第8話 故郷への旅路
ベルクとレナは、ワイバーンのステーキを食べた店、狼の大皿へと来ていた。店主の故郷へ一緒に行くと言う約束を断るためである。
「すまない、俺たち今人攫いに狙われてて、迷惑がかかるといけないから、一緒にはいけないんだ」
申し訳なさそうな顔をしてベルクは言う。
「なんだ、そんなことか、別に心配しなくていい。言ってなかったが、もう1人同行者がいるんだ」
「同行者って?」
「よぉ、ベルク久しぶりだな」
歩いてきた男に声をかけられる。声の方に振り向くと、オスカルがいた。
「冒険者狩りの事件以来だな。でも、どうしてここに」
「そいつが同行者だ」
店主がオスカルを指差して言った。
「なるほど。確かにオスカルが居れば、そんじょそこらの人攫いじゃ屁でもないな」
「なんの話だ?」
「実は俺たち、人攫いに狙われてて――」
店主とオスカルに、人攫い達に襲われた時のことを話した。
「ベルク、それに嬢ちゃんも大変だったんだな」
オスカルがレナの頭をポンポンと叩きながら言う。
「それじゃあ出発するか。そういえばまだ名前言ってなかったな。俺はアルフレッド、よろしくな」
「俺はベルクだ。よろしく」
***
ベルク、レナ、オスカル、アルフレッドの4人は、帝都ハイルを出て北上していた。
「そういえば、オスカルがいるなら俺護衛としていらなかったんじゃないか?」
歩きながらベルクが口を開く。
「ああ、それはだな」
アルフレッドが口を開く前に、オスカルが話し始める。
「あいつ冒険者狩りを捕まえてくれたお前にお礼がしたかったんだが、普通に誘うのは小っ恥ずかしいらしくてよ、護衛としてお前を誘ったってわけよ」
「あんまそう言うこと言うんじゃねぇよ......」
アルフレッドが恥ずかしそうに言う。
「そういや少し寒くなってきたな」
オスカルが腕をさすりながらそう話す。
「ああ、この辺から少しずつ寒くなってくる。俺の故郷、ロネの周りは防寒具無しじゃ死んじまうくらい寒くなるぞ」
「レナ寒いのにがて」
「そういえば、朝ごはん食いそびれたな」
アルフレッドが肩を落として言う。
「俺、お菓子持ってきたんだが食べるか?」
ベルクがそう言うと、レナがレナも作るの手伝ったんだよと、付け加える。
「じゃあ一旦ここらで休憩するか」
アルフレッドがそう言い、木陰で腰を下ろす。
ベルクはカバンを漁り、長方形の箱を取り出す。
それを開くと、無地のパウンドケーキが甘い香りと共に姿を現す。それを丁寧に切り分けひとりひとりに配った。
「ベルク、これお前が作ったのか?」
オスカルが驚きを隠せない表情でそう聞く。
「ああ、おいしいだろ」
「これ、ギルドマスターからもらった高級菓子よりうまいかもしんねぇ」
「そんな大袈裟な。あ、これをかけるとさらにうまいぞ」
ベルクはカバンから小瓶を取り出す。その中身はトロッとした黄金色のシロップ。
「これ美味しいな。うちの店で出したいくらいだ」
「そのシロップラム酒を使っているんだ。ラム酒の風味がしてうまいだろ」
「レナこれすき」
4人のゆったりとした空気を壊すような怒号が響く。
「おい、そこの4人!命が惜しかったら金目のもん全部置いていきな!」
口に布を当てた、ザ盗賊という感じの4人組の1人が叫ぶ。
「なんだお前ら、こっちは食事中なの見てわかんねぇの?」
オスカルが不機嫌そうにそう話す。
「おい!口ごたえするな!」
「お前ら舐めてるのか?そろそろ俺も怒るぞ」
オスカルは立ち上がり、髪をかきあげながら、盗賊4人を睨みつけた。
「後悔すんじゃねえぞ?お前らやっちまうぞ!」
「おいベルク、俺は弱そうな3人をやる。お前は、お前はあのリーダーっぽそうなやつを倒せ」
「3人も大丈夫か?」
「俺強いからな、任せとけ」
ここはオスカルを信じて、リーダー格の男を倒すことに専念しよう。
オスカルは宣言通り、3人を同時に魔法で攻撃し始めあ。3人がオスカルに気を取られているうちに、リーダー格の男に向かって走る。
