0006・草原ダンジョン・ボス戦
第一エリアであるこの草原ダンジョンは、魔物が弱く旨味があまりない。7階までは魔物が変わらず数も少ない、そのうえ畑ばかりなので誰かが刈り取りをしている。そんな田舎の風景の中を進む。
ミクは探索者ギルドで見た地図を思い出しながら、2階へと降りる階段へ急ぐ。こんな所で時間を掛けていても、何の得も無いのだから。
北東にある階段から2階へと下り、次は南西にある階段へと進む。1階層が20キロ平方メートルもある所為で、無駄に時間が掛かって仕方がない。
この第一エリアは初心者エリアとも言われ、ここを歩き回れる体力が無いなら、大人しく薬草集めをするべきだと言われている。
端から端ではないものの、1階で北東に2キロほど、2階では中心から1キロほど南西に進まなければいけない。
北東の2キロからだから、総計で3キロは歩いて移動する必要があるのだ。こんな事が10階まで延々と続くのである。
なので1エリア10階までしかないにも関わらず、泊まり込みでの攻略すら必要となってくるのだ。もちろんの事、それは普通の探索者の話であり、肉塊であるミクならば眠る必要は無い。
無限に等しいスタミナがある為、延々と走り続けて移動してもいいし、人外パワーの脚力を発揮すれば20キロなどあっと言う間である。端から端でも1分は掛かるまい。
しかし、それを表沙汰にするのは早すぎる。なので誰かにバラされるまでは、ミク自身が喧伝したりバラしたりする気は無い。
「それにしても加減を続けるのは面倒臭い。唯一の助けは、道中で色々な物が確認出来ている事」
ミクは薬草やら食べられる野草やらを確認しつつ、更には他の探索者も見ていた。特に注目したのは、新人の魔法使いだ。拙い魔法ながらも小さな火の弾を撃ち出している、その際の魔法陣をジッと見ていた。
この宇宙の魔法は魔法陣魔法であり、魔力で魔法陣を形作って行使する。呪文などは必要としない。
魔法陣はもちろん重要だが、どのように魔力を行使するのか、どのように制御するのか、どのように指向性を持たせるかも重要なパラメータとなる。
「あれは、おそらくだけど非常に下手なのだと思う。となると正しい魔法の使い方は……」
ミクは歩きながら思考する。そもそも目を瞑っていても問題の無いミクにとって、思考しながらであっても片手間で魔物を討伐できる。特に草原ダンジョンの魔物など、彼女の相手になる訳がない。
一度見た魔法の魔法陣や、魔力の流れなどを反芻し、最適な魔力の流れや制御の仕方を考える。試しに本体が本体空間でブッ放したが、凄まじい熱量と大きさの火の弾が飛んで行ってしまった。
これは駄目だと本体も思い、かなり抑えた魔力で発動しても、新人魔法使いの10倍以上の火の弾になってしまう。ミクの魔力が強すぎるのと多すぎるという問題が、こんな所で出てくるとは……。
流石のミクも予想外であり、再び思考しながら本体が練習していく。分体は適当に次の階へと歩きつつ、階段を下っていくだけだ。周囲を観察してはいるが魔法使いは珍しいらしく、あれ以来魔法は見れていない。
既に7階まで下ってきており、お昼前ぐらいの時間であろうか? 普通なら休憩する筈がノンストップで歩いてきた為、他の探索者に比べてかなり早い移動であった。
7階からは畑が無く、代わりに薬草や野草に木の実が多い階層となっている。だからか、ここからは猪の魔物が登場する。ブラウンボーアと呼ばれる魔物だが、通常の猪サイズであり、そこまで強い魔物でもない。
ミクに向かって突進するも勝てる筈などなく、誰も見ていない事をいい事に貪り喰われた。ある意味で昼食のような扱いだったブラウンボーア。悲しい扱いだが、魔物などこんなものでもある。
