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第9話 冷淡な暗殺者

「私は貴女たちに協力したいんです」


 サリーの言うその言葉は2人にとって信じ難いものなのは当然だった。


「信じられるわけないだろ。フロウの手下が」


 そう吐き捨てたエルミアは刀を抜いた。


「ねえ、ここに住んでるスパインさんの仲間はどうしたの?」


「ちょ、ちょっと落ち着きませんか?その武器を下ろして」


 サリーは武器を構える2人に手のひらを向け、後退りをする。


「私の質問に答えて。ここにいた人はどうしたの?」


「私が来た時にはもうフロウの手下しかいませんでした。あ、その人たちはもちろん拘束しておきましたよ。ほら」


 サリーが2人を部屋の奥へ連れて行くと、部屋の中には縛り付けられた2人の男がいた。


「もごごご!」


 手足の自由を奪われ床に転がる男たちは、口を覆う布の隙間から声を上げる。


「どうです?信用できませんか?」


「まず、お前が私たちに協力する理由がわからない。普通に考えて信用できるわけがないだろ」


 サリーの胸ぐらを掴み出すエルミア。


「ルシファーの企みを阻止するためには貴女たちの、特にエルミアさんの力が必要なんですよ......」


 前に襲いかかってきた時とは正反対の態度に、エルミアの胸ぐらを掴む手が緩む。


「どう言う意味だ。六翼なら他にもいるだろ」


「自分でわかってるでしょ。人間じゃないことくらい......」


 サリーがそう言うと、エルミアは彼を突き飛ばし、床に落ちていたロープで手足を縛り上げ始めた。


「やっぱり信用できない。レナ、すぐにスパインのとこに行って、報告しに行くぞ」


「わかった。でも......」


 レナは困った顔でサリーを見つめた。


「信用できないのはわかりました。それなら、私の持つ情報を貴女たちに教えます。これでフロウをどうにかできれば、少しは信用できるでしょうしね」


 サリーがそう言って、立ち去ろうとするエルミアを引き留めた。


「ねぇ、エルミア......」


「わかった。だけど、大したことない話始めやがったら、その喉掻っ切ってやるからな」


「注意すべきはフロウと彼のお抱え暗殺者だけです」


 サリーは状態を起こし、座り直した。


「フロウは記憶に干渉する魔法を使い、スカルの組織をそっくりそのまま奪いました。そのため、戦い方を忘れた組員のほとんどが数合わせにしかなりません。ですが、私を含めた3人を暗殺者として彼は雇いました。残った2人の1人はスカルが倒した劇マニアの男です」


「それで、フロウの魔法の発動条件と暗殺者の魔法は?」


「すみません。それは......」


「はぁ、それ以外は?」


「フロウの目的ならわかります。奴はルシファーの作った『魔薬』を他国にも売るため、他国のマフィアにも顔がきくスカルを利用しようとしているんです」


「まやくって?」


 レナがそう尋ねると、サリーは答える。


「理性を飛ばす薬です。つまりは、己の欲望を曝け出させるための薬。まあ、碌でもないものですね」


「なんでそんなものを?」


「今は関係のない話です。この件が終わって私を信用して協力していただけるのであれば教えますよ」


「結局こんなもんか。それじゃあ行くぞレナ」

 

 エルミアは縛り付けられたサリーを置いて、そのまま部屋を出て行った。レナはそれに急いでついて行く。


***

 

