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0098・スヴェストラ女将軍が死ぬという事




 「ボスに挑んだって言ったが、お前らまさか1チームだけで挑もうとしたのか!? <竜の牙>でさえ複数のチームで突破したんだぞ! 何て危険な事をしようとするんだ!!」


 「そうなんだけど、いや、悪い。アタシ達は調子に乗ってたんだろうさ。でも8階でミクとシャルに会って、そのままボス部屋まで進んだんだ。ボスを倒した方が早く帰れるからって」


 「そりゃそうだろうが、それは倒せたらの話だろう! 運良く倒せたのかもしれんが、ツインヘッドフレイムだぞ。舐めていい相手じゃない!」


 「そう、なのよね……普通は」


 「そう、普通は舐めちゃいけない相手だし、殺される覚悟を持って挑まなきゃいけない。それほどの強さなんだよ? ツインヘッドフレイムは」


 「なんだ、お前ら……? 人生に疲れ切った爺みたいな顔をしてるぞ?」


 「そりゃ疲れもするさ。ボス戦が始まった直後、ミクがウォーハンマーでブッ飛ばして、壁に叩きつけられた奴が死亡。シャルがメイスを叩きつけた奴は、内臓が破裂したのか苦しみに苦しみ抜いてた」


 「………」


 「あたし達が唖然としてたら、ミクが走って行って、シャルは更にメイスでブッ叩いて殺してた。この時点で2頭が死んでるけど、ボス戦が始まって1分ぐらいしか経ってない」


 「………」


 「その後でミクがシールドバッシュ。吹き飛ばしてからのウォーハンマーで胴体を叩き潰して即死。シャルは短剣を投げつけて怯んだところにメイスを連打して殺してた。これで4頭が死亡」


 「残りの1頭は私達用に残されてただけ。その後はミクとシャルで暢気に雑談してた。そんな中、私達は微妙な気分になりつつも戦って倒して勝利。何の感慨も湧かなかった」


 「……そりゃそうだろ。何と言ったらいいか分からんが、ご愁傷様だ」


 「「「「本当にね」」」」


 「何か私達の事を言ってるみたいだけどさ、あんな程度のにいちいち構ってられないし、さっさと帰りたかったから早く倒すのは当たり前だよ? 戦闘してる、って感じを出す必要なんて無いでしょ」


 「だねえ。わざわざ戦ってますって雰囲気を出そうとする方が、戦いを舐めているとしか思えないよ。殺せるなら、その瞬間に殺す。それが戦い……というか、殺し合いさ」


 「お前達は色々とズレとる気がするが、それが戦いの本質でもある、か。そこまで戦いの本質に寄ってるもんも、珍しいっちゃ珍しいがな。昔はそういう奴が多く居たらしいが、その生き方は死にやす過ぎる」


 「死にやす過ぎる?」


 「それは生きるか死ぬかという生き方だ。それで生き残れる奴は間違いなく強くなる。その反面、生き残れない奴は死んじまう生き方なんだよ。そして大多数が生き残れない。生き残った中で有名なのが、<雪原の餓狼>と呼ばれる女将軍だ」


 「おお! あの有名なフィグレイオの女将軍。あの有名な人も、そんな生き方してたんだね。知らなかったよ」


 「割と有名だな。アタシは知ってるけど、かつての<オルマンシュの戦い>とか<レッディナ会戦>とかだろ。突撃して勝利を得たけど、どっちも死にかけたっていうエピソードがあった筈」



 ミクがチラリとシャルを見ると、そっぽを向いて恥ずかしそうにしていた。まるで若気の至りだったと言わんばかりの恥ずかしがり方だ。そして、それをラーディオンも見ていた。



 「実は極秘情報なんだがな。少し前にフィグレイオの王都フィラーで、<雪原の餓狼>が殺されたらしい。何でも近衛騎士団と戦って死んだらしいんだか、それ以上の情報は来てねえんだ。だから何があったかは分からん」


