0999・王国と帝国の状況
Side:ミク
私達は南ガウトレアの第2南町で、現在昼食をとりつつウェイトレスの話を聞いている。どうやらウェルキスカ王国の首脳部は私達の事を探しているようだが、私達はわざわざコンタクトをとる気は無い。関わる気が無いからだ。
そもそもあそこまで喰われてまだ私達に関わろうとしてくる方があり得ないとも言える。考えられる事は二つ。一つは私達をどうにかしようというもの。二つ目は私達に謝罪して、何とかこれ以上の敵対を止めてほしいというもの。
おそらくはこの二つのどちらかだと思われるが、もしかしたら別の考えもあるのかもしれない。とはいえ今のところは情報が無いから保留にするし、関わらないからそもそもどうでもいいとも言える。
「これで注文の品は全部です。お待たせしました」
「本当に待ったわよ。ちょうどいいところで話を止めるんだもの、気になって仕方がないじゃない。で、さっき言いかけたのは何?」
「ああ、それですか。実はですね…………本当かどうかは知りませんけど、ダスガンド帝国で政変があったらしいですよ。何でも前の皇帝は偽者で、本物の皇族は塔に幽閉されて死んでいたそうです。それで公爵家が立ち上がり、偽者の皇帝を打倒したって聞きました。そんな事あるんですかねー?」
「偽物の皇帝ねえ……。もしそれが本当だとしたら、とんだマヌケな国だこと。偽物の皇帝を誉めそやして、本当の皇帝になるべき者を死なせたんでしょ。あまりにもバカ過ぎる。それよりも、ダスガンド帝国に公爵家なんてあったのね。知らなかったわ」
「何でもダスガンド帝国の公爵家は帝都に住んでいて、領地とかは持っていないそうですよ。代わりに国の重要な役職についているって聞きました。王国もそうらしいですし、公爵家って王族の血筋ですから王都以外には居ないんでしょうね」
「成る程ね。公爵家って基本はスペアだもの。皇帝が偽物と分かり、本当の皇族が亡くなったのなら引き摺り下ろすでしょうよ。そもそも何処の馬の骨とも分からないヤツなんだし、そんなヤツを皇帝のままには出来ないわ。当たり前の事だけど」
「偽物の皇帝は帝都で大々的に処刑されたらしいですけど、帝国の中は長く荒れるだろうと夜のお客さんも言ってましたし、帝国との争いは減るだろうって皆が言ってます。今の皇帝になって特に増えていたそうなので」
「へー、それは知らなかったわ。それはともかくとして、帝国も碌でもないわねえ。皇帝の血筋に無いヤツが、皇帝になれるなんてさ。普通そういった事は徹底的に排除されるものじゃないの? 入り込めたのが不思議で仕方がないわ」
「確かにそうですね。どうやって成り代わったんでしょう? ………もしかして、内部で手引きした人が居たりして。それも皇帝とか皇后に近くないとそんな事も出来ないだろうし、それで荒れるんでしょうね、きっと」
裏に居たのはダンジョンマスターと神なんだけど、この場で言う事でもないし、言ったところで妄想だと言われて終わる話だね。しかし帝国で政変が起きたのなら事情が変わるかな。もしかしたら王国の首脳部はフィルとベルを狙ってくるかもしれない。
先代皇帝の皇子も皇女も鮮やかな紅い髪をしていた。つまり皇帝家の直系は紅い髪を継承するんだと思う。そしてフィルもベルも紅い髪だ。そのうえエルシアとブレンダに聞けば、私達が子供連れではなかった事も分かるだろう。
帝国に行って帰ってきたら子供連れだったのだ。しかも子供は両方紅い髪。王国の首脳部であれば、秘密裏に皇族の子供が二人居る情報も得られる筈だ。あそこは善人化しているから隠す事無く教える者も必ず居る。
まあ、皇帝の座に着いた元公爵は先帝の孫なんて絶対に認めないだろうけどね。自分の権力を失う子供の存在なんて無かった事にするだろう。一応探しているフリぐらいはするだろうが、見つかっても何処かのタイミングで病死だね。
