第2章 ベリエルの情報網②
唯一ビジョンで送ってないことがある。オベリスクを消そうとして捕まり損ねたこと。それだけは心配するだろうと思って知らせてない。
(ふ~ん、僕に隠し事?颯希)
(やっぱり無駄か)
(無駄だね)
(こんなことがあった)
「やっぱり、危ない橋渡ってるじゃん」
「なんだ、唐突に」
「いや何でもない」
「良くない。魔神に昇格」
「大魔王さまがなるのが順当だ」
「じゃあ、邪神」
「考えておく」
「いつも考えておくで、終わらせようとする。狡いぞ」
顔と顔を向き合わせて、バトル開始かと思えば、即座に終了。
「じゃあ、コレ覚えて」
宇宙空間である。突如にして闇の中。原因は、主が椅子に座る形で、転移魔法を発動させ、ルシフェル共々、船外へ出たことだ。
「トゥエルブが悲鳴を上げるぞ」
「何するんだ?」
もれなく1名憑いてきた。ベルゼブブである。
「君に教える気はないんだけど。いいや。部下も使えると便利だから」
12枚の光り輝く翼が広げられた。闇の宇宙空間に光が差す。
「神経を研ぎ澄まし、目標に向けて翼の羽1本1本を弓矢の如くイメージする。我が羽たち、行けっ!」
何千何万もの羽矢が全方位に向けて発射された。目標物の隕石や宇宙ゴミに命中して、粉々に吹っ飛んだ。凄い威力である。
「ひゅー。すげえな」
ルシフェルは座ったままの体制だと不利と判断して、即座に主の横に並び立った。両目を瞑り、羽矢を全方位に向けてイメージする。
「主、出来てる?」
「羽矢は均等に」
羽矢の感覚を全方位に向けて軌道修正。
「どう?」
「いいよ。放って」
「我が羽たち、いけえええっ」
近くになった小隕石が爆発した。それ以外は当たった光は放ったが、粉砕出来るまでには至らなかった。
「しょぼいな」
「マナの放出量間違えないでね。相当要るから」
「了解」
もう一度、ルシフェルはイメージする。全方位に羽矢を向け、マナの放出量をさっきより強くして放った。隕石群に飛び、それらは大規模な爆発とともに霧散して消え去った。
「こんなもんでいいか。主」
「ランク上げする?もっと威力出せるし、本数も桁違いになる」
「それはあとで考える」
「また、それ。でもいいや。その分、部下のベルがいるから2倍にはなるでしょ」
「なんで、そんなにも簡単に出きんだ」
ベルゼブブも言われた通り、全方位に向けて黒き羽矢をイメージして放ってみたものの、コレを言って成果はあまりなかった。
「練習しとけ」
「おう。二人は戻るのか」
「そうだな。ベル、船には触れてろよ。いつ飛びかわからないからな」
「了解」
「おかえりなさい。というべきかしら」
「ごめんね。トゥエルブ。でもこれからは慣れてもらうよ」
「わかっています。わかっているけど、私、一応、機械よ。それと先ほどの爆発に関しての抗議が来ています」
「はいはい」
「主、第1宇宙のレプリカどうするんだ?」
「回収すると第1宇宙は消滅するが、残ってるラーの破片を同時に消滅させることが出来るから御の字かな」
「俺がいるのにレプリカ必要か?」
「ううん。本物がいるからいい」
「じゃあ、どうする?」
「第2宇宙において置こう。誰にもわからないところに隠して。じゃ、ちょっと行ってくる」
「ああ」
「ただいま」
「やけに早いな」
「僕の物だからね」
「で第1宇宙は?」
「うん。案の定、消滅した」
項垂れるルシフェル。第1宇宙での想い出の数々が思い出される。初めて主あったのも第1宇宙で、だった。
それを身体で支える主。後ろ髪を撫で付け、すいている。
「大丈夫、ルシフェルのせいじゃないから」
「でも主は」
「わかってる。第1宇宙の寿命が縮んだのは。でも安心して、そのことで僕は傷ついてないよ。僕は神をも作り出せる存在。神王。神々の王だから。消滅も出来るんだよ。知っているでしょ」
「一樹?」
「その名で呼んでくれるの?」
「うん、街に出たときは必要だろう?」
「どこか行く当てはあるの?」
「ネオ名古屋市地下第3階層にあるサイレンスホテルに泊まる予定」
「トゥエルブ」
「了解。3名で予約完了」
「ありがとう」
ベルゼブブの練習の成果もあって、何とか夕方までには目的地のホテルへ3人で向かうことができた。地下15階層までがネオ名古屋市になる。その下は他の都市が入っていた。
3人がサイレンスホテルに着くまでに、一騒動あった。問題は一樹なのだ。いつも影に隠れて行動している一樹が表立って、颯希たちとともにいるのだ。それだけでファンにはたまらない光景になる。一樹も颯希たちに引けを取らない美形の持ち主なのだ。それも銀髪で一応に目を引く。均整のとれた肉体に甘いマスク。
アイダルグループSOUSEIの7人目のメンバーと言っていい。6人目はデビュー後すぐに病気で引退した学がいる。