 「「「「ええっ!?」」」」


 「いやいや、<雪原の餓狼>って言えば強烈な程の愛国者だろう!? 何で近衛に殺されるんだ、おかしいじゃないか!」


 「そうよ、流石にそんな事ありえないでしょう!」


 「そう思うのは分かる。ワシも今日の昼にこの情報を受け取った時に冗談だと思ったもんだ。だが探索者ギルドは嘘は流さん、あった事実だけを情報として送る。である以上は、あの女将軍が近衛騎士団に殺されたのは事実だ」


 「そんな……。私の祖国エルフィンにも名が轟いている、あの女将軍が……? でも、これでフィグレイオは各国から狙われるでしょうね。あの女将軍が居ればこそ、各国は手を出し辛かったのだし」


 「………」


 「だな。<雪原の餓狼>の名は伊達じゃねえ、その名を聞くだけで敵軍の士気はガタ落ちだからな。誰だって死にたかねえし、あの女将軍の前に立ちたいヤツなんて居る訳が無い。ワシだって御免被る」


 「それ程の人物を、何があれば近衛騎士団が殺す事になるのかしら? どう考えてもおかしいわよ。フィグレイオにとって損しかない。これが暗殺者に殺されたっていうなら分かるけど、近衛って……」


 「明らかに変だよ。フィグレイオの内部で争いがあったのか、それとも王から疎まれたのか……。あそこの王も暗愚だって噂があるけど、怪しいものなのよねえ。暗愚だって噂の割には、国が揺れる事なんて無いし」


 「ワザと偽ってる、切れ者の王って事? その割には女将軍を殺害させてるよね? だって近衛って、王の命令がないと動かないでしょ。普通の騎士団と違うんだし」


 「そうなのよ、何故か近衛騎士団が殺害してるの。それはどう考えてもおかしいし、王が乱心したとしか思えないわ。国防の要を殺害するなんて、本物の愚王でもやらないでしょう」


 「でも、やったんだろ? となると、やらなきゃいけない何かがあったとしか思えないけどね。それ以外には考えられない」


 「王の命令って言ってるけど、もう1人だけ命令権を持つヤツが居るよ。それは宰相だ」


 「「「「「!!!」」」」」


 「つまり、フィグレイオの宰相が独自で命令を出した? だから近衛は動いて女将軍を殺害した。とすると……」


 「王にとっては寝耳に水って話になる。でも、何で国防の要の女将軍を殺さなきゃいけなかったかは、結局分からないままだね。おそらく王じゃなくて宰相が命令したんだろうけど」


 「ま、ここで考えていても分からんものは分からん。それよりお前ら、王都守備兵の建物に行くんだろ? 早くしないと夕飯を食いっぱぐれるぞ?」


 「いっけね! 急いで行かなくちゃ! 報告は、さっきので終わりだから。何かおかしいのがゴールダームに入ってきてる」


 「おお、分かってる! ちゃんと情報は広めておくんで安心しろ」


 「じゃあ、これで」



 そう言って、ギルドマスターの部屋を出る<鮮烈の色>とミクとシャル。ギルドマスターであるラーディオンは何となく気付いたようだが、それでも面と向かってハッキリとは聞かなかった。それは確証が無いからだろう。


 聞かれてもシャルは答えないであろうし、そのうえシャルには【真偽判定】が通用しない。何故かと言うと、<隷属の紋章>を刻まれている者には通用しないからだ。


 <奴隷の首輪>などの物質系の物とは違い、肉体だけではなく魂に刻む<隷属の紋章>は完全な呪いである。そしてこの呪いが【真偽判定】を弾いてしまうのだ。それ故に幾ら【真偽判定】を使っても嘘か本当か分からない。


 その事はシャルにも伝えてある為、むしろ<隷属の紋章>の強力さを理解したシャル。こうやって呪いすら利用できる物と考える辺り、実に歴戦の女将軍らしい思考回路であろう。


 ミクがシャルを手伝いの為に生かす事を決めたのも、新たな肉体を与えて新生させたのも、こういう人物であるからだ。こういった性格や思考は、簡単に手に入れられるものではない。


 それを神々から聞いていたミクは、だからこそ彼女を生かしたのだ。


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