第2章 ベリエルの情報網①
第2章 べリエルの情報網
第16宇宙第8惑星近海は、水の氷と呼ばれる粒子群が無数に広がる宙域である。跳びにくさで有名で、大きいものはメートル単位で散らばっている。氷とは言え、ぶつかったらタダじゃすまないほどの傷を負うこと間違いなし。
だから熟練の操縦者の船ぐらいしか跳ばないことでも有名だった。その中に突如として亜空間から通常空間へ突出してきた船があった。追われているのである。それがトゥエルブだった。
どこで相まみえた船かはわからないが、緊急事態でことには違いない。トゥエルブは深い眠りに入っていた搭乗者を叩き起こした。
「起きてください。緊急事態です。私は航行に注意しなくてはならず、ミサイル群の対応に苦慮しています。起きてください。緊急事態です…」
客室に突然、鳴り響いた警告音とアナウンス。回転する警告ランプ。
ルシフェルは叩き起こされた。凄いボリュームである。寝ていられないと言った方が正しい。しかし、ベルゼブブは違うらしい。ルシフェルを後ろからガッチリと抱きしめて離さない。
「んぁあああ」
強引に引き離そうと試みるも失敗したルシフェル。
「ベルゼブブ!起きろ!」
叫んでも起きない。大概は警告音でかき消されてしまっている。
「ベル、痛い。優しくて」
苦し紛れの一言。力強かった腕が少し緩んだ。
「そこはダメだって」
「え、あ、わりぃい……」
まだ寝ぼけているらしい。でも腕が少し緩んだことでルシフェルは再度、抜け出すことを試みた。
「ふぅー、何とか出れたけど…」
思い返して、恥ずかしくなった。ベルゼブブは置いといてルシフェルは客室を出た。
操縦席に座り、モニターを一巡。現状状況の把握に勤しんだ。
「トゥエルブ、この、計器、は正確か?」
跳びにくさで有名な宙域である。そのために水の氷と呼ばれる粒子を回避する必要があり、船体は右往左往上下に揺れる。下手すれば舌を噛みそうになる。
「着弾まで10。何とかしてください」
「第1弾フレア作動」
「了解、フレア自動モードで作動」
この船での最速で跳んでいるが、向こうの方がどうみても速い。
「敵艦の映像出せるか?」
メインモニターに映る船体、どうみても戦闘艦である。どこぞで、領海侵犯でもおかしたかしたかだ。じゃないとここまで必要に追いかけてはこないだろう。極秘任務中だったとしたら、尚更である。
距離が近づくにつれて、船体が鮮明に映し出された。
「駆逐艦ヴェーダ級」
「どのぐらいの足だ?」
「こちらより速いです」
小回りが利いて、一般の量産型の船より足が速いときた。逃げ切るのが至難の業かもしれない。じゃないと拿捕されて係留されるか、だ。
「少しは足が速くなる船体にしたらどうだ」
「考えておきます」
「足より何に重きを置いてんだ?」
「装甲を少々……です」
「じゃあ、多少の被弾は大丈夫な仕様か」
「……はい」
「速さを殺したのには訳があるのか?」
「マスターとだと、緊急時、船ごと転移魔法で安全宙域まで跳ぶので……いない時は運命かと」
「バカ言うな。いないときこそ逃げ切れるだけの足を持たないと。ホントに拿捕されるか、海の藻屑になるぞ」
「………はい。肝に銘じます」
しゅんとなると、トゥエルブも可愛らしい女性に見える。普段は主が敏腕マネージャーなら、と張り合っているのだろうが。
「……ミサイル多数接近。着弾まで8」
「今の装備で対応できるか?」
「………………できません。フレア起動全方位に向けて連続発射」
「で、逃げ切れる足がない?」
「………はい」
「やれやれ、今から消えるけど発狂するなよ?」
「はい」
その返答と同じくして、ルシフェルは船内から船外で転移した。後方から無数に光るミサイル群。右手を前に掌を広げた。そしてイメージする。
「重装甲板バリア前方展開」
何重にも重ね合わせたバリアが掌前方に拡がった。イメージ通りである。あと質量の問題だった。ルシフェルはそれなりのマナを使用にバリア魔法を展開した。
「着弾まで、3、2、1」
そしてバリアに当たって、飛んで来たミサイル群は粉々に吹き飛んだ。当たった際の爆風を何とかやりすごし、ルシフェルはトゥエルブの船体に触れた。
(こんなもんでいいか)
(はい。ありがとうございました)
(ついでに、こうしようか)
で、転移したのである。船ごと第8惑星の大気圏上空すれすれに。
(わりぃ、イメージがイマイチだった)
その途端、トゥエルブの船体が振動した。惑星の重力に引っ張られ始めたのである。船の推進機関が悲鳴を上げた。
(もう一度、転移できませんかー)
(これでもイメージじゃ、惑星表面上空でしたんだ。下手したら粒子群の真ん中に戻りかねない)
(わかりました。全推進機関全エンジン全開!)