颯希たちより若いんじゃないかと、もっぱらの噂である。そんなことはないんだけど。見た目が前髪を前に垂らし、どこぞのプリンスでも降り立ったのかと思えるほどに。
ホテルに行くには地下エレベーターで降りて、すぐのところにあった。
15階建ての立派なホテル。受付を済ませ、ルシフェルたちは210号の和室に入った。エアコンとWi-Fi内蔵テレビ、トイレに内風呂がついた旅館的な作りだった。
「ひとっ風呂浴びるか」
「そうだな、予定より遅れて入ったからな。夕方といえど」
脱ぎ始める3人、三人三様の肉体美がそこにはあった。男同士気になるのは筋肉の付け方ぐらいで、話もすぐに終わる。
話し終えると流し場にどかっと座り、頭から洗い始めた2人と身体から洗い始めたベルゼブブ。一面を泡だらけにして、子供のようにはしゃぐ。それで洗い終了である。
滑らかな肌触りのお湯に飛び込んだ。バシャンと飛沫が飛ぶ。その飛沫がルシフェルにかかった。
ルシフェルはベルゼブブ目掛け、ジャンプ。盛大な波飛沫が岩風呂の岩に打ち付けた。
「颯希まではしたない」
「いいだろ。俺たちしかいない。部屋風呂なんだから」
「まったく、いつまでたっても子供なんだから」
「何百才の人を捕まえて子供ときたか」
「何才になっても子供は子供」
「親みたいなこというな」
「生みの親といえば親なのか。ワンクッションあるから親というより祖父かな」
「爺くさ」
「なんだとぉお」
「よい子は数数えて」
散々笑って、楽しんだ。
風呂場から部屋へ入ると、海の幸をふんだんに盛り合わせ舟盛りがデンとテーブルに置かれていた。アワビの姿焼きに、ふぐの刺身、豪華な食卓である。
「すっげえ、いくらするんだ?これ?」
第1宇宙での名古屋港は物資の輸送がメインであったがために、豊富な魚介類の宝庫ではなかった。他から取り寄せしたものが主だった。それでも良いのだ、海があるだけで、想像が出来る。ましてやここは地下である。海があるはずがない。
「いっただきま~す!」
ルシフェルとベルゼブブ。
「頂きます」
と主。
ふぐの刺身から頂き、アワビの姿焼きを一切れ頂く。ナイフで簡単に切れるのに、弾力のある歯ごたえ。ぷるんとしていて美味だった。
舟盛りの刺身は豊富なバリエーションだった。大トロ中トロ、赤み、マグロに続きホタテ、甘えび、イカ、たこなどなど。食べきれないと思っていたが、3人でペロリである。それだけ美味しい魚介類たちだった。
食べ終わった頃、仲居たちがやってきて布団を敷いてくれた。川の字に3列並びで。
「極楽極楽」
「魔王が極楽言うな」
「至福のとき」
「まさしく」
「もう寝るか?それとも話を整理する?」
「いや、寝てくれていいや。俺にはやることがあるらしい」
「なになに?何か見つかったのか?」
「エアコンと壁との間に黒い影……チッ。ここも人柱か」
「俺には黒い影しか見えないぞ。これもランクが上がれば見れるのか?」
「主は見える?」
「見える。確かにいる。何体あるのか?」
「俺にはみえねえ」
「やっぱり………颯希?」
「どうした一樹?」
「颯希………なぜ神の目を持ってるの?」
「神の…目?」
「善と悪を見分け、すべてを見通すことの出来る目。それが神の目。すべての神が持てる唯一のもの」
「知らない」
「堕天使サタン、ルシフェルとルシファーと同時に生まれるはずだった存在。神に反逆したことで堕天使として地獄の長に収まるはずだった。三つ子の一人」
「三つ子?」
「知らない。一樹、執拗いぞ」
「ごめん。でも長兄のサタン、次兄のルシフェル、末弟のルシファーなんだよ」
「でも長兄は居なかったぞ。俺たちが生まれた頃には。3兄弟揃って神に弓引く者なんだな」
「そう作られたから神によって」
「生まれる頃にすでに反逆者なんだな」
「仕方ない。そう定められた運命」
「でも俺には主がいる。これも定められた運命?」
「そう。堕天使3兄弟の運命の相手はすべて神なんだ。ここだけの話だけど」
「ルシファーの相手も神なのか?反逆したのに」
「邪神も破壊神も神だよ。闇属性の。他には暗黒神なんてのもいるから」
「なるほど。主は光属性?」
「光と闇も含めて全属性に耐性ついてるから。強いぞ僕は」
「期待していいのか」
「任せとけ」
「神の目か…そんなのどこでどう手に入ったのやら」
「わからないなら考えても仕方がない」
「さてと。エアコンの人柱か。何体心に入れれば良いのやら」
エアコンと壁との間の蠢く影。人柱となって封じられた人々。1体1体目を合わせて、心へと導く。
「やっぱり、ここにも尚人、将人…そして数え切れない芸能人の方たち、中には一般人もいるかもしれない。俺らのファンも含めて、だろうな」
「泣けてくるね」
