0096・悲しみのボス戦
グダグダな休憩も終わり、これから出発するのだが、ボス戦の為の準備を入念にする<鮮烈の色>。それに比べて適当にダラダラしているミクとシャル。その理由は色々あるのだが……。
「ミクとシャルは準備を整えなくていいの? 何だかやる気の無さそうな感じだけど、ここのボスはツインヘッドフレイム5頭だよ?」
「始まってすぐ、ボスが出てきた途端に叩き潰せばいい。あたしとミクで2頭やれる。どうせボスは一旦止まるだろうから、続けて殺して更に2頭。この時点で4頭は殺せるんだよ」
「ツインヘッドフレイムの頭は2つだけど、律儀に頭を潰す必要は無い。胴体を叩き潰せばそれで死ぬから、頭は無視して構わないんだよ。そっちはセティアンを主体にゆっくり戦ってくれればいい、引っ掻き回すのは私達の役だし」
「そうそう。頭が2つかもしれないけど、その程度の魔物に負ける気は無いさ。あんた達は安全に戦いな。あたし達は少々他とは違って力があるからねえ、それ相応の戦い方があるのさ」
「そ、そうか。じゃあ、任せるよ……」
微妙に納得できない顔をしながらも、ボス戦へと挑む<鮮烈の色>。ミクとシャルもボス部屋に入り、後ろで入り口が閉まる。
魔法陣が輝き、ツインヘッドフレイム5頭が出現した途端、ミクは【陽炎の身体強化】を、そしてシャルも【陽炎の身体強化】を使って一気に接近。胴体に武器を叩きつけた。
ミクのウォーハンマーを受けた個体は、吹き飛んで壁に叩きつけられ死亡。シャルがメイスを叩きつけた個体は、一撃で内臓が破壊され苦しみの声を上げている。
唖然としている<鮮烈の色>とボスのツインヘッドフレイム。しかしそんな隙をミクとシャルが逃す筈もなく、更に追撃を行おうと動き始める。
この段になってようやく復帰したツインヘッドフレイムは、慌てて荒れ狂う暴虐に対処しようとするも、既に遅かった。その2つの暴虐は止まる事なく動いていき、片方は苦しんでいる1頭の胴体に再度メイスを振り下ろす。
本来ならば第5エリアへの絶対的な壁として君臨しているツインヘッドフレイム5頭が、この時点で残り3頭しか残っていない。しかし、流石に壁と言われるだけあって、ここからはやらせないと牙を剥く。
だが、荒れ狂う暴虐に対しては、あまりに脆かった。ミクは左手のカイトシールドを構えてダッシュ。胴体にシールドバッシュを行い吹き飛ばした後、一気に接近して倒れているツインヘッドフレイムの胴体にウォーハンマーを振り下ろす。
シャルは左手でワイバーンの牙のダガーを取り出して投げつけ、怯んだ隙に胴体にメイスを連続で叩き込む。この時点で4頭が殺害され、残っているのは<鮮烈の色>に近い1頭だけである。
「がんばれー。ここのボスはそこまで強くないから、<鮮烈の色>なら十分に勝てるよ。私達は血抜きとかしなきゃいけないし、自分達のペースで安全に戦って勝てばいいだけ」
「そうそう。後は1頭だけだし大勢は決してるんだから、落ち着いてゆっくり対処しな。そいつを倒せば終わりなんだから、余計なケガとかすんじゃないよ!」
「「「「は、はは……」」」」
<鮮烈の色>の4人も、もはや苦笑いしか出てこなかった。あっと言う間に暴虐の嵐が吹き荒れ、あっと言う間に通り過ぎていったのだ。その結果、残ったのはボス1頭。
ボスと<鮮烈の色>のメンバーは互いに見つめ合い、溜息を吐いた後で戦闘を始める。ボスにとっては絶対に負けしかなく、<鮮烈の色>にとってはお膳立てされた戦いである。
両者共にまったく気乗りしない戦いであるものの、それでも戦わなければ終わらない。むしろ終わらせる為に渋々戦っているようなものだ。他の探索者が見たら、呆れてしまうだろう。