重力に引っ張られながらでも少しずつ前進していった。そのおかげで何とか軌道衛星上まで辿り着いた。
ルシフェルは自慢の翼で一足先に軌道衛星上に来ていて、トゥエルブの踏ん張りを眺めていた。そして船内に戻ったのである。
操縦室のメインモニターではトゥエルブが肩を上下させながら、息切れしていた。実際には船が、なのだが。その辺は抗議の意味合いもあったのだろう。さすが芸能界を網羅しているだけある。
「接舷まで10分」
「了解。ご苦労様、トゥエルブ」
「大気圏で燃え尽きるかと思いました」
「さっき、やけに揺れたが何かあったのか?」
トゥエルブと目を見合わせるルシフェル。あの警報にも負けずに寝てられる図々しさが頼もしい。が、肝心の時に役に立たない将軍職のベルゼブブであった。そうとは知らず、ルシフェルの袖を持つ。
「寂しかったか、起きたら俺がいなくて」
「ああ。抱きしめようかと思ったら、空振りときたからな」
「そうか、そうか、悪かったな」
ちょっと寂しそうに、しんみりと撫で撫でしないとあとが厄介なのだ。この男は。
「それで目的地には着いたのか?」
「今、接舷待ちだ」
「なぁルシフェル」
「やかましい」
ベルゼブブの手がルシフェルの顎を捉えた矢先、間髪入れずにルシフェルが払いのけた。
「むっ」
「トゥエルブ、さっきの駆逐艦ヴェーダ級について知っていることは。何でいきなり襲ってきた?」
「わかりません。どこかで領海侵犯でもしたのかと思って、さきほど航路を調べましたが、その可能性はありません。そして駆逐艦ヴェーダ級については惑星連邦軍の情報機関にハッキングしましたが、該当する軍が存在せず」
「特殊任務中に遭遇して、見られたと思って追撃してきた?」
「その可能性が最も有力ですが、ただ航行していた私は変な物、みていませんよ?」
「何かしらあるんだろうな」
「ルシフェル退け!」
突如出現した魔法球に、萎れていたベルゼブブが奇跡的に反応。球体はルシフェル目掛けて飛んだ暗黒球の魔法。急速展開暗黒バリアと瞬間に爆風で飛ばされた。
その場に緊張が走った。
「ベル!?」
誰が放ったかはわからないが、気付かれずに近寄って魔法を放つだけの力量が相手にあると、誰に目にも明らかだった。
ベルゼブブがしこたまメイン端末のあるボードに叩きつけられた。起き上がらそうとしたルシフェルの耳に、言葉が投げかけられた。
(見つけたぞ、ルシフェル。お前だったのだな、ルシファーを持って行ったのは?)
それだけ言って、相手の気配が消えた。
「大丈夫か。ベル?」
「狙いはルシフェルかよ!!!」
ルシフェルに支えられながら、何とか立ち上がったベルゼブブ。
「お前にも聞こえたのか?」
「聞こえたかどうかって、トゥエルブも聞いたろ?」
「はい。突然、割って入って来たので、頭がおかしくなりそうです」
トゥエルブの頭とはシステムのことである。
「声に聞き覚えありますか?」
「ない」
「ルシファーってことは、オベリスク関係か!」
「ベル、うるさい」
落ち込んでいるルシフェルを元気づかせようと試みるも失敗したベルゼブブ。
「整理しようぜ。なぁ、ルシフェル。元気出せよ。お前が悪いわけじゃないだろ。相手の狙いが分かったことだけでも良しとしようぜ。なぁ」
「わかったから」
座席に座っているルシフェルの後ろで、立ったままのベルゼブブがルシフェルの首に腕を巻き付け、揺すっているのである。
「侮れないな。今回はベルが反応してくれたからいいが、じゃなければモロあれを喰らったらどうなっていたか」
「俺らに気付かれないように、この船内にだからな」
「上位種だろうな」
「ちょっと待てよ。俺らの上って、大魔王とか神とかだろうが」
「大魔王ってことはないな。俺らが堕天使になったとき、ようこそ魔族へって挨拶寄越したぐらいだからな」
「そんなことあったのか?」
「ってことは神か……また神と一戦交えるのか」
「でも暗黒球だろ?あれ」