「そうなんだ。涙が溢れるんだ。これやると」
「僕の心にも入れるからね」
「メンバーは俺が貰う」
「わかってるって」
一連の作業が終わる頃、ベルゼブブは一人いびきをかいて眠っていた。頬をツンツンしたり、鼻を摘まんでみたりしたが、いびきは直らなかった。
しばらく眠れない二人は、これまでのあらすじをまとめてみた。
「メンバーとの飲み会、これは一樹がセッティングしたんだよな」
「そう。たまにはいいでしょ」
「目覚めたら誰もいない。ベルを呼んだら第2宇宙消滅って」
「全員一緒に飛ばせなかったんだよ。でも颯希の交友関係は事前に全員飛ばしておいた第3宇宙に」
「それはサンキュー。主の魂の欠片もな」
「ああ、あれ僕の分身。居るようで居ない。居ないようで居る。そんな分身」
「あれには参ったよ。呼んだら出てくるかと思いきや、全く出てこないときもある」
「だから颯希の役目を担ってるときは、出れないんだって出たらバレちゃう」
「俺の役目なんてしなくていいのに」
「出来るわけないだろ。弱みなんだから」
「俺は弱くないぞ」
「弱いの。現に捕まりそうになったんだろ?魔法陣すら解けないなんて」
「あれはランク付けされたものだろう?」
「そう。だからランクアップしてって、お願いしてるのに」
「神の中でもランク付けあるだろ?それでもしろってのか?」
「あるけど、殆どが横並びだから大丈夫だって」
「創造神でもあるラーに匹敵できるのか?」
「創造神ラーのランクなんて底辺だから大丈夫なの」
「なんでそうまで言える?」
「僕がランク付けしてるから!!!神王の役目も大変なんだから」
「仕事あるのか?」
「当たり前でしょ。この手の雑用押しつけられるの」
「へえー。意外。神王なんてふんぞり返ってるだけかと思った」
「それは出来ない。神々の主としての振るまいとして」
「手本になるようにか?」
「そこまではいかないけど。ねえ、颯希。ランクアップして」
「どうして、そこまでする。一樹、どこ行く気?」
戸惑いを見せた主。
「どこにも」
「嘘だ」
「ねえ、颯希。二人一緒には行動できないよ」
「危険なのにか?」
「だからだよ。僕と一緒だと狙ってくださいって言っているようなものでしょ」
「護ってくれないのか?」
真っ直ぐ主を見つめるルシフェル。困ったわけでもなく頼っているわけでもなかったのは、見て取れた。
「狡いぞ。危険度アップすること間違いなしなのに、困った子だ」
ルシフェルの顔面をわしづかみし、髪をクチャクチャにした。ルシフェルに笑みが零れる。
「やめろ。髪が乱れる」
「颯希には指一本触れさせないから」
「おお。主の名に相応しい言葉」
「寝よう。このままじゃ、夜が明ける」
「おやすみ。一樹」
「おやすみ」
ルシフェルが寝静まった頃、主は一人で部屋を出た。
「トゥエルブ?」
「はい。なんですか?マスター」
「会話録音出来てる」
「はい。データ化して保存されてまさす」
「この惑星の1000階層にベリエルの館がある。そこに情報流せ」
「代金はいかほどに?」
「価値はない。あとで訪れる」
「了解。明日の午後に予約を取りました」
「わかった」
すやすやと寝息を立てて眠るルシフェルの顔を拝みながら、そのすぐ横で添い寝して眠りに入った主。心の乱れもなく心地よく眠れた。
翌朝。主が目覚めるとすぐ横にルシフェルが眠っていた。体制を入れ替えて、起こさないように床から這い出た。ベルゼブブもまだなようだ。
「いい気なもんだな」
壁の一端から突如声が降ってきた。ラーである。主の目が険しくなる。
「何かする気か?」
「しない。でもいずれルシフェルとルシファーは頂く」
「なにを企む。狙うなら俺にしろ。また深淵に閉じ込めてやる」
「レプリカで数千年の寿命。本体なら幾年寿命があるんだろうな」
「それを知って、どうする」
「俺様の糧になってもらう。二人なら一万年以上にはなるだろうよ」
「一瞬で消滅させてもらいたいのか?」
「それには枷があるはずだ。そう簡単にできるものではないからな。例えば運命の相手の消失とか」
「なぜ、それを知ってる」
「ベリエルの館。1宇宙が丸々一個買えるだけの代金を支払ったら教えてくれた」
ぐっ。
「復活して間もないのに、よくそんなにも金が用意出来たな」
「一応、これでも創造神だからな。造作もない。それに金を寄付してくれるという有り難い制度もあるしな」
「太陽神ラーを祀れば、金が入ると触れ込んでるのか?」
「そうしないでも、人は何かに縋る」
「おまえがラーか」
主はゾッとした気配がないのだ。ルシフェルの。主に気付かずやってのけたのは褒めてやりたいが、今はそれどころじゃない。いくらラーに注視していたといえ気配もなく、後ろに立たれた。
今でも主の心がざわめきつく。
(颯希?)
