0099・王都防衛守備兵団
王都守備兵。正式には王都防衛守備兵団というのだが、その兵団の建物にミク達は来ていた。
<鮮烈の色>が兵団の建物に入り、そこに居た兵士に話をする。治安維持に関わる情報提供を受けるのも、王都防衛守備兵団の仕事である。
一行が情報を聞く為の部屋に案内されている時、何故か近くに居る兵士が話しかけてきた。
「キミ、彼女達をどこに連れて行こうと言うんだい? おかしな所に連れて行って問題になってはいけない、ボクに任せたまえ」
「いえ、彼女達は情報提供ですので、私達の担当です。カムルード殿は見回りの任務が主ですから、私達とは担当が違いますよ。これは私達の仕事です」
「ほう、キミはボクが何処の誰か知っていて言っているのかな?」
「ならば私は彼女達に、カムルード殿が女性に何をやってきたのか、懇切丁寧に話しましょうか?」
「………」
ミク達を案内している女性兵士と、カムルードと呼ばれた男は睨み合っていたが、その状況はある女性の声で破られた。
「カムルード殿、いったい貴方は何をやっているのです。仲間を睨むとは何事ですか!」
「……チッ、失礼する」
あからさまに舌打ちをして去っていく男。ミクはカムルードと呼ばれた男を見ながら、確かゴールダームに初めて来た時に会ったなと思い出した。とはいえ、今は関係ないと意識を切り替える。
「ありがとうございます、リリエ殿。カムルード殿はここ最近、随分と酷くなっているようで……。以前は、あのような感じではなかったのですが」
「近頃は自身の悪行がバレてきたからか、碌に女性が引っ掛からなくなったみたいね。良い事なのだけれど、その結果ああやって荒れ始めた。妙な連中と関わっているみたいだし、困ったものだわ」
「すみません、リリエ殿。ついてきてもらって良いですか? どうも妙な連中が……」
「本当に王都守備兵なのかしら? 近頃は本当にああいう手合いが増えたけれど、風紀を一度引き締めた方が良いわね。団長に上申しておかないと。それにしても、トーラド殿が案内をしてくれて良かったわ」
「リリエ殿、私の事はオーレムと呼んで下さい。リリエ殿の御蔭で助かった事も多いのですから」
「あれは私がやった事ではないのですよ? 何故か起床したら、部屋の中に悪行の証拠があるんです。私も意味が分かりません。何故かそれが私の手柄になってしまいますし……」
「それでもです。王都防衛守備兵団として、役に立っているというのは助かります。私達も応援として駆けつけましたし、手柄となりました。その御蔭で実家からも五月蝿く言われずに済んでいます」
「オーレム殿は子爵家の次女で適齢期ですものね。私は三女だから、放っておかれていて助かるけれど」
そんな話を聞きつつ、大きな部屋に案内された。密室だと萎縮してしまうし、何かがあっても隠蔽されてしまうので大部屋で聞くそうだ。取調べは狭い部屋で行われるらしい。
「さて、お話を聞かせていただく訳ですが、いったいどんな情報提供でしょうか?」
『おいしい食べ物の情報?』
『あなたが呼ばれた訳ではありませんよ。主やシャルの邪魔になりますので、大人しくしていましょうね』
「………これなんだけど、一昨日に南東区画の露店の場所で、タダで配ってたんだ。怪しいけど、少し飲んでも体に異常は無かった。でも……」
「何か問題があった……?」
「これの臭いがさ、魔物を引き寄せる臭いだったんだよ。それがダンジョンの中でしたからか、アタシ達はかなり魔物に襲われてね。その所為で随分と苦労する羽目になった」
「「魔物の引き寄せ!?」」
「そうなんだ。その所為で魔物に襲われまくったんだよ。アタシ達は原因が全く分からなかったんだけど、こっちのシャルが教えてくれてね。それで判明したんだ」
「えっと、貴女がですか?」
「ああ。あたしはシャルティア。昔、あたしが嗅いだ事のある臭いでね。普通に使われる<アンガルの実>と<オレオン草>を使った物じゃなくて、<ビジレットの実>と<アレカシュ草>を使った、強力で珍しいヤツの臭いだったんだよ」
