1035・大将軍補佐と五将軍
Side:シャルティア
さて、あたし達もそろそろ王城へと行って訓練をさせないといけないね。今日は初日だし、どんな跳ねっ返りが居るか楽しみだよ。ワイバーンライダーなんて連中も居るみたいだし、どれだけの連中が反発してくれるかね? 多ければ多いほど良いから頑張ってほしいところさ。
人数が多ければ多いほど、凹ませた後は楽になるからねえ。歯が立たない相手だと理解したら従順になるし、それでも後ろから下らない事をやってくるなら怪物に喰われるか善人化だ。あたし達にとって悪い事は何も無い。
皆とゾロゾロ連れだって王城の方へと行くけど、どうやら今日の門番から敵意や悪意は無いか。昨日までのがバカ過ぎただけなんだけどさ、それでも次もバカっていう可能性があったからねえ。ちょっと期待したんだけど、二度もバカが続く事は無いらしい。残念。
次も凹ませて更にこちらに有利になるようにしたかったんだけど、そうそう上手くは行かないらしい。ま、それならそれでやりようはあるから良いかね。あたし達は王城の門を通って中へと入る。
そのままあたし達は練兵場の方へ行き、マハルとカルティクは宮廷魔法士の建物の方へと行った。一応城に隣接してるとはいえ、〝宮廷〟魔法士っつってる割には城の中に建物が無いんだね? どういう事なのか……は、聞けば分かるか。
練兵場に着いたあたし達は、隣接している軍の建物へと行く。ちなみに城の西に隣接しているのが宮廷魔法士の建物で、東に隣接しているのが練兵場と軍の建物だ。ちなみに軍は二つに分けられていて、上軍と下軍とあるらしい。
上軍はいわゆるエリート、下軍はいわゆる雑兵。これは絶対的な実力で決まっているらしく、貴族だろうが庶民だろうが元スラムだろうが、実力があれば出世できる。
それが軍となっており、その不文律は王母が守っているらしい。だからこの国では軍は割と人気の職業となっているみたいだ。
どんな時代でも国でも、成り上がりが出来る職業が人気になるのは当然の事。そこには夢があるからね。
それはともかく、あたし達は大将軍の所に移動してるんだけど、何だか七人くらいの気配があるね? 精神も同じ分だけあるから数えた人数が居るんだろうけど、昨日の今日でいったい何なのやら。とりあえずノックして入るかね。
コンコン、ガチャ!
「すまないけど、ノックはしたから入らせてもらうよ?」
部屋の中に入ると、そこには大将軍と見知らぬ連中が居た。それは良いんだが、大将軍のテンションが明らかにおかしい。振り切れてるようなテンションをして……って、<若返りの薬>の効果か。それでテンションがやたらに高いと。
分からなくもないけど、面倒臭いのは御免だからね。正気に戻すか。
「まあ、やっと来てくれたかい! どう? これが若い頃「はい、ストップ!」のアタシだよ」
「申し訳ないんだけどねえ、そうなったのが嬉しいのは分かるよ? でも安易に見せびらかされても困るんだよ。有象無象が押し寄せてきたら面倒なだけなのさ、こっちは。どっかの怪物が暴れるかもしれないから、そうやって自慢するのは止めてくれるかい?」
「あー……、そうだね。アタシも怪物を敵に回す気は無いから止めておくよ。まさかここまでの本物とは思わなかったけど」
「あたし達が嘘を吐く必要が何処にも無いからねえ。むしろ存在する物を存在すると言ってるだけさ。そして運良く一本だけ残ってた。それだけだ」
「そうそう。それは良いとして、わたし達は仕事をしに来たんだけど、ここに居る者達は関係あるの?」
「あるある。アタシの隣に居るのは大将軍補佐のアニューだ」
「初めまして、アニュー・ディンドルと申します」
「そしてそっちに居るのが軍の五将軍だよ」
「ワシは一番隊を指揮する将軍、ドル・グリュウトじゃ。宜しくの」
「私は二番隊を指揮する、セムド・カームルダと申します」