答えは返ってこない。こんなことは今まで一度もない。神々の主としては失格である、何事もそつなくやってのけるのが、主の役目。
「主、しゃがめ」
うん。ここは従っておくべきと全身が鳥肌もので叫んでいる。
「くらえ」
うわぁ。
開いた眼球から斜面を駆け上がるように直線上の光が走った。上空のホテルの天井から斜めに切り裂いたのだ。
「そっちか」
ラーの気配を察知して、またしても光を放つ。
「おまえがなぜ、それをもっている。それは我が子セクメトの炎の目。生きとし生けるすべてのものを焼き殺す神の目をなぜ、おまえごときが?」
「言っても無駄。コイツは知らない。俺の存在もな」
主ははたとわかった。
「長兄サタン。君が颯希の中に?」
「もう目しか残ってないが、その目も奪ったものだけどな。それだけコレを押さえるのに力を使う。俺が完全に消滅するまえに運命の相手にして神々の長である主に願いがある。神にランクアップさせてくれ。じゃないと神の目を押さえきれないかもしれない」
「説得を続ける」
「いいことを聞いた。ランクアップにしろ簡単にはできない。堕天使ごときが神を望む?その神に弓引いたものなのにか?なにを引き合いに出す?神王」
何も答えられない主。そうなのだ。ランクアップには何かしらの取り決めがある。
「このままほっといても良いかも知れんが、それではセクメトの目しか手に入らんからな。どうするべきか」
「そっちか」
また空を切る。ラーの半透明な肉体が露わになりつつあった。それだけ際どい場所を攻めているのが、手に取るようにわかる。
霊体だけでは交わせないと思っているのだ。ラー自身も。
「主、変われ。力を使い過ぎた」
と言った途端、ルシフェルの身体が傾いだ。慌てて片腕でそれを支える。
(颯希?)
「狙ってみるか?当たったらルシフェルは消滅するが、貴様も同様だ」
(サタン?)
(俺はもう眠る)
(颯希、起きて)
脳裏に直接働きかけても、なしのつぶて。
「遠慮しておこう。セクメトが復活すれば肉体は我が手に落ちる」
フッとラーの気配が消えた。張り詰めた空気が霧散したと同時に、ルシフェルが身悶えた。
「ん?なんで、俺こんな体制なん?」
それと同時に支えていた腕を払ったがために、ルシフェルは布団にダイブする結果になった。
ルシフェルの目が眉間による。納得しない顔である。
「おこしたのに、ちゃんと起きないから」
なんのことかわからないルシフェルである。
「なんで、そんなにも怒ってるんだよ。一樹?」
「颯希はいつから、そんなにも寝起きが悪くなったんのやら」
「寝起き悪くねえもん。今日はたまたまだ」
「はいはい。駄々こねない」
「うっせえな、寝らんねえだろ」
「おまえはいい加減、起きろよ。ベル。それより主、なんで天井がねえの?」
「さっきまでラーとやりあってたから」
おまえがとは言わない。言えないといった方がいい。
「どうやったら、ここまで綺麗に裂けるんだ?」
「レーザー光線みたくやってみた。羽矢で」
「マジか。すげえ。主」
「見直した?」
「見直した。それはいいがどうすんだ。支払い。俺ら2階に泊まって。ここ15階だろ?」
「復元魔法使うからいい。人身被害はないし、大丈夫」
「おお。さすが神々の長」
サタンの記憶なしか。ぼそりと呟いた主。誰にも聞こえてない小声で。
「朝食取ろうか、1階のビュッフェで」
「おお、いいね、食いに行こうぜ」
「ベル。起きたのか?」
「そりゃあ、朝飯の時間だからな」
「はだけてる」
「おまえもな」
「みんなだな。だらしねえ寝方してんな」
「うっさいわ。とっとと着替えろ」
「おまえもな」
三人三様着替え終わり、帰りの準備も万端揃って1階へ足を運んだ。ビュッフェに入るまえカウンターで部屋でのことを説明し、一度、表へ出た主。呪文を一つ唱えると、あれよあれよと分断された壁が復元されて元通りになった。中からも切断された部分の痕跡すら残ってないという品物で。あとは多少の金を握らせた。
「何食べる?」
「おれは軽くでいいな。サラダとパスタとスープ」
ルシフェル。
「んじゃ、俺はカレーライスに福神漬け、コンポタージュ」
ベルゼブブ。
「はいはい。ご飯に味噌汁、漬物にウィンナーと目玉焼き」
主。
全然バラバラの朝食となった。食べ終わった順にロビーで待つことにした。一番長くロビーで待たされたのが、ベルゼブブだった。残り二人にあまり時間差はなかった。
「これからどうする?」
「地下1,000階層にあるベリエルの館へ行く」
「情報屋でなにするんだ」
「情報集めだろ」
「なにをぉおお」
「はいはい。けんかしない。敵さんも情報屋使ってるみたいだからね。有りっ丈の金で最上級の情報貰わなくちゃ」
