1029・ダンジョンを進むものの……
Side:ファーダ
俺は<鑑定の水晶>をアイテムバッグに入れ、皆と先へと進む事にした。ここで立ち止まっていても後ろから来た奴等に<鑑定の水晶>を見られるかもしれんし、そいつらが奪おうとするかもしれん。むざむざと奪わせる事など無いが、念の為というところだ。
今は<殺戮者>が出た事で騒ぎになっているし、慎重に動いている連中が多いだろう。それでも入り口から遠くない場所なのだ、いつ誰が来るか分からん。今の内に移動を開始するべきだろう。
「俺が前でノノが後ろ、間にレティーとセリオだ。セリオはある程度の大きさになって、レティーはその背の上だな。ノノはマップを頼む」
「了解だ」 「了解」 『りょうかーい』
素早く隊列を整えると、俺達はダンジョンの攻略を始める。今まで通ってきた場所は覚えているのでノノが地図に描き込んでいき、今進んでいる場所も描き込みながら進む。俺達の能力なら普通に進みつつ、同じ速度で地図に描いていける。
移動を始めたものの、洞窟のような道と部屋しかないうえ、何故か魔物が全く居ない。いったいどうなっているのかと思うものの、魔物の居ない部屋を通過しつつ移動を続ける。もしかしたら他の探索者が倒してしまっているので居ないのだろうか?。
もしそうなら次の魔物が湧くまでに一定の時間が掛かるのだろう。俺達にしてみれば魔物が居るかどうかは割とどうでもいいので気にしていないが、金稼ぎに来ている探索者にとっては厳しいだろう。しかし死体も無いという事はダンジョンに取り込まれた後か?。
ボスはドロップアイテムを残すと言っていたが、普通の魔物がドロップアイテムを残すとは言っていなかった。そしてギルド長はダンジョンから食肉を持って帰ってくると言っていた筈だ。となると死体は残る筈だからな。それが無いという事はダンジョンに取り込まれたのだろう。
「その予想で間違い無いと我も思う。それなりの人数が入っているし、魔物と戦わずに済むならそれに越した事は無いな。それにそろそろ地図は描きあがるぞ」
「随分早いな。もしかしてこの階は狭いのか?」
「そうだな。1階だからかもしれんが、【空間魔法】の【掌握】であっさりと分かる程度でしかない。ファーダも使えばすぐに階段が分かるだろう。とりあえずそれぞれの階層の地図は作っていくから、地図が描き終わったらさっさと進むぞ」
「そういえば、このダンジョンはショートカットが無かったんだったな。40階に行って戻ってくるのに、早くとも半月は掛かると言っていた。という事は食肉稼ぎと攻略をしている奴等は同じではないという事か」
「そうですね。毎日帰って来ないとアイテムバッグが無い限り腐るでしょうし、となると浅い場所で食肉稼ぎをしている人達が居る筈です」
『それと高く売れる部位を獲ってきて売る奴等に、草とか採ってくる奴等も居るだろうしね』
「このダンジョンにどんな素材があるか知らんが、売れる物を持って帰ってくるのは当たり前だな。それが食堂の不味いサラダの元なのか、それとも何らかの香辛料なのかは知らないが」
『アレ美味しくなかったねー、昔の僕でもあんなの食べないよ。よくベルは我慢して一度は食べたと思う。僕でさえドレッシングが無かったら無理だったし』
「代わりに栄養価は相当に高かったみたいだがな。あそこまで栄養価が高いと食べた方が絶対に良い。ドレッシングをかければ食えるのならば食うべきであろう」
「おっと、2階への階段だ。さて、このままどんどんと進んで行くぞ。出来得る限り早く進まないと面倒なだけだからな」
俺達は一つ一つの階層を調べて地図に書き記してから先へと進む。後の事を考えれば完璧な地図を作っておいて悪い事は何も無いのだ。逃げる際にも役に立つし、他の者が挑戦する際にも役に立つ。作っておいて損は全くない。
