1020・門前の戦い
Side:テイメリア
町中を見回った私達は、一旦王城に帰る事にしました。宿が決まっていませんので何処で寝泊りをするのかを聞かねばなりません。それに私達はこの国のお金が無いので、宿に泊まる事すら出来ないのです。
故にそれをどうにかしなければスラムで寝泊りする羽目になります。まあ、エアーマットがありますし、最悪はミクの本体空間に寝泊りすればいいので問題はありませんが……。国の面子もありますので聞いておかないと後で揉める結果になりかねません。
という事で城に聞きに来たのですが、まさかの入れないという事態になるとは思いませんでした。出る時に私達の顔は見たでしょうに、面倒な事です。
「だから、私達は城に仲間が居るから呼んでもらえれば分かるって言ってるでしょ。軍の所に行ったか、魔法士の所に行ってるんだよ。シャルかマハルを呼んでもらえば、ちゃんと仲間が居るって分かるよ」
「何を訳の分からない事を言っている! お前らのような怪しい奴等を通す訳が無いだろうが! さっさと出て行け人間種めが!!」
「そもそも城から出る際に私達はここを通ってるでしょうが、あんた達はどんな節穴な目をしてるのよ。それとも三歩歩いたら忘れる鶏頭でもしてんの?」
「何だと、キサマ!! 今すぐ捕縛して牢にブチ込んでやってもいいのだぞ!!!」
「お前達では話になりませんから、上の者を呼んで来なさい。余計な事になりたくなければね」
「こいつら……! 我ら王城への門番を舐めておるな。応援を呼ぶぞ、叩き潰してやるわ!!」
「「ゴォォォォォォォォッ!!!!」」
門番の二人が空に向けて何やら遠吠えのような声を上げると、近くの休憩所か何かから続々と兵士が出てきました。どうやら私達を完全に舐めているようですね、覚悟は出来ていると見做しますよ。
「皆、この人間種どもが難癖をつけて押し通ろうとしてきた。今すぐに叩き殺すぞ!!」
「「「「「「「「「「ガァッ!!!」」」」」」」」」」
気合いの入った声をしていますが、私達に大しては何の意味もありませんし相手にもなりませんね。仕方ありません、殺す訳にもいきませんし少し遊んであげますか。私達にとっては相手にもならない小物ですが、格の違いを教えてあげねばならないようです。
私はアイテムポーチから薙刀を取り出すと、その刃を反転させ峰の側で兵士を殴りつけます。ミクはフィルを抱いていますし、イリュはベルを抱いていますからね。私が活躍しなければいけないでしょう。早速ミクに絡んだ者が蹴り飛ばされてますが……。
私は兵士の頭を死なない程度に殴りつけつつ、【飛翔舞術】を使い滑るように移動をしていきます。そもそも空も飛べる【飛翔舞術】ですが、その真骨頂は音も無く滑るように移動する事を可能にする事なのですよ。
ガイアで見たホバークラフト。アレを音も無く個人でやっていると考えれば分かりやすいでしょう。わざわざ空を飛ぶよりも、こうして錯覚を起こさせた方が戦闘では都合が良いのです。
ある時は地面を蹴って強力に踏み込み、ある時は地面を滑るように移動する。これを使い分ける事によって、相手はこちらの動きについてくる事が出来ません。戦いの技を磨いてきた者ほど引っ掛かる。それが、この【飛翔舞術】を活かした戦い方なのですよ。
まあ、そんな事とは関係なく、ミクもイリュも武器を出す事なく兵を蹴り飛ばしていますね。というかイリュのアレは反則でしょう。空間ごと足が移動してるじゃないですか! 足裏が相手の顔を蹴ってますよ!? おかしいでしょう!?。
イリュはその場で地面に足を打ちつけようとしたポーズですが、その足裏は空間を転移して相手の顔を蹴っています。あんなの回避不能じゃないですか!? いえ、ガードも不能かもしれません。
<幻想精霊種>という種族は神様にも驚かれたと言っていましたけど、あんな反則が出来る種族なら驚かれても当然でしょう。ちなみにミクは達人の如き動きで全て回避して蹴り飛ばしています。イリュほどおかしくないですが、逆におかしいという状況です。
何故か掠りもしない槍に剣。それらをヌルッとした動きで回避するにも係わらず、蹴りだけが猛烈な速度で襲ってくる。そのギャップと言いますか、動きの速さの違いで全く回避できていません。アレも地味に恐ろしいですね。
まあ、ミクに関しては人間種が知覚できない刹那の時間まで認識していますから、そんな存在からすれば欠伸が出るほど遅いのでしょうね。兵士達の攻撃は。
私も多少は活躍できましたが、二人が圧倒的すぎて何だか空しくなってきました。そもそも私は戦力として必要だったのでしょうか? 薙刀まで出してこの程度というのは流石に……。
「いやいや。敵の攻撃が分散されるんだから、居てくれるだけで助かってるわよ。それにこの程度の連中ならティア一人でも壊滅させられるでしょ。私はちょっと卑怯な方法を使ったし、誰かさんには根本的に勝てないんだし? むしろ肉体を使って戦ったのなら十分な結果でしょうよ」
「イリュは回避に専念していれば、後は空間を無視して攻撃できるからね。やろうと思えば目を抉る事も、股間を潰す事も自在に出来る。この呻いている阿呆どもは全く理解していないけどね」
「本当にねえ。いちいち面倒臭い事をしてくれたコイツらは全員、私が直々に宦官の刑に処してくれようかしら」
「かんがんのけい?」
「それは子供に教える事じゃありませんよ。イリュが言いたくなる気持ちも分かりますけど、子供の教育に悪い事は言うべきではありません」
「ぶー! ベル、こどもじゃないもん!」
「宦官っていうのはね、皇帝に忠誠を誓う為に去勢、つまり股間の物を切り落とした役職の者の事を言うんだよ。そういった者だけ、男性でも皇帝の後宮に入る事を許されたんだ。ここでいう宦官の刑は、宦官と同じようにするぞと言ってるわけ」
「………よくわかんない」
「ま、今は適当に覚えておけばいいよ。それよりどうする? こいつら宦官の刑に処す?」
「いやいやいやいや、流石にそれはやり過ぎではありませんか? これから二度と子供が出来なくなりますよ!?」
「確認すら満足に出来ないんだから良いじゃない。そんな奴等の子供なんて生まれたら不幸でしょ。出来なくしておいた方がいいわよ、どうせ碌な事をしないから」
「き、きさまら………!!」
「あらあら、追加でバカどもが来るようね? どれだけの奴等が私達にボコられたら理解するのか楽しみよ。その分だけ、この竜人国が恥を晒すのだからねえ」
「ここの王が後で頭を抱える気がしますけど、門番が愚かだったという一言で終わる話です。私達に責任はありませんから、どうでもいいですね。精々この者達が解雇されるか、それとも一兵卒からやり直すくらいでしょう」
「その程度で済ませるの? 随分と甘ちゃんねえ。私なら宦官の刑に処すわ。そのぐらいしないと、このバカどもの滑稽なプライドは潰れないでしょう? そのうえで敢えて門番を続けさせるわ。股間を失くした者として恥を晒し続けてもらわないとねえ」
「容赦が無さ過ぎる気もしますが、ベルやフィルにも武器を向けている訳ですから、激怒するのは当然ですか。そもそも中に聞きに行けば良かっただけの話ですからね。その程度すら出来なかったんですから……仮に切り落とされても仕方ありませんか」
ベルが絡むと沸点が低すぎる気がしますが、今は仕方ないのでしょうね。そもそも門番が勝手な事をした所為でこうなっているのですし。