「ベリエルって、あのベリエルか?」
「堕天使ベリエル。あちこちの宇宙で情報屋をやってるって噂だよ」
「あいつは元・男だからな。昔のよしみで聞かせてくれねえか?」
「無理だろ。今じゃ女だろ。金かかるんじゃないか、維持費に」
「そっちか、ありえるな」
主のこめかみあたりがズキズキし始めた。
堕天使ベリエル、昔、神に弓引いたルシフェルたちと一緒に負けて、地獄へ落とされた天使。そこから這い上がり、地上階へ上り詰めた。地獄にいたときから、どんな情報にも目を通し、やりくりしてきた実績がある。
今じゃあ、ベリエルの館を点在させて、全宇宙の情報をやりとりしている情報屋の一人。どんなに些細な情報をも取引の材料にしている。
裏手に入ると同時に主が転移魔法を発動させた。行き先は地下1,000階層のベリエルの館。
至ってシンプルの作りの建物だった。顔パスの常連客が多いみたいだ。チェックが曖昧になっていた。それでもキッチリつけるところはしている風である。
「あんたら初めての客だな。身分証拝見しやすぜ」
「ボスのベリエルに会うにはどうすればいい?」
「受付で大金弾むんだな」
「どれぐらい?」
「そうだな。1宇宙とは言わないが最低でも1惑星だな。それも居住可能惑星だ」
「金鉱脈惑星では駄目か?」
「駄目だな、枯渇したら終わりだからな。居住可能惑星1つが無難だな」
「わかった」
それだけで会話は終了したが、別の話が持ち上がった。
「へえ、あんたがあの颯希かい。で隣が迅人ってのかい。あのSOUSEIのメンバーの。今じゃあ売れっ子の情報だぜ。俺でもちったあ稼げそうだ」
「俺らが来たことでも情報なのか?」
「そりゃあ、そうさ。些細な情報も…が、モットーだからな」
「なるほど。じゃあ情報ばら撒きに行きますか?」
ベルゼブブを先頭にいざ初陣である。とでも言いたいのか。
「SOUSEIメンバーのお通りで~す。迅人と颯希、そして滅多にお目見えできない敏腕マネージャーの一樹。これらの情報で何が食える?」
「バーでミルクでも飲みな」
「それだけか?」
「その情報なら端末でこっちに来てるんでな」
「あちゃあ」
「馬鹿やってないで主に変われ」
中は薄暗かった。情報を買う者、売る者双方が入り交じっているから、顔隠しにはこのぐらいの明るさで丁度いい。
受付カウンターに恰幅のいい男性ドワーフが長い白髭を携え、立っていた。だから幾分カウンターの高さが低くなっている。
「ベリエルに会いたい」
「どの初客もそれを言うんだ。困ったね」
「1宇宙丸ごとでどうだ?」
「ハッハッハッハアアアア。とんだ食わせ物だね。あんたそれを信じろってのかい」
「ベリエルに颯希と迅人の顔見せさせれば済む。それで門前払いなら二度と来ない」
「お嬢。客人でっせ。代金は1宇宙丸ごと」
端末に現れた美女が微笑む。
「通しな」
「最上階だ」
「ありがとう」
「ホントに払えるんだろうな?」
「ああ、大丈夫。こう見えて金持ってる奴だから、コイツ」
ルシフェルが一番若く見える主に指さして示した。
エレベーターで最上階に来ると、ワンフロアのテラスハウスだった。調度品がズラリ並べられていて、埃一つない。行き届いた清掃だった。
「あら、敏腕マネージャーだけの支払いじゃ済まないんだけど」
「分からないのか?それとも呆けたのか?俺の運命の相手が一樹だ」
ベリエルの整った顔立ちから驚きが見て取れる。
「マジな話?」
指をくるりと回し、ルシフェルに指さす。
「マジだ。誰だか分かったな」
「ルシフェルの運命の相手。それは創造の主だったわよね」
「1宇宙丸ごととコイツの正体の真相とどっち取る?」
「1宇宙なんてせこいこと言わないわ。正体はなに?創造の主だから神ではあるのよね?」
主が両腕を広げた。好きにしてくれと示したに違いないとルシフェルは思った。
「神王。神々の長、神の中の王」
「分かってて言ってんの?」
「そりゃあそうだろ?」
「ベルは黙ってて」
「はい」
「代金は払うよ。座標言えばいい?それで大丈夫?」
「一樹。それはもう」
「示しが大切なんだよ。ベリエルにも部下はいるだろう?」
「いいのよ。大金より価値ある情報をもらったから。それだけで十分よ」
「ラーには知られた。いずれ神々にも知れる。そうなればタダのゴミ情報だよ」
「1宇宙丸ごとを蹴るだけの情報を仕入れたことがバレたら狙われるかもよ」
「知った情報はいずれ神々に知れる。なら受付で話したとおり大枚を叩いた方が君の身の安全が確保できる」
「どっち取る?」
「主に賛成するわ。払うって言うなら二度取りで悪いけど、示しをつけるためにも受け取っておくわ。でも今後、主さん。あなただけならタダで情報あげるわ。で、船をどこに行かせればいい?」