再び歩き出すもちょこちょこと襲ってくる。コイツの売れる部位は肉なのだが、解体が面倒なので、ミクは今のところ持って帰る気は無い。あまり高くも売れないからだ。
人が見ている前では、ダガーで足を切りつけて放置。そうやって進んでいくこと一時間、ようやく最下層の10階までやってきた。
この惑星最大のダンジョンは、最初のエリアから広くて面倒臭い。最高攻略が46階と言われる筈である。他のダンジョンはここまででは無いのだから、ここだけがおかしいというのが正しいのだが。
10階層まで下りてきたミクは、そこに事前情報の通り、ボス部屋に入る為の大きな扉がある事を確認。しかし、その前に6人程が座り込んで話しているようだった。
ミクに気が付いた男達は、下卑た視線を向けつつ話し掛けてくる。何を考えているのか分かりやすい連中だ。
「よう、嬢ちゃん。どうだい? オレ達と一緒にボスを攻略しねえか? オレ達も人数が多いと楽だからよ」
「別に良いけど、役に立つの?」
「おお、言ってくれるじゃねえか! オレ達の強さを嬢ちゃんに見せ付けてやるぜ!!」
男達は全員ニヤニヤとした表情や下卑た視線を隠そうともしない。あまりにも分かりやすく、ついでにボス部屋という密室はミクにとっても好都合な場所だ。
ミクもまた内心の喜びを抑え、いつもの無表情のままボス部屋へ。中に入りながら右手に剣、左手にダガーを持ったミクは、ボスが出てくる地面の魔法陣を警戒するフリをしつつ、男達の動きを観察する。
(後頭部や首の後ろから確認しているとは気付いていない。まあ、人間種が想像する事なんて不可能なのだから当然か。それにしても背後をとってるからって、随分隙だらけなバカどもだね)
魔法陣からせり出して来たのはブラウンボーアが10頭と、赤茶色い猪が1頭だった。明らかに赤茶色の方は体が大きく、体高が1メートルを超えている。場合によっては轢き殺されかねない程だ。
「よっしゃー、ボスだ、ブッ殺すぞ!」
「オレが一番乗りだ!」
男達はそんな声を上げつつミクに切りかかってきたが、ミクは前にステップする事であっさり回避。男どもの攻撃を振り返る事なくかわす。
そのミクの行動に驚いたのか、ボス以上にミクを警戒するも、既に攻撃した事実は変わらない。それでも男達には余裕があった。
何と言っても6対1、しかも男達が襲い慣れているフィールドだ。だからこそ負ける訳は無いと、根拠の無い妄想に囚われていた。この時までは。
ミクは剣とダガーを捨て、男達の方に向き直る。そして両方の掌を男達に向けた。当然、男達には何の事か分からない。
その瞬間、ミクの掌から白い杭のような物が射出され、男達の喉や心臓を貫く。それはミクの本体が喰った死体の骨。それを粉々にして本体の粘液と混ぜて練り、魔法で焼き上げた代物だ。
【火弾】の魔法陣を覚えた後、練習している時にふと思いついたのだ。こうすれば骨を有効活用出来るのではないかと。
ミクは肉が食べたいのであって、骨は必要ないのだ。とはいえ何かに活用したいところであり、それが遠距離用の射出武器となったのだから十分である。どうせ放っておけばダンジョンに吸収される物でしかない。
男達は悲鳴を上げる事も出来ずに次々に殺され、あっと言う間に全滅した。その後、ブラウンボーアは穴だらけにされ、ボス猪は足を肉塊に喰い千切られて放置される。理由は男達の死体だ。
このままボスを倒せば、後続にミクが殺したと見つかるかもしれない。だからこそ、今の内に死体を処理する事にしたのだ。
ミクは男達の死体を貪り、持ち物は本体空間に転送する。これは本体と分体が繋がっているので可能な事であり、それはつまり本体空間とも繋がっている事を意味するのだ。
神々が作り出したミクと本体空間。それは正しく神の御業という他ないものであろう。