「暗黒神とかの方か?暗黒神に狙われる覚えはないぞ」
「そうなんだよな。同じ闇属性。闇の眷属同士で何を争う?」
「どう、主が関係してる?」
「主はそもそも闇属性なのか?」
「トゥエルブ、お前は何か知ってるのか?」
「マスターの正体についてですか?」
「そうだ」
「創造の主。この世界全てを生み出すもの…ぐらいしか思い当たりません」
「この世界すべて?」
「はい。マスターはすべての生みの親です。それと同時に破壊者でもあります」
「破壊!?」
「創造した宇宙を消し去ることが出来るからな」
「はぁあああ!?」
「喧しい。耳元で騒ぐな」
「わりぃ」
ルシフェルは端末板をトントンと叩きながら、思案する。親指の上に顎を乗せ、正確にリズムを刻む。
「宇宙を消し去る!?どうやって」
「それは以前、あいつを怒らせたことがあって…僕いらない?じゃあ、この宇宙もいらないよね?ってくるぐらいだからな」
「………マジ?」
「平謝りしたさ。宇宙消す、だからな」
「宇宙消されても宙域には居れらるだろ。俺らなら」
「その宙域諸共ないんだから、あるのは深淵の闇ぐらいだろ。あいつ自身は光り輝くだろうけど。僕いらないんでしょの一言に尽きるだろう」
「ぅああ、光無き闇か…」
「そうですよ。マスターの翼は12枚の光り輝くものですから。深淵の闇でもマスター目指せば、何とかなるのでは?僕いらないなんてこと言ってないで助けてくださいって」
「やっぱ神か?」
「………以前」
「ん?」
「あいつに言われたことがある。邪神にならないかって」
「邪神!?創造の主って何でもありか?」
主に初めて会ったときだった。唐突に邪神にならないかと、言われた。ルシフェルがきょとんとしていると、冗談だよと笑った。でもどこかしら寂しげだった。
主のいない世界、知り合う前は普通だったのに。いざ会えないとなると切なくなる。心に穴が開いたような気分。たとえルシフェルにゾッコンで親しみをもっているベルゼブブでさえ、代わりにはならない。
主、会いたいよ。切なる願いも空しく、彼からの交信はなかった。
「……フェル、ルシフェル!」
「主!?」
「わりぃ…俺」
「あ、ベルか。どうした寂しそうな顔をして」
端末台に背を預けながら、ルシフェルの手はベルゼブブの顔を取られえていた。頬をさすっている。
「そりゃあ、なるだろ。俺の一番の親友が塞ぎ込んでいるんだから」
頭を上げようとしないベルゼブブ。それでも…何か意を決した。
「ごめん。どうしても駄目なんだ。主を思うと」
ルシフェルの目をまっすぐ見て、言い放った。
「囚われた訳じゃないんだろ?」
うつむいてたままのルシフェルの両頬をわしづかみし、まっすぐ目線を合わせてやったベルゼブブ。
「それはわからない。ポットでは身代わりをやっていたのは確かだけど」
「身代わりまでして、おまえを守ろうとしているのは確かだろ。思われてんだから良しとしようぜ」
「ベルは優しいな」
「今頃、気付いたわけじゃないだろうが」
「そうだけど。………さてと、落ち込んでいても何も始まらないか」
「そうそう。で、何から手をつける?」
それが問題なのだ。オベリスクか宿泊施設かあるいは別のところか………。
「トゥエルブ、例のホテルはあるか?あるいは系列施設でもいい」
「ちょっと待ってください。………ありました。サイレント博物館。サイレントホテル系列施設」
「そこに何かあるのか?」
「わからない。ただの勘さ」
口の周りに指でリズムを刻むように叩くルシフェル。彼が考え始めたことを意味する。だからベルゼブブは口を挟むことなく、見守っている。
「今回のネオ名古屋市は地下10階の地下都市。その3階に博物館はあります」
トゥエルブは報告をあげているだけに過ぎず、聞いていなくても良いと思っている。
(報告します。ベルゼブブさま)
ベルゼブブの親衛隊が2枚の翼をパタパタとさせたビジョンを送ってよこした。
(どうした?)