「ワタクシは三番隊を指揮する、オーニス・リュウヴェルドと申しますの。宜しく」
「ぼくは四番隊を指揮する、ディクス・バイハル」
「私が五番隊を指揮する、アーデュラ・モルドバランだ」
「一応説明しておくと、一番隊は攻撃の部隊であり主に槍と剣の部隊。二番隊は防衛の部隊であり、主に盾と砦などの建築。三番隊は遊撃の部隊で、ワイバーンライダーもここに含まれる。四番隊は諜報部隊であり、主に国内や戦場での情報収集。そして五番隊が輜重の部隊さ」
「ふーん………。何で輜重の部隊に一番強そうなのを置いてるの? 別に悪くはないけど、不思議な気がしない?」
「「「「「「「………」」」」」」」
「まあ、確かにねえ。この中じゃ大将軍の次に強いのは、輜重の部隊を率いてるヤツだ。確かに不思議っちゃ不思議な気はするけど、気にしなくてもいいんじゃないかい? あたし達は人事に口出す気なんて無いしさ」
「何で五番隊のアーデュラが一番強いって分かるんだい?」
「そいつが一番隙が無いし、魔力量が多く気配が鋭い。ここまでくるとクラス関係無しに話せば、この中であたし達を抜いた場合は一番強いんじゃないかい? あんたはクラスで勝ってるだけだろ」
「まあ、確かにアーデュラはアタシより上だとは思うけどね。そこまでハッキリと差があったとは……流石だよ」
「恐縮です」
口数が少ないというか、余計な情報は漏らすまいってトコか。無駄な努力だけど、頑張るなら好きにすりゃいいさ。こっちには【精神網羅】のあたしと【真偽ノ瞳】のアレッサが居るんだ。簡単に騙せると思ったら大間違いだよ?。
「我が国には、それぞれの部隊でそれぞれの方針がある。あまり荒らしてほしくは無いんじゃがのう」
「ならそれで良いんじゃないかい? そうやって自国の国民を奴隷にされてりゃいいだろ。自国民より自分のプライドの方が大事みたいだからさ」
「………」
「ドル翁が簡単に切って捨てられるとは、これは面白い相手だ。どれだけ凹ませられるのやら」
「何か勘違いしているみたいだけど、シャルは祖国では歴代最高の将軍、或いは護国の英雄と呼ばれてた人物よ? そのうえ国家の裏の仕事もしていたんだけど……諜報関係の将軍だからって舐めてる?」
「………」
「ですが貴女は違うのではありませんか? 他人の功績で攻撃しようなど、恥ずかしいとは思いませんの?」
「アレッサは元々<吸血鬼族>の真祖で500年以上も生きてたんだけどね。その間に色々とあったにせよ、常人ではありえない知識と経験持ちだよ。死線を潜ったのは10や20じゃ効かないだろうしね。それにそもそもアレッサは兵士を鍛える為の人員だ。あたしとは立場が違うよ」
「一応言っとくと、私はそんな経験は無いよ? 戦争には何回か参加した事があるけど、それは一兵士に近い立場だからね。私は普通だよ普通」
「それでも特殊スキル保持者から逃げ切ったでしょうに。それなら十分に優秀だと思うわよ? かつての弱い時代にそれなんだから、戦場を知らない連中より遥かにマシでしょ」
「そういえば人間種や魔族の国が前に攻めて来たのはいつだい? それを聞いた事が無かったんだけど」
「約80年ほど前だ。その時にも異界から召喚された者がおり、その者達は<奴隷の首輪>を着けられて利用されていた。庶民はともかく、貴族に召喚者を恨む者があまり居ない理由だ」
「あまり居ないだけで全く居ないって訳ではないって事ね。自分が同じ立場なら、どれだけ理不尽な恨みか分かる筈だけど、何処の国にもバカは居るか」
「それは無理というもの。人間種の国や魔族の国と同じように、我が国にも愚か者は居る」
「ま、それが国ってもんだからねえ。それはともかく、あたし達の力が要らないなら帰らせてもらうけど?」
ここはハッキリさせておかないとねえ。上下関係って訳じゃないけど、こっちが教えたくて教える訳じゃない。ここの線引きだけはしっかりしておく必要がある。




