ。アタシ達は言うなれば遅れてる。で、ある以上は、少しでも遅れている部分を減らすしかない」
「「「「大将軍!?」」」」
「残念ながらそれは事実でしょう。人間種や魔族の軍は召喚者の知識などで大幅に強化された時代があるそうです。我々にはその知識がありません。そこで大きな差となってしまっています。これは認めるしかない事」
「ああ、その通りだ。気合いや根性で戦うなど愚の骨頂。戦いというものは勝つべくして勝つのだ。その為に私は五番隊の隊長になったのだからな。それをどこぞの阿呆どもは軽視しているが」
「「「「………」」」」
「というか軍のシステム以前の問題で、こんなに将軍達の足並みが乱れてて勝てるの? そもそもが無理な気がして仕方がないんだけど……」
「そういう部分も無い訳ではないのです。足並みが揃わない隙に国民を拉致されたりという事があったと記録にも残っていますし、80年ほど前の戦いでもそれはあったそうです」
「もうさ、五将軍を止めたらいいんじゃない? 普通はそれぞれの隊長の上に将軍が居る。この姿が普通でしょ。何で大将軍が上に居て、各々の隊長が将軍やってんのよ。この形がそもそも歪でしょうが」
「あー……それは今まで散々議論に上がってたんだけどね。元々はそれぞれの派閥がガッチリ固めてたんだよ。その名残として今でも残ってしまってるのさ。各派閥に配慮しなければいけない時代があって、その時に将軍位を与えちまったんだ」
「権威を寄越せと言い出したのかい。呆れるほどつまらない連中だね。国を守るという事をいったい何だと思っているのやら……。それはともかく、攻めも守りも遊撃もバラバラだってんじゃ、そりゃ上手く戦える筈が無いだろう。完全に種族能力で勝ってるだけかい」
「むしろ種族としての能力が低い分、他の種族の方が頭を使って戦ってるって事になるわね。頭が悪いっていうか、脳筋で戦ってたって事? それじゃ勝てる戦いだって勝てないわよ」
「流石にそれはねえ、私でも駄目なのが分かる。で、それをどうにかする必要があると。まずはボコボコに凹ませる必要があるんじゃない?」
「そうだね。模擬戦でもするか。確かこの国には上軍と下軍とかがあるんだろ? あたしは下軍の奴等を指揮するから、あんた達は上軍の奴等を指揮しな。それで指揮というものを教えてあげるよ」
あたしは五将軍とやらを挑発しつつ、下軍の者の所に案内させる。案内役はアニューとかいう大将軍補佐だ。先程のあたしの言い分で五番隊のアーデュラ以外は怒ってたから問題ないだろう。輜重隊は鍛えるってもんでもないしね。
案内されて王都を下っていくんだけど、どうやら下軍の建物は王都の外にあるみたいだね。まあ、王都を直接守る姿を見せるにはそれが一番だけど、王都から外された気分になってる可能性があるか。こういう部分で腐る奴ってのも居るからさ。
あたし達は王都の門から外に出て、下軍の者達が居る建物へと案内される。こちらにも練兵場があり、元気に訓練している奴等は居るようだ。腐ってる奴等は少ないかな?。
この下軍を纏めている奴の所に案内させているんだけど、建物は頑丈だが古臭いね。とはいえ頑丈な分だけお金は掛かってるか。それをどう解釈するかは兵士それぞれの胸の内だけど。
下軍を統括している大隊長の下に案内してもらい、そこで優秀な兵100名を見繕ってもらう。「練兵場で上軍の奴等100名と戦うから、勝ちたい奴は参加しろ」と言うと、一瞬の静寂から爆発的に大きな声が広がった。
どうやら下軍の奴等は成り上がれる機会を待っていたようだね。これは良い事だ。下の奴等がやる気を失くすと、良い循環が生まれなくなる。下の奴等が成り上がろうと足掻くから、上の奴等も必死になるんだ。それが良い循環をしている状態さ。