(地下50階にオベリスク発見しました。ほかにいくつかありますが、五芒星を模したものは今のところ発見できず、であります)
(わかった。引き続き頼む)
(了解しました)
こめかみに手を添えているようにして敬礼して下がっていった。例によって180度回転して飛んで行くのである。
「地下50階にオベリスクだとよ。今、報告が来た」
「地下50階に都市はありません。ただの階層だと思われます」
「わかった。とりあえず接舷待ちだ」
「接舷まで、残り5分です」
律儀にトゥエルブが報告した。
「悪い、トゥエルブ。改ざん宜しく」
ルシフェルはベルゼブブの腕を取って、転移魔法を発動させた。何かしらの胸騒ぎがあった。主に関係することだと思ってのことだった。
地下50階そこは何もない薄暗い階層だった。パタパタとだけ音がする。親衛隊の翼の音である。それが無数にあちこちを移動しまくっていた。
「ベルゼブブさま」
「何かあったか?」
「報告します。逆五芒星発見しました。こちらです」
と言って、パタパタと先導する親衛隊の兵士。
高さ5センチもない小さなオベリスクだった。この程度なら破壊出来るのでは、と踏んだルシフェルがオベリスクへ近づいた途端、ルシフェルの身体が硬直した。声も何も出せないのである。
地面に光り輝く五芒星の陣が形成されていった。それに伴い、オベリスクが巨大化していったのである。エネルギーであるマナの供給は誰がどう見てもルシフェルだとわかった。ベルゼブブはありったけの力で、陣に囚われたルシフェルを強引に引っ剥がした。
タックルする形で転がっていった二人。下にルシフェル、上がベルゼブブだった。ベルゼブブの前髪がルシフェルの額に触れる。
「大丈夫か?ルシフェル」
「ベル。悪い。油断した」
立ち上がった二人。動揺しまくっている親衛隊の兵士たち。自分たちの報告ミスであると、土下座し始めたのを、ベルゼブブが止める始末だった。
「ベル?いつまで上にいる気だ?」
「ずっと、生気吸われたろ。キスでもするか?」
「わざわざ許可を取るのは狡いぞ」
「仕方ないだろ。黙ってやったら怒るだろうが」
「マジで動けないんだ。たったあれだけで」
「マジ!?」
口と口が重なるかどうかのとき、声が聞こえてきた。誰かが近づいてきたと思ったベルゼブブは動けないルシフェルを抱えて、岩陰に隠れた。が、誰かが近づいてくる気配がない。しばらく様子を見ていたベルゼブブの口が塞がれた。
ルシフェルが生気を吸い始めたのである。それだけ衰弱していた。
ベルゼブブの目がパチリと見開く。役得である。またしても声が聞こえてきたベルゼブブ。なんてことはない。兵隊たちが手で顔を覆って、チラチラ見ては声を出して話しているのであった。
そんな兵隊たちに手で合図を送ったベルゼブブ。あっちへ行ってろと。
パタパタと遠ざかっていく兵隊たち。
「このままやっとく?」
ここでトゥエルブが居れば、きゃーとか言って目の保養でしたというかもしれないが、ルシフェルはそこまでお人好しじゃない。
「遠慮する」
で、元気100倍とばかりに立ち上がったルシフェル。
それでも生気を回復させてくれた礼に、もう一度、口づけしたのである。そして今度はルシフェルの生気としてベルゼブブを何倍にも元気づかせた。
ルシフェルの方がベルゼブブより上位種なのである。ちょっとした口づけでも、ベルゼブブが行ったキスより何倍にもなる。
「これでいいか?」
「おお。やっぱ上位種とのマナ交換はひと味違うぜ」
「馬鹿言ってんな」
「こっちの10が、そっちの1ぐらいだろ」
「ま、そうだけど。でも、まさか俺を捉える仕掛けがしてあるとはね」
ベルゼブブに顎で合図し、形成された陣を爪先で切ろうとした。無駄だった。5センチだったオベリスクが10センチほどの大きさになっている。逆五芒星の陣が煌々と輝き、光がオーラのように揺らめいていた。
「俺たちに出来るのは魂の欠片集めかもしれねえな」
「そうかもしれないがオベリスク関連は調べられるだけ調べるぞ」
「そうこなくちゃ?」
(兵隊ども、わかったな)
(了解しました)
オベリスクの上空にさしかかった兵隊が、じゅぼっと吸われて消えた。近くに居た兵隊の顔が引きつり、驚愕している。それでも他の兵隊も陣の上空を飛んだだけで、姿を消した。
(陣の上空を飛ぶな。吸収されるぞ)
(了解しました。吸収された兵隊は、このシェムハザの汗で救済しますであります)
闇に青色の液体を二滴垂らすと、吸収されたはずの兵隊2人が闇より生まれた。
シェムハザとは、救いの堕天使である。あらゆるものを救済すると言われる人物である。シェムハザの汗とは一つ一つを救済する液体で、涙は小瓶に入った雫一滴で大量のものを一度に救済できる品物である。汗が青で、涙が赤色をしている。
(あああ)
貴重な品物を大判振る舞いである。ベルゼブブは嘆いた。
