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模擬戦

先に話し合いを終えた俺は、屋敷の外にて彼女を待つ。


すると、玄関を開けてセリスとローラさんがやってくる。


貴族のお嬢様らしく華やかな白いワンピースを着ていた。


春の暖かい日差しの中、その姿はよく似合っている。


「お、お待たせしましたわ」


「ううん、そんなことないよ。それより、よく似合ってるね」


「あ、ありがとうございます……もう、そういう台詞は何処で覚えたの?」


「いや、師匠が厳しくてね。まあ、その話も含めて馬車で話すよ」


「そうね、そうしましょう」


先に彼女を馬車に乗せ、ローラさんに向き合う。


「ユウマ君、あの子のことよろしくお願いね。あんなこと言っておいてなんだけど、もし困っていたら助けてあげてちょうだい」


「ええ、もちろんですよ。まあ、そうならないことを祈ってます」


「ふふ、そうね。何もないならそれが一番よ」


「ユウマー! 何をしてるのー!?」


「ごめんごめん! すぐに行くよ!」


俺はローラさんにお辞儀をして、馬車へと乗り込む。

そして、王都に向けて馬車が動き出す。


「ふぅ、ようやく出れたわ。本当に、待たせてごめんなさい」


「いやいや、気にしないで。女の子だし、仕方ないよ」


「……ほんと、そういう台詞も何処で覚えたのよ? 私と殴り合ったりしてたのに」


「別に大したことじゃないよ。というか、それは小さい頃の話でしょ。外にいる護衛の人達に聞かれたら怖いんですけど?」


ただでさえ、家を出る時に睨まれたし。

俺、何かしたかな?

まあ、自分達のお嬢様に変な虫がつかないように警戒してるのかも。


「ふふ、そうね。きっと、問い詰められちゃうわ。じゃなくて、さっきの師匠の話!」


「ああ、それね。ちょうど、ここに来なくなったあたりかな? 二人の師匠がついて、その二人に朝から晩まで扱かれちゃって。剣の授業と魔法の授業を……思い出したくないくらい」


「……綺麗な人?」


「なんで、そこに疑問なのさ? まあ、見た目は綺麗だよ。ただ、中身は恐ろしく男前な人達かな」


「そうなんだ……ふーん」


何故か、セリスが頬を膨らませる。

うーん、これは……そういうことかな?


「大丈夫、セリスも綺麗だよ」


「っ〜!? な、何を言ってるのよ!?」


「あれ? 違ったのかぁ……女の子って難しいや」


「……そうよ、女の子は複雑なんだから」


そんな会話を楽しみつつ、馬車が進んでいく。

そして、お昼を過ぎた頃に大きな木の下で休憩をとる。

そこで軽食を済ませ、それぞれの自由時間となった。

すると、護衛の兵士達の一部が俺に近寄ってくる。


「ユウマ殿、あんまり調子に乗らないで頂きたい」


「はい? どうかしました?」


「お嬢様の護衛は、俺達で十分なんだよ」


「言っておくが、ひょろい坊ちゃんの出番はないぜ」


「そうそう、いくら父親が猛将で知られたエルバート様でもな」


……ふむふむ、彼らの気持ちは正当だ。

雇い主が決めたこととはいえ、俺が護衛と言われたら面子が立たないだろう。

ただ……こちらも武門の者として、舐められるのは良くない。

何より、これではセリスが可哀想だ。


「そうですか。ですが、この先には魔物や魔獣が出ます。万が一ということもありますから」


「我々が負けると思っていると?」


「いえいえ、そんなことは言ってません。ただ、お互いの実力は知っておくべきかと。そうすれば、いざという時に連携が取れますし」


「なるほど……では、お手合わせを願います」


「ええ、いいですよ」


すると、騒ぎに気づいたセリスがやってくる。


「なにをやってるの? 貴方達、ユウマに何かしたの?」


「い、いえ」


「セリス、平気だよ。食後の運動がてらに手合わせをしようってことになっただけ。木剣もあるみたいだから安全だよ」


「そうなの? じゃあ、私も見てるわ。ちなみに相手は誰?」


兵士達が顔を合わせ、一人の男性が前に出てくる。

最初に俺に声をかけてきた人で、おそらく年齢は二十五歳前後。

身長も体格の良く、腕は悪くなさそうに見える。


「お嬢様、私がお相手します」


「イース、貴方が? 平気かしら?」


「ご安心ください、怪我などさせないので」


「わかったわ。では、見守るとするわね」


そうして、セリスの立会いのもとアルトさんと対峙する。


「イースさん、よろしくお願いします」


「……よろしくお願いします」


「それでは——はじめ!」


「では、行きますぞ!」


開始早々、剣を上段に構えつつイースさんが接近してくる。

そのまま、俺に剣を振り下ろしてくるので……。


「よっと」


「なっ!? 避けた!?」


「えっ? そりゃ、避けますって」


軽く右に避けたら、相手が驚いていた。

こんなの食らったら、師匠達に殺されちゃうよ。


「くっ! まだまだ! 今のは手加減をしていたのだ!」


「ええ、わかってますよ」


「ウォォォォォォ!」


上から振り下ろし、そこからの切り上げるように逆袈裟、それらを余裕を持って躱していく。

……これで本気なのかな? これなら眼で追えるし。

師匠とやると、眼には見えない速さで剣が来るからなぁ。


「何故当たらない!? だが、避けてばかりでは」


「そうですね。それでは失礼——」


相手の上段斬りを半身をずらして躱し、首筋に木剣を突きつける。


「……はっ?」


「どうします? まだやりますか?」


「……いや、私の負けだ」


「勝負ありです! ユウマ! 凄いじゃない!」


「いえいえ、俺なんてまだまだですよ」


「もう、謙遜して」


いや、本当にまだまだなんだけどなぁ。

これなら、うちにいる一般の兵士達のが強いし。


「お、おい、イースに勝っちまったぞ」


「うちの若手でも一番の使い手が……」


「うちの部隊長だというのに」


えっ? うそでしょ?

……まあ、最前線の兵士じゃないから仕方ないのか。

すると、イースさんが立ち上がり、頭を下げてくる。


「ユウマ殿、生意気なことを言って申し訳ありませんでした。そもそも伯爵子息に対しての態度ではございませんでした」


「いえいえ、お気になさらないでください。それだけ、セリス様が大事ということでしょうから」


「器まで……完全に我々の負けですね。それでは、王都までよろしくお願いいたします。皆の者もいいな?」


「「「はっ!!!」」」


うんうん、セリスは愛されてるね。


ひとまず、これで安心して旅ができるや。










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