立場などが固定されると、国や組織は澱んで悪くなる。川と同じなもんで、常に流れているのが正しいのさ。
とりあえず参戦を表明した100名を連れて、あたしは練兵場に集合させる。後は上軍の連中がここに来るのを待つだけだ。
上軍の建物は王城のすぐ傍にあるからね、こっちから向こうには行けないと決まってる。そういう事もあって、上軍勤務はエリートの証でもあるって訳だ。王城の近くに行く事を許されてるんだからね。
待っていると来たので、あたしは下軍の奴等に戦いというものを教える。それは気合いで上回った方が勝ちだと、殺す気で打ち込めと声を掛けていく。戦いの本質なんてそんなもので、相手の圧に屈したら負けるんだよ。
戦術だとか戦法だとか色々とあるけど、100人程度じゃ大して意味は無い。勝つか負けるかは練度の差と気合いの差だ。特に気合いの差は大きい。
100人が横に5列、1列に20人が並んで時を待つ。始まったら細かい指示なんて意味がないんだけど、あたしのスキルは少々特別だからねえ。上手くいく筈さ。……って、合図は大将軍が出すのかい。
「それでは上軍一番隊と下軍の戦い…………始め!!」
「奴等を倒せば道が開けるよ。行ってきな、お前ら!!!」
「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」」」」」」」」
あたしの【群狼女王】の効果は大きいよ? あいつらは果たして耐えられるのかねえ。たとえ狼人族でなくとも効果は十分に発揮されるみたいだし、あそこまで暴走している兵士達を相手に勝つのは難しいだろうねえ。
「おらぁ!!」 「そうりゃあ!!」 「死ねぇぇぇ!!」 「ブッ潰せ!!」
「くそっ!」 「こいつらどうなってる!?」 「こんなに強かったか!?」 「ぐぁ!!」
上軍の奴等とぶつかったけど、こっちが優勢に押してるねえ。戦争ってのは、こんな気合い一つで勝ったり負けたりするもんなんだよ。一番隊のヤツはその事を分かってないのか、それとも声を掛けても士気が上がらないのか、果たしてどっちだろうね?。
「お前達! 基本に立ち返ってしっかりと戦え! 相手は押して来ているだけだ、すぐに息切れする!!」
ほう、そういうところは分かってるんだねえ。とはいえ【群狼女王】の統制化にある兵士を舐めるんじゃないよ? お前には今までに味わった事のない地獄を味わってもらおうかい。
「お前ら! 敵はこっちにビビッてるよ! もっと押し込みな!! そして弱い奴等は喰われるしかないと叩き込んでやれ!!!」
「「「「「「「「「「ヒャッハー!!!」」」」」」」」」」
ありゃ? なんか蛮族みたいになっちまってるねえ。ま、上軍のエリート様とやらをフルボッコに出来るなら何でもいいんだけどさ、これ元に戻るのかちょっと不安ではある。こんな押せ押せ戦法に味を占められちゃ困るし、終わった後に釘を刺しといた方がいいか。
「右の奴等が怯えて崩れ始めたよ! 怯えりゃ喰われるしかないと教えてやりな!!!」
「「「「「「「「「「ガァァァァァァァッ!!!!」」」」」」」」」」
既に言葉ですら無くなってるね。こりゃ竜人の本能か何かに火が着いたかな? とはいえ、そういうノリが一番怖いのが戦場だ。そんな一時的なノリだけで戦場が引っ繰り返る事は当たり前にある。
ガイアの日本に居たっていう昔の人物が残した言葉に、<戦は水物>という言葉があるそうだ。確か<朝倉宗滴>っていうんだったかね。その言葉は戦の真理の一端を表してる。
戦場ってのは水のように絶え間なく変化し、そして手に入った筈の勝利が容易く手から零れ落ちる。そういう意味でも<戦は水物>さ。最後まで油断はしないよ、あたしは。
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