「第16宇宙の第8惑星に隣接するアルファー宙域X258:Y92で亜空間へジャンプ。突出地点をマーク。そこから帰れます」
「了解。聞いた?船長行ける?」
「お嬢、冗談ですよね」
「何か問題でも」
「そこは大気圏すれすれの位置で、下手したら重力に捕まりますが」
ベリエルが主を見る。
「その座標に乗せれば自動でジャンプしますから。がんばって。帰りが同じ場所になるので、注意が必要です」
「お嬢?」
「行けないの?船長交代する?」
「行けますけど、どこの宇宙に突出するんで?」
「第10,000宇宙に繋げた。そこからしか出入り出来ないから。情報漏らさないでね」
「一樹、今繋げたろ」
「いいじゃん。いつでも」
「管制官に筒抜けだけど買収しておくわ」
ルシフェルとじゃれ合っているが、末恐ろしい主である。繋げたという言葉の前ではどこに飛ばされるか分かったもんじゃないけど、ベリエルも情報屋である。言った座標に行けば繋がっているのだろう思った。言葉の駆け引きなのである。信用を信用で返す。
「で、見返りの情報は何をお買い求めなのかしら?」
「オベリスクがどこに点在しているのか?あらゆる情報が欲しい」
「オベリスク絡みってことは、太陽神ラーが復活なんてのも知ってるのかしら」
「今朝、主が撃退した」
「そう。相まみえてるのね。最新情報はどこに転送すればいい?」
「トゥエルブ」
「この端末から、このアドレスへお願い」
ベリエルは持っていた端末が勝手に起動して、音声と敏腕秘書風の女性が映像として流された。
「ベリエルさん。宜しく。マスターの母船の管制システム、トゥエルブよ」
「管制システム?AIだというの?」
「そうなりますね。搭乗者は今のところ、そこの3人です」
「べっぴんさんだろう?生身じゃないのが残念なところ」
「そう、そうね。あなたたちに会って私の常識が吹っ飛んだわ。あなたがルシフェルを変えたのかしら?」
「俺は俺だろ。ベリエル」
「そうね。ただの天然よ」
「久々に会った相手にそれはないだろう?」
「地に堕ちた時以来かしら」
「情報のスペシャリストに、天然が勝てるわけないって颯希わかった?」
「主が一番ひどい」
笑いがこぼれる。自然の笑顔をルシフェルはしていた。ベリエルにはそれだけでも十分だった。かつての上官。皆を率いて神に弓引いた過去。皆を抑えきれなかった過去でもある。数多くの天使の反乱。その長としてルシフェルは堕天する方に与してくれた。
その相棒が主。神々の長が運命の相手。これから先、どう接すればいいか。答えは決まっている。
「お嬢。辺り一面、居住可能惑星ですぜ、遠くまでは行ってねえですけど。お宝の山だ」
「船長、軍団率いて再度、跳んで頂戴」
「わかりやした。一旦戻りやす」
「ベリエルはこの宇宙どう使う?」
「申請するには時期尚早といったことかしら。プライベート空間にするのも手よね」
「だったら申請した方が早いと思いますよ」
「トゥエルブさん?」
「私にさんは必要ありません。トゥエルブで結構です」
「じゃあ。トゥエルブ。どういうこと?」
「第10,000宇宙への出入り口座標を言って、プライベート空間にすると告げればいい。権利はあなたにあるんだから」
「認められなかったら、どうするの?大損よ」
「マスター、出入り口座標操作できますよね」
「うん、できるよ」
「ね、そういうことだから安心して申請していいわよ」
全員が突っ伏した。聞こえていたと思われる全ての船員に。
「お嬢。どういう客なんすか!?」
「そういうことができる人よ。ってことぐらいしか言えないし、申請しても信じてもらえないでしょうね」
「真実を信じず、突っ込んだりしたら、大惨事だな。大丈夫か?この惑星」
「真顔で言わないでください、颯希さん」
「そこまで見る必要ないですよ。信じず突っ込んだ方が悪いんですから」
「どんだけの軍艦が突っ込んでバラバラになったところで、地下1,000階層にまで影響出ないっしょ」
「客がいなくなるじゃない」
「あ、そっか」
「でた、颯希の天然」
「うっさいわ。そういう迅人だって天然だろうが」
「SOUSEIメンバー全員、天然ですからね」
主が締めた。
「主さんに賛成するわ。どこをどう情報を操作しても、それぐらいしかでないものね」
「ベリエルまでひでえな」
ルシフェルが自然と笑みがこぼれてるかぎり、ベリエルはルシフェルにつく。そう決めた。会ったその日に。遙か昔の天使だった頃から。
「はいはい。用件が済んだら、帰る帰る」
「まだいいだろ。昔のよしみでさ」
「昔?今日会ったばかりの奴が何言うか?」
「違いねぇ」
(ベル、ルシフェル宜しくな)
(あたぼうよ。ベリエルはどっちにつく?)