(どうされましたか?ベルさま)
(なんでもない)
(ベルゼブブさまからお許しを頂きました。これで消えても復活できるであります)
「出費がかさみそうだな、ベル」
「笑い事じゃない」
クスクスと笑い声をあげてるルシフェル。すかさずベルゼブブの腕が首に回る。
「黙らないと落とすぞ」
「やれるかな?」
回された腕をつかみ、ルシフェルは身体を反転させてた。
「ちょっと待て」
ぐいっと捻った腕を上げると、ベルゼブブが唸る。
「形勢逆転であります。ベルさま、弱っ。さすがはルシフェルさま」
親衛隊の一人がそんなことを言ったもんだから、主人のベルゼブブが冷やかした。
「そんなにルシフェルがいいなら、親衛隊やめるか?いいぞ。たくさん居るからな」
「滅相もございません。私どもがルシフェルさまの兵隊なんて出来ないから、次点のベルさまなのであります」
やぶ蛇だった。
ベルゼブブは項あたりをかいた。とんだ兵隊どもである。
「やっぱルシフェル隊の予備兵だけあるな」
「仕方ないだろ、おまえの主力は先の大戦で壊滅的被害被ったろが」
「はいはい、ありがたくて涙が出るぜ」
「なんだ、いらないなら返せ」
「いや、いるって。じゃなきゃ。調査の指揮官が不足するだろうが」
「こらこら、首が苦しいって。ほどけよ、いい加減」
「わりぃ。で、これからどうする?」
「系列の博物館に行く」
「サイレント博物館…無言の博物館ってか」
(ここはおまえらに任せるぞ)
(了解です、ベルさま)
で、今度はベルゼブブがルシフェルを捕まえたまま、地下5階の博物館近くに跳んだのである。
「で、いつ首を解放してくれるんだ?ベル」
「今だ」
するりと首に回していたベルゼブブの腕が解けた。
角張った作りの博物館で、ま、どこにでもありそうな作りでもある。他と違うと言えば、入り口左手側にオベリスク、右手側に太陽神ラーの像が飾られているぐらいだ。
宇宙を創造している創造神が太陽神ラーだという説もある。太陽神イコール創造神といっていい。そのラーにも一族が存在し、子供の一人セクメトは目から強烈な炎を放ち、殲滅する能力があるとまで言われている。関わりたくない話である。
入ってみてもこれと言っためぼしいモノが見当たらない。どこにでもある過去の遺物が飾られている。その中で違うと言えば、名古屋市の過去の遺物と題された展示物があった。
名古屋市にまつわるモノはあれど、他は惑星ある鉱物などがされているぐらいである。
「あった」
「何であるのかな。場違いなオベリスク」
「太陽神ラーを祀りたいのか」
ルシフェルはくまなく辺りを見渡した。壁とオベリスクが重なって出来た影。その暗闇に蠢く物体を見つけた。
「やってくれる。今度は人柱だ」
「どんなやつがいるんだ?」
「俺の過去に知り合った人たち。例えば歌番組で一緒になったアーティストたち、ちょい役でも出てた頃知り合った俳優陣女優陣の方々が暗闇の中に尚、暗く影を落として佇んでいる」
ルシフェルは悲しくて泣いた、人気も憚らず。というか自然と涙がこぼれた。そして許されるものではなかった。1体1体に目を合わせながら、といっても窪んだ眼だが、それでもその目に訴えかけるように自分の心へ入ってくれと願った。
影が揺らめき薄れ、消えてゆくさまを目の当たりにしたベルゼブブ。その彼も堕天使で魔王でありながら、胸くそ悪く思えていた。
「なんだってこんなことをする!?何が目的なんだ。ルシファーを捕らえ、ルシフェルも捕まりかけた矢先の次がこれか?」
ルシフェルは答えない、作業がそれだけで半端ない数の人柱だったのだ。一人一人の窪んだ眼に訴えかける。それを1体1体に指先を交えながら合図を送る。影が揺らめき消えてゆく。それを確かめながらの動作。
ベルゼブブの優しい手がルシフェルを包んでも、気にも止めない。ただひたすら動作を繰り返す。
他の人たちが何かとそこを見ても、彼が影に指さしていくことくらいしかわからない。そこには影があるだけ、なのだから。
「終わったか?颯希」
「………………ああ。ありがとな、支えてくれて。ベル」
「役得だから、いいってこのぐらい。今はベルと呼ぶな」
「???」
ルシフェルはわからず、小首を傾けた。
なんてことはない。静まり返っていたホールに突如告げられた名前。ラーを祀るオベリスクはあれど、元は名古屋市出身の市長が歴任している都市の博物館なのだ。名古屋出身の颯希の名はそれだけ知名度が高かった。あちらこちらでざわめきが起きていた。その颯希が泣いているのである。
カメラはどこ状態なのである。
咄嗟にベルゼブブが動く。ルシフェルの身体を反転させた。
二人の目と目がかち合う。
ルシフェルの目元にベルゼブブの指が触れる。流れ出る涙を拭くように。
それだけの光景で周りは黄色い声が飛び交う。
「そのさきはないぞ」
