1025・愚か者と試験
Side:ノノ
ファーダが一撃で沈めたので周囲が静かなままだが、ハッキリ言って何故あんなザコが喧嘩を売ってきたのか理解できん。大した身体能力をしている訳でもなければ、技術も無い。振りかぶって相手を殴るなど、かわしてくれと言っているようなものだ。
それにしても王城の門番といい、人間種に見えるだけで見下してくる連中が居るな。この国の立ち位置や立場などもあるので、人間種や魔族から散々迷惑を掛けられているのは分かるのだが……。この先もいちいち鬱陶しそうだ。
その都度教育していくしかないかと思うも、それも面倒だしな。それはともかくとして、そろそろ再起動せんものか? いつまで固まっているつもりだ、このバカどもは。
「それで、ファーダの勝ちか? それともまだ続行するのか? どちらでも構わんが判定が下されんという事は続行と見做すぞ? ………ファーダ、追い打ちだ。どうやらまだ終わっていないらしい」
「そうだな。殺さなければいいだろう。生きていくのに大変になるが、俺ではないからな。知った事ではない」
「お、終わりです!! 試験はこれで終わりです!!!」
「なんだ、つまらん。放っているから、まだ続いていると思っただろうが。随分と舐め腐ってくれたのに、一発で済ませてもらえて良かったな?」
「おぇっ、ごほっ、がほっ……。はー、はー……」
「次はノノの番か。交代だな」
「了解だ。荷物と2匹を頼む」
ファーダがこちらに来たので交代し、代わりに我がファーダが居た場所へと出る。相手を待っていると、ファーダが殴って吐いていた奴が未だに居て、他の奴が出てくる気配が無い。……もしかして、同じ奴と戦うのか?。
「もしかしてファーダが戦ったそのザコと戦わねばならんのか? となると、どのように手加減するかを見る訳か。なかなか斬新な試験だが、これが試験だというのならば受けてやろう」
「はー、はー。このガキ……!」
「ほぉ、見た目で侮るとは、お前も人間種と変わらんな。………殺すぞ」
我は一瞬だけ殺気を放出し、すぐに霧散させた。しかしその一瞬の殺気で理解したのだろう、目の前の阿呆は震え始めた。周りの奴等も震えているが、ファーダもレティーもセリオも呆れているだけだ。この程度の殺気で震えて動けんとは、無様な……。
声が掛からぬので立ったまま待っていたのだが、いつまでも声が掛からんので我は受付嬢の方を見る。その女は立ったまま気絶しており、色々と漏らしていた。……おいおい、そこまでになるとは計算外だぞ。
「どうやら受付嬢は立ったまま気を失ったらしい。色々と漏らしているのは無視するとして、誰か受付嬢を起こせ。そいつが見ていないと駄目なのだろうが。ならばそいつを起こさねば試験が始まらん」
「その必要は無い」
探索者ギルドから誰か出てきたようだが、それなりに体の大きなヤツだな? ある程度の位階にあるのか、この場のザコどもよりは上だ。我らにとっては相手にもならんザコでしかないが。おそらくギルドマスターといったところか。
そやつが歩いて受付嬢に近付き、頭をバシッと叩いた。その瞬間気絶から回復した受付嬢は目を白黒させ、周りをキョロキョロし始める。あの程度の殺気で気絶する割には我らに喧嘩を売ってきたが、何故だ? 己の矮小さにも気付いていないだけか?。
「お前達、悪かったな。元々探索者ギルドというのは実力の無い者を弾くようになっている。大した実力の無い者が勘違いしてダンジョンに入り死ぬ事が多いものでな、そもそもの実力が無い場合は試験で叩き返すのだ」
「ふむ、それだけならば真っ当だな。それだけならば」
「うむ。この阿呆どもは、それに託けて自分達の人間種嫌い、あるいは魔族嫌いを試験に持ち込んだという訳だ。まあ、それでも超える必要はあるとは思う。それぐらいの実力で無ければダンジョンでは容易く死んでしまうのでな。しかし、喧嘩を売った相手が悪過ぎた」
「我も驚いたぞ、あの程度の殺気でガタガタ震えて動けんとはな。戦場であればすぐに死ぬ程度の実力しかないのにも関わらず、何故調子に乗れるのか理解できん。己が唯のザコであるという事すら分かっておらんとは……」
「ザコか。一応はブロンズランクなのだが、そなたらには勝てんだろうから分からんではない」
「そうではない。相手の実力も理解せずに喧嘩を売るなど、ザコの証明であろう。そういう事だ」
「ああ、成る程。確かにそれはその通りだ。実際に手も足も出なかったようだからな? 人間種だから凹ませてやろうと思っていたら、逆に凹まされたのだ。探索者としても竜人族としても恥でしかない」
「「「「………」」」」
「そもそも俺達は人間と同じ見た目をしているが人間ではないのだがな? ついでに人間種でもない。お前達は見た目だけで勘違いしているようだが、俺達は一度も人間種だとは言っていないぞ?」
「は? ………そうなのか?」
「うむ。我もファーダも見た目がそうなだけで人間種だとは一言も言っていないぞ。ならば何だと聞かれても説明はせんがな。もしどうしても聞きたければ、この国の王に聞けば良かろう。あの王が許可するなら聞けるだろうからな」
「お前ら……もしかして陛下と知り合いなのか?」
「知り合いではないが、まあ色々とあるのだよ。王が駄目なら宰相でもいいぞ。各大臣でもいいのかもしれんが、アレらが喋っていいと許可を出せるかは知らんからな」
「まあ、とりあえず聞いてはならんのが分かったから聞かん。とにかくお前達は文句なく合格だ。ブロンズランクが倒せるなら実力に問題は無い」
我らはギルド内の建物に入っていくギルドマスターっぽいのの後ろをついていき、ギルド内に入って受付へと進む。他の受付嬢が代わりに業務に入っていたらしく、先程の受付嬢は何処かへと消えた。漏らしていたから当然ではあろうが。
ギルドマスターっぽいのが我らのギルド証を作るように言い、受付嬢が紙を取り出して我らに書くように言う。受付の台が高いのだがどうしたものかと思っていたら、セリオが股の間に入り込み大きくなってくれた。
「すまんセリオ、助かった。台が高くて届かなかったのでな、面倒だから床で書こうかと思ったぞ」
『流石に床で書いたら汚れちゃうからねー。この程度の大きさで大丈夫ー?』
「問題ない。十分に届いているからな。それにしても書く項目が少ないが、こんなものなのだな」
「探索者になろうってヤツなら、細かく聞いても答えないからだろう。どうせこれは管理する為の物だ。探索者という者を管理できる情報さえ書いてあれば、それで構うまい」
「それはそうなのだが、ハッキリ言ってくれるな。自分の情報なんで知られたくなければ書かんでもいいが、割と自慢の為に書く阿呆が居て助かるのだ。賢明なヤツには通用せんがな」
「自慢で書くとか、そいつの頭は大丈夫か? 危機感が無さ過ぎるだろう」
「そもそもダンジョンの中はルール無用の場所だ。同じ探索者であろうが敵になる事もある。その場の怒りだけで殺し合いになる事すらあるにも関わらず、暢気に登録の時にアピールする。頭が悪いと言わざるを得ん」
「だろうな。こういう場所に屯して聞いているヤツも居るし、そういうヤツが襲ってくるのもダンジョンなのだろう? そしてギルドは関知しない。よくある事だ」
「まあな。関知せんというより、その程度の危機感も無い者は遠からず死ぬ。それだけだ。たとえ魔物が相手でもそれは変わらんよ」
隙を見せれば喰われるのは当たり前であろう。




