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第5話 困難な旅路

 レナとエルミアは隣国へ行く途中の道で、少し休憩していた。

 

「もう少しゆっくり行こうぜ」


 煙草を咥えたエルミアが、レナにそう言った。


「でも、日が暮れる前までには、国境近くの村まで行かないと」


「私は野宿でも全然いいぞ」


「そんなことしたら、翌朝には悪魔憑きか魔人になってるよ」


「あー、それもそうか」


「エルミア......今までどうしてたの......」


 レナはため息をついた。


「そ、そんなにか?」


 レナの思いがけない反応に、エルミアはそう言った。

 隣のレナは鞄に手を入れ、パンを取り出した。


「はい、これ」


「味気ないパンか......。あ、そういえば、酒場でもらった酒は?」


 エルミアは今朝、酒場で幾つか酒を貰ったことを思い出し、そう言った。


「村についてからじゃだめ?」


「心配すんなよ。一杯だけだから」


***


「ふへへ、いいだろ別にー」


 顔の赤いエルミアが、レナに後ろから抱きついていた。 

 

「はぁ、もう......」


 エルミアの足元に空になった酒瓶が一本転がっているのをレナが見つけた。


「どうしたんだよー、ため息なんかついてー」


「なんでもないから......。ほら、行こ」


 レナは後ろのエルミアの手をとり、そのまま歩き出した。

 ふらつく足取りの彼女を見て、どうやって今まで生きてきたんだろう......とレナは思った。


「いたっ、急に止まるなよ......」


 しばらく歩いているとレナが急に立ち止まり、エルミアはレナの背にぶつかってしまう。


「人が倒れてる......」


 2人の前には老人がうつ伏せで横たわっていた。

 レナはすぐにその老人に近づこうとするが、それをエルミアは止めた。


「レナ行くなよー」


 再びエルミアはレナに抱きつく。


「今はふざけてる場合じゃ......」


 レナの言葉が途切れる。

 エルミアは、片手でレナを抱いたまま、刀で老人の首を切り落とした。

 鮮血のついた刀が、レナの背筋を凍らせる。


 「これは後々、貴女の敵になる」


 レナはサリーと言う名の昨日エルミアを襲った男の言葉を思い出した。


「なにしてるの!?」


「こいつはもう悪魔の魔力を流されてんだよ」


 エルミアはレナの手を掴み、老人の死体の腹の方へと手を持っていった。


「めくってみろ」


 レナが言われた通りに服をめくってみると、腹の中心に逆五芒星のアザが出来ていた。


「どうだレナ。酒を飲もうが仕事に支障はないだろ?」


 レナの頭を少し強い力で撫でるエルミアの横顔を見ると、敵の言葉に惑わされていた自分が馬鹿らしく思えた。


「確かに星のアザが......。この人悪魔憑きだ」


「アザでそんなことも分かるのか?」


 レナが呆れた目でエルミアを見つめる。


「なんだよ、どちらにせよ倒すんだ。そんなに変わらないだろ」


「全然違うよ。悪魔憑きは、理性の残ってない悪魔の魔力を流された人間で、体のどこかに逆五芒星のアザができるの。魔人の方は、円で囲まれた五芒星のアザができる。それ以外にも、理性が残っているって言う違いがあって、尚更危険なんだよ」


「結局は、魔力量が増えた生命力の高い人間じゃねえか」


 エルミアは千鳥足でレナの先を行く。そんな彼女を急いでレナは追いかけ、肩を貸す。


「そういえば、どうしてあの人が悪魔憑きって分かったの?」


「感覚だよ、感覚」


 そんな曖昧な返事を返したエルミアは、さっきよりもレナに体を預けた。

 

 その後、2人は無事に村に到着した。

 

***


 翌日、2人は隣国へと渡るための馬車を探していた。


「おーい、その馬車乗れるか?」


 馬車の近くでしゃがみ込む黒いローブを羽織った人に、エルミアは声をかけた。すると、ビクッと体を震わせ、すぐにどこかに行ってしまった。


「なんだよ......」


「あれ、なにこれ」


 レナはその馬車の近くに駆け寄り、しゃがみ込んだ。

 

「どうかされましたか?」


 2人の後ろから、1人の男が声をかける。男は、格好から御者だと思われた。


「私の馬車になにか?」


「乗りたいんだ」


「わかりました。どうぞ」


 馬車に乗り込む御者を見て、エルミアはしゃがみ込むレナに近づいた。


「乗るぞレナ」


「うん、わかった」


 レナは何かを地面から拾い上げると、立ち上がった。


 2人が馬車に乗ると、御者は馬を鞭で打ち、馬車はゆっくりと動き始めた。


「お客さん、『十字架』は持っておられないのですか?」


 馬車が走り始めた時、御者は2人にそう尋ねた。


「なにそれ?」


 レナが首を傾げると、御者が首にかけた十字架の首飾りを見せてくる。

 鉄製の十字架は、まだ錆ひとつない綺麗な銀色をしていた。


「知ってますか?こういうのを付けていると、悪魔に襲われないんですよ」


 顔だけをこちらに向け、馬を走らせる御者は自慢するように言った。


「そりゃ迷信だ。襲われないのは、熱心に神を信仰してる教会関係者だけさ」


 レナの隣に座るエルミアが遠慮なく言った。

 それでも十字架を手放さない御者に、エルミアは6枚の翼が刻まれたペンダントを見せつけてみせた。


「六翼!?あ、悪魔狩りの最高ランクじゃないですか......。でも、教会の神父さんに売ってもらったんですよ?」


「あんたの金は、意地汚ない神父の財布の中ってわけか。災難だったな」


「そ、そんなぁ......」


 目に見えて落ち込む御者。


「大丈夫だよ。誰にでも失敗はあるし」


「お気遣いありがとうございます......。はぁ、最近は運がないな......」


 疲れた様子の御者は、手綱を握ったまま肩を落とした。


 しばらくすると少しウトウトし始めたエルミアを見て、レナも目を瞑る。

 晴れた空の下を吹く微風と、馬の歩く足音を感じていると、いつの間にか眠っていた。


***


 ガタン!


 体全体に大きな衝撃がきたことにより、レナは夢の世界から連れ戻された。


 項垂れる御者の表情を見ると、ただ事ではないとレナは思った。


「どうしたの!?」


「車輪が壊れてしまったかもしれません」


 御者は馬車を降り、車輪の周りを念入りに見る。


「壊れてそう?」


「ええ、完全に......」


 御者はずっと車輪を見つめたまま動かない。

 レナは急いでエルミアを起こす。


「エルミア起きて」


 体を揺するが、なかなか起きないエルミア。

 仕方なく、レナはエルミアの頬を軽く引っ張った。


「どうしたレナ」

 

 エルミアはレナの頭をガシッと掴み、ワシャワシャと撫でた後、ゆっくりと起き上がった。


「馬車の車輪が壊れちゃったらしくて......」


「まじかよ。なあ、あんた。一体何があったんだ?」


 御者にそう聞いたエルミアの声に、御者は震えた声で答えた。


「イタズラかもしれないです。車輪に何回も切りつけられたような傷が何箇所にもありました」


「最悪......」


 ため息を吐くエルミアは、馬車に座り込んだ。


 昼過ぎの青空の下、一筋縄じゃ行かない旅が続いていく。

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