「【火精霊魔法 炎纏いの刃】」
炎を纏う刀を男に向け、口を開く。
「手加減しないからな」
男はそれでも怯まず、腰に携えていた2つ短剣を、構える。
「【幻影魔法 変幻工作】」
そう男が唱えた途端、男の腕の肩から先が全て消えた。
「き......消えた?」
男の魔法に驚くベルクを気にせず、男はベルクの懐に潜り込む。
ベルクは何か嫌な予感を感じ、刀で咄嗟に防御の姿勢を取る。すると、何かが刀に当たる音が聞こえた。
こいつの腕、消えてるんじゃない。見えないだけだ。見えないだけで確かにそこにはあるんだ。
だが、こんなことが分かったところで、ベルクの劣勢は変わらない。少しずつ切り傷が増えていく。
しばらく攻撃を受けた後、ベルクは何を思ったのか地面を見つめる。
「よそ見してんじゃねぇぞ!お前――」
男の声を遮るように、金属がぶつかる音があたりに響く。
「俺の短剣が弾き落とされた!?」
「よそ見してるわけじゃないぞ、影を見てるんだ。お前の見えない腕の影をな」
男は驚いた。確かに男の魔法では、男の腕の影までは消せないが、影の動きだけを見て短剣を弾けるものなのか?と考えていた。
そう男が考える間も、ベルクの猛攻は止まらない。
ついに男の頭の上スレスレを、ベルクの刃がかすめる。
「あっぶねぇ」
そう言った男は違和感を感じる。何か焦げ臭いのだ。そのうち頭の上が熱くなっていることに気づく。
「熱い!俺の髪がぁぁ!」
そう叫び逃げ出す男。それに続くように、残りの盗賊も逃げ出した。
「ベルク、お前やるな」
オスカルは拳を前に突き出し、そう言う。
「オスカルもな」
2人は互いを称え合う気持ちを込め、グータッチした。
***
日が傾いた頃、赤く染まった道を歩く足を止めた。
「ここらで一泊するぞ」
アルフレッドが腰に手を当てそう言う。
「そういえば、テント持ってこなくてもいいって言ってたが、一体どこに泊まるんだ?」
「もしかして、お外でねるの?」
ベルクとレナの2人は心配そうに尋ねた。するとアルフレッドが胸を張って答える。
「俺の魔法に任せな」
アルフレッドは道の脇のひらけたところで、魔法陣を描いた。そして、目を閉じ集中する。
「【創造魔法 女神の炉】」
魔法陣の真ん中に炉が現れたかと思うと、次々とレンガや木材が宙を舞い、組み合わさり、少しずつ形を形成していく。ものの数十秒で、家ができてしまった。
「す......すごい」
口をぽかーんと開け、家を見上げるレナとベルク。驚きながらも家の中に入ると、炉のある居間が1部屋、寝室が4部屋、それにお風呂にトイレにキッチン付き。
「俺は夕飯を作るから、先にシャワーでも浴びててくれ」
キッチンに立つアルフレッドがそう3人に言う。
風呂はどう言う仕組みかすでにお湯が溜まっており、1日の疲れを癒してくれた。
風呂から上がると、居間にはクリーミーな香りが漂っていた。机の上を見ると、湯気を放つスープが人数分置いてあった。
皆席に着くと、手を合わせてスープをひとすくいする。
赤身の魚、芋、そしてにんじんの入ったそのスープは、野菜の甘みの魚の旨みがギュッと詰まっていた。
「うまいな」
思わずその言葉が口から漏れる。
「ミルクベースのスープに、俺の故郷の魚を入れたんだ。おいしいだろ」
3人は大きく首を縦に振る。あっという間に皆食べ終え、空になった皿をアルフレッドは満足そうに見つめる。
4人とも雑談を交わした後、皆寝室へ戻った時、居間の窓を覗く人影がいた。
「俺の髪燃やしやがって、絶対許さないからな」
そう呟いた人影は、夜の闇に消えていった。
【魔法解説】
変幻工作
肩から先を見えなくする魔法。
腕だけでなく、着ている服や持っている武器まで消すことができる。
女神の炉
魔法陣を媒体として、魔力をもとに家を作る魔法。
これほどの大きさの物を維持するには膨大な魔力がいるが、アルフレッドの魔力量は多く、一晩程度なら家を維持できる。




