裏の道を知る
よくわからないが、少し元気が出たみたいだ。
そのまま、人に道を聞きつつ進んでいくと……少し、雰囲気が変わってくる。
ひと気がなくなり、どんどんと寂れた風景になっていく。
人間嫌いのドワーフらしく、今は使われていない旧市街地で暮らしているらしい。
「ちょっと怖いわね……話に聞いたら、私達みたいのはいかない方がいいって」
「まあ、裏路地っぽいし。女の子が一人でくるような場所じゃないかな」
「聞いたら、人族には武器や防具を売らないって言ってたわ」
「確か、気に入った人にしか作らない職人気質な種族って話だね」
なにせ、王族の依頼も普通に断るとか。
国にいる貴重なドワーフなので、あんまり強くも言えないらしい。
何より、彼らは仲間意識が強い……もし強要するものなら、戦争になるとか。
すると、カラカラと何かが崩れる音がする。
「きゃ!?」
「……大丈夫?」
「な、何の音?」
「た、ただ石が落ちただけだよ」
いかん、俺の方が動揺しています。
何故なら……思いきり腕を組まれているから。
本人は気づいてないのか、俺の腕にぎゅっとしがみついていた。
「そ、そうなのね……っ〜!? ごめんなさい!」
「い、いや、平気だよ。あぁー、このまま掴まってる?」
「……いいの?」
「うん、むしろ掴まってて。ちょっと、良くない空気感するから」
あちこちから邪な視線を感じる。
多分、良くない類の人たちの……こういう場所には居つきやすいよね。
セリスみたいな可愛い女の子は、格好の餌食に見えるだろう。
「そ、そうなの?」
「うん、今も見られてるし。ただ、こういう場所の方がある意味で安心だけど。おそらく統率が取れてるし、危機管理能力は低くないはず」
「どうするの? ここから逃げる?」
「いや、その必要はないよ……右斜めの建物から覗いてるボスの人! ここを通りたいので許可を!」
すると、三階建の建物の窓から男が降ってくる。
そして、ふわりと着地をした……相当の風魔法の使い手だ。
引き締まった身体と、強者のみが纏えるオーラを放っていた。
同時に、建物の中からぞろぞろと人が出てくる。
その中には、小さな子供達までいた。
「小僧……どうして、俺がボスだとわかった?」
「貴方が一番強いからです。それに俺が声をかけた時、他の人達も一斉に視線を向けたので」
「ちっ、あの一瞬で判断するとは怖えガキだ。こんなところに来るなと追い返そうと思ったが……問題なさそうだな」
「はい、彼女一人を守るくらいはできます——貴方達を相手にしても」
意識的に相手を威圧する。
ライカさんの教えで、こういう輩には戦わずして勝てと言われた。
相手の力量がわかれば、無駄な戦いはしないからと。
「ははっ! おもしれぇガキ! 偉そうなことを言ってるが、俺達を見下してる訳でもねえ……珍しいタイプの貴族か」
「それはどうもです。それで、通してくれます?」
「ああ、連れのお嬢さんも俺達を見下す視線はないしな。何より、こっちもただじゃ済まなそうだ。おい! こいつはお前ら敵う相手じゃねえ! というわけで手を出すな!」
その一言で、男達が引いていく。
観察をしてたから思った通り、《《わかってくれるタイプの人だったらしい》》。
まあ、もし違っても……やるだけだし。
「ありがとうございます。無駄な戦いはしたくないので」
「はっ、それには同感だ。みたところ、貴族のガキだが……名前は?」
「ユウマ-バルムンクと言います」
「ユウマか……覚えたぜ。次からは、ここを自由に通っていい」
「それは助かります。それでは、俺達はこれで」
セリスの腰を抱いて、さっさと歩き出す。
あの人が統率を取っているとはいえ、危険な場所には違いない。
そして、裏路地を抜けた先に……一軒の建物が目に入る。
「おっ、あれがドワーフの店かな」
「あ、あの、腰に……手が」
「ご、ごめん! もう平気だからいいよね!」
咄嗟に手を離して距離を取る。
「う、ううん……ありがと。その、ああいうの慣れてるの?」
「まあ、うちの領地にもいたしね。暴動が起きないように、ボスがいたりするんだ」
「そうなのね……多分、スラム街ってやつよね? まさか、王都にまであるなんて」
「いや、普通にセリスの領地にもあるよ?」
「……えっ?」
セリスの目が見開き、驚いた表情になる。
まるで、そんなはずがないと言うように。
しまった、セリスはそういうことを教わってこなかったらしい。
「あちゃー、ごめん忘れて」
「ど、どういうこと!? 知ってるなら教えて!」
「うーんと……これは別にセリスのところに限った話じゃないよ。何処の領地でもある話だから」
「で、でも、お父様もお母様も善政を敷いているわ」
「確かに二人は立派な貴族だと思う。それでも、取りこぼしっていうのは起きるんだ。これは、ある意味で仕方のないことだって教わった」
長生きしてるエリスからも、大陸中を旅してきたライカさんからも聞いていた。
人が集まり生きている限り、それはなくなることはないと。
「そうなのね……私、何も知らなかったわ」
「別に彼らだって、好き好んで居るわけじゃないし」
「それぞれに事情があるってことよね……どうすれば良くなるの?」
「そりゃ、上に立つ人が善政を敷くことが大前提として……それを補佐する人が、目を向けてあげたら良いのかなって思う。上に居ると、下は見えないし。もしくは、立場や力を使って個人でやっていくとか」
「確かに、私は知らなかったわ……そういう道もあるのね」
セリスはしきりに頷き、何かに納得したようだった。
その目には力があり、何かを感じたみたい。