ルシフェルの小声がベルゼブブに突き刺さる。しゅんとなるベルゼブブ。そこは役者である。目元を拭い去ると覆い被さってきた。
「これならいいだろ」
「はい。終了」
「チッ」
小声合戦である。
あたかも自然の成り行きっぽく動作をする二人。カメラを探す周りの客たち。各々の思惑が混じり合う。
もう一度、出入り口付近を捜索する二人。ルシフェルの足が止まる。建物とオベリスクの影に柾樹、太陽神ラーの影に尚人の人柱があった。ホールで行った行為をここでもした。今度は関係者ではなく、親友であり仲間の人柱。許せるわけもない。自然と握り拳に力が入る。
「トゥエルブ。聞こえてるか」
ルシフェルの語尾に怒気が混ざる。
「はい。太陽神ラーについて、ですね」
「そうだ。調べろ。片っ端から」
「了解です。太陽神ラー、宇宙創造神にして太陽神でもある神。ラー一族を持ち、子供の中には目から破滅の炎を放つとするセクメトがおり、ヘリオポリス創世神話が主であった。後にアメン太陽神に座を追われ、ヘリモポリス創世神話ではアメン太陽神に作られたのが、太陽神ラーという説があります」
「他には?」
「過去のラーはその座を追われても尚、その座に留まることを厭わなかった。息子のホルスにその座を譲ってもラーホルスとして崇めさせた一説もあります」
「弱い」
「アメン太陽神に主神が変わると、当時の人々の間ではアメンのもう一つの呼び名アモンとして、統治者はアモンの息子と表していた」
「アメン神は関係なさそうだけどな」
「太陽神ラーを崇めている惑星は数えきれません。ただラーを抜きにしてアメン神は最も古い神々の一柱に数えられています。ですから神々の主であるギリシア人のゼウス、ローマ人のユーピテルと同一視しています」
「それで」
「つまり神々の主ってことじゃないんですか?マスターはマスターが原因と言ったんですよね」
「つまり神々の主の座を賭けての戦いでもしてるのか?」
「それはない。それなら俺の身代わりをやってる意味がなくなる」
「あったぁああああああ」
にんまり顔のトゥエルブ。締まりがない。
「トゥエルブ?どうした?」
「見つけました。過去のマスターの言語録。どこかにしまった記憶があったけど、どこに圧縮したかわからなくて」
「説明はいい。それで、それがどれだけ重要なんだ?」
「僕は全てを生み出すから大変なんだ。なのに僕を取り込んで僕の上に立とうとした奴もいてね。戦いになったけど、僕生み出せると同時に消滅させることも出来るから。戦いにならなくて、つまらなかったよ」
主の声で淡々と述べられた主の心の思い。
「これはいつ頃の話だ?」
物陰に隠れたのを合図にして、ルシフェルは船内に飛んだ。
「宇宙創成期の話だったはずです。一人でいるのが寂しくて、つい色々作ってみたけど、駄目で。マスターにかまわなければ、そのままにしたし、取り込もうとした連中は片っ端から潰していったらしいです」
ルシフェルだけじゃなく、ベルゼブブも頭を抱えた。
「つまり宇宙創成期っていったら、第1宇宙が出来上がる創成期なんだろ?」
「はい」
「主、出てこないと二度と会う気はないからな」
ルシフェルの胸の辺りが熱を帯びて暖まる。別の意味での半幽体化した主が姿を現した。銀髪の整った顔立ちのイケメンである。胸を開けた法衣を身につけ、12枚の光り輝く翼をしている。
「ずるいな。その呼び方。出てこないわけにはいかないじゃないか」
「透明というより半透明なのは、どういうことだ?」
「透明だったら見えないでしょ、他の人たちに」
ベルゼブブとトゥエルブを見た。納得したルシフェルだった。
「で?」
主の手がルシフェルを捕らえる。目元を指で拭い、そこに唇を当てた。
「そんなことで誤魔化されないからな」
「その必要はないでしょ。僕と君の間で」
「なら答えてくれ。主は神なのか?それ以上なのか?」
「それ以上。全ての神々を生み出した者。位で言えば神の中の王。つまり神王を意味する」
「それが一人でブラブラしてるのか?」
「今は颯希がいるから。多少異なる」
「もう一人居るだろ。6枚の翼の大天使長さまが」
「ああ、ミカエルもそうだね。君の部下だった天使」
「トゥエルブが見たミカエルともう一人は誰だ?」
「もう一人?他にはいないよ。颯希しか」
「俺は幽体で主に会った覚えはないぞ」
「ああ。あれのことを言ってるの?あれはレプリカ。颯希とミカエルの」
「魂はどう説明する?」
「颯希からとミカエルから魂の欠片を頂戴して。増殖すれば魂の一つが出来上がったから。肉体は与えず幽体化したままだったのを見られたらしい。肉体を持たないラーに」
「肉体を持たないって、どういうことだよ」
船体にのめり込みそうだったベルゼブブが何とか復活。会話に参戦。