(聞くだけ野暮だろ)
(わかったよ。これでサヨナラって訳じゃないだろ)
(駆け付けるさ。あのときの恩返しになるかわからないけどさ)
(じゃあな)
(ああ)
「主、帰るか?」
「颯希はまだいたい?」
「また会えるような気がする」
「そうか」
「じゃあ、お邪魔しました」
「あいよ。3名お帰りでやんす」
エレベーターに乗り込み、一階に降り立つ。
「毎度ありがとうさん。いい買い物はできたかい?」
「おかげさんで」
カウンターのドワーフもある程度会話をきいていたはずだが、余計なことは一切喋らない。主は会釈して館を出た。ルシフェルたちもそれにならう。
それと同時に船へ転移魔法を施した主。
「ただいま、トゥエルブ」
「お帰りなさい」
「もうヘトヘトだよ。しばらく休む」
「今朝、バトルがあったからか?」
「そうだね。颯希ぃ~一緒に寝よう」
「やだ」
「ケチ」
「でもそばにはいてやるから。安心して眠ってくれ」
「うん。優しいな。颯希は」
主はホントに寝室に入り込み、寝床についた。その横にルシフェルが座る。
ベルゼブブは操縦席から例の軍団が大挙して座標から消えていく様をメインモニターから眺めている。
「すげえ、船団だな」
「そうですね。駆逐艦、戦闘艦、重巡航艦まである。第8惑星の軍艦まであるのでしょうか?」
「さぁな、ベリエルが持っててもおかしくないだろうぜ。情報でここの惑星ぐらいは管轄下においてるだろうしな」
「そういうものですか?」
「どんな些細な情報だからな。ある人にとっては不要でも、別の奴には致命的なんてもザラだぜ」
「はぁ」
「さてと次はどこの宇宙へ飛ぶんだ?」
「それはベリエルさんの情報次第です」
「まだ新情報ないのか?」
「はい。遺跡に関してなので。それようの部署を作るとか言っていましたから」
「それは大事じゃねえか、そこまでやる気だとわね」
あの言葉は満更でもなさそうだ。ホントに何かあったら、駆け付けかけない。情報屋としての信用を落としてもと、ベルゼブブは思った。
「で、主さんはダウンしちまってるし、これからどうするんだ?」
「わかりません」
「いっそのこと。第10,000宇宙の探索でも行かないか?出口はどっかに作れるだろう?」
「確かに出口の問題はそうかもしれませんが」
寝室の端末が自動起動。パネルに光が入り、映像が流れる。トゥエルブである。操縦室でベルゼブブと話している中で、他の端末で会話する。AIシステムなら当然出来る。
「マスター?おやすみですか?」
「どうした?トゥエルブ」
「颯希さん。マスターは?」
「寝た」
「そうですか、ベルゼブブさんから提案なんですが、第10,000宇宙の探索がなされました。現在、ベリエルさんからの新情報待ちなので、何もすることがありません。それにこれくらいで倒れるマスターではないことから。マスターはマスターで何か隠している風に思われます。どうしますか?颯希さん」
「そうだな。第10,000宇宙探索というか見聞に行こうか。主が起きないことには次の一手に出れないのも事実だしな」
操縦室のベルゼブブは相変わらず、ベリエルの船団を眺めていた。それしかやることがないのだ。
「なあ、トゥエルブ。この船団いくらぐらいにかかる?」
「そんなこと急に言われても破格でしょうね。1小惑星ぐらい買えるんじゃないでしょうか」
「やっぱ、そんくらいするよな」
「ベルゼブブさん、今さっき颯希さんに提案してみたんですが、見聞に行こうと了承されましたので、当艦はこれより第10,000宇宙へ向かいます」
「そうこなくちゃ」
接舷ゲートから船が離れる。静かな運航である。大気圏と船団の間を抜けていくのには、骨が折れそうだが、トゥエルブにとってはなんてことはない。計算された経路をその通り航行するだけのことだ。
ベルゼブブは早速端末に手をかけ、ベリエルに連絡を入れた。
「居るか?」
専用チャンネルである。これだけで呼び出せる。
「迅人さん、どうしたんですか?」
ベリエルもベリエルで、社交辞令で対応する。専用チャンネルでも部屋に自分以外の人物がいる場合も考慮してのことだった。
「今からやった宇宙見聞しにいってくるぜ。その辺、おっかない船団に一報いれておいてもらえると助かるんだけどさ」
「わかったわ。入れとく。やっぱり私も直で見た方がいいのかしら?」