そんな事はお構いなしのミクとシャルは、レティーとドンナに血抜きをさせつつ雑談をしていた。
「それでメイスってどう? 何かボスが倒し辛そうな感じだったけど」
「倒し辛いって感じではないね。相手の体の大きさがあるからさ、どうしても一撃では倒せないだけだよ。ミクみたいにポシェット型のアイテムバッグがあれば、好き勝手に武器を取り出せるんだろうけどね」
「まあ、確かに。なら携帯性が良くて、パワーが篭められる物を考えた方が良いのかな?」
「だからメイスで良いんだよ。そもそも一撃で沈めなきゃいけない訳じゃないんだ。一撃で気絶までもっていければ十分さ。こいつは頭が2個あるから分からないけど、普通は頭を全力で殴りつければ死ぬか気絶するよ」
「後は戦い方でどうに、危ない! ……1対4なのに危ないね、ヒヤッとしたよ。もっと安全に戦えばいいのに」
「いや、あれでも安全に戦ってるよ? というか安全に戦ってるから危なかったのさ。ミクの言う安全っていったい何だい?」
「えっ? そんなのブレス吐かれそうになったら短剣を投げこむとか、魔法を飛ばすとか。とにかくブレスを吐かれないようにするのが安全でしょ? あいつブレスさえ吐かなきゃ、唯のザコだし」
「「グルゥ………」」
ツインヘッドフレイムの両方の頭から、悲しみの声が聞こえた気がしたが、ミクもシャルも無視した。むしろ<鮮烈の色>が戦闘相手にも関わらず同情してしまう始末である。
そんな戦闘も、傷を与え続けた<鮮烈の色>が勝利を果たす。それでも彼女らの心に勝利の実感は無かった。1頭のツインヘッドフレイムを倒す時間より、ミクとシャルが4頭を倒す方が圧倒的に早いからだ。
「おめでとう。ツインヘッドフレイムを倒せたね」
「ミク、流石にそれは嫌味だから止めな。ミクが嫌味で言ってないのは知ってるけどさ、幾らなんでもそれは無い」
「ははは……ありがと。アタシ達がどれだけ実力不足か分かったよ。あの<竜の牙>でさえ12人程で挑んだって知ってるのに、アタシ達なら4人で行けるって思ったのが驕りなんだろうね」
「私はカルティクと2人で突破したけど? 今回はシャルと2人で突破する気だったし。まあ、<鮮烈の色>が居るから、今回は6人だけど」
『<鮮烈の色>っていう4人組は必要? 言い訳にも使えないけどいいの? 流石に1対4で、あんなに時間が掛かったってなると、ミクとシャルの力がとんでもないのがバレちゃう』
『流石にあそこまで実力が低いとは、主も思わなかったのでしょう。第4エリアで狩りをしているのですから、普通はもっと強いと思いますしね。とはいえ本気で戦っている感じもしませんでしたが、あれはいったい……』
「そもそも<鮮烈の色>が普段の実力を出せば、もっと早くに倒せてた筈でしょ? 何であんなに梃子摺ったの? それに妙なミスも多かったし」
「あのね、ミク。圧倒的な強者に見られて、普段の実力が出せる筈がないでしょ。私達の実力はその程度ってまざまざと見せ付けられた後、お膳立てされて「さあ、戦いましょう!」って言われても……」
「うんうん、あれは余計な一言だった。アレが無ければ、もうちょっとマシな心境で戦えてたと思う! 幾らなんでもアレは無い」
「確かに。ボスのツインヘッドフレイムとですら、通じ合ったくらいにアレは無いよ。もはや言葉にもならない感情だったけど、あの瞳を見れば分かる。あの時、確かに私達は通じ合っていた」
「ああ、それは間違い無い。言葉とかを超えた感情でアタシ達は通じ合ってたね。その事だけは胸を張って言えるよ」
「ボスっていうか、魔物と通じ合ってどうするの?」
「「「「「………」」」」」
そうだけど……そうだけど! お前が言うな!! という感情が吹き荒れるボス部屋であった。