歴史的にはよくある事でしかないけど、そもそも私達がフィルとベルを手放す気は無いから、この子達目当てに襲ってきた者は全員殺す。それが国家であれば潰すだけだ。私達というよりも、私に敵は無い。あっても喰らい尽くすだけだ。
昼食を終えた私達は、さっさと宿に戻ってゆっくりと休む。ベッドにエアーマットを敷いて、その上に毛布を敷いたらフィルを寝かせる。フィルは喜んでジタバタと動き始め、コロンと転がったりと運動を始めた。
ベルはただいまお勉強の最中だ。勉強といってもカード遊びで、裏に絵が描いてある物を引っ繰り返している。
「これが、うまでー……これは、とり!」
「そうそう正解よ。それにしてもガイアで他の子供達と一緒に居たのが良かったのか、それとも三ヶ月という期間が必要だったのか、一気に言葉が上達したわね。それとも【記憶力強化】が効果を発揮してるのかしら?」
「どちらかというとスキルと種族だと思うけどね。フィルもそうだけど、目が見えるのも早ければ、大きくなるのも早い気がするのよ。それはそれで悪い事じゃないんだけど、早々に手が離れそうなのは何とも……」
「まあ、それでもある程度の年数は掛かるでしょう。その間に色々とあるわよ、色々と。もしかしたら早々とは言えないほどに忙しい可能性もあるしね」
「確かにその可能性は否定できないけどね」
「んーと、これがらいおんでー……これが、さる」
「ガイアの物だからどうしても向こうの動物になっちゃうけど、勉強としては悪くないわね。後で神経衰弱でもしようかしら。ベルは記憶力が高いし、頭の訓練になると思うのよ。私達なら全部当てられるけど」
「空間や闇影で覗いたら答えが分かるに決まってるじゃないの。最初から一度も間違えずに全てのカードを総取り出来るわよ。そんな事してもベルが泣くだけだから止めなさい」
「ベルを相手にやる訳ないでしょうが。ムカツク相手や潰したい相手ならやるけど、何で可愛いベルにそんな事しなくちゃいけないのよ」
「ああ、うん。そうね……」
最近ベルの可愛がりに拍車が掛かったような気がするのは気のせいかな? 少し前のガイアに居る時に、「可愛い子だけ私が育てれば、クズの人間種が減るかも」なんて言ってたけど、アレって若干本気だった気がする。
流石にイリュが育てられる数で人間種が変わるとは思えないけど、気長にやってたら変わるかな? という気はしないでもない。でもきっと、その中からはみ出し者が現れて育てる気を失くすと思うんだよね。だから今のままで良いんじゃないかな。
「あーう! うあっあー!」
「あらら、この時間だとおむつかな? ………大きい方か、すぐに綺麗にするから待っててね」
私は【清潔】を使っておむつを脱がせ、新しいおむつを履かせたら、ズボンを履かせて寝かせる。すぐに御機嫌になってジタバタし、ベルの方に向いてコロンと転がった。
「あーあう! ばぁあう! うーあ」
「何が言いたいのかしらね? 遊んでって事? それとも声を出しながら遊んでる?」
「あうあー。ああいあー! う、う!」
「一人で遊んでるだけね。ベルも遊んでるし、二人はこのまま遊ばせておきましょう。それが一番良いわ」
ベルはカードで遊ばせたり、トランプで遊んだり、絵本を読ませたりして過ごす。フィルは御機嫌に動いたり、私が元に戻すと動いてコロンと転がるのを繰り返したりしたりしている。
「あ、う、あーあ、う、う、あーう!」
「コロンと転がるのが面白いのか、何度直しても転がろうとするね。まあ、横向きになりたいならさせてもいいけど、あまり長時間は良くないから戻すよ」
「あーう!」
分かっているのか分かっていないのかは知らないけど、まあ御機嫌に遊んでるならそれでいいね。夜は快眠の香りでグッスリだし。よく育つだろう。