 スパインのところへ戻った2人に、スパインは急いで駆け寄ってくる。


「ど、どうでしたか?」


 帰ってきたら2人の表情を見て少し詰まりながらも、そう聞いた。


「いなかった。もう情報共有できないと思った方がいい」


「わかりました......。もうスカルさんを見つけたので、用済みになったんでしょうね......」


「気の毒だが、私たちは好きにさせてもらうぞ。作戦とやらはオシャカになったようだしな」


「わかりました......」


 2人が立ち去った後、部屋で1人になったスパインは思い切りテーブルを叩いた。


「どこまで俺たちをコケにすれば気が済むんだ!」


 響き渡る大声。


「落ち着きましょう。冷静に。ここで私が冷静さを失っては、誰があいつを殺すというのですか。いつまでもスカルさんに頼っていては......」


 コンコン。


 スパインの独り言を遮るように扉を叩く音が鳴る。


「あの2人、何かあったんでしょうか」


 扉を開けると、1人の見知らぬ子供がいた。


「うっは!弱そー!」


「なんですか?」


「お前を殺しに来たんだよー」


「今は虫の居所が悪いんです。ガキとはいえ、容赦しませんよ。ほら、早く帰って」


「なんだお前。さっさと殺してフロウに持ってくか!」


「冗談でも私にその発言は良くないですよ......」


「何が冗談だよ!俺は暗殺者だぜ?お前なんて朝飯前よ!お前の仲間みたいに殺してやる!」


「ガキ......。2度と口聞けねえようにしてやるよ」


 我慢の限界を迎えたスパインは血相を変え、乱暴にそう吐き捨てた。


「ははっ!そうこなくっちゃ、やる気が出ないってもんだよ!」


 スパインとは対照的にワクワクが隠しきれない暗殺者は目を輝かせた。


「仇は取るからな」


 スパインは拳を握り、前に構えた。


「魔法使わないの?やる気なくなってきちゃったかも。はぁ、さっさと終わらせちゃおー【生成魔法 不確定は鞄に(ミステリー・イン・ザ・バッグ)】」


 暗殺者の目の前に革製の大きな茶色い鞄が現れた。


「早速、始めちゃうね」


 彼はそう言うと、何かを呟きながら鞄の中から素早く魔法拳銃を取り出し、避ける間もなくスパインに3発打ち込んだ。


「うっ!」


 咄嗟に急所を守るため丸まったスパインは、弾が全て身体に触れた途端に弾け飛んだことに驚いた。


「何しやがった!?」


「教えるわけないじゃん。不確定要素が多いほど、戦いは盛り上がるものでしょ?」


 拳銃を鞄にしまい、腰に下げていた短剣を抜いた暗殺者は、スパインに向かってそう言った。

 だが、スパインはかけ出す暗殺者の足を掬い上げようとする。


「あっぶねえ......もう一個使っちまったよ」


 暗殺者の足に放たれたスパインの蹴りは空を切る。

 暗殺者の足は、幽霊かのように透け、スパインの攻撃は当たらなかったのだ。


「まずは1撃!」


 振りかぶった暗殺者は、ナイフをスパインの顔に向けて振り下ろした。


「遅えんだよ!」


 スパインは暗殺者の手を掴もうとする。しかし、その手は掴めず、そのままスパインの顔に向かっていった。

 

 咄嗟に身を翻したスパインは、頬を切り付けられた。


「意外とやるじゃん!でも、魔法使わないと盛り上がんなくない?」


「お前に使う魔力はねえ」


「俺に攻撃を当ててから言えよ。まあいいや。どうせ使わざるを得なくなるしね」


 スパインは少し後退り、頬の血を拭った。


 あいつの魔法、こっちからは触れられないのか?もし道具なら?


 スパインはそう思い、道に落ちている小石を暗殺者に向かって投げた。


「おっと、気づかれちゃった?」


 石は身体を透け、暗殺者の奥へと飛んでいった。

 すると、暗殺者は鞄を取り出した。


「3発弾を撃って3回身体が透けた。お前の魔法は、弾を当てた分だけ攻撃を回避するのか。もう回数切れだから銃を取り出して、また当てようって魂胆だな」


「うーん、半分正解かな?でも、まだまだわかってないみたいだね」


 しゃがんで鞄を漁ろうとする暗殺者に向かってスパインは走り出した。


「歩く」


 暗殺者が鞄から魔法拳銃を取り出す前にそう呟く。そして、またもや素早い動きで、2発の弾をスパインに打ち込んだ。

 

 スパインは怯まずに、そのまま暗殺者の方へと向かって行く。


「まだ向かってくるの?」


 不敵な笑みを浮かべた暗殺者は、小柄な体型で、不意をついてスパインの脇をスライディングして通って行く。

 

「この短剣、僕のお気に入りなんだ。みんなこの綺麗な刀身に魅了されて近寄っちゃう......。これが、数百の人間の生き血を吸ったとは思わずにね」


 暗殺者はそう言うと、短剣の剣先をスパインの背中に向けた。


「何を言って......。っっ!?」


 スパインは今歩いてきた道のりを後ろ歩きで戻り始めたのだった。もちろん無意識で。そして、背後には短剣を構えた暗殺者が立っている。

 この状況の危険さをすぐに理解したスパインは、魔法を唱え始める。


「【生成魔法 枷と鉄球(フェターズ)】」


 スパインの右手に鉄球のついた枷が現れ、その鉄球で暗殺者の短剣を弾き落とした。


「クソがッ!」


 鉄球を大きく振り下ろし、地面に叩きつけたスパインはそう叫んだ。その後、深呼吸をし冷静さを取り戻す。


「感情にまかせすぎました。冷静にいきましょう」


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