「えっと、<ビジレットの実>と<アロカシュ草>……っと」
「違う、違う。<アロカシュ草>じゃなくて<アレカシュ草>。<アロカシュ草>という草はあるんだから、名前の間違いは駄目さ」
「すみません。<アレカシュ草>ですね。これを使った物は強力なんですか?」
「ああ。効果が非常に強力でね。本来は薄めて使うんだけど……敢えて薄めずに飲み物に混ぜる事で、体から良い感じで発散させる事にしたのかねえ? これ、原液のままだと魔物の引き寄せ効果は無いんだよ」
「「「「えっ!?」」」」
「ギルドではそんな事、言ってなかったじゃないの!?」
「私だって昔に聞いただけなんだから、うろ覚えになっていても仕方ないさ。もう一つ思い出したけど、これ薄めて撒いておいて、トラップとして使うんじゃなかったかね? 撒いた所に寄ってきた魔物を、弓矢や魔法で狙い撃つっていう使い方だったような……」
「まあ、昔の事なんだから、ゆっくり思い出すしかないんじゃない? 上手く使えば便利そうではあるけど」
「でも強力なんでしょ? 危険じゃない? 魔物から寄ってきてくれるなら、確かに使いようはあるだろうけどさー」
「言われる通り、危険の方が大きいと思いますよ。何と言っても、魔物を引き寄せる道具は基本的に無差別です。ダンジョンの中なら出てくる魔物が決まっているから良いですが……」
「決まっているからこそ、使えるんじゃないの? そもそも私は外で使おうとか思ってないし、マッスルベアーとスチールディアーが寄ってきてくれればいいだけだよ。あいつら、そこまで強くないからさ」
「ミクの「そこまで強くない」は欠片も信用できないね。ツインヘッドフレイムですら大して強くないって言うし」
「実際、ミクにとっては全く強くないんだから、ミクにとって”だけは”事実なんだけどね。ツインヘッドフレイムが強くないっていうのは」
「……あっ。そういえば貴女、一月前ぐらいに会ったわね、ここで。まさかツインヘッドフレイムを倒せる程に強いとは思わなかったわ。あの時は綺麗な子だとしか思わなかったけど」
「ミクって異常な程に綺麗だけど、中身はウォーハンマーでツインヘッドフレイムを倒す猛者だからね。それも一撃で」
「話が飛んでるから戻すけど、魔物を引き寄せる飲み物を配ってた奴は、古いレシピを知ってるヤツだよ。ただし、それだけで何処の誰かは特定できない。このレシピはカムラ帝国の前身である小国で作られた物だから」
「それはまた……かなり古い時代のレシピですね。今使われているような魔物寄せが、作られる前の物……。そんな物をわざわざ?」
「アタシ達が他国からの攻撃だと思った理由でもあるんだよ。そんな古いレシピを引っ張り出してきて、わざわざ悪用するんだ。ゴールダームに対する攻撃だとしか思えないだろ?」
「ゴールダームは探索者が大きく稼いでる国でもあるし、だからこそ探索者を狙ってきた……という事ですか。可能性としては有りそうですね、もちろん断定はできませんが」
「とりあえず分かりました。この証拠物ですが、こちらで保管してもいいですか?」
「もちろん。ついでに私達が持ってるのも渡しておく、こんなの持っていたくないし」
そう言ってルッテがテーブルの上に出すと、ウェルドーザもセティアンも出した。オーレムという女性兵士は、それらに番号を書き入れて証拠物として上に報告すると約束。解散となった。
ミクとシャルは急いで<妖精の洞>へと戻り、食堂に駆け込む。2人が入った時にはまだ営業していたので、慌てて大麦粥を注文。大銅貨1枚を支払う。
食堂の営業が終わっていたら、お腹が空いたアピールをしなければいけないので、ミクにとっては面倒臭いのだ。どういう感覚が正しいのか、お腹が空かない肉塊には分からない。なので演技をせずに済んだのは僥倖であった。
とはいえ、保存食を食べれば言い訳が可能だという事は思いつかなかったようである。