「エジプトで太陽神ラーが君臨してた頃、やりあったことがあってね。消滅させると今後の人々の繁栄にも影響が出るから、粉々に粉砕してやったんだけど。第1宇宙に塵となって散ったまでは良かったんだけど」
「それが今になってレプリカを見られて。魂の創造につながったんだな」
「うん。ごめんね。魂の再生にはすぐに出来る場合もあるけど、大抵は数千年規模でのことだから。あっちからしてみれば、僕の弱みをつかんだようなもんでしょ。それで」
「で、ここからが肝心。主は今、どこの宇宙にいるの?」
「第1宇宙」
「そこから出たことはない?」
「あるよ。颯希に成りすます必要があったんだけど。ばれそうになったから逃げてきた。それからは動いてないよ」
ルシフェルの怒りがふつふつと混み上がってきた。
「主。とっと来い。ホントに縁切るぞ」
目の前には肉体を持った主が、船体の床に鎮座していた。12枚の翼はしまってあるらしい。
「これで許してくれる?」
「俺がホントに出来ると思ったのか?」
「ううん。出来ない。双方の心にぽっかりと穴が開いた状態になる」
ルシフェルは子供をあやすように、床に鎮座している主の顔を覗き込んで、立ち上がらせた。
主もそれに従う。
「ありがとう。颯希」
「どこにも行くなよ。寂しいだろ」
「う~ん、そうは言われても第1宇宙の終焉に立ち会わないと」
「消滅するまで、あとどれぐらいかかるんすか?」
「数千年ぐらい?」
全員が突っ伏した。あるはずがないのである。あと数十年しかもたないから、全規模で宇宙船開発に乗り出したのだ。天文学者が1年でも先に延ばせないかと格闘していたのだ。
「ちょっとまて!主。その数千年って規模はどこから出る。あのとき数十年しか持たないからってことで」
「それが、ね」
縮こまる主に対して、乗り出す三人。
「それが、どうした?ん?」
「その…レプリカを作ったのが原因らしい」
両指先を重ねたり、離したり…と主。
「どういうことか説明してもらおうか。主それとも神王と呼ぼうか」
「うぁあ、それやめて。それなら主のままでいい」
「ほら、ここ」
ルシフェルが主を立つように促し、腿を叩いて座るように指示する。主の口角がニッとあがり、重なるように座った。
主が座るのを確認したルシフェルはガバッと両腕を主の前でクロスさせた。
「主の感触久々だ」
「僕も久々」
ほけぇーと和む二人。
そんな二人の頭を鷲づかみしたベルゼブブが自分の方に向けさせた。
「で、神王さま。何がどうなってんですか?」
「あぁ。レプリカに備えた増殖した魂…たった一万個の想い出の欠片をこねくり回して作ったら、それだけで一万年の寿命の魂が出来上がっちゃった」
「一万年!?」
「それを2体分作って、第1宇宙全土にマナを放出した結果が」
「数千年規模になったって言うのか?」
「そうなった」
「それを」
「見られた」
「ラーに?」
「粉砕したラーに」
両足をブラブラさせながら、主が続けた。
「でも、おかしいいな。粉砕した魂の欠片を集めて、深淵の闇の中に閉じ込めた筈なんだけど。一族もろとも」
「取りこぼしたのがあるんじゃないのか?」
(こんなのもあるぞ)
ルシフェルはこれまでの記憶をビジョンに乗せて、主に見せていた。意思疎通が出来れば、このぐらい造作もないのに、今までどこにいるかもわからずじまいで、たんまりビジョンを送ってやった。
(これ、ホント?)
(オベリスクか?)
(え、あ、うん。そう)
(ルシファーが捕らえられたんだぞ。嘘つくか)
(そう、そうだよね)
「ちょっとやばいかも」
主は頭を擡げあげ、きっぱり言った。
「どうやばい?」
「そのまえにルシファー、ルシフェルから出て。そこにいるとルシファーとも直でつながるからややこしいんだ」
シャープな顔立ちのスレンダーな肉体を、主は瞬く間に作り上げた。ここに入れとルシファーに促す。
恐る恐るルシファーの幽体がその真新しい肉体へと同化していく。ルシファーの意思に沿って動かされる肉体。
「マジ、俺の肉体、復~活。違和感なく動かせるぜ」
「当たり前、魂の記憶から構成された肉体、違和感出たらそっちのが怖い」
(これで邪魔されないね。颯希)
(おまえなぁ)
全身に伝わる主の呼吸。吸って吐いて、単純なようで単純じゃない。そばに居なくても、いつもそばにいるかのように感じられる、この呼吸がついさっきまでなかった。それが復活している。それだけでルシフェルの心は安定する。
主の呼吸とルシフェルの呼吸が、呼び合うかのように同調する。まるで新緑の自然の中にいるような匂いが主からした。抱きしめる腕に力が入る。
(痛い痛い、颯希)
(ほっといた罰だ)
「で、何がやばいんだ?」
「第1宇宙の深淵の闇に閉ざしたラー一族が他宇宙で復活してる風潮がある」
「オベリスクか?」
「そう。あれは太陽神ラーを祀るために立てられた物。第1宇宙の惑星地球ならわかるけど、それ以外では殆どないと言っていい」