「そりゃあ、そうだろうよ。自分の持ち物になるんだから」
「わかったわ。早速手配するわ。ねえ、物は相談だけど、その船に乗せてくれない?弾むわよ」
ベルゼブブは即座に別の端末から寝室にいるであろう相方に連絡を入れた。
「ルシフェルいるか?」
「静かにしろ。おきちゃうだろう」
「わりぃい。ベリエルがこの船に乗りたいって言ってきたんだが、どうする?」
「見聞に行くのか?乗せてやればいい」
「じゃあ、もっかい接舷ゲートへ向かうわ」
「なに、もう発車してんのか?ちょっと待ってろ?」
「おお」
「トゥエルブ、一人迎えに行ってくるから、この宙域いろ」
「わかりました」
で、ルシフェルが跳んだ。目の前にはベリエルがいる。
ベリエルは出る支度と留守の間の指示をテキパキとこなしていた。
「用意出来たか?」
ベリエルがため息をついた。これじゃあ、警備のしようがないのである。魔法障壁を何重にもかけないと。
「おまえさん、どうやって入った。警報すら鳴らさずに」
「転移魔法使ったの?」
「見ればわかるだろ?今、主が寝てるんだよ。早くしてくれ」
ルシフェルが肩を竦めた。
「わかったわ。みんな指示は言ったとおりしておいて。警報は魔法障壁専門の業者にでも見積もってもらっておいて。帰ったらやるわ」
「わかりやした。お嬢、お気をつけて」
「じゃあね」
で、ルシフェルが再びジャンプ。操縦室にベリエルをおいて、自分は歩いて寝室へ向かった。
「もしかしてルシフェル怒ってる?」
ベリエルはルシフェルがいなくなってから、こっそりする必要もないのに、こっそりとベルゼブブへといた。
「主さんが寝てるからな。本来なら寝る必要もないぐらいに元気にしてないといけないのにな」
「なるほど。何か秘密があるのね。主さんには」
「そうかもしれねえし、違うかもしれないってだけだ。それだけでも情報になるのか」
「なるわよ。ま、もしかしなくても私だけの秘密って、だけの情報かも知れないですけどね」
「そんなものもあるのか?」
「あるわよ」
「これより第10,000宇宙への出入り口ポイントに近づきます。定位置の座席へお座りください」
「いよいよだな」
「そうね。どんな宇宙なのかしら、早くみたいわ」
船団の合間を縫って、この宙域にまでやってきたトゥエルブ。最短距離での移動である。母体も大きなものではなく、小柄が売りのトゥエルブである。何たってそれようの量産型である。
重巡航艦と駆逐艦の間を航行し、ポイントに近づく。これからどんな宇宙が広がっているのか、なにせ急遽代金用に作られた宇宙である。主の太っ腹加減が見え隠れするなかでの旅路だった。
刻一刻と迫るポイント、トゥエルブの速度もいつもの航行より半減している。それぐらい密集しているのだ。ベリエル船団が今もなお、港からの輸送船やら空母やらの出檻待ちで港は忙しなく動いている。
惑星の上層部では上を下への大騒ぎになっていた。突如、新宇宙の出入り口が惑星の大気圏すれすれに現れたのだ。その申請を出したのが惑星随一の情報屋の女人だった。
連邦宇宙の新宇宙探査機関と新惑星探査機関の上層部にも、この一報は届けられた。降って沸いたかのようにいきなりの10,000宇宙発見なのである。
今はまだ6,000~7,000宇宙だった筈なのにである。それもここ数日で、5,000規模の新宇宙発見で話題がひっきりなしに議題に乗っていた話ばかりの時に。
10,000宇宙が発見されたってことは残りの3,000規模の宇宙がどこかに生まれたことを意味する。ハンターたちにも活気が更に高まった。5,000規模のときには不発に終わったにしても、次こそはというハンターもいる。
まして今回新たに見つかった場所が、惑星の大気圏すれすれということもあり、今まで以上に慎重を期した探査に乗り出そうと、躍起になっているハンターや軍関係者たちがいると思われた。
新宇宙やそこに広がる新惑星の発見には、利権がついてまわることもある案件でもあった。一般のハンターが運良く見つけた場合、自分の好きなように名前をつけられるし、それを見つけての一攫千金なだけのものであるのに対して、連邦宇宙情報局なんてもんに見つけられたら、密かに取引材料としてやりとりが次第では日の目を見ないことにもなりかねないのであった。
第3章へ続く