2階、3階、4階と進んで行くが、未だに魔物は見つからず、進んだ先には何も無い事ばかりだ。それ自体は悪い事では無いし楽なのだが、奇妙な話だ。ある程度の食肉を手に入れれば戻ると思うのだが、食肉を持って戻る奴を全く見かけない。
他の探索者に会う事もあったが、彼等が荷物を大量に持っているのを見かけてはいない。しかも全く居ないというのも不思議な事だ。俺達は次の階に行くのに関係の無い行き止まりまで確認しているにも関わらず、そちらにも魔物は全く見当たらない。
あまりにも魔物が見当たらない為、もしかしたらという推論が正しいのではないかと思い始めてきた。
「もしかしてだが、ここまでの魔物は<殺戮者>に倒されたと見るべきか? 行き止まりの部屋や通路にまで居ないとなると、どう考えてもおかしいぞ。探索者がそこまでキッチリ殲滅するとは思えん」
「うむ、我もそう思う。流石にここまで居ないとなると怪しいし、探索者がわざわざそんな事をするとは思えん。となると<殺戮者>が丁寧に殺してきたか、それとも毒を撒き散らして殺戮してきたかだ。何故かは知らんがな」
「<殺戮者>というのは手当たり次第に殺すのかもしれません。探索者とか魔物とか一切関係無しに、生きている者を全て殺戮する。そういう存在だとすれば丁寧に殺していっているのは分からなくもありません」
『でもさー、あんなのがウロウロしてたら誰も進めないよね? その場合はどうしてるんだろう?』
「分かりませんよ。一定程度の生きる者を殺戮すれば消えるのかもしれません。ダンジョンの掃除屋みたいな者と考えると、そこまでおかしな行動とは言えませんし」
「バグ防止の為に定期的に間引きをしている感じか? ダンジョンがどういう風に出来ているのか知らんが、そういう感じの存在なら分からなくもないな」
「今は分からぬ事だらけだ。無理に結論など出さずに、さっさと先に進む事だけを考えるべきだな。考えたところで仕方がないのだし、答えが出ても意味は無さそうだ」
それは確かにあるだろうな。そう思った俺達は【掌握】を使って確認しつつ、更に先へと進んで行く。5階、6階、7階、8階と魔物が居らず、9階に達しても魔物は居なかった。あの緑の蛍光色の<殺戮者>は何処から来たんだ?。
そんな事を思考しつつ進んでいると、突然真横に魔物が出現。俺は即座に蹴り飛ばしたが、いったいどういう事だ? もしかしてゲームにある魔物のPOPと同じか?。
それにしても急に真横に魔物が湧くとはな。驚きのあまりに蹴り飛ばしてしまったぞ。
「ギィ!!」
「これはゴブリンか? それとも餓鬼か? 腹が出ているから餓鬼っぽいんだが、ゴブリンだって腹が出ている場合もあるからな。何とも言えん」
「どっちでも良いのではないか? それにしても醜悪だし、食べる場所も無さそうなヤツだ。さっさと始末した方が良いだろう。それに食肉になるのは10階以降なのかもしれん」
「ああ、それは確かに。1階から食肉になる魔物が出るとは言っていなかったしな。もしかしたら10階以降なのかもしれん。ま、おそらくはそうではなく毒で殺されただけなのだろうが」
「で、あろうな」
俺が短槍で串刺しにすると、あっさり餓鬼っぽい魔物は死んだ。当たり前の結果ではあるものの、俺は槍を振って串刺しになった餓鬼を放り投げ、【清潔】を使って綺麗にする。その後は進んで行くのだが、ぽつぽつと魔物の姿が現れるようになった。
どうやらやっと魔物が湧き始めてきたみたいだ。その中には小型の猪みたいな魔物も居たので、間違いなく食肉は10階以前から出てくる事が判明。となると<ウッドランク>の奴等も魔物の居ない間に下に降りようとしたんだろう。
楽に<カッパーランク>になれるチャンスだからな。