「なのに…ある」
「そう。それも日本の名古屋市に。ありえない。日本は日本で神様が存在していた。だから他で信仰のあった太陽神ラーは祀らない」
「日本では例えば、どんな神さまが?」
「伊邪那岐命によって生み出された天照大御(太陽)、月読命(月)、須佐之男命とされ、皇室の男系先祖は須佐之男命ともなっていることから、須佐之男命は人神の可能性もある」
「つまり天照大神がいるのに、ラーは祀らない」
「そう。なのに、名古屋市にまつわるところにオベリスクがある」
「関係者で名古屋市といえば?」
「颯希と水月の出身地とされている」
「それだけか?」
「名古屋市出身者が市長を歴任している場所にもオベリスクがある」
「そんなに名古屋市に酷使する必要がない筈なんだけど、なぜだ?」
「わからない」
「トゥエルブ、現在の宇宙数は?」
「1,467宇宙、現在も10分に1個ペースです」
「はい?」
主が素っ頓狂な声をあげた。
「主が作っているんだろ?宇宙。止めたらどうだ?」
「颯希。僕が何で宇宙作るの?一つずつ」
「止められるだろう?」
「作ってもいないのに、作られてるからやばいんだって」
「はい?」
「太陽神ラーの復活が窺える。宇宙の創造神でもあるから」
「じゃあ、作ってるのは主じゃないのか?」
「僕ならまどろっこしいことしない。宇宙が5,000個出来ました。パン」
両手を叩いて、それで終わらせた。
宇宙連邦惑星管理惑星のシステムに次々と新惑星、新宇宙の申請が続々押し寄せて始めた。
「現在4,078宇宙の新宇宙並びに新惑星の申請が出されました」
トゥエルブのハッキングデータより。
「5,000個、今作ったのか?」
「そういってる。全てを生み出す神の僕からしてみれば、造作ないこと」
「じゃあ1個1個作ってたのは」
「恐らくラー。それでも少ないから、不完全なんだろうな。で、ルシファーの一件からして、肉体からマナを抽出して球体に収め、魂は魔方陣で封じていた」
「じゃあ俺の元の身体」
「使い物にならない。痛んでる。周りをマナで取り囲んでいながら、肉体へ吸収できないぐらいに」
「そっか。でもコレ、ホントに貰っていいのか」
「ないと困るでしょ」
「じゃあ、俺、仕事に戻るわ」
「仕事って主絡みか?」
「いや、通常のアーティスト家業」
「捕まるなよ」
ルシファーは手を軽く上げて、そのままそこから消えた。しばしの静寂かと思えたが、トゥエルブが抗議した。
「消えるなら消えると言ってほしいわ。私、機械なのよ」
「吠えない。もう慣れたんじゃないか」
「ええ、そうですね。計器のエラーってことで処理してます」
「マスター、私だって心配していたんですよ。それなのに、長い間、連絡も寄越さないなんて。船の持ち主としてあるまじき行為です」
「その間、君は何をしていたんだ?」
「流星群の惑星の速度測定と流星群内での耐久実験です」
「またそれで装甲厚くする気?」
「しないですよ。颯希に言われました。装甲捨てでも足を生かせって」
「捨てないで、足追加して」
「了解です。マスター」
膝上に主が座っていることを、ベルゼブブは黙認している。運命の相手同士、スキンシップがお盛んだが、グッと堪える。
それでも堪えきれなくなると、ルシフェルの髪を弄り始めるのが、ベルゼブブの一連のパターンらしい。
「でも、レプリカを作ったぐらいで何千年も寿命が延びるなんて、ありなのか?」
「レプリカというより魂の増殖の方だと思う。大半の自然界が残された地球。第1宇宙全土に充満したマナが新たな魂とともに増殖。本来なら吸収して増殖すると思えたことが、何の因果か新たな魂の源マナが吸収せず、増殖だけを繰り返したことで、新たな魂2つに膨大なマナが生まれた。10,000個の想い出の欠片を魂の欠片へ変換させ、作り出した1つの魂。それが2つ」
「マナの特徴としては意識がない。人格も神という概念もない、善も悪もない神秘のエネルギー。人や物に憑いて、その人や物に特別な力を与える」
主の説明にトゥエルブが補足を付け足した。
「新たな神級の魂を作ったのが、まずかったのかな」
「神!?」
「人間じゃないのか?」
「魔王で堕天使であるルシフェルと大天使長のミカエルだよ。人間の訳がない」
「神でもないぞ、一つは魔王といっても魔神じゃないからな。ミカエルも大天使長というが、神に仕える天使ってだけだ」
主は座っている向きをかえ、ルシフェルに見えるように座り直した。両足を放り出し、椅子諸共クロスさせた。
「颯希~。邪神になろうよ。魔神でもいいよ。責めて6枚の翼ぐらいはないと、今後やっていけないぞ」
「アーティスト家業に6枚の翼は要らないだろ」
「僕とのランク付けで格差があるんだよ。他の神からしてみれば、僕の弱点になりかねない。心当たりある?」
「…………………………」