1021・門番と説教と王母
Side:ミク
イリュが怒ってるのもあるけど、それ以上に仲間達の事もあるので城に戻りたかったんだよね。そもそも私達はこの国の被害を減らしてほしいとは言われたものの、この国の奴等が拒否するのならそれで手切れのつもりだった。
被害を減らす方法は、何もこの国を強くするってだけじゃない。適当に喧嘩を売るように挑発して歩き、敵に回った連中を一つ一つ潰していくのでも良かったんだよ。もちろんあの女神からすれば困るんだろうけど、私達が我慢して聞いてやる必要性は何処にも無い。
それに私にとっては最初の命である、「下界のゴミどもを食い荒らせ」の方が重要だしね。それこそ被害が減れば良いんだろう? ってところだ。
神どもの一柱は「喰って解決する訳でもない」と言っていたが、私からすれば最初に「食い荒らせ」と言ったのは貴様らだろうがと言うしかない。
むしろそれが目的で私を創り出しておいて、勝手に命を変えるなという話だ。私は誰の下につく気も無いし、そもそもそのような存在として創り出されてなどいない。惑星の神の頼みを聞いてやる事すら本来はイレギュラーなのだ。
あの神どもが言うから聞いてやっているに過ぎないのであり、私に命じる事が出来るなどというのは勘違いも甚だしい。私達がこの国を離れた時に気に入らんと出てきたら、その時は喰らってやればいいだけだ。
「奥っていうか、城の方から何か来るわねえ。楽しみだったけど、どうやらこれで終わりみたいよ。シャルやアレッサにロフェル、それにカルとマハルも居るじゃない。全員揃ったみたいだし、さてどうなるのかしら?」
「どうなるとは?」
「私達がこの国を出て行くか否かよ。私達は何もこの国に居ろと言われてなんていないもの。この国の被害をなるべく減らせと言われただけよ。この国が敵に回るなら敵として扱うだけに決まってるじゃない。そんな国を助けてやる義理がある?」
「ですが、神様から頼まれているのでは?」
「だから? 神が頼んできたら私達は卑屈になってでも従わなければいけないとでも? だったら人間種も魔族も竜人族も全て滅ぼせばいいんだよ。そうすれば被害は無くなる。何千年か何万年か経てば、また似たような生物は生まれるでしょ。なら気にする必要もないね」
「まあ、全てを滅ぼせば人間種や魔族からの被害はありませんね。代わりに怪物に抹殺されますけど。でもそれって大丈夫なんですか?」
「さあね。とはいえこの星の女神の頼みだからといって、私達がそれに我慢して従う義理は無いんだよ。そもそもそこまで言うのならば、愚か者としてその神も食い荒らせば済むだけでしかない。何故私が貴様ら如きに従わねばならぬのかと」
「まあ、言いたい事は分かるわね。そもそも創造神の暴走を止められなかったのは誰ですか? と言えば終わる話でしょ。それで竜人族の国に被害が出てるのに、下界には干渉しないとかいう謎ルールの所為で私達がここに居るのよ? そもそもその謎ルールを止めて、自分達で何とかすればいいだけでしょう」
「それは確かにそうですね。訳の分からない謎ルールで自分達を縛り、何故か私達を使って何とかしようとしている。そもそも前の星では、神様が下界に干渉していたんですよね?」
「してたわ。人間種を滅ぼそうとした神々も居たけど、それ以前にダンジョンマスターを任命している時点で下界に干渉しているもの。神が下界に干渉しないなんて、この惑星だけの謎ルールでしかないのよ」
そんな話を堂々と門の前でやっていると、ようやく仲間達がやってきた。他に兵士っぽい竜人族と、妙な竜人族を連れてるね?。
「何て話を堂々としているのよ、イリュ。それに何で兵士どもがボコボコになってるの?」
「そんなの私達を通さないと言ったからに決まってるでしょ。私達は仲間達に取り次げと言っただけよ。軍のところか魔法士の所に居るってね。シャルかマハルに話を通せと言ったのよ。にも関わらず、こいつら無視して喧嘩を売ってきたってわけ。結果としてボコボコで済ませてやったんだから、本来なら泣いて感謝をするべきね」
「まあ、本気なら一瞬で首が刎ねられているから、確かにボコボコ程度で済ませてもらってるのは事実ね。というか、何で門番どもは取り次がなかったの?」
「さあ? 私達を人間種とか言ってたから、気に入らなかったんじゃない? 私にとっては、この国がどうなろうが知った事じゃないんだけどね? 勝手に召喚者どもの所為で苦しめば、って感じ」
「そもそもなんだけど、アンタ達は門を通って外へ出たんだよね?」
「貴女はいったい誰かしら?」
「あー、イリュ。この女はこの国の大将軍で、あの王の母親だよ。つまり王母さ」
「ふーん、それで?」
「ああ、相当に怒ってるね。<鮮血の女王>と呼ばれた顔は出てきてないけど、結構マジで怒ってないかい? カルティク」
「多分だけど、門番が手を出したって事はベルが危険に晒されたって事だから、その事で怒ってるんだと思うわよ? むしろその事があって皆殺しにしていないだけ、理性は残ってるんじゃないかしら?」
「まあ、本来の<鮮血の女王>なら、とっくに皆殺しにしていてもおかしくないか。死ななきゃ分からない奴は全員死ねとばかりに暴れてたらしいし。その恐怖をもって、<鮮血の女王>と呼ばれてたんだしね」
「<鮮血の女王>と呼ばれてるっていうのも凄いけど、<アーククラス>を怒らせるって頭が悪過ぎるだろう。この門番どももそうだけど、いったい何を考えているのかねえ……」
「王の客を自分達が勝手に決められると思ってるんじゃない? じゃないと、王城に行く者を〝門番如き〟が勝手に決めたりしないだろう。それは王の顔に泥を塗るのと同じ事だ。そんな事すら理解していないんだからさ」
「貴国の門番は王を随分と軽んじているのですね? 勝手に王城に入れる者を決めていますよ? って他国の者に言われたら、王が大恥を掻くんだけど……その程度も分からないゴミが門番をやってるんだから仕方ないわよ」
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
「明らかな越権行為なうえ、門番というのは王城の顔とも言えます。王城の門を守る門番がこの程度という事は、王がこの程度と見られるのですが………顔を見ると本当に理解していなかったんですね」
「ティアは元々とはいえ第三王女だから、その辺りは厳しいんだよね。それにしても門番がこれって、この国は本当に大丈夫なのかい? 不審者なら弾くのは分からなくもないけど、ミク達は王城から出てるんだよ? それなのに門前払いってどうなってるのさ」
「本当にねえ。これはアタシから直々にバカ息子に言っておかなきゃいけない事だ。中に伺うって事すら満足に出来ないんじゃ、門番の資格すら無い。突っ立って好き勝手にやればいいなんて思われたら困るからねえ。……おい! このバカどもを詰め所に連れて行って全て聞きだしな!」
「「「「「「「「「「ハッ!」」」」」」」」」」
軍人だろうけど、素早くボコられた連中を拘束して連れて行く。門番は交代制だったのか十数人ほど居たんだけど、さっさと全員捕まえて運んで行った。
それを見つつ王母は呆れたような溜息を吐きながら、それでも顔を振って気分を変えて話し掛けてくる。
「アタシはデルクレシア・ギュルスティガ・ウォルグラン・ドラゴニア。この国の大将軍であり、この国を統べてるバカ息子の母親さ。で、アンタがミクだね?」
「そうだけど?」
「アンタ達の後ろ盾になる代わりに、ある物が欲しい。これは正当な取り引きとして頼みたい」
「は? ……取り引き?」
その時、シャルが私の近くに来て耳打ちをする。聞かれたくないなら【念話】でいいのに、何でわざわざ耳打ち?。
「この女は498歳で寿命は600年。つまりもう年寄りなんだよ。そこにロフェルが口を滑らせて<若返りの薬>の存在を知った。つまり<若返りの薬>と引き換えに、あたし達の後ろ盾になるっていう事だよ」
成る程、そういう事か。あんな幾らでも生み出せる物で王母が味方になるなら